真言宗千手院@穴水町、日本臨床宗教師会
北原密蓮さん
真言宗千手院@穴水町、日本臨床宗教師会
北原密蓮さん
第42回 宗援連情報交換会 「能登半島地震支援活動のその後の展開」
4)北原密蓮さん(真言宗千手院@穴水町、日本臨床宗教師会)
こんにちは。石川県穴水町より参りました北原密蓮と申します。どうぞよろしくお願いいたします。私は震度六強の地震により被災し、被災者としてボランティア活動を行っております。本日は、その経験を踏まえた報告をさせていただきます。
能登半島地震により亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。また、現在も多くの支援を賜っており、復興に向けたご尽力に深く感謝申し上げます。
先ほど、宗教者としてボランティア活動を行うことに葛藤があるとのご発言がございました。私も宗教者として活動しておりますが、宗教的側面を前面に出すことなく、布教やお布施を目的としない姿勢を貫いております。これは日本臨床宗教師会の理念に基づくものであり、私は臨床宗教師として研修を受けたものの、資格は未取得であることを予めご承知おきください。
私が現在取り組んでいる活動は「カフェ・デ・モンク穴水」でございます。カフェ・デ・モンクは、東日本大震災を契機に設立された団体であり、傾聴を中心とした支援活動を展開しております。詳細はインターネットでご確認いただけますが、私の報告では、以下の四点について述べさせていただきます。
第一に、カフェ・デ・モンク穴水の概要について。現在、毎月第二木曜日には輪島市鵠巣団地にて出張カフェを開催し、最終土曜日には本拠地である穴水町川島第二団地にて定例のカフェを行っております。さらに、今月より毎月第三木曜日には志賀町中甘田公民館にて新たなカフェを設置いたしました。これらはすべて大人を対象とした傾聴カフェでございます。
第二に、スタディ・デ・モンクについて。私はかつて中学校教員を務めており、地震による中高生の心の痛みに深い関心を抱いております。そこで、大人対象のカフェとは別に、中高生を対象とした「スタディ・デ・モンク」を立ち上げました。これは夏休み・冬休み・春休みの長期休暇中に週一回、不登校傾向が見られる時期には不定期に休日に開催しております。
第三に、活動の経過について。地震発生後、私は夫の実家に避難し、実家の穴水町の住居は大規模半壊の被害を受けました。育てられた故郷に恩返しをしたいとの思いから、カフェ・デ・モンクの開催を決意し、準備を経て昨年5月11日に避難所にて初回を実施いたしました。その後、両親が暮らす仮設住宅の集会室にて毎月一回開催し、穴水ではこれまでに12回実施しております。
また、輪島市鵠巣団地においても、地元の方とのご縁により昨年11月から活動を開始し、今年7月10日には第9回を迎えました。スタディ・デ・モンクはこれまでに23回開催しており、両方合わせて昨年5月から今年7月までの間に計50回実施しております。
第四に、参加者の状況について。仮設住宅にお住まいの方々が主な参加者であり、穴水・輪島ともに60世帯以上が存在する中、毎回約15名前後の方々が来場されます。自宅では話し相手がいないため、誰かと話したいという思いから参加される方が多く、傾聴の場としての意義を強く感じております。
スタディ・デ・モンクの立ち上げにあたって、私が強く感じたのは、地震によって中高生の心がどのような影響を受けているのかという懸念でした。教員としての経験から、子どもたちの心のケアが必要であると痛感し、ちょうどその頃、NHKのドキュメンタリーで阪神淡路大震災や東日本大震災を経験した元中高生が「親も辛そうだったから言えなかった」と語る姿を目にしました。その言葉に深く共感し、能登の子どもたちにも安心して話せる場を提供したいと考え、スタディ・デ・モンクの設立に至りました。
当時、私は中学校の非常勤講師として勤務しており、地震の影響で学校は一週間以上休校となっていました。1月下旬に初めて生徒と再会した際、子どもたちは私に「先生、地震の時何してたの?」と口々に尋ねてきました。自分の体験を語ることで、彼らは次第に自らの状況を語り始めました。この経験から、子どもたちは話したくても話す場がないのだと強く感じ、スタディ・デ・モンクの必要性を再認識しました。
しかしながら、実際に子どもたちが参加しているかというと、現状では参加者は少なく、敷居の高さを感じているようです。定期的に来るのは学習支援を目的とした子どもたちであり、傾聴の場としての利用はまだ限定的です。それでも、地元の中学校・高校に毎月チラシを配布し、保護者からの問い合わせがあれば歓迎する体制を整えています。参加者は一人か二人程度で、大人の傾聴カフェのような賑わいはありません。
中高生を対象としたスタディ・デ・モンクを開設してみて、予想外だったのは、大人の方が来場されるということでした。「すみません、大人ですが参加してもよろしいでしょうか」と尋ねられ、午前中に様子を見たが人が多かったため、午後に改めて来られたという方もいらっしゃいました。じっくり話を聞いてもらいたいという思いからの参加であり、当初は中高生対象としていたものの、現在では「どなたでもどうぞ」と案内を変更しております。
実際、6月28日には子どもの参加はありませんでしたが、大人の方が二名来場され、ゆっくりと語られて帰られました。これがスタディ・デ・モンクの現状であり、対象を限定せず、誰もが安心して語れる場としての意義を改めて感じております。
次に、志賀町中甘田公民館での新たな活動についてご報告いたします。カフェ・デ・モンクは仮設住宅での開催が基本と考えておりましたが、志賀町中甘田地区は仮設住宅が建設されていない地域です。この地区は地震による被害が二市二町(珠洲市、輪島市、能登町、穴水町)ほど大きくなく、住民の多くが自宅避難を余儀なくされています。準半壊や一部損壊の住宅に住み続けているものの、義援金や支援金は二市二町と比べると少額な状況です。壁にひびが入り、雨漏りがある中で、住める部屋に身を寄せている高齢者が多く、若者は金沢などへ移住する傾向が強まっています。
このような背景から、地域の公民館館長さんより「引きこもりがちな高齢者に外に出て語ってもらえる場を作ってほしい」との要望がありました。私自身、仮設住宅以外での開催は想定しておりませんでしたが、自宅避難者にも支援が必要であることを痛感し、来月より志賀町中甘田公民館での開催を決定いたしました。現在、ボランティアスタッフは五名程度で活動しており、これ以上の拡大は困難なため、穴水・輪島・志賀町・スタディ・デ・モンクの四拠点体制で今後も活動を継続していく所存です。
支援のあり方についても変化を感じております。発災直後は物理的・物質的支援が中心でしたが、現在では精神的・心理的支援の重要性が増していると実感しています。東北の震災では一年半を過ぎた頃からスピリチュアルな悩みが増加したと聞いておりますが、能登では先祖供養に関する悩みが多く寄せられています。例えば、「家に埋まっている位牌をどうすればよいか」「潰れた仏壇をどう扱えばよいか」「倒れた墓に手を合わせてもよいのか」といった相談が増えており、先祖信仰の強い地域ならではの課題が浮き彫りになっています。こうした声に寄り添いながら、今後も活動を続けてまいります。
最後に、画像資料がないため、参考としてYouTube動画をご紹介いたします。鉄道系YouTuberのザキさんが「震災から一年半 絶品グルメと地酒を堪能 震災前の能登を巡る」という動画を公開されており、前半は2023年12月22〜23日の七尾・穴水・輪島の様子、後半は2025年6月26〜27日の同地域の現状が映されています。震災語り部列車の取材も含まれており、語り部の方が一年半の経過を詳細に語っておられます。私自身も涙を流しながら視聴いたしました。能登の現状を知っていただく一助となれば幸いです。
野村任(司会・宗援連世話人):
ご報告、誠にありがとうございました。新たに四つ目の拠点を立ち上げられたとのことで、活動の広がりに深く感銘を受けました。特に、仮設住宅ではない地域に焦点を当てられた点は重要であり、避難者や被災者の実情が注目されにくい中で、確実に存在する困難に光を当てる取り組みは、私たちに改めて現場を見つめ直す契機を与えてくれたように思います。ここで、会場の皆様からご質問やご意見をいただければと思います。
島薗進(司会・宗援連代表):
はい。北原さんのカフェ・デ・モンクにお邪魔させていただいたことがございますが、印象的だったのは、スタッフに女性が多いという点です。どのような方々が活動を支えておられるのか、教えていただけますでしょうか。
北原:
はい。まず、私自身は認定を受けていない臨床宗教師であり、真言宗の僧侶です。スタッフには、浄土真宗の僧侶であり日本グリーフケア協会の特級カウンセラーの方が一名、看護師が一名、柔道整復師が一名、真言宗の坊守が一名、そして東北大学で研修を終えられた方が一名おります。これら六名でローテーションを組みながら活動を行っております。
島薗:
カフェの雰囲気には、柔らかさや温かさが感じられ、女性ならではの配慮が随所に表れているように思います。美味しいものも提供されており、参加者が「ほっとする」理由の一つではないかと感じますが、その点についてはいかがでしょうか。
北原:
はい。地元経済の活性化も兼ねて、穴水町唯一のケーキ屋さんに趣旨を説明し、少しお安く提供していただいております。6月のカフェ・デ・モンクでは、「地震以来初めてケーキを食べました」とおっしゃる方がいらっしゃいました。まだまだ多くの方が、地震以前のようにお菓子を選んで食べるという日常から遠ざかっている状況にあります。そうした中で、カフェ・デ・モンクに来て甘いものを口にし、少しでも心が和らぐ時間を過ごしていただけることが、活動の意義の一つであると感じております。ご質問への回答となっておりますでしょうか。
野村:
ありがとうございます。他にご質問はございませんか。確かに、甘いものは人を幸せにしますね。
稲場圭信(大阪大学・宗援連世話人):
大阪大学の稲場です。ご報告、誠にありがとうございました。カフェ・デ・モンク、そしてスタディ・デ・モンクの取り組みは、非常に意義深く、感銘を受けました。特に、学校教員としてのご経験から中高生の心のケアに着目された点は重要であり、被災した子どもたちが親の苦しみを慮って自らの思いを語れない状況にある中で、スタディ・デ・モンクという場が彼らの語りを引き出す役割を果たしていることに深く共感いたしました。
私自身、阪神淡路大震災の際、小学校の避難所で子どもたちのケアに携わった経験がございます。当時、子どもたちは校庭で遊びながらも、親の顔色を窺っている様子が見受けられました。親たちは「子どもが元気に遊んでいるから大丈夫」と思いがちでしたが、実際には深い心の傷を抱えていることが、遊びを通じて徐々に明らかになっていったのです。そうした経験からも、北原さんの取り組みは極めて重要であると感じております。
そこで一つ質問させていただきます。ご自身も被災され、ご両親も仮設住宅で生活されている中で、次々と支援活動を展開されていることに驚きを禁じ得ません。現在、四拠点での活動をされているとのことですが、その原動力はどこにあるのでしょうか。宗教的な思いが背景にあるのか、あるいは別の動機があるのか、お聞かせいただければ幸いです。
北原:
ご質問ありがとうございます。まず一点目として、私自身、地震による被災を心の中で認めたくないという思いがあるように感じています。また、父が医療避難を経て、つい最近亡くなったこともあり、その喪失を受け入れきれず、何かから逃げるような気持ちで活動に没頭している部分があるのかもしれません。
もう一点は、私が真言宗の僧侶であることに関係しています。宗祖・弘法大師さまはかつて、誰もが無料で学べる場の綜芸種智院(825年)を設けられました。私自身、僧侶となった時から、寺子屋のような学びの場を開きたいという思いを抱いており、スタディ・デ・モンクはまさにその夢の実現に近いものです。宗教者としては宗祖さまの志を継ぎ、人間としては喪失や苦しみから逃れたいという思いが、活動の原動力となっているのかもしれません。ある意味では、ボランティア活動が私自身の逃避行動の一環となっているようにも感じています。
稲場:
ありがとうございます。臨床宗教師の活動においては、スーパービジョンの仕組みが重要であると考えています。私がフランスのパリでターミナルケアの現場に従事する宗教者の調査を行った際、専門的なケアを行う者をさらにケアするスーパービジョンの存在が確認されました。北原さんご自身も、宗教的な思いや個人的な感情を抱えながら活動されている中で、そうした思いを誰かに伝え、ケアを受けるような場はございますか?
北原:
はい。先ほども申し上げましたように、スタディ・デ・モンクは開店休業状態の時もあり、参加者がいない時間帯には、ボランティアスタッフ同士で情報交換を行う場となります。そのような場では、互いにスーパーバイザーのような役割を果たし合い、宗教観やボランティアの捉え方の違いを共有しながら、「なるほど」と気づきを得ることもあります。ピアサポートの場として機能しており、カフェ・デ・モンクの活動を通じて、スタッフ同士が互いに支え合いながら継続しているのが現状です。
島薗:
もう一点、お伺いしたいことがございます。千手院についてですが、私も現地を訪問させていただきました。復興にはまだ時間がかかりそうな印象を受けましたが、今後の見通しについてお聞かせいただけますでしょうか。
北原:
千手院では現在、復興ボランティアの拠点としての活用を進めております。能登に来られた方々が寺院に宿泊し、日中はボランティア活動に従事し、夕方には座禅・写経・瞑想などを通じて心を整え、再びそれぞれの生活拠点へ戻っていくという「復興ツーリズム」の構想がございます。これは、千手院をNPO法人に貸し出す形で進めている取り組みです。
現在、雨漏りの修繕は完了し、復興ツーリズムに向けた準備は着実に進んでおりますが、宿泊施設としての機能はまだ整っておらず、受け入れ体制の構築にはもう少し時間が必要です。能登の震災が人々の記憶から薄れないうちに、ぜひ多くの方に現地を訪れていただき、被災地の現状を見ていただくとともに、ご自身の心も整えていただけるような場として千手院が機能することを願っております。
池田奈津江(弥生神社・世話人):
神職をしております、世話人の池田と申します。ご報告、誠にありがとうございました。ご発言の中で、中高生を対象としたスタディ・デ・モンクの取り組みにおいて、学校にチラシを配布されているとのことでしたが、どのように呼びかけを行っておられるのか、具体的にお伺いしたいと思います。
私ども神社でも、介護カフェやワークショップなど、人々が集い語り合う場を設けておりますが、最も接点を持ちにくいのが中高生世代です。お祭りの時以外には神社や寺院に足を運ぶ機会が少なく、思春期という人生の大きな節目にあるにもかかわらず、悩みや思いを受け止める場を提供することが難しいと感じております。大学生からは「自習の場として開放してはどうか」といった提案もいただいておりますが、実際のところ、どのようにすれば彼らに届くのか、模索している状況です。北原さんのご経験から、ぜひご教示いただければ幸いです。
北原:
ご質問ありがとうございます。まず、中学校にはチラシを持参し、直接訪問いたしました。すると、教育委員会を通すようにとの指示があり、その足で教育委員会に赴き、活動の趣旨を説明し、チラシを置かせていただきました。
また、社会福祉協議会にも同様にチラシを持参し、ボランティア活動の一環としてご理解をいただくよう努めました。初回の訪問時には「臨床宗教師」という言葉が浸透しておらず、やや警戒された印象もありましたが、その後、島薗先生が同じ地域でボランティア活動をされ、「カフェ・デ・モンクは良い取り組みだ」とご紹介くださったことで、地域の理解が一気に深まりました。再訪時には、私の活動と島薗先生の活動が結びつき、以降は非常に協力的な対応をいただいております。
高校についても、同様に直接訪問し、趣旨を説明した上でチラシを配布しております。毎月の訪問時には「ご苦労様です」と声をかけてくださり、チラシも生徒に手渡ししていただいております。参加者は月に一人か二人程度と少数ではありますが、継続的に配布してくださっていることに感謝しております。今月は日付を誤って記載してしまったのですが、高校側で気づいてくださり、すべて手書きで修正して配布していただきました。このように、しつこく、丁寧に足を運び続けることが大切だと感じております。
また、穴水町には「令和6年能登地震穴水町情報共有」というLINEグループがあり、現在774名が参加しています。そこにも、カフェ・デ・モンクやスタディ・デ・モンクの開催情報を、開催の二日前・前日・当日に投稿しています。反応がある日もあれば、まったく反応がなく「今日はゼロだったね」と終わる日もありますが、それでも継続して発信し続けることが何より重要だと考えております。
池田:
ありがとうございます。チラシの内容についてもお伺いしてよろしいでしょうか?
北原:
はい。チラシには次のように記載しております。「ほっと一息しませんか? お菓子と飲み物でおしゃべりしましょう。学習支援・宿題・受験対応いたします。どなたでもご参加ください。お待ちしております」。このような文面で、毎回配布しております。
以上