2023-10 アシストスーツ。人間の力を、体を、老いを助ける頼もしい服

                                                                     




りかちゃんとバービーちゃんが

 バービー:りかちゃん、お久しぶり!

リカちゃん:あら、バービーちゃん、渋谷の交差点で会えるなんてうれしいわ!

 バービー:リカちゃん、相変わらずのオシャレな服と厚底サンダル、さすが着せ替え人形の本家ね。

リカちゃん:バービーちゃんこそ、そのシックな色のドレスにハイヒール、着せ替え人形の元祖ね。

 バービー:ところでリカちゃん、今回私たちは、どうして後ろ姿なの?

リカちゃん:何言ってるのよ。私たちが売れっ子だったのは1960年代よ。年寄りになった今の私たちの顔をまともに見たら、みんな驚くでしょ?

 バービー:でも、あなた白髪(しらが)はないし、歯もきれいだわ。

リカちゃん:白髪はビゲン・ヘアカラーで3日ごとに染めてるし、入れ歯もポリグリップでがっちりとめてるわ。そんなバービーちゃんこそ、いつまでたってもスタイル抜群ね。

 バービー:それが最近ひざが痛くて杖(つえ)がないと歩けなくなってきたの。

リカちゃん:ええと、バービーちゃんは何歳になったのかしら?

 バービー:アメリカでデビューしたのが1959年、19歳の時だから‥

リカちゃん:もう83歳ね!

 バービー:大きな声で叫ばないでよ。補聴器がハウリングするでしょ!

 


着せ替え人形が着たことない服

リカちゃん:バービーちゃん、私は半世紀も着せ替え人形をしていたから、世界中のほとんど全ての服を身にまとうことができたわ。

 バービー:そうね。私も同じよ。

リカちゃん:袖が長かったり短かったり、流行の最先端の服を着ても、正直なところ服の色や形なんかどうでもよくなってきちゃったの。

 バービー:おしゃれに疲れてきたってことかしら?

リカちゃん:そうじゃなくて、私も老人になってきて、もっと実用的な機能をもった服はないかと思うようになったのよ。

 バービー:どういうこと?

リカちゃん:たとえば、着るだけで重い物を簡単に持ち上げられて、倒れている大型オートバイを軽々と起こせるとか、履くだけでビュンビュン走ってテニスができるとか、1日中何キロでも山歩きを続けられるような服があればなぁと思うようになってきたのよ。

 バービー:あなたも本格的に、年寄りになってきたということね?

リカちゃん:「年寄り」なんていう呼ばれ方はされたくないけれど‥

 バービー:ありまっせ。そういう服。

リカちゃん:あなた、関西人だったの?

 バービー:得意な話題になると、関西弁になりますのや。



アシストスーツ

リカちゃん:バービーちゃん、いいかげんなこと言わないで。しまむらにも西松屋にもそんな服売ってなかったわ。

 バービー:リカちゃんも、そういうお店にいくのね?

リカちゃん:ユニクロも、私の大のお気に入りのブティックよ。

 バービー:ユニクロはブティックだっだかしら?とにかく、体につけて肉体労働の負担を軽くしたり、パワーアップしたりする機器を、装着型ロボットとかアシストスーツというのよ。

リカちゃん:急な階段ものぼれるの?

 バービー:ラクラクよ!

リカちゃん:ランニングもできるの?

 バービー:時速10kmで走り続けられるわ。ほら写真を見て。いい速度で走ってるでしょ?

リカちゃん:うわっ、速い!

 バービー:和歌山県の有田のみかん農家では、集荷したみかんを持ち上げるアシストスーツをすでに使い始めてるわ。

リカちゃん:ということは、建設現場で重いブロックとか鉄板とかを運ぶことも

 バービー:そんなの、老人でもOKよ。

リカちゃん:介護の現場では、動けない老人を持ち上げたりお風呂に入れたりすることも

 バービー:まかせておいて。

リカちゃん:よろしおますなぁ!

 バービー:まねせんとって。


歩くことが困難、不可能な人も

 バービー:ほら、リカちゃんこれを見て。歩くことが困難な人にはこんなアシストスーツがあるわ。

リカちゃん:おお、これはすごい!


 バービー:体重の一部を機器がささえて、脚の筋肉と関節の負担を軽減するのよ。

リカちゃん:イスに座って靴をはけば、脚を動かして歩かせてくれるワケね?

 バービー:そうよ。あのアシモをつくったホンダが開発したわ。

リカちゃん:立って歩くことが、全くできない人でも使えるアシストスーツはないの?

 バービー: 下肢まひ患者を支える「直立四足歩行型アシストスーツ」というのが米国テネシー州のVanderbilt大学で作られたわ。

リカちゃん:アメリカにしかないの?

 バービー:研究途中だけれど、日本の豊田工業大学でもパワーアシストロボットが開発されているわ。



開発途上

リカちゃん:年をとった人や、病気やケガで動けなくなった人たちが、自由に動き回れるようになるスーツなんて、夢のようね。

 バービー:でもね、今のところまだ値段が高いのよ。

リカちゃん:いくらくらいするの?

 バービー:サポートするだけなら数万円だけれど、アクティブ型とよばれる積極的にアシストするものだと100万円以上が必要になるわ。

リカちゃん:高性能な電源とパワーをもつモーターでできているわけだから、お値段がはるわけね。

 バービー:それに加えて、パワーアシストスーツはリュックのように背負って、ベルトをいくつも締めて、体に当たる部分などは空気を入れて膨らますようなものもあって、装着するのに時間がかかるわ。

リカちゃん:シャツを着るようにはいかないのね。

 バービー:たとえば、スキーブーツを履いたとき、動きにくいって感じたことはない?

リカちゃん:あるある。特に冬でたくさん服を着込んでる時は、しゃがむだけでも大変よね。

 バービー:スーツ自体も、数kgの重量があるから、いまのところ重いのよ。

リカちゃん:農業や建設現場での作業のアシストをするスーツも、単一の作業だけしてるのならともかく、様々な作業を複合して行いたいときには、着脱が大変でしょうね。

 


着せ替え人形専用アシストスーツ?

リカちゃん:ねえ、私たちも間もなく90歳をこすわ。私たち着せ替え人形のアシストスーツを誰か開発してくれないかしら?

 バービー:そうね。人形のわたしたちがそれを着て、仕事やスポーツを何歳までも、思う存分続けたくなるようなスーツがいいわ。名前もお茶目でなきゃだめよ。

リカちゃん:たとえば、入浴を介助する人のためのスーツ「ドプン」というのはどうかしら?

 バービー:介助されてる人を、湯ぶねに落としそうね。

リカちゃん:みかん農園集果用スーツ「ヨッコラショ」。

 バービー:若い人のかけ声とは思えない名前ね。

リカちゃん:頭部専用アシストスーツ「クビマワラヘン」

 バービー:借金で困りそうなスーツね。

リカちゃん:腕上げ用アシストスーツ「テヲアゲロ」

 バービー:銀行強盗に使えそうね。

リカちゃん:散歩介助スーツ「イキマッセ」

 バービー:手をつないで、みんなでスキップしたくなるスーツね。

リカちゃん:歩行アシストスーツ「ハヤアルキ」

 バービー:駅まですごいスピードでいけそうね。

リカちゃん:建設現場アシストスーツ「リキムナヨ」

 バービー:一所懸命仕事してることが、ひしひし伝わってくるスーツね。

リカちゃん:そして、意識がなくなっても起き上がれる、万能全身スーパーアシストスーツがこれ。「キシカイセイ」。

 バービー:棺桶の中にいても、起きあがれそうね。 

文責 玉木英明