第32回 心理
第32回 ロービジョンケア講習会プログラム
(心理)
主催:山梨県視覚障害を考える会 共催:公益社団法人日本眼科医会
後援:日本ロービジョン学会 山梨県眼科医会
日時:2023年1月7日(土曜) 9:00 開場 9:10開演
会場:(zoomによるウェブ開催 申し込みは田辺眼科まで)
対象:どなたでも、会費:無料
司会 原田亮(甲府共立診療所 視能訓練士) 酒井弘充(山梨県立盲学校教諭)
金山佐保(山梨ライトハウス)吉田朋子(山梨県立盲学校)
対象:視覚障害の当事者、ご家族、支援者、関係するどなたでも
無料
プログラム
9:10~会長挨拶10分
座長 田辺直彦 加茂純子
9:15-10:30 東京視覚障害者生活支援センター
公認心理師・臨床心理士 中津 大介(なかつだいすけ)
「視覚障害の心理支援の両輪 ~生活再建と心理的回復について~」
①現場の医師や歩行訓練士、視能訓練士、
眼科スタッフが容易に実行可能な気分障害のスクリーニングツールの紹介
②一口に心理支援といっても、ただ傾聴的な対応をすればいいというのではなく、生活再建や良好なソーシャルサポートがセットになっていることで有効に働くこと
③障害受容を他者が「働きかけない」こと
質疑応答 10:30-10:40
休憩
10:40-11:40
視覚障害からの心理的回復 ~求められるイマジネーションの力、
そしてカミングアウトの力~ 福場将太
所属:
医療法人 風のすずらん会 (精神科医)
公益社団法人 NEXT VISION (理事)
視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる (幹事)
第32回ロービジョンケア講習会
Q&A
(福場将太先生)
●Q (福場先生の時間帯からの参加となってしまいました。
事前に福場先生の動画を拝見させていただいていたので、そこで大変興味を持ちました。
自分は現在クリスタリン網膜症の中途で、夜盲が始まっていますが、まだ通常の生活にはあまり支障がありません。しかし、病気を理由に職を退き、家業の農業をやっていますが心理的な重圧はあり、気持ちの持ち場をどう持って行っていいかわかりませんでした。しかし、自分の周りの人からも、「どうせお世話になるんだから、みんなに理解してもらえばいい」と助言されていて、積極的にカミングアウト(うまくいっているかどうかはわかりませんが…)し、今までの仲間への理解そして新しい仲間づくりと福場先生のおっしゃっていることが図らずも実践できていたなと安心しました。
これからも、お話しいただいたことを自分なりに咀嚼し、実践していきたいと思います。)
A。感想を寄せていただき感謝致します。すでにカミングアウトや仲間づくりを実践していらっしゃるとのこと、すごいと思います。僕自身も今でこそこのように障害を開示して人前に出ていますが、その勇気が育ってきたのはこの五年ほどです。網膜疾患ならではの苦労も色々ありますが、一緒に勇気を育てていきましょう。この度はありがとうございました。
●Q (「福の神」のようなお顔と表情が印象的で、日常診療において患者さんはこの笑顔に癒されているんだろうなと感じました。
「カミングアウト」についてロービジョンケアの現場で重要性は常々感じていますが、できることはせいぜいアドバイスにとどまっていました。アサーションも含めてSSTとして行うというお話がとても斬新でした。眼科では「数人でじっくり」というのは難しいですが、当事者と家族と医師の3人、または当事者と医師の1対1での簡単な問答のシナリオを作ってみるのもよいかもしれないと思いました。
最後の相手を思いやる力が大事というお話も、とても重要なことですが、視覚障害者を支援する側として面談している最中には欠落していた視点だと認識しました。当事者に押し付けることはできないまでも、上手に伝えることができたら、頑なな心を和らげる助けになるかもしれないと感じました。)
A.ご感想を寄せていただき感謝致します。SSTやアサーショントレーニングにも興味を持っていただき嬉しいです。患者と医師の1対1でもコミュニケイション練習はできると思いますし、患者さんがそれに乗ってきたら医療者側から宿題を出したり、患者さん側から実際に困った場面を提示してもらったりするのも、患者さんが次回通院するモチベーションになるかと思います。僕も1対1で精神科の外来でミニコミュニケイション練習をやったりしますが、いつも名案が出るわけではなく、まずは一緒に困ることから始めています。この度はありがとうございました。
●Q (仕事で精神障害者の人と働いているので、相手のことも理解したいと思ったし自分の病気のこともわかった。障害があっても自分にできることもたくさんあると思いました。)
A. ご感想を寄せていただき感謝致します。精神障害を持つ同僚に対して「相手のことも理解したい」と書いてくださっていてとても嬉しかったです。自分にできることはたくさんある、僕もそう信じて働いています。この度はありがとうございました。
●Q (臨床的回復の部分で当事者の方にできることが少ないということにとても納得しました。
ただそこから福祉や教育に繋げることができるよう、視能訓練士も役割を担う意識を持ちたいと思います。
ありがとうございました。)
ご感想を寄せていただき感謝致します。視能訓練士さんの存在は今後の眼科医療・福祉の希望になると思っています。これまで「自分も目の病気を経験したから」という理由で視能訓練士を目指したという人の話を何人か聞いたことがあるのですが、現場では視力が必要な検査の業務が大半で、「もっと訓練の支援ができると思った」と困っておられる方もおられました。そういう方々のためにも、もちろん患者さんのためにも、臨床的回復のための訓練技法、それが難しいなら社会的・心理的回復のための訓練技法が開発されていけばよいなと願っています。この度はありがとうございました。
●Q(福場先生の研修会を受けて、根底に「温かな愛」を感じる研修会であったこと、
だからこそ、研修会が終わった後、ヨガをした後や温泉の後のような、温かな気持ち、
温かな人間に接した時のような「安心感」がありました。
充たされた「幸福感」とでもいうのでしょうか。
また福場先生の「じゃーこうすると良いかもね?」と具体的な対策を伝えてくださった事も心強かったです。
例えば、カミングアウトするコミュニケーション訓練も大切だよね。
じゃー、SSTやアサーション訓練もできるかもよ・・と。
そして、福場先生の言葉は、分かりやすくスーッと心に入ってくる言葉だったことも心地よかったです。
例えば、「共生社会」というような言葉ではなく、イマジネーション(想像力)が大切だよね・・・と。
ひとりひとりが、相手の事情を察する「優しい想像力」が持てたのなら、素敵な世の中になるよね。という投げかけ、言葉の選択が、本当に温かったです。
福祉に関わる者や専門職という前に、まず人として大切なことを、温かい分かりやすい言葉によって、改めて気づかせていただいた、そんな貴重な研修会でした。
本当にありがとうございました。)
A.ご感想を寄せていただき感謝致します。言葉の選択を評価していただけたことがとても嬉しいです。精神科医療の問題として、薬の調整だけが治療になってしまっているということがよくあります。やはり心の支援者はまず言葉や対応の力を磨かねばと常々思っておりました。そして小難しい言葉や理屈よりも、ヨガやピラティスで体を動かすことによる心の癒し効果もとても高いと感じております。今後のご活躍を期待しております。この度はありがとうございました。
(中津大介先生)
Q 一つ目の質問です。
「障害受容に関して質問です。障害受容と障害者受容を混同しない、ということでしたが
、もう少し具体的に説明をお願いします」
A 障害「者」受容というのは、私の造語みたいなものです。いわゆる受容という意味でとら
えていただければと思います。
「この人は障害受容ができていない人だ」という評価をするのは、大抵の場合、周囲の支
援者であろうと思います。しかし、当事者にとっての障害受容と、支援者にとっての障害
受容は、意味合いが異なります。
いわゆる心理的な問題によって、支援が当事者に円滑に受け入れられない時、「障害受容
ができていない患者」という言われ方がすることが多いのですが、その時に、「誰が」困
っているのかというと、当事者ではないことがあります。もっといえば、支援がスムーズ
に進まない支援者側が困っている場合が少なくありません。この文脈で使われる「障害受
容」は、支援者のためのもので、自己都合なわけです。それがいつの間にか、「障害受容
ができない患者」という、患者さん側の問題に置き換わっていることが、しばしばみられ
ます。これを指して、障害「者」受容ができていないチーム、と表現したわけです。
こういった場合、患者さん側も、受け入れることはできにくい状態にあるのかもしれませ
ん。しかし、外側の支援者チームがうまく受け止められなかったりする場合、ますます患
者さん側も混乱を深めてしまうかもしれません。そういった時には、支援の基本に立ち返
り、患者さんが何に困っているのか、それを受けて自分達がどのように思ったのかを考え
、共有していく地道なプロセスをへていく必要があると思います。
Q 二つ目の質問です。
「サポートとしてあると有益な資格等を教えてください」
A.これは一言で回答することが難しいです。
自己成長をする上で、私は二つの方向性を持っています。
一つは、自分の専門性を伸ばしていくこと。
もう一つは、自分の足りないところを伸ばしていくことです。
一見すると、自分の足りないところを伸ばすために、別の資格を勉強するのはいいことの
ように聞こえます。
しかし、すべてのことを一人ではできません。今の仕事は多職種連携が基本ですから、医
師には医師の任務があり、心理職には心理職の任務があり、歩行訓練士、社会福祉士、当
事者、それぞれに期待されていることがあります。
「自分の専門をとことんまで突きつめていくこと」と、「突き詰めていった結果、他の分
野に応用していく」ことは、矛盾しません。応用ができるようになるのではないかと思い
ます。いま歩行訓練士や視能訓練士、他の仕事をなさっている方は、何か別の資格を取る
というよりも、その職能団体で受けられる心理に関する研修などで知識を求め、自分の領
域の知見に活かしていくこともよいのではないかと思います。
非常に短期間の宣伝教材などでカウンセリング資格を取れるなどとうたっている民間講座
もありますが、何も相談支援の研修のベースがない場合に、カウンセリングや傾聴の講座
でちょっとかじった技法を試すのは、あまりおすすめできません。技法はありますが、そ
れを安全に使用できる環境なのか、状態なのかを判断していくことが難しいからです。し
かし、公認心理師や臨床心理士の資格を、これから取りにいくのは現実的ではないという
方もいらっしゃると思います。そういった方で、ある一定の系統だった勉強をしたいとい
う場合には、産業カウンセラーの初級講座などは受けやすいと思います。受講料としては
決して安くない金額がかかりますが、
通学コースもありますが、オンラインコースもあるようです。
https://www.counselor.or.jp/course/tabid/125/Default.aspx
皆様のご参考になれば幸いです。