2021-10 世界規模の温暖化、赤道直下の中東の苦悩
アラビア半島で…
らくだ: ♪月の~さばくを~、
は~る~ばると~
たぁびの~らくだは~、
ゆぅき~ましたぁ~
うう、あつい…
コブラ: しゅるしゅる…そこの地味な色の下着をきた動物、ちょっとお待ちなさい!
らくだ: だれです、キャメルカラーの魅力を「地味」と評するのは?
コブラ: あのねぇ、こんなに暑いのに、「ももひき」はいて歩いてるなんてどうかしてるわよ!
らくだ: 最近の若者は「ももひき」なんて知らないと思うよ。
コブラ: うるさいわね。「男性用旧式綿製タイツ」とでも表現するつもり?
らくだ: ぼくたちの体の色は、ベージュで…
コブラ: らくだ色のことでしょ?そんでもって「らくだ」といえば「ももひき」よ。タマキタイムズの読者なら、みんな知ってるわ。
らくだ: そういうあなたは、いつも笛の音に合わせて踊ってるヘビのお姉ちゃん。
コブラ: 軽薄にきこえる紹介の仕方はやめて!私の美しいおどりに、思わず人が笛をふいているのよ!それから、ヘビなんてハ虫類まるだしの呼び方もやめて。
らくだ: 何て呼べばいいの?
コブラ: コブラよ。
らくだ: ほう、お姉ちゃんには毒があるのだね?
コブラ: なんだかいやな単語ね。「ポイズン」と表現してちょうだい。
らくだ: 「かまれないようにしろ」ってみんなが言ってたよ。
コブラ: そんなうわさ、信じるのは蛇道よ。
らくだ: 漢字、ちがってない?
気温53℃。「温暖化」ですまされない
コブラ: なんでもいいけど、このアラビア半島、ちょっと暑すぎない?
らくだ: お姉ちゃんもそう思う?二酸化炭素の「温室効果」の影響だね。
コブラ: 北極の氷がとけるとか、ヒマラヤやアルプスの氷がとけるとかも大きな問題なのだろうけれど、赤道直下の地域がまるでフライパンの上みたいな状態も、私たちにとっては大問題よね。
らくだ: クウェートではこの夏に、最高気温53.2℃、イラクでも51.6℃、オマーン、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、イラク、イランでも50℃を超えたよ。
コブラ: わたしのお風呂のお湯の温度は40℃そこそこよ。
らくだ: お姉ちゃん、ヘビのくせにお風呂にはいってるのだね?
コブラ: あのね、私の「うろこ肌」は、お手入れが大変なのよ。
らくだ: 中東の気温上昇は、世界平均の2倍以上だそうだよ。
コブラ: ということは…これから先…
らくだ: 中東では2050年までに、まだ4℃は上がると学者が試算してる。
コブラ: そうすると、中東の主要都市では、夏は完全に人間が住めなくなるってこと?
らくだ: 世界銀行の予測では、1年のうちで4ヶ月間は人間が住めない地域になるらしいよ。
コブラ: 赤道に近い国々は、気候変動の影響を真っ先に被る地域なのね。
石油で火力発電して、エアコンを回せば
コブラ: 中東には、石油がいっぱいあるのでしょ?だったら、そのエネルギーで発電して、エアコンを回せば生活できるじゃない?
らくだ: 中東の二酸化炭素排出量は、今EUよりも多いのだよ。何も考えずに排出量を増やせば、さらに温暖化が進んで自分たちの首をしめることになる。
コブラ: でも、そんなこと言ってたら、50℃の中でどうやって生活しろっていうの?
らくだ: 困ったことに、その石油で発電される電力も、現状では全く足りてないんだ。
コブラ: え?エアコンがない50℃の中で、人々が生活してるの?
らくだ: 電力なんてのは庶民にとっては高嶺の花、政府がしっかりしてないから、実は水や食料も行き渡っていないのが現状だ。
コブラ: 水や食料も?
らくだ: そう。水や食料も十分になくて毎日50℃以上で生活すれば、どんなに健康な人でも命の危険にさらされる。
コブラ: えげつない状態ね。
らくだ: マイナス30℃の吹雪の中で立っているのも、50℃以上の中で水や食料なしで一日中蒸されているのも、どちらも人が「生物」としての機能を維持できないね。
コブラ: 中東の人は、石油でみんな大金持ちのイメージがあるのだけれど。
らくだ: 貧富の差が大きくて、お金持ちはその利権をもった支配層の人たちだけなんだ。
人々の怒り
コブラ: 暑くて、エアコンのない人たちは、抗議しないの?
らくだ: イラクでは7月の記録的な猛暑の中で、政府の無策に怒った人たちが通りをうめて、交通を止めてタイヤを燃やした。発電所も包囲されて、軍隊が出動した。
コブラ: 日本はコロナとオリンピックばかりで、そんな報道なかったわね。
らくだ: レバノンではこの夏に燃料が不足して、タンクローリーから燃料を盗んだり、発電所を荒らすなどの犯罪が多発したんだよ。ガソリンスタンドにならぶ列に、銃をもった男が割り込んで、人々が殺気立つ話も聞かれた。
コブラ: なんで燃料のとりあいになるの?
らくだ: 1990年まで内戦に苦しんだレバノンは、1日3時間くらいの停電は当たり前で、人々は自衛手段として、自分で発電機をもってるのさ。
コブラ: 自分の発電機?
らくだ: そう。エアコンを回すために、燃料でエンジンを回して発電するんだ。
コブラ: 大きな発電所はないの?
らくだ: まだ、十分に整備されてないのさ。
コブラ: そうか…各家庭の発電機でエアコンを動かして温度を下げてるのね…
らくだ: ところがその発電機用の燃料も、今年8月12日にレバノンの中央銀行が燃料への補助金を打ち切った。
コブラ: 打ち切った?…ひどいわね。
らくだ: 人々は、頼みの自家発電すらできなく、エアコンが使えなくなってしまった。
コブラ: ガソリンスタンドで、エアコン用の燃料をめぐって住民同士でケンカしなくちゃならないなんて…
らくだ: そんななまやさしいものじゃないよ。奪い合いさ。燃料タンクごと盗んでいく奴もいる。
コブラ: 警察はどうしてるの?
らくだ: 政府がしっかりしていなくて、治安を保つのも大変な地域も多い。レバノンでは、8月中旬に軍隊が盗まれた燃料タンクをやっと押収して、市民にガソリンを配給しようとしている時にタンクローリーが爆発して、30人もの死者が出た。
太陽光発電は?風力発電は?
コブラ: 広く大きな砂漠があるのだから、太陽光発電や風力発電もしやすいのじゃないの?
らくだ: そのとおり。ただ、レバノンの支配者が現在の石油による電力に既得権益をもっていて、改革をすると自分たちの立場があぶなくなるから、改革がなされないんだ。
コブラ: 中東には水力発電はあるの?
らくだ: イランには水力発電所もあるのだけれど、干ばつが続いていて、水力発電がフル稼働できず発電量が減少してる。各地で抗議デモがおきてる。
コブラ: 中東の干ばつは、今年そんなにひどいの?
らくだ: 今年だけでなく、このところ何年も干ばつが続いているよ。
コブラ: 気の毒に…
らくだ: イランの南西部フゼスタン州では、水不足に抗議するデモ隊が道路を封鎖してタイヤを燃やしたのだけれど、治安部隊が発砲してかなりの人が死んだというよ。
生活用水が足らない
コブラ: 人は一人当たりどれくらい水を使うの?
らくだ: 世界を平均すると、一人当たり1日に約186リットル使うよ。
コブラ: 日本人は?
らくだ: その2倍、約300リットルほどの水を使う。
コブラ: 私はそんなに飲まないわ。
らくだ: お風呂とトイレだけで、日本人は一人200リットルほど使うよ。
コブラ: 中東で水不足に困っている国では、何リットルくらい使えるの?
らくだ: どこの国も水不足に悩んでいるのだけれど、イエメンは特にひどい。1日5リットルほどしか使えない。
コブラ: 飲む水でやっとの状態じゃないの?
らくだ: そのとおり。
コブラ: あかんやないの。
らくだ: あきまへん。
中村哲医師の志を
コブラ: 温暖化を防ぐことと同時に、中東に対して私たちができることはないものかしら?
らくだ: たくさんあると思うよ。
コブラ: 銃弾で亡くなられた医師の中村哲さんは、アフガニスタンに医療をよくするために行って、井戸や用水路をつくることに尽力してたのでしょ?
らくだ: そう、福岡市の約半分の面積に当たる1万6500ヘクタール、60万人以上の人々の生活が、中村さんらがつくった用水路で潤ってる。
コブラ: 医療行為だけでも、多忙だったでしょうにね。
らくだ: そう、人々が健康な生活を送るために必要なものを、根本から立て直そうとしたのだろうね。
コブラ: 日本人は、中東にお金を支援してあげればいいの?
らくだ: それも必要だけれど、中東に住む人たち一人一人を助けようという男気が必要だね。
コブラ: たとえば?
らくだ: 住む場所を失った人や、気候変動で生活の糧を得られなくなってしまった人たちに、望めば、日本に来て私たちといっしょに生活しましょう、日本に820万戸あって増え続けてる空き家に住んでもらいましょう、風習も宗教も含めて、私達が喜んで受け入れましょう、という気持ちだよ。
コブラ: 中東の人たちに、生活が「らくだ」と言わせてあげたいわね。
らくだ: ぼくたちも中東の平和にむけて自らを「鼓舞ら」しましょう。
コブラ: なんだか私たち「ダーウィンが来た!」のひげじいみたいだね。