顔の近い4人の男たちが
ルーズベルト:いたいいたい、押さないでくれ!
ジェファーソン:あのなぁ、もう少し離れてくれないか?
リンカーン: おいジェファーソン、おまえの口、ずいぶんニンニクくさいぞ。
ジェファーソン:おう、昼食に餃子を5皿食べた。もんくあるか?
リンカーン: うっぷ、こっちを向いてしゃべるな。くさくてたまらん。
ルーズベルト: ハ~ハクション!
ワシントン: おいルーズベルト、こっち向いてくしゃみをするな。
ルーズベルト:わるい、ワシントンの毛先が鼻に触れるから、どうもムズムズする。
ジェファーソン:このさいだから言わしてもらうけど、僕もリンカーンのヒゲのジョリジョリに耐えてるのだぞ。
リンカーン:あのな、ルーズベルト、おまえ声が大きいぞ。大人しく座ってるワシントンを見習ったらどうや?
ワシントン:みなのもの、民衆が下から見上げておるぞよ。行儀よくなされい。
ルーズベルト:アメリカの大統領が4人そろって漫才を始めるなんて、今回のタマキタイムズも、やる気満々だな。
ラシュモア山
リンカーン:ところでジョージ、ここはアメリカか?
ワシントン:そうだ。サウスダコタのラシュモア山というところだ。
リンカーン:ニューヨークの近くか?
ワシントン:いや、あそこからは遠い。ニューヨークは米国の東の端だ。
リンカーン:ロサンゼルスの近くか?
ワシントン:いや、あそこからは遠い。ロサンゼルスは米国の西の端だ。
リンカーン:フロリダの近くか?
ワシントン:いや、あそこからは遠い。フロリダは米国の南の端だ。
リンカーン:一体、ラシュモア山は、どこにあるのだ?
ワシントン:アメリカの中央北部、サウスダコタ州というところさ。
リンカーン:誰が彫ったの?
ワシントン:ガッツン・ボーグラム(GutzonBorglum)というデンマーク系アメリカ人が手がけたのだよ。
リンカーン:よくこんな山を見つけたね。
ワシントン:ああ、こんな彫刻に耐えられる強度の山はそれほど多くない。
リンカーン:わかるわかる。彫って数年で朽ちて崩れるような岩じゃ困るものね。
ワシントン:4人を並べて彫ることのできる大きさと、ふもとからすべてを一望できる山を見つけだすことも難しかったそうだ。
リンカーン:4人そろうと、迫力だものね。
ワシントン:さらに、大統領たちが、朝日を浴びる面に並んでいることも求められた。
リンカーン:確かに、朝日に向かう4人の大統領の姿は、感動だよね。
ワシントン:ラシュモア山への彫刻の前に、ボーグラムはジョージア州の山に、別の彫刻を依頼されたそうなのだけれど、その時は彼の彫刻へのこだわりと依頼主と意見が合わずに、彼は解雇されたらしい。
リンカーン:まさに作品のためには出資者とけんかも辞さないというところが、芸術家だね。
ワシントン:ああ、彼はフランスのパリで彫刻を学び、ロダンとも親交が深かったらしい。
リンカーン:ロダンって、「あの考える人」の作者?
ワシントン:そうだ。
スケールの違う芸術作品
リンカーン:それにしても大きいね!
ワシントン:ああ、4人合わせて横56m、一人の顔の大きさは高さ18mもあるよ。
リンカーン:顔の大きさだけで、6階建ての建物の高さじゃないか。
ワシントン:そうだね。
リンカーン:高さ2、3メートルの像だって難しいのに・・・
ワシントン:特に顔を実在した人物に似せて彫るなんてのは、神業(かみわざ)だ。
リンカーン:コンピューターでスキャンして3Dプリンターで小さいのをつくるならともかく、このデカいのを、よく彫れたね。
リンカーン:1927年に掘り始めて14年で完成したんだよ。
ワシントン:たった14年?
リンカーン:そう。さらに言うなら、このあたりは冬の環境が過酷だから、ほとんど夏の間しか作業を行うことができたかったというよ。
ワシントン:しかも、1927年といえば、第二次世界大戦の前じゃない?。
リンカーン:ああ、日本では国道の舗装すらままならなかった時代に、花崗岩の硬い山、しかもアメリカの初代150年を象徴する4人の大統領を、国立公園内に彫らせたというのだから、すごい。
ダイナミックな彫刻方法
ワシントン:彫り方も、すごかったのだよ。
リンカーン:え?ノミとかなづちで彫ったのじゃないの?
ワシントン:全体の90%を、ダイナマイトで彫ったというんだ。
リンカーン:な、なんやて?
ワシントン:最後の10cmまではダイナマイトで、その先はドリルで直径8cmの穴を開けて、削っていったのさ。
リンカーン:えらいダイナミックな方法やな!
ワシントン:エイブラハム君、あんた関西の出身だったのだね?
リンカーン:動揺すると、なまるのや。
ワシントン:ダイナマイトの微小な使い方を充分に心得ていたということだね?
リンカーン:そう、よくぞ失敗せずにこんなものを彫れたものだ。
ワシントン:彫り始める時に、当時の大統領も式典に参加したというから、完成させる自信は満々だったのだろうね。
リンカーン:作業員を上に運ぶだけで、大変な労力だったろうに。
ワシントン:米国の素晴らしいところは、この時代に、大半の作業員を電動ウインチ(つり上げ装置)で上下に運んだというよ。
リンカーン:何人くらいが切削にかかわっていたの?
ワシントン:常時30人が関わっていたというよ。
リンカーン:でもさ、こんな大きな彫刻でしょ?作業員が自分の担当している場所をどれくらい削ればいいのか見極めるのは、すごく難しいのじゃなかったろうか?
ワシントン:そう。だから、それぞれのウインチ小屋の中には、高さ1.5メートルの顔の模型が備えられていて、作業員がそれぞれ自分の彫るべき箇所をイメージできるようになっていたというんだ。
リンカーン:すばらしい。花崗岩にへばりついているだけでは、作業員が全体像をつかむことはできなかったたろうね。
ワシントン:ウィンチ小屋の中の1.5メートルの顔の模型群だけでも、記念館ができそうだ。
朝日の中、感動の彫刻
リンカーン:山のふもとで、朝日に映し出される大統領たちを見ていると、歴史を感じる感動で、なんだか目頭が熱くなるね。
ワシントン:ああ、こうした造形物は人間にしか作れない。
リンカーン:これを作ったボーグラムは、何がすごかったのだろうか?
ワシントン:彼の才能を見抜き、教育を受けさせるためにフランスのアカデミーに彼を送ったデンマーク出身の父母は素晴らしいよね。
リンカーン:自分の息子の感性を磨く場所はパリと意識していたということだね。
ワシントン:彼に山の彫刻を持ちかけたサウスダコタ州の歴史家ドーン・ロビンソン(Doane Robinson)もスケールが大きいね。
リンカーン:やろうと言い出す人間、出資しようと言う人間、米国ならではのスケールだね。
ワシントン:さらに、山の上で何人もの彫刻に得手のある作業員たちが、男気を持って細かな作業を、ダイナマイトやドリルで続けたことには、感動するね。
リンカーン:世界中から、すごく多くの人たちが見に来続けているね。
ワシントン:アメリカの誇りを示す雄大な彫刻だ。
リンカーン:トランプさんが、5人目に入りたがっていると聞いたけれど・・・
文責 玉木英明