2024-05 砂漠の都市ドバイの洪水。世界の気候が狂いはじめた?

                                                                     




ドバイ空港、コブラとラクダが

コブラ: ちょっと!なによ、この雨は!

らくだ: …逃げなきゃ危ないよ。

コブラ: ドバイは、雨が降らないリゾート地だっていうから、飛行機の荷物庫にまぎれてやってきたのに、この洪水はどういうことなのよ!

らくだ: おねえちゃん、だれ?

コブラ: 私を知らないの?泣く子もだまるスーパースネーク「夜遊びのコブラおネエ」といえば私のことよ!

らくだ: いっぱいしゃべるから、どれがキーワードなのか、わからなかったよ。

コブラ: うるさいわねぇ、ヒトの自己紹介にケチをつけないでよ。あんたこそ、そんな砂漠の中に溶け込んでしまうような地味な色のパンツはいて、いったい誰なのよ?

らくだ: ぼくは、らくだ。しんどいのに、らくだ。

コブラ: …おもしろい自己紹介するじゃないの。



ドバイ、アブダビ、近代都市

コブラ: ここドバイは、お金持ちがたくさんいる近代都市でしょ?

らくだ: そうだよ。ブルジュカリファという世界一のタワーが有名さ。高さ830mだ。

コブラ: 東京のスカイツリーは何mだったっけ?

らくだ: 634m、ブルジュカリファの4分の3しかない。

コブラ: ドバイとアブダビには、夜中も飛行機が離着陸できるすごいハブ空港があるでしょ?

らくだ: よく知ってるね。アブダビのザイード国際空港は大きさが世界最大で、空港のすべてが曲面で囲まれた、巨大な砂漠を表現したすごいデザインの空港さ。

コブラ: 行ってみたいわ!

らくだ: ミッションインポッシブルの最新作「デッド・レコニング」が撮影された場所でも有名だよ。

コブラ: そんな素敵な空港が、洪水になっちゃったの?

らくだ:ああ、何百便もの飛行機が欠航したそうだ。



側溝のない道、雨の対策ゼロ

らくだ: そもそもドバイには、道の側溝もない。

コブラ: え?どういうこと?

らくだ: 雨水を流して処理する必要がないくらい、雨がふらないってことだ。

コブラ: テレビの天気予報なんて、必要ないってこと?

らくだ: そう、みんな家を出るときに傘を持って出かけるかどうかなんて考えない。

コブラ: 道路工事が楽なわけね。

らくだ: いや逆に、ここでは砂漠の砂が風で流されて高速道路に入らないような工夫が必要になる。

コブラ: なるほど。洪水の被害が大きかった理由は、本来雨の心配がないはずの都市に、雨が死ぬほど降ったからということね。

らくだ: 下のオートバイから撮った高速道路の写真を見てごらん。

コブラ: 山肌の色が日本とはずいぶん違うわね。

らくだ: 一年のうち半分は50℃を超えるような気温だ。樹木がすくすく青々と育つ環境じゃない。

コブラ:ということは、ドバイは、天に向かって「お願いだから雨がふって」とお祈りすべき地域だということね

らくだ: そうだよ。それなのに、先日は1日で1年分以上に相当する雨がふったんだ。

コブラ: 玉木さんの知人Serge Brouilletさんも、水につかってしまった二輪車や自動車の動画をフェイスブックにあげてたけれど、被害は甚大よ。


クラウド・シーディング

らくだ: ドバイでやってる、クラウド・シーディング(Cloud seeding: 雲の種まき)って知ってる?

コブラ: ネットでお金でもあつめてるの?

らくだ: ちがう、ちがう。空を行く飛行機から雲に向かって「塩の粒子」を散布するのさ。

コブラ: 「すもう」でもするつもり?

らくだ: 雲ができているところは、少なくとも液体か固体になるくらい水蒸気が存在するわけだから、そこに向かって状態変化が起こりやすくなるように「核」を散布してやると、水滴ができやすくなって、雨がふるかもしれないから、こんなことをするのさ。

コブラ: …うおおお、ごついハイテク技術やなぁ!

らくだ: コブラのお姉ちゃん、関西の出身だったんだね?

コブラ: 動揺すると、なまりますのや。 …もしかして、今回のドバイの大雨って、そのクラウド・シーディングが原因なのとちゃいまんのか?

らくだ: いまのところ、「クラウド・シーディングが洪水の原因ではない」との見解の方が有力だよ。

コブラ: そんなのわからへんやないの。

らくだ: クラウド・シーディングは、温暖な気候のなかでは、降水量をわずかに増やすだけという意見が大半さ。

コブラ: 空にある水蒸気が、限られてるってことやね。

らくだ: そう、水気があまり含まれていない空から雨を降らせることはできないってことさ。

コブラ: ほ、ほな、何が原因やっていうの?

らくだ: 世界中で話題になってる、地球温暖化による「異常気象」が原因だと世界の多くの人が考えてるよ。

 


火災積乱雲

コブラ: やっぱり異常気象が原因なのね。友人のガラガラヘビくんから聞いたけど、米国では緑豊かな森林が枯れて「ゴーストフォレスト」が広がっているそうよ。

らくだ: バンクーバーの浜辺で、熱波でムール貝がゆで上がったそうだ。

コブラ: それって、カナダでしょ?北海道よりもずっと北のはずよ。

らくだ: カナダの気温が49℃にも達して、2021年は山火事が多く発生したんだ。

コブラ: 大規模な山火事がおこると、そのあとが怖いって聞いたことがあるけど。

らくだ: その通りだ。高熱で上昇気流ができてそれに乗って煙の粒子が上空へと吹き上げられて冷やされ、不純物を含む「火災積乱雲」をつくるのさ。

コブラ: なにそれ?



らくだ: 積乱雲は、上空で冷やされて重くなった空気が鉛直下向きに吹き付けるダウンバースト(downburst)を発生させるのさ。写真は2016年、米国アリゾナで飛行機から撮影されたダウンバーストだ。日光の杉並木街道でも起こって、多くの家や倉庫をおしつぶした。

コブラ: どれくらいの速度で鉛直下向きに吹き付けるの?

らくだ: 秒速50mを超えるそうだ。離着陸中の飛行機なら、一気に墜落させられる風圧だというよ。

コブラ: そんな風が吹き付ければ、森林火災がさらに周囲に広がるじゃないの?

らくだ: そう、火災を数十キロ単位に広げる。

コブラ: 数十キロって…鈴鹿から名古屋くらいまでの範囲じゃないの!

らくだ: さらに厄介なのが、オーストラリアで2019年に起きた森林火災で生じた火災積乱雲では、大規模な落雷を引き起こしたというよ。

コブラ: 落雷?さらに森林に火を放つようなものじゃないの!

らくだ: そう、今話題にしているカナダの森林火災でも、24時間にブリティッシュ・コロンビア州で99件の森林火災が発生して、そのうちの7割が落雷が原因だったらしいよ。

 

日々幸せに暮らせるのは

らくだ: お腹がすいたね。コブラのおねえちゃん、レストランで何か食べよう。僕がおごるよ。

コブラ: ありがとう。じゃぁ「生卵食べ放題」のお店に行きたいわ。あなたは?

らくだ: サボテンのトゲ付き生サラダが大好きなんだけれど。

コブラ: お互い、特殊なメニューがお気に入りね。行きましょうか、地球が平和なうちに。


文責 玉木英明