2022-09 崖っぷちの旅行業界。生き残りをかけたアイデアは
人生楽ありゃ苦もあるさ
付き人: じ~んせい、らくありゃ、苦~もあるさ~
ご老公: 助さん格さん、我らが「水戸黄門」の一行であることを、みんなわかるじゃろうか?
付き人: ご老公、タマキタイムズの読者ならば知っているはずでございます。
ご老公: では助さん格さん、その歌のメロディで、どんぐりころころをうたってみておくれ。
付き人: じ~んせい、ころころ、ど~んぶりこ~
ご老公: 次は同じメロディーで「夕焼けこ焼け」を歌っておくれ。
付き人: じ~んせい、こやけの、あ~かとんぼ~
ご老公: 同じように「もしもしかめよ」を歌っておくれ。
付き人: も~しもし、らくありゃ、か~めさんよ~
ご老公: 助さん、なかなかやるじゃないか。
付き人: ご隠居、この歌は、いろんな歌と相性がいいですね。
ご老公: 日本人の好む七五調の歌なら、「荒城の月」だろうが「ギザギザハートの子守歌」だろうが、この曲には「どんぴしゃ」じゃ。
付き人: ご隠居、「ギザギザハートの子守歌」って何ですか?
ご老公: チェッカーズを知らぬのか?1983年の流行歌、あたらしいぞ!
付き人: おお、これもまた40年前…
旅行会社の店舗が消える
付き人: ご隠居、次はどこへ向けて、旅をつづけましょうか?
ご老公: そうじゃのう、旅行会社の店舗でパンフレットを見てきめようか。
付き人: ご隠居、困ったことに、旅行会社の店舗が次々と閉鎖されています。
ご老公: まさか。JTBや近畿日本ツーリストの店は、どこも人であふれておるはずじゃ。
付き人: それが、いずれの旅行会社も閉店ラッシュです。主要な一等地のビルから大量に撤退しているばかりか、店舗数を大幅に削減しています。日本旅行などは、今年度中にグループ全体の店舗の数を半数以下に減らすと発表しています。
ご老公: いったい、どうしたというのじゃ?
付き人: みんなが、旅行に行くときに、旅行会社を使わなくなったのです。
ご老公: そんなばかなことがあるものか!だいたい時刻表がなくて電車を乗り継ぐのに、どこで、何時発の列車に乗ればいいのか、わしら素人(しろうと)が簡単に調べられるわけがない。
付き人: ご隠居、この「スマホ」というやつに行き先を話せば、瞬時に調べられます。
ご老公: すまアホ?
付き人: ご隠居、「ア」は入れないでください。
ご老公: なんだ?この地図は?
付き人: グーグルマップという地図です。
ご老公: ぐるぐる舞いでウップとなりそうな地図だ。
付き人: ご隠居、ぐるぐるでなく、グーグルです。
ご老公: 「わらじやの地図」ではだめなのじゃな?
付き人: ワラヂヤ出版は2002年に倒産しました。ネットを使い慣れている人たちは、自分で旅行の目的地までの最短かつ最安価なルートと方法を検索して、簡単に座席まで確保、購入を済ませてしまうようになったのです。
ご老公: 航空券の手配だとか列車の切符の手配などは、人に頼んだ方が楽だ。
付き人: スマホを使えば、旅行会社に電話するより早いですし、代金の支払いに現金を用意する必要もありません。さらに、キャンセルも瞬時です。
ご老公: 手数料を払って旅行会社に任せる理由がなくなってきたということじゃな?
付き人: その通りです。さらに、コロナで国民が「旅行」から遠ざかって3年目になりました。賃料の高いショッピングモールの中や駅前の一等地にパンフレットをずらりと並べて快適な空間とスタッフを用意しても、それを取り返すほどの利益を上げられなくなってしまったのです。
旅行会社の生きる道
ご老公: 「旅行会社にたよる旅行」はなくなってしまうのか?
付き人: そんなことはありません。例えば、学校の修学旅行などは旅行会社なしでは成り立ちません。
ご老公: 修学旅行?
付き人: 例えば一つの高等学校が、毎年数百人の規模の修学旅行を行うとします。一人10万円ほどの旅行代金としても、一度に何千万円ものお金が動くことになります。
ご老公: なるほど。それなら旅行会社は安泰じゃないか。
付き人: いえ、一校の修学旅行には、毎年複数の旅行社が入札(にゅうさつ)を行います。
ご老公: なんだ、それは?
付き人: 高校が500人の生徒たちに北海道への修学旅行を計画しているとするならば、その旅行を、いくらで、どんな魅力的な旅行を子どもたちに提供できるかを、何社もの旅行社に見積書を書かせ、競争(コンピート)させるのです。
ご老公: ・・きびしいな。
付き人: 会社の利益を大きくすれば、他社との競争に負けてしまいます。しかも最近の多様な修学旅行では、航空機の座席を大量に確保したり、ラッシュアワーの新幹線を大量におさえる必要があったりと、採用してもらえるかどうかもわからない段階から、その旅行をおおよそ「実行可能」な状態にしておく必要があります。航空会社や鉄道会社に対する信頼、力関係、動くお金の金額など、様々なものを万全に整えて、競争に臨まねばなりません。旅行会社の担当者にとっては胃の痛くなるような作業です。
ご老公: なるほど。そもそも、500人という大人数で一斉に一日中移動するような旅行を、最近の学校はよろこんで実施するものなのか?
付き人: テーマパークで自由行動という「修学旅行」も多くなりました。
ご老公: そういう形態だと、旅行会社が得られる代金は、さらに少なくなるだろうに。
旅行会社の新しい策
ご老公: 旅行に行く人を待っているのでは、旅行会社には限界がありそうじゃ。何かよい手はないものか?
付き人: 道の駅の経営に乗り出した旅行会社もあります。
ご老公: 道の駅?
付き人: 今、道の駅は全国に1200ほどあって、自動車やオートバイで旅行をする人たちが立ち寄りやすい、素敵なおしゃれな場所がたくさんあります。
ご老公: ほう、一つの県に道の駅は20~30か所はあることになるのう。
付き人: はい。その道の駅の経営・運営を旅行会社が行うのです。
ご老公: もともと、旅行のプロだから、おみやげとか旅の途中で休憩する場所で何が必要か、素敵な場所をつくりだすことができるじゃろうな?
付き人: その通りです。道の駅をからめたツアーなど、旅行会社ならではの企画が盛りだくさん考えられています。
コロナを逆手に
ご老公: 旅行会社の人たちは、コロナが憎いじゃろうなぁ。
付き人: もちろんそうには違いありませんが、逆に「Go To イート」の食事券を扱ったり、事業者向け給付金の取り扱い事務局を引き受けているような旅行会社もあります。
ご老公: なんと!自治体からの受託ビジネスじゃの?
付き人: そうです。楽しい旅行を提供することから脱却して、地域の人の流れにまで関わっていこうという姿勢です。
ご老公: 頭の固まってしまった役所の職員より、アイデアフルで、フットワークのいいサービスを考えられそうじゃの?
付き人: その通りです。例えば、日本旅行と東武トップツアーズなどは、自衛隊が東京と大阪に設けたコロナワクチンの大規模接種センターの会場運営を受託していますし、さらに陽性患者の宿泊療養施設の運営などにも積極的に関与しています。
ご老公: やるやないか。
付き人: ご隠居、関西弁もお使いになるのですね?
ご老公: 感動すると、なまるのや。
付き人: 広島の「ひろでん中国新聞旅行」という旅行会社は、広島平和公園のレストハウスの指定管理者をひきうけ、地域の魅力を発信する事業を精力的に進めています。評判も上々でっせ。
ご老公: まねせんとって。
付き人: すんまへん。
ライバルは多数
ご老公: 旅行会社は、まさにその得手(えて)を上手に活用しておるのう。
付き人: いや、ところが、国や自治体からの受託ビジネスには、競合するライバルたちも多くいます。
ご老公: ライバル?
付き人: 広告代理店やコンサルティング会社などもこの分野には得手を持っています。みんな我こそは生き残ろうと、しのぎを削っています。
ご老公: なあ、助さん格さん、こんなに混沌とした情勢の中、多くの人たちが、 ほんとうに、よく頑張っているね。
付き人: はい、ご隠居、そのとおりですね。
ご老公: こんなに頑張っている人たちを邪魔する奴が、もしいたら…
付き人: もし、いたら…?
ご老公: 「こらしめて、おやりなさい。」
文責 玉木英明