あの仮面のライダーが
ライダー:へんしん!とうっ!
バイク屋:あっ、あの人は・・・
ライダー:ふっふっふっ。一般民衆が狂喜乱舞(きょうきらんぶ)するのも無理はない。なぜなら、仮面のライダーがこんな場末のバイク屋の店先にさっそうと登場したのだからな。待っていろ!ショッカー!
バイク屋:また、あの妙な人だ。交差点の信号が点滅を始めたのにわたり始めたぞ!ああ、走った!・・・こけた!
ライダー:いたた・・・今のは見てないことにしてくれ。
バイク屋:あなたはいつもの、月光仮面のおじさんですね。
ライダー:あのな、あんな奴と間違うな。私は・・・
バイク屋:七色仮面!いや、ハリマオ!
ライダー:♪まーっかな太陽~燃ぉえている~♬ あのな、私をのせるな!
バイク屋:ハリマオの歌をすぐに歌えるところをみると、65歳はこえてますね。
ライダー:あのな、年齢はどうでもいい。私は・・・
バイク屋:わかってますよ、仮面のライダーさん。
ライダー:なんだ、知ってるのなら最初からそう呼んでくれればいいのに。意地悪な奴だ。
免許なしでオートバイに乗れる
バイク屋:そのかっこうで、スクランブル交差点の真ん中でコケると、目立ちますね。
ライダー:この仮面は、足元が見えにくいのだ。
バイク屋:ぬいだらどうですか?
ライダー:・・・いやだ、はずかしい。
バイク屋:ところで、オートバイの免許は、もう取れたのですか?
ライダー:ふっふっふっ。今日は、私の新しい発見を、おまえたちに伝えに来たのだ。
バイク屋:どういうことですか?
ライダー:私は、免許をとらないでもオートバイに乗れる方法を見いだしたのだ。
バイク屋:免許なしで、オートバイに乗れる?
ライダー:そうだ。画期的な方法だ。言いたくはないのだが、聞きたいか?
バイク屋:いや、言いたくないのなら無理にとは・・・
ライダー:あのな、話の流れというものがあるだろう?「ど、どんな方法ですか!」とわくわくした表情で聞いてくれたらどうなのだ?
バイク屋:どもらないといけないのですね。わかりました。「ど、どんな方法ですか!」
ライダー:それはな、私がレーサーになればいいのだ。
バイク屋:・・・レーサー?
ライダー:そうだ。競走用のオートバイでサーキットを走れば、免許はいらないのだ。
モータースポーツとは
バイク屋:おじさんは、スピードには慣れていますか?
ライダー:高速道路で時速80kmで走るバスの最前列に座ったことがあるぞ!怖くなかったぞ!
バイク屋:・・・では、二輪の運転はどうですか?
ライダー:小学6年の時、私は自転車で走るのが近所で一番速かったぞ!
バイク屋:近所で一番・・・ですね。
ライダー:しげの秀一の漫画「バリバリ伝説」を読むために1983年から8年間少年マガジンを買い続け文庫本20巻全部そろえたぞ!
バイク屋:・・・たいしたものですね。
ライダー:どうだ、えらいだろう?
バイク屋:うかがいますが、「レーサー」と呼ばれる人たちは、これから必要とされるのでしょうか?
ライダー:どういうことだ?
バイク屋:AI(人工知能)が自動車を走らせてレースをr行うようになったのはご存知ですか?
ライダー:なんだって!?
バイク屋:AIを搭載したレーシングカーに、サーキットを走らせるのです。
ライダー:ひ、ヒトが運転するのがモータースポーツだろう?
バイク屋:ヒトの判断や感覚はミスだらけですし、疲労もあります。したがって「どの自動車がいちばん早くサーキットを走ることができるか」を競うのに、AIならGPSからの情報やスピード、横方向のGや燃料消費率など瞬時に判断して最適な状態で走ります。
ライダー:そんなレース、おもしろくないに決まってる!
バイク屋:見てみたくはありませんか?
ライダー:そんなの!・・・ちょっと見てみたい。
ヒトとAIがF1レースで対決
バイク屋:昨年、F1(フォーミュラワン)のレースで、自動運転をAIにまかせた車両と、人間が運転する車両が対決しました。
ライダー:ほ、ほんまに走ったのやな?
バイク屋:仮面のライダーさんは、関西のご出身だったのですね?
ライダー:い、いや、動揺するとなまるのや。
バイク屋:UAEのアブダビにあるヤス・マリーナのサーキットで、AI 自動運転のマシンと元F1ドライバーのダニール・クビアトが対決しました。
ライダー:AIで車を走らせたのは、どこの国の人たちだ?
バイク屋:UAE、中国、シンガポール、ドイツ、ハンガリー、イタリア、アメリカです。
ライダー:に、日本人は?
バイク屋:いませんでした。
ライダー:観客は・・・集まったのか?
バイク屋:歴史的瞬間を見てみようと、なんと1万人をこえるファンが集まりました。
ライダー:ほ、ほんで、結果は!?どないなった?
バイク屋:だいぶ、動揺しているようですね。
ライダー:はよ、はよ、なあ、教えてえな。
バイク屋:この時は、ヒトが勝ちました。
ライダー:よかった・・・よかった・・・
バイク屋:泣かなくてもいいじゃないですか。
鈴鹿サーキットで
バイク屋:AIがあやつるF1マシンは、鈴鹿サーキットも走りましたよ。
ライダー:ほんとうか!・・・でも、人間が乗ってないF1マシンって・・・
バイク屋:少し不気味です。
ライダー:それがオートバイになれば、さらに不気味な感じだろうな。
バイク屋:ハンドルやシートなしの二輪だけが、走り回ることになるでしょうね。
ライダー:AIの四輪マシーンは、出来栄えはどうだったのだ?
バイク屋:AIは「学習」をします。サーキットの周回を重ねれば重ねるほど、速度やブレーキのタイミング、走行ラインまで修正し、周回のタイムが良くなっていったそうです。
ライダー:ヒトが、命をかけて高速で走る必要がなくなってきたということだな?
バイク屋:そのとおりです。
機械をあやつるのはヒト?
ライダー:危いことを、ヒトが命を懸けて実行しなくても済む時代になったということか?
バイク屋:そうです。例えば、津波で壊れた原発の炉心は、ロボットが見に行きます。
ライダー:なるほど。強い放射線のある場所は危険だものな。
バイク屋:高い橋の橋脚の点検や、風力発電用の羽根の点検なども、専用ロボットが行います。
ライダー:そうか。高いところも役にたつな。
バイク屋:海の中でトンネルを掘ったり、地震でくずれた建物の下に人が生存していないかを調べたり、教え込まれたとおりに働く機械がたくさんあります。
ライダー:おお、それは役にたつだろうなぁ。
バイク屋:戦場では、ミサイルやドローンはもはや無人のものが使われています。
ライダー:それは「役に立つ」という表現は適切ではないような気がするな。
バイクや車を操縦する理由
バイク屋:仮面のライダーさんは、どうしてオートバイに乗りたいのですか?
ライダー:そ、それは、ショッカーをやっつけるために・・・
バイク屋:ショッカーをやっつけるのが目的なら、仮面をかぶってあなたがオートバイに乗ってキックしにいくよりももっと効果的な方法がたくさんあります。
ライダー:わ、私がオートバイに乗るのは・・・
バイク屋:楽しみのために自動車を運転したり、オートバイを操ったりするのは、大いにありでしょうね。しかし、同じ周回をどっちが速く走るかを競わせるだけなら、その車やバイクにヒトを乗せる必要など、なくなってきたということです。
ライダー:私はどうすれば・・・。
バイク屋:内燃機関が消えかかっています。車やオートバイが「ヒトの思いのまま加速したり減速したりして、自由に走る」ことが夢になってしまう時代が、もうそこまでやってきているのかも知れません。
ライダー:移動だけが目的なら、安全で確実な方法が、別にあるというわけだな?
バイク屋:そうです。ですから、オートバイという乗り物が、楽しい乗り物で存在していてくれるうちに、仮面のライダーさんも「運転」を楽しまれてはいかがでしょうか。
ライダー:わ、わかった。家に帰って女房にオートバイを買ってもいいかどうか、きいてみる。
バイク屋:いいのですか?ショッカーのみなさんは、内燃機関がなくなる前にと、昨日新しいオートバイの購入に来られましたよ。
ライダー:シ、ショッカーの連中に、買い占められるということか!?
バイク屋:そうです。このホンダの内燃機関の空冷最終型、ショッカーのみなさんが20台まとめて予約していかれました。早く買わないと、なくなってしまいますよ。
ライダー:わ、わかった。そのオートバイ、1台、私にも・・・。
文責 玉木英明