2022-02 徳島の「ごみを出さない町」。驚くべき発想の転換とは

宇宙人が・・・

宇宙人: ふぉっふぉっふぉっ。

少年 : うわっ、怪しいセミだ! いや、ザリガニか?

宇宙人: ちょっと、どいてくれ。私はゴミ出しに来たのだ。

少年 : この格好でゴミ出しに? 恥ずかしくない?

宇宙人: ほっといてくれ!ほうら、みんな見てるじゃないか・・・。

少年 : やっぱり怪しいぞ!

宇宙人: あのな、ウルトラマンに聞いてみてくれたらわかる!私はバルカン星人だ!

少年 : え?バルサン?

宇宙人: それはゴキブリ退治のくすりだ!

少年 : バリカン星人?

宇宙人: 散髪じゃない!バとカのあいだが「ル」の宇宙人だ!

少年 : ・・・バカの会いたがる宇宙人?


リサイクル率8割の町

少年 : どうして宇宙人がこんなところにいるの?

宇宙人: 実は、宇宙船が故障して地球に立ち寄ったのだが、修理に長いことかかりそうだから、この近所のアパートに住んでるのだ。

少年 : よく入居できたね。

宇宙人: あのな、バルカン星人はきちんとしてるのだぞ。住民票も移したし、ご近所へのあいさつまわりも、ちゃんとした。

少年 : みんな驚いただろうね。

宇宙人: そうでもなかったぞ。

少年 : この町での生活は楽しい?

宇宙人: まあまあだな。ただ先日、町内会の会長にゴミの分別が不十分だとおこられた。

少年 : ごみの分別?

宇宙人: そうだ。燃えるもの、プラスチック、燃えないものの3つにゴミの分別をしなきゃならないなんて、時間のむだだ。

少年 : 分別をしないと、リサイクルができないよ。

宇宙人: リサイクルなんてむりだ。ゴミ全体の2割も再生できないよ。

少年 : いや、リサイクル率8割を越えている町があるんだよ。

宇宙人: まさか。ウソをいうと、このハサミで舌をちょん切るぞ!


ゼロ・ウェイスト(ごみゼロ)

少年 : 徳島県の上勝町(かみかつちょう)という町で、2003年から、町で出るゴミをゼロにする「ゼロ・ウェイスト宣言」を実施してるのさ。

宇宙人: ゴミをゼロに?そんな地方自治体のスローガン、どうせ絵にかいたモチだ。

少年 : この町では、ごみを45種類に分別するのだよ。

宇宙人: ななんだって?45分別?

少年 : そう。紙だけでも9種類に分けるんだ。

宇宙人: 紙だけで9種類?

少年 : 新聞・チラシや段ボール、ラップの芯など硬い紙、シュレッダーと細かく分ける。

宇宙人: ビンは?

少年 : 透明なもの、茶色のもの、みどりのもの、さらに細かく色で分ける。

宇宙人 電化製品や時計、金属はどうするのだ?

少年 : スタッフが分解して、材料ごとに分けるのさ。

宇宙人  そんなじゃまくさい分別、いやだと反対する人もいるだろ?

少年 : 確かに負担に感じている人もいるけど、分別すれば1キロいくらでそのゴミが売れるのか、廃棄したらいくら費用がかかるのか、分別カゴごとに費用が書かれていて、分別の作業が「お金」に直結することを、町民に分かりやすく伝えているのさ。

宇宙人  なるほど。分別が、大変な「作業」ではなくて豊かな暮らしをつくりだすための「手段」であると、みんなが理解してるのだな。


はてなマークの素敵なごみ収集所

宇宙人: おい、なんてユニークな建物だ!これがゴミ処理場か?

少年 : そうだよ。はてなマークの形で、上勝町ゼロ・ウェイストセンター「WHY」と呼ばれてる。世界に類を見ない施設さ。

宇宙人: 類を見ない?ゴミ収集所が?

少年 : そう、このゴミの収集所にはイベントに、使える「交流ホール」があるばかりか、なんとホテルまであるんだ。

宇宙人: ゴミ収集所にホテル?冗談言うなよ。誰がそんなところに泊まるんだ?

少年 : ホテルの家具は不要品をリメイクしたものだし、宿泊者は45分別をも体験するようになってる。ホテル内で使う石けんも、自分で使う分だけ切り取って部屋に持っていくのさ。パッケージのない切り売り方式を宿泊者に体験してもらうのが目的さ。

宇宙人: 徹底してるな。

少年 : コーヒーも紙のフィルターを使わずに、ステンレスのドリッパーを使うし、寝間着も歯ブラシもない。みんな自分で持ってきたものを使うのさ。

宇宙人: 確かに、一度だけ使って捨てるホテルの歯ブラシは、もったいないと思ってた。

少年 : このホテルを体験すると、いかに毎日ごみをつくりだしているかということに、気づくというよ。

宇宙人: それにしても、税金でよくこんな建物をつくれたな。

少年 : この建物、ゴミでつくられた建物なんだよ。町の広報で不要になった部材を集めて外壁を作り、床も建築廃材を使ったのさ。陶器も粉にして浴室の壁や床に塗り込まれてる。柱も山から切り出してきた木を丸太のまま使うんだ。角材にしないからムダが少なく、廃材が出ない。とにかく「捨てない」ことを徹底してる。

生ゴミを町が集めない

宇宙人: 生ゴミはどうしてるのだ?家庭から必ず生ゴミが出るだろう?

少年 : ごみステーションでは生ゴミは集めないよ。

宇宙人: ばかな。生ゴミを集めないゴミ集積所なんてあるものか。

少年 : それぞれの家庭が、電動の生ゴミ処理機を持ってるのさ。

宇宙人: 生ゴミ処理機?

少年 : そうだよ。生ゴミを堆肥に変えてしまう機械さ。町が購入費を助成してる。

宇宙人: ジュースの容器や、食品の付着したプラスチックはどうするんだ?中身が腐ったりカビが生えたりすれば、リサイクルは無理だぞ。

少年 : ペットボトルやプラスチックは、住民がきれいに洗って乾燥させて持ち込むのさ。だから、このごみ収集所には特有のいやな臭いがない。だからホテルだって併設できるのさ。

宇宙人: 家庭で不要になった家具や食器はどうする?

少年 : ごみステーションの端にホテルの受付と一体になった「くるくるショップ」におくのだよ。

宇宙人: あのな、不要になったものだろ?そんなの誰が買っていくものか。

少年 : くるくるショップに並べてあるものは、すべて「無料」だよ。

宇宙人: え?無料?売ってるわけじゃないのか?

少年 : ああ、そうだよ。

宇宙人: 幸せな町の人だな。

少年 : 町の人以外の人も自由に持って行けるのだよ。

宇宙人: ここれはすばらしい!


23歳の女性CEOの会社が運営

宇宙人: ちょっと聞いてもいいか?

少年 : なんなりと。

宇宙人: この町は山の中で、もともとごみが少ない場所だったのだろ?

少年 : 上勝町は1500人の人口の半数以上が65歳以上、さらに80歳以上が全体の4分の1いる老齢化の進んだ町には違いない。でも、この町でも昔はここでごみを野焼きしてたらしいよ。積み上げられたごみにカラスが集まり、野犬がいて、近寄りがたい場所だったというよ。

宇宙人: 誰がこんなことを始めたんだ?

少年 : 大学を卒業したばかりの大塚桃奈さんという人だ。再生エネルギー100%のコスタリカやスウェーデンなどへの留学を経て、上勝町から運営を委託されている「Big Eye Company」という会社の経営者をしている。

宇宙人: 大学を出たばかりで会社を経営して、町から運営を委託されてる女性?それで、上勝町の人たちが、みんな協力するような人?

少年 : そうだよ。日本全国からはもちろん、世界中から施設の見学にやってくるそうだ。コロナ禍にもかかわらず、ホテルの稼働率は7割以上だそうだよ。

宇宙人: 若者がこの町に魅力を持ってくれそうだな。

少年 : そう、若い世代のこの町への移住拠点としての役割もある。

宇宙人: 私も何か社会に貢献したくなってきたよ。私にできることは、何かあるか?

少年 : もちろんあるよ。今日はもえるゴミの日だから、ピンクの袋は出しちゃだめだよ。

文責 玉木英明