赤ずきん、大きなクマと!
クマ: うぉおおお~!
赤ずきん:あなたは、だあれ?
クマ: おれは、クマだ!
赤ずきん:まあ、クマさん。
クマ: 日本中で恐れられている、あのクマだぞぉぉぉ!
赤ずきん:大きな声で言わなくても、聞こえてるわよ。
クマ: だから、クマだといってるじゃないか!
赤ずきん:あのね、あなたがクマだということは、わかったわ。自己紹介するつもりなら、そのあとに趣味とか最近特に楽しかったこととか、何かおしゃべりしないと、頭わるいのじゃないかと疑われるわよ。
クマ: ・・・え、ええっと、趣味はどんぐり拾い、最近楽しいのはお昼寝・・・
赤ずきん:えらいえらい。やればできるじゃないの。
クマ: お、おおきに、ありがとう。ちょっと照れるな。
野生動物は敵?味方?
クマ: あのぅ、おれはクマなのだから、ちょっとは、怖がったらどうだ?
赤ずきん:赤ずきんはオオカミには気を付けなきゃならないけど、クマは関係ないわ。
クマ: でも、いま日本でクマと出くわしたら、人間は大騒ぎだぞ!
赤ずきん:どうして?
クマ: この3年間に、日本では22人もクマに襲われて死亡したからさ。
赤ずきん:じゃ、逆に尋ねるわよ。どうしてあなたたちクマが人を襲うの?
クマ: 襲わないと、おれたちの方が殺されるから・・・
赤ずきん:アメリカやカナダでは、ヒトが野生生物とうまく住み分けてるわよ。
クマ: ど、どういうこと?
赤ずきん:たとえば、クマの母親が3頭の子をひきつれて家の庭の芝生をゆっくり横切って行って、森の中へ消えていくなんてこと、ふつうにあることだそうよ。
クマ: そういう話は、ぼくも聞いたことがあるな。カナダでは大きな角をもったエゾシカが町の交差点を悠々と横切って行くという話だし、コヨーテとかシカなどの大きな野生動物も高速道路に出てきて交通事故になるから気をつけてという話をよくきくよ。
赤ずきん:大きなものじゃないけれど、野原ですわっているとヒトの肩や腕の上を野生のリスがじゃれつきにくるという話もよくあるね。
クマ: いずれにしても、野生動物と遭遇したくらいでは、大騒ぎしないということ?
赤ずきん:そう、大騒ぎしないで済む「自然との線引き」ができているのでしょうね。
日本のクマが人を襲うのは
赤ずきん:アメリカのニューハンプシャー州で、クマが人を襲って死者が出た最後の記録は、1784年というわ。
クマ: ということは、アメリカのクマは、人間を見てもすぐに襲ってこないということ?
赤ずきん:いつもそうだとは言えないにしても、少なくともクマがヒトを見たらすぐに「敵だ」と判断しない余裕がありそうよ。
クマ: 日本はせまいから、ヒトとクマが出会う確率が高いのじゃないか?
赤ずきん:たとえば、アメリカのマサチューセッツ州には5000頭、ニューハンプシャー州には6000頭のクマが生息していることがわかっているわ。
クマ: 日本は?
赤ずきん:本州に推計4万5000頭くらい生息しているというわ。
クマ: ほうら、やっぱり日本の方が多いじゃないか。
赤ずきん:いや、それが意外なことに、マサチューセッツ州のクマの生息密度と、日本の本州のクマの生息密度はほとんど変わらなくて、1平方キロあたり0.2頭よ。
クマ: 人間の数は?
赤ずきん:1平方キロあたり、マサチューセッツが350人、日本の本州が450人よ。
クマ: ほう、あまり変わらないな。
赤ずきん:そうなのよ。だから日本のクマ被害は、ヒト・クマの生息密度が原因とは言えないわ。
死んだふり?
クマ: アメリカ人は、もともとクマと相性がいいのじゃないか?
赤ずきん:そんな相性、あるわけないじゃない。
クマ: クマと出会ったアメリカ人は、ニコニコしながら頭をなでてやるのかな?
赤ずきん:まさか。
クマ: 昔、日本には「クマと会ったら死んだふりをしろ」という教えがあったよな。
赤ずきん:吉本新喜劇で島木譲二が登場すると、「クマや!死んだふりせい!」「起き!起き!人間ですよ!」「ハチミツはないですよ」「これが前足?」というやつね。
クマ: その話、タマキの先生たちは詳しい人が多くて「しまったしまった、島倉千代子」という人までいるしまつだ。
赤ずきん:おちゃめね。
クマ: 死んだふりをクマの前でするということは、少なくとも「ヒトは自分に危害を加えるモノでない」ということをわからせよという意味だったのかな。
赤ずきん:市街地に現れたクマが逃げ回って、川を泳いでいる姿をスマホでみんながとって騒いでいる今の日本の状況では、クマもヒトを襲わざるを得ないという状況なのでしょうね。
トラブルを避ける
赤ずきん:アメリカでは、行政機関が住民に「クマとのトラブルを避ける方法」を徹底して教えてきたというわ。
クマ: 具体的には?
赤ずきん:家の外に置く生ゴミやたい肥に、肉や脂肪分の多い食品は入れない、鳥のエサ台を庭に置かない、ニワトリ小屋や養蜂箱(ミツバチを飼っておく箱)の周りには電気柵を設置する、ヒトの家のそばにイヌをつないでおく、などなど細かな指導がなされたというのよ。
クマ: 自治会の「ゴミの出し方」アメリカ版ね。
赤ずきん:そうよ。野生動物が近くに住む人たちは、みんながそれを守るの。
クマ: それをやるとどうなるの?
赤ずきん:クマを本来の生息地に居つづけさせて、人間を警戒し避け続ける状態を作りあげるのに効果大なのよね。
クマ: 日本のゴミの集積所やコンビニの屋外のゴミ箱だとか、見習う項目が多そうだね。
どんぐりがない
クマ: どんぐりが不作だから、おれたちも人里に降りてこなくちゃならない。
赤ずきん:それには地球温暖化の影響もありそうね。ただ、日本の森林は、植林される樹種が単一のものであるというのも、原因だというわ。
クマ: どういうこと?
赤ずきん:日本では、植林をするときに材木の調達のために、国中でスギやヒノキばかりを植えた時期が長かったのよ。
クマ: 山を管理する人にとっては、どんぐりを植えて雑木林を増やしても生活の足しにならないものなぁ。
赤ずきん:だから、ひとたびドングリが不作になると、ただでさえ少ないドングリが底をついて、クマが食べ物を探して人里に降りてこなくちゃならないわけね。
クマ: そう。だから、植林行政も生態系をよく考慮すべきなのだろうね。
ささやかでも、細やかな配慮を
クマ: なぁ、おれたちクマは、悪者なのだろうか?
赤ずきん:いいえ、そんなことはないわ。地球上に生活している仲間よ。
クマ: おれたちはどうすればいい?
赤ずきん:人里にこないで、山の中でヒトに出会っても知らん顔をしてればそれでいいのよ。
クマ: ねえ、ぼくと組んで「クマはいい動物」キャンペーンやらない?
赤ずきん:実はね、私、いそがしいのよ。
クマ: どういうこと?
赤ずきん:金融機関と老人介護組合と共同で「気をつけて、耳の長いおばあさん」というキャンペーンをやってるし、七ひきのこやぎと防犯協会とで「信じちゃだめよ、『お母さんですよ』のことば」キャンペーンを、さらに三匹の子豚たちとハウスメーカーと組んで「レンガづくりのおうち。あなたも」というキャンペーンもやってるのよ。
クマ: オオカミに、赤ずきんを独占されてしまったようだ。
文責 玉木英明