2023-06 インフレ。増税せずに国の借金を減らす方法とは?
いつもの二人が
代官:おい、越後屋。
商人:お代官様、今回さらに表情にすごみが増しましたね。
代官:おう、悪代官としてタマキタイムズに3回目の登場だ。インパクトのある顔つきでなきゃ、読者に申しわけないだろ?
商人:金屏風(きんびょうぶ)より大きなお代官様というのは、作者の絵の作り込みが少し荒いように思いますが。
代官:細かなことを気にするな。鯛のお頭つきの料理の正面が、わしの方に向けられてないことなど、もっと深刻だ。それに1623年から3度ひげ禁止令が出された時代に、代官がラグビー選手のようなひげを生やしているのも、時代考証があやしい。
商人:なんだか、間違い探しクイズみたいになってきましたね。
代官:ほおっておけ。それにしても越後屋、この前の増税は、蜜の味であったのぅ。
商人:お代官様、町民どもが平和な日々をおくることができるのは、安定した町政のおかげ、税金が少しばかり高くなるのは仕方ございません。
代官:こうして、毎日うまい酒と魚を口にしておると、収入が停滞している一般の町民どもに対して悪い気もするが‥
商人:お代官様が、今さら何をおっしゃいますやら。この世の中、全体の1%が富裕層でございます。私の言うとおりにお代官様が政治を動かしていただければ、この魚と酒はお代官様のものでありつづけます。
代官:おぬしのフトコロも、ずいぶん潤っておるようじゃのう?
商人:お代官様、私は大樹のかげでたたずむ小さな商人、何もできやしません。
代官:越後屋、おぬしも実にしたたかな、悪じゃのう。
商人:いえいえ、お代官様ほどでは‥
さらに深刻、国の借金
代官:越後屋。さらに税金を上げようではないか。我らがさらに潤うぞ。
商人:お代官様、無茶をおっしゃってはいけません。何を増税しようというのですか?
代官:所得税を上げればいい。収入を得た奴が、その一部を場所代として支払う。あたりまえの行為だ。
商人:町民が得るお金の上前をこれ以上はねるのは、目立ちます。必ず反発が出ます。
代官:それならば、消費税を上げればいい。使った金に対して税を納めるのはもっともなことだし、日々の生活の中で少しずつだ。町民どもが気がつきにくい。
商人:令和元年に消費税を10%に上げたばかり、また今年もとなると‥
代官:ええい、おまえは商人だろ?何か考えろ!
商人:実は、我が藩の借金が‥‥増え続けているのです。
代官:借金だと?なんで借金なんかしてるのだ?
商人:2022年、我が日本藩が必要としている金は、約108兆円でございます。
代官:おう上等じゃ。それを税金で集めればいいのじゃろ?
商人:税金で集められているのはその3分の2以下、約66兆円しかありません。
代官:‥どういうことじゃ?
商人:必要なお金に対して、収入が全く見合ってないということです。
代官:30兆円以上‥足らないのか?
商人:今年はまだマシな方です。ここ2年間は、歳出が140兆円を越えました。
代官:おい、下のグラフは何だ?
商人:はい、黒線が国を保つために必要なお金(歳出)、青線が税金で町民から集めているお金(税収)です。
代官:歳出ばかりムチャクチャの増え方ではないか!なんでそんなに金がいるのだ?例の感染症のせいか?
商人:その通りです。
代官:あかんやないか!
商人:お代官様は関西のご出身だったのですね?
代官:動揺するとなまるのや。
国民からの借金で‥
代官:足りてない金を、誰から借金しているのだ?
商人:町民です。国債を発行して、町民から借金しております。
代官:変な話じゃ。藩が町民から借金するのか?
商人:その通りです。町民が貯蓄しているお金を、藩が借りるのです。
代官:ちょっと、聞いてもいいか?
商人:なんなりと。
代官:他の国も、こんな借金をしてるのか?
商人:はい、しています。ただ、我が国の債務残高は、1000兆円、GDP(国民総生産)に対して2.5倍、先進国の中では、わが日本藩がダントツで高うございます。
国の借金を減らすには
代官:おい越後屋、なんだか酒の味が悪くなってきたぞ。わしとお主とが潤うことは大賛成だが、借金を減らして藩の財政を立て直さないと、共倒れだ!
商人:お代官様、声が高うございます。
代官:お主は、そろばん勘定に長けておろう?何か考えつかぬのか?
商人:お代官様、そんなに簡単には‥。
代官:我が日本藩が破綻寸前になれば、きっとあのウクライナ藩のように大きくて強い他の藩に、暴力で攻め込まれ‥
商人:お代官様、実は、方法がないことは、ないのですが‥。
代官:なんだ越後屋、早くそれを言え。いじわるな奴だ。どうやるのだ?
商人:藩の借金を減らすだけなら‥
代官:とりあえず借金が減れば、あとは何でもいい。でも増税はだめだぞ!不満のほこ先が直接わしに向かう。
インフレに持ち込めば
商人:承知しました、お代官様。では大量の紙幣の印刷を命じて下さい。
代官:大量の紙幣じゃと?
商人:そうです。なりふりかまわず紙幣を印刷して、必要なヒト、団体、施設にお金を配るのです。
代官:お金を配る?
商人:お金を配れば、お代官様の人気はどんどん上昇します。
代官:そ、そうじゃろうなぁ。うひひ、悪くないなぁ。でも紙幣ばかりが増えれば、お金の価値が下がらないか?
商人:はい、下がります。インフレを引き起こします。
代官:インフレになると、どうなる?
商人:物価が上昇します。
代官:物価が上昇すると‥
商人:10年で物価が2倍になったとしましょう。100万円の自動車は10年後にいくらになりますか?
代官:200万円出さないと、この自動車を買えなくなるわけじゃな?
商人:そのとおりです。10年でお金の価値が半分になります。
代官:しかし、国の借金はへらないぞ!
商人:物価が2倍になっているのに、借金は金額が減りません。ということは‥
代官:おお!借りたお金の価値も半分か!
商人:その通りです。増税したのと全く同じ状態を作り出せます。
代官:物価が2倍になれば‥
商人:はい、債務残高の価値は1000兆円の半分になります。国民から政府が500兆円の税金を徴収したのと同じになります。
代官:すごい増税と同じ効果が得られるな!
商人:はい。その上、町民の感情的な反発も、お代官様には向けられません。
預金している真面目な人は
代官:よし!決まった!紙幣を大量に印刷してばらまけ!インフレをひき起こすのだ!
商人:お代官様、少しずつ、少しずつ、あわてないで‥
代官:何をいうか。こんな素晴らしい策を隠しておくなんて、越後屋、お主も悪よのう!
商人:いえ、お代官様、少しだけ申し上げてないことが‥
代官:いや、よく考えた。増税もなしで庶民が金持ちになってわしが感謝されて、国の借金も減る。こんないい考えは、またとない。よし、今日は祝杯を上げるとしよう!酒だ!酒をもってこい!お主も飲め!
商人:あ、ありがとうございます。ただ、ちょっとだけお耳に入れておくべきことが‥
代官:ええい、何だ、手短かに申せ!
商人:お代官様の貯金の価値も、半分になります‥。
文責 玉木英明