2023-01 ショーウィンドウからペットが消え、サーカスからライオンが消える?

ゴリ博士と部下のラーが

博士 あの星を見てみろ。

ラー: おお、なんと美しい星でしょう。

博士: あれがうわさの地球だ。我々が征服するには、ちょうどよい重力と気温だ。

ラー: 博士、生命反応が出ました。

博士: うわさどおり、地球には生命体が

いるのだな?

ラー: はい、60億もの個体数です。

博士: すさまじい数だ。

ラー: その生命体は、かなり高度なインターネット、情報網を持っているようです。

博士: そうか、では我々のコンピューターを、そこに接続してみろ。

ラー: ‥今、接続しました。その生命体は、「Human being」と呼ぶようです。

博士: フマン・ブーイング?不満でいっぱいなのか?

ラー: 別名「Mankind」という生物のようです。

博士: まんきんどう?あやしい漢方薬の店みたいだ。

ラー: Person とも呼ぶそうです。

博士: ぺろさん?なめてるのとちがうか?

ラー: 多くいると「People」ともいうようです。

博士: ぴーぷるー?まるで笛の音だ。すまんが、その生命体の名称を日本語に訳してくれ。

ラー: 「ヒト」です。


母性、養育本能に訴える「商売」

ラー: 宇宙からやってきた我々が、日本語で会話するのは不自然ではありませんか?

博士: 私と君が、宇宙猿人「ゴリ」とその部下の「ラー」であると説明されれば、タマキタイムズの読者はおおよそ察知するはずだ。

ラー: いつもの、古いテレビ番組の登場人物ですね?

博士: 比較的新しいぞ。1971年だ!

ラー: 50年前ですね…。

博士: ところで、その「ヒト」が連れ歩いている、この毛むくじゃらの動物は、いったい何だ?

ラー: ‥イヌという生物のようです。

博士: 首輪をつけて、ひもでつないでいるところをみると、食べるつもりか?

ラー: いいえ、イヌとヒトは、食う食われるの関係ではないようです。

博士: では、労働力として確保しているのか?

ラー: 労働力としても、期待はしていないようです。

博士: イヌは逃げないのか?

ラー: ヒトがエサを与えて、かわいがっているようです。

博士: かわいがる?何のために?

ラー: 昔は「番犬」として屋外で飼われていたようですが…

博士: 今はちがうのか?

ラー: イヌは室内で飼育されるようになって、ヒトとの距離が近くなって、その役割が「家族」とか「子どもそのもの」へと変わってきたようです。

博士: 他の生物を、自分の家族や子どもとみなすというのか?

ラー: そのようです。

博士: 「ヒト」というのは、変な生物だな。

ラー: これを、ヒトの「母性」とか「養育本能」と呼ぶようです。

博士: イヌでなくて、鳥や魚、昆虫ではだめなのか?

ラー: ヒトが特にかわいいと感じるのはイヌとネコのようです。

博士: ブタやウシは、どうなのだ?

ラー: ブタやウシもヒトは多く飼っていますが、犬のように居間のソファーでヒトにじゃれついている姿は、確認できません。

博士: その動物たちは、野生に生息しているものなのか?

ラー: いいえ、ヒトが繁殖させるようです。

博士: 繁殖させる?

ラー: はい、ブタや牛はヒトが「食べるため」、またイヌやネコは「かわいがるため」の繁殖です。

博士: 生をうけてこの世にうまれてくる動物に対して「繁殖させる」という表現は、ちょっと抵抗がないか?

ラー: 植物みたいですね。

博士: イヌやネコは、どこで売っているのだ?

ラー: ペットショップという、飾り窓のついた売りさばき所のようです。

博士: 「繁殖」させてイヌやネコの数を増やして、ヒトがかわいいと感じて、たくさん買ってくれれば、イヌやネコを売るペットショップとしては大成功なわけだな?

ラー: そのようです。

博士: しかし、飾り窓のついた小さな檻の中に閉じこめられて売られている生まれて間もないイヌやネコ‥。何かひっかかるのだが。

ラー: 博士、これらのイヌやネコに関しては、さらに大きな問題があるようです。


日本のペットショップ

博士: よし、とにかく、ここに宇宙船を着陸させよう。何という場所だ?

ラー: 「ニッポン」と呼ばれる場所です。

博士: どんな場所だ?

ラー: 博士が、今話題にしている「ペットショップのイヌ」が豊富にいる国です。

博士: そうか。この国の「ヒト」は、飾り窓でイヌを売ることが、さほど気にならないのだな?

ラー: はい、現状を「そんなもの」として受け入れる性質の強い国民です。チワワのクゥーちゃんがテレビで人気が出るとチワワが急激に売れて、昨今はトイプードルが人気でバカ売れするという国で、服の流行と同じようにイヌが売れるようです。

博士: このトイプードルは30万円ほどの値札がつけてあるが、これはいったいどれくらいの金額なのだ?

ラー: 初任給の1.5倍ほどです。

博士: こんな売り方だと、買い物帰りに通りかかった時に「かわいかったから」というだけで衝動買いすることにはならないか?

ラー: その可能性はおおいにあります。衝動買いされたものは、飽きられるのも早くてモノのように捨てられます。

博士: このニッポンという場所では、一年にどれくらいが捨てられるのだ?

ラー: 毎年50万頭ほどです。

博士: えげつない数のイヌやネコやな!

ラー: 博士は、関西人だったのですね?

博士: 動揺するとなまるのだ。それで、どこに捨てるというのだ?

ラー: 殺処分されます。

博士: ちょっと待て。「捨てられる」のは「殺される」に等しいというのか?

ラー: はい、その通りです。


フランスの対応

博士: この星では、ペットはどこでも「モノ」として扱われているのか?

ラー: フランスというところでは、2024年から、ペットショップでイヌやネコを売ることが禁止されるようです。

博士: 「飾り窓のイヌ」を問題視しているわけだな?

ラー: はい、2年前「コロナ」が広がり、外出制限がかかってペットを飼い始めた人が大量にいて、外出制限が緩和され始めた今、外出や出勤が普段通りできるようになって世話をするのが面倒になって、大量に捨てられているのだそうです。

博士: 生き物を、ぬいぐるみかおもちゃのように扱うことに、フランスという国は「No」をだしたわけだな?

ラー: そうです。さらにフランスでは、ヒト以外の生き物を愛し尊重する目的で、政府が2026年にはイルカやシャチのショーを禁止、2028年には巡回式のサーカスでの野生動物の利用も禁止しました。

博士: フランスは、よくぞここまで踏み込んで法律を制定したな。


日本の今後

博士: 「ニッポン」は、ペットショップでのイヌやネコの販売は止めさせないのか?

ラー: いまのところ「禁止」はしていません。

博士: フランスやアメリカと、ずいぶんちがうのはなぜだ?

ラー: 誰かが舵をきって動き出すまで「みんなと歩調をあわせる」のが、ニッポンのやり方のようです。ただ、全く動かないのは「歩調を合わせている」ことにはならないので、政府としてはとりあえず規制を強化しました。

博士: ほう、どんなふうに?

ラー: 環境省というところが、イヌやネコの販売をするペットショップや、繁殖させて育てるブリーダーに関して、一匹あたりの檻の大きさの下限を決めました。

博士: 劣悪な狭い環境での飼育をなくそうと努力している、ということだな。

ラー: …さらに、一人が飼育できるイヌは20匹、ネコは30匹と基準をつくったようです。

博士: 実際に目が行き届くのか?

ラー: 出産の回数もイヌは6回までと定められました。

博士: 誰が回数を数えるというのだ?

ラー: さらに、2022年、今年の6月からはイヌやネコにマイクロチップを装着することになりました。これで誰が飼っている動物か、情報がすぐに得られます。

博士: そうか、わかった。とりあえず日本も動物のことを考えようというスタンスだけは示しているというのだな。ところで、この星では「ゴリラ」はどのように扱われているのだ?

ラー: 手厚く守られているようです。

博士: ほう、うれしい限りだ。どんな動物として守られてるのだ?

ラー: 絶滅危惧種です。

文責 玉木英明