あの代官と商人が
代官:おい、越後屋!
商人:お代官様、今回また一段と、表情がドラスティックになりましたね。
代官:最初の一見で、わしがどんな人かをタマキタイムズの読者に分からせるために、わしなりに苦労しておるのじゃぞ。
商人:いやはや、お代官様のその顔つき、目つき、唇の曲げ具合、凡人ではなかなか到達できないものと存じます。
代官:そんなに凡人ばなれしておるか?
商人:・・・ふくよかなあごに、後ろの屏風とコラボレートした金色のきもの、まさに「それとわかる」お代官様を体現していらっしゃいます。
代官:そ、そうか、そんなに素敵か。
商人:はい、それはもう・・・。
代官:それにしても、このところの米の値上げは、蜜(みつ)の味じゃのう。
商人:お代官様、お声が高うございます。
代官:気にするな。だれも聞いてはおらぬわ!
商人:スーパーの棚から、ちょいとコメが消えて、庶民は大騒ぎでございますね。
代官:大した量の米を食べていない奴らまで、コメがない、コメがないと大合唱するから、おぬしもコメを高い価格で売りさばくことができるじゃろ?
商人:それもこれも、お代官様のおかげでございます。
代官:もっともっと、コメが出回るのを抑えてはどうじゃ?さらに我らは潤うぞ!
商人:お代官様、無茶をおっしゃっては困ります。何ごとも、あせりは禁物、来年も潤うためには、絶妙な「さじ加減」が必要でございます。
代官:越後屋、おぬしも相当なワルよのう。
商人:いやいや、お代官様ほどでは・・・。
コメ不足の理由が・・・
代官:庶民は気づいておらぬだろうな?
商人:「夏が暑かった」とか「地球温暖化」をコメ不足につなげておけば、なんとなく庶民は納得している状態です。
代官:この前の夏は、たしかに暑かったぞ。コメに影響はなかったのか?
商人:イネの穂が出た後に高温が続くと、コメの内部に亀裂ができる「胴割れ粒」ができたり、デンプンの形成が悪くて白くにごった「乳白粒」なんてのができます。ただ、それを取り除いてもスーパーでコメがなくなるほどではありません。
代官:「外国人の旅行者が増えたから」としておくのも、われらに火の粉がふりかからぬ良い言い訳じゃな。
商人:はい、インバウンドで「外国から日本に来た旅行者がいっぱいコメを食べたから」といえば、庶民には納得しやすい理由になっております。
代官:本当に、外国人がコメを食べるから日本のスーパーからコメがなくなっておるのか?
商人:評論家の理由かせぎでございます。毎月300万人の旅行者が日本で7日間滞在して日本人並みにコメを食べたとしても、全消費量の0.5%、1000分の5、まさに微量です。
代官:「戦争のせいで小麦価格が上がって、安くなったコメがたくさん食べられたからコメが不足した」というのも聞いたことがあるぞ。
商人:ウクライナとパレスチナの戦争を日本の米不足につなぐのは、正直なところ無理がございましょう。
代官:「南海トラフ地震に備えてコメをため込んでる奴がいる」という理由はどうだ?
商人:「地震への備え」で、コメを備蓄している庶民はいません。
作況指数
代官:コメを作る量を少しずつ減らしていることが、庶民にバレるとやっかいだ。
商人:お代官様、庶民の矛先をかわすのに、「作況指数」という数字を用意いたしました。
代官:作況指数?
商人:そうです。今年作付けしたコメのでき具合を、平年100に比べて表す数値です。
代官:ほう、100より大きければ・・・
商人:昨年より良かったことになります。
代官:越後屋、今年2024年のコメの作況指数はいくつだったのじゃ?
商人:101でございます。
代官:ほう、それは安心じゃ。100より大きかったから、昨年よりコメの生産量は多かったわけじゃな?
商人:お代官様、これが数字のからくりでございます。作況指数101は「一定の面積あたりの収量」が昨年並みだったということでございます。生産量が多かったわけでは全くありません。
代官:なんと!そうじゃったのか。では、コメの生産量は・・・
商人:お代官様、とぼけた顔をして、知らばっくれないでくださいよ。お代官様の命令で、JA(農協)と農林水産省に前年比10万トンのコメを減少せよと「減反」をさせているわけでございましょう?
代官:よしよし。ということは「作況指数100」でも、コメの生産量は前年より10万トン減っておるわけじゃな?
商人:お代官様、その通りでございます。
減反政策は続く
代官:越後屋、そろばん勘定はおぬしの方が得意だとは思うが、コメの需要を毎年10万トンづつ減らすと、日本の食糧事情は危なくなっていかないか?
商人:今の安定した食糧の輸入が続くならば、大丈夫でございます。コメは食料、必需品ではありますが、特徴がございます。
代官:どんな特徴じゃ?
商人:ヒトの胃袋は一定の大きさでございます。毎日の消費量に限界があります。
代官:どういうことじゃ?
商人:テレビの価格が半分になると、もう一台買おうという気もおこりますが、コメの価格が半分になったからといって、2倍食べようという人はいません。
代官:おう、そのとおりじゃの。ということは・・・
商人:コメの値段は高くても低くても、消費量はそれほど変わらないのです。
代官:そうか。コメの供給を減らせば・・・
商人:コメの価格が上がります。
代官:日本のコメの面積当たりの収量(単収)は外国と比べて、多いのか?少ないのか?
商人:残念ながら、カリフォルニアの米の単収は日本の1.6倍、1960年頃、日本の半分ほどだった中国も、現在は日本の単収を追い越してしまっている状態です。
代官:わかりやすく説明してくれ。
商人:外国でも、1ヘクタールの面積から、日本以上の量の米を収穫しているということでございます。
日本の食料自給率
代官:コメを作りすぎれば価格が下がる。わしとおぬしも潤わない。ということは、コメを多く作るのは悪なのじゃな?
商人:我ら二人にとっては悪です。しかし・・・
代官:しかし?
商人:国民にとっては、善です。
代官:どういうことじゃ?
商人:日本で、国民の腹を満たせる唯一の方法が、コメだからです。
代官:庶民が、今食べている食料は、日本でどれくらい生産できているのじゃ?
商人:日本の食料自給率は、カロリーを基準にして38%です。
代官:わかりやすく説明せいよ。
商人:日本人が食べてお腹を満たして健康を維持できる食べ物の量の、4割も日本国内で生産できていないということでございます。
代官:・・・あかんやないか。
商人:お代官様は関西のご出身だったのですね?
代官:動揺すると、なまるのや。
商人:ちなみに、アメリカの食料自給率は132%、フランスが125%、ドイツが86%、・・・第二次世界大戦の飢餓を経験に、いずれも自給率を上げています。
代官:おいおい、日本は大丈夫なのか?
商人:戦争や災害などで、日本に食べ物が輸入されなくなったら、ひとたまりもない状態です。
それでも減らす?
代官:コメを、作りすぎれば値段が下がるばかりでなく、余って困るではないか!
商人:実は、余ったコメは外国に輸出して売ればいいのです。
代官:日本のコメは高くて売れないだろう?
商人:いいえ、今カリフォルニア米との価格差はほとんどなくなり、日本米の方が安い場合すらでてきました。
代官:なんと!海外に売れるのだな?
商人:はい。平時にはコメを輸出し、危機の時には輸出していたコメを国民が食べるようにすれば、日本も安心なのですが。
代官:越後屋、今の話、他言は無用じゃ!日本の食糧事情など、どうでもよいわ。今のコメの価格さえ上がればよい!
商人:お代官様、大丈夫でございます。農林水産省も農協も、われらの味方でございます。
代官:食料自給率を無視するおぬし、そうとうなワルよのう。
商人:いえいえ、米価の上昇ばかり考えている、お代官様ほどでは・・・
文責 玉木英明