真宗大谷派能登教務所所長
竹原了珠さん
真宗大谷派能登教務所所長
竹原了珠さん
第41回 宗援連情報交換会 「持続する能登半島地震・豪雨支援活動」
島薗進(司会・宗援連代表):
宗援連代表の島薗進です。本日は第42回情報交換会を始めさせていただきます。昨年の能登半島地震以降、2月23日、4月1日、5月18日、そして10月16日に情報交換会を重ねてまいりました。今年1月9日には、能登半島地震の支援活動に関するシンポジウムを開催し、4月1日には宗援連14周年記念のシンポジウムも行いました。前回のシンポジウムから半年以上が経過し、能登の状況は変化を見せておりますが、復興には未だ遠い現状であると認識しております。
本日の情報交換会には、能登で支援活動に従事されている方々を会場およびオンラインにてお迎えし、現地の状況についてご報告いただきます。司会は私と國學院大學の野村任氏が務めます。まずは黙祷を捧げたいと思います。
(黙祷)
島薗:
宗援連の集いに長年参加されていた鎌田東二氏が5月30日に逝去されました。氏はいつも法螺貝を吹いてくださり、その姿が見られなくなったことに深い寂しさを覚えております。
さて、最初の報告は、真宗大谷派能登教務所所長・竹原了珠氏によるものです。今回は、同じく真宗大谷派の御手洗隆明氏に代読いただきます。
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1)竹原了珠さん(真宗大谷派能登教務所所長)
能登半島地震からの復興に向けて:現状と真宗大谷派の取り組み
皆様、本日は貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます。能登半島地震の発災以降、皆様から長期にわたり多大なご支援をいただいておりますこと、心より御礼申し上げます。私は真宗大谷派の被災教区である能登教区を所管しております。本日は、現在の被災地の状況と、弊派の今後の取り組みについてお伝えさせていただきます。
応急仮設住宅の現状と課題
現在、地震と豪雨で被災された方々のために建設された応急仮設住宅は、能登地区で約6,500 戸が設置され、希望戸数に達しています。しかし、多くの方々が懸念されているのは、仮設住宅の居住期限についてでしょう。当初は 2 年とされていましたが、現在は 3 年という報道がなされています。この期間は、災害復興公営住宅の建設ペースによって決まってくるものと予想されます。
この先、大きな懸念として挙げられるのは、以下の 2 点です。
経済的問題
「つながり」の消失問題
新聞報道でも触れられていますが、仮設住宅利用者へのアンケートでは、過半数の方が「経済的不安」を挙げています。仮設住宅の家賃は基本的に無償ですが、利用期限後には、住宅の再建や災害復興公営住宅への入居に伴う経済的負担が大きくのしかかってくることへの不安だと推測されます。
コミュニティの維持と「つながり」の再構築
もう一つの「つながり」の消失問題は、より深刻です。仮設住宅で形成されてきた自治会レベルのコミュニティは、使用期限を境に大きな変化を余儀なくされます。これまでボランティアによる炊き出しなどのイベントが、仮設住宅内のコミュニティ形成を後押ししてきましたが、災害復興住宅へ移行すると、ボランティアとのつながりが途絶える危険性があります。これにより、被災者が孤立するという、これまでとは異なる新たな問題が生じる可能性があります。能登ならではのコミュニティの強さによって困難に耐えてきた状況が、復興住宅への移行を機に大きく変容する危険性を強く認識しています。こうした事態を想定し、私たちは昨年から、仮設住宅に入居されている方々と地元寺院、または組(そ)とのつながりを維持するための取り組みを最大限行ってきました。
具体的には、以下のような支援を進めています。
寺院が積極的に門徒の方々と連絡を取り合えるよう、宗派経常費の算出基準に門徒の被害程度を加味する制度を導入しました。
宗派からの助成金を利用し、寺院が門徒の方々への見舞いや支援物資を購入できるよう制度を整備し、各組へ説明を行ってきました。
寺院やその他の場所で追弔法要が行われた際には、教区から補助金を助成する仕組みを準備し、寺院と地域住民のつながりを回復する取り組みを進めています。
門徒の方々へ、災害用見舞いご本尊の無償提供を継続しています。
先月 6 月 21 日には、御門首ご夫妻をはじめ、宗務総長、関連部門の役員・職員を能登にお招きし、済美精舎にて追弔法要を執り行いました。奥能登からは数台のバスをチャーターして送迎を行い、350 名の物故者ご遺族をはじめ、多くの方々にご参詣いただきました。能登において御門首は格別の尊敬を集めており、この法要は奥能登の多くの方々の参詣につながりました。
宗派が経済的支援を行い、全国からのボランティアを推進しています。特に今は、可能な限り現地の寺院関係者が外部からのボランティア活動に協働し、被災者との関係構築を進めています。
これらすべての取り組みは、災害復興住宅への移動後、被災者が孤立することを防ぐための予防的措置です。今のうちに地域住民と地域のお寺との結びつきを再構築し、被災者の孤立の危険性を可能な限り取り除くことを目的としています。
寺院の現状と今後の支援
しかし、宗派や教区の取り組みの効果は、いまだ十分とは言えない状況です。震災以前の寺院のあり方が、長年の付き合いを継続する形態であったため、積極的につながっていく行動変容が起こりにくい現状があります。もちろん、被災門徒の状況を把握している寺院もありますが、多くの寺院は、はがきの郵送などで連絡を取るにとどまっているのが実情ではないでしょうか。復興住宅への移住後、このつながりが途切れてしまう危険性が十分にあると危惧しています。
このような状況を少しでも打開するため、私たちは組への新たな助成制度を立ち上げ、寺院が地域コミュニティとつながる具体的な事業を推進し始めています。また、今年 6 月 1 日を調査日として、全寺院を対象とした「第 2 回過疎問題に関するアンケート」を実施しました。このアンケートでは、罹災証明の内容や建物の公費解体の状況、門徒とのつながり、現在の法務収入、10 年後の想定収入、後継者の有無、希望する支援内容など、多岐にわたる質問を設けています。現在のところまだ半数程度の回答ですが、想像以上に過酷な環境に置かれていることが明らかになってきています。この回答に基づき、サポートが必要と思われる寺院には、教務所から積極的に働きかけ、門徒とのつながり方について助言を行っていきたいと考えています。
自力で復興を進めている寺院もあります。諸条件が整った寺院では、来年 2 月には本堂と庫裡が新築完成する予定のところもあり、修復が徐々に完了している寺院の情報も入ってきています。これらの寺院は仏事を再開できるため、門徒との関係性を自助努力で修復していくことができるでしょう。
問題は、自力での復興が困難な寺院です。宗派や教区の支援を活用せず、門徒や地域とのつながりも回復しない寺院は、所属門徒にとって非常に大きな損失となります。能登教務所としては、このような寺院をサポートする段階に入ったと考えています。
最終的な課題と長期的な展望
私としては、昨年の 1 月の段階で想定していた最終段階に入ったと認識しています。自力で活動できない寺院は、門徒とのつながりが途切れ、建物が被災して寺院活動が長期的に不可能になる危険性があります。こういった寺院は、所属門徒が宗派からの支援を受けられないだけでなく、不活動寺院化する可能性が非常に高いと考えてきました。先ほどのアンケートには、「今後、解散・合併することを考えますか」という設問も加えています。詳細についてはここではお伝えできませんが、現段階で、昨年 1 月に想定していた。
以上の状況が判明しており、この情報をもとに、今後 5~6 年程度の期間にわたってあらゆる方向性でのサポートを遂行しなければならないと考えています。
地域連携の新たな取り組み
最後に、地域連携における新たな取り組みについてご報告させていただきます。
今年 4 月、私は大阪大学の稲場教授、そして日本石材産業協会の災害対策特別委員会委員長である川本氏とともに、能登地区 5 市町(中能登町、七尾市、志賀町、穴水町、珠洲市)の首長や防災担当部署を訪問いたしました。この訪問の目的は、災害時における寺院と自治体、または自治会との協力協定の締結を提案することでした。
この提案については、すでに能登教区の役職者会議で共有し、意識の醸成を図りながら、現在、協力に意欲のある寺院の聞き取りを進めています。
寺院が地域の限られた資源の一つとして広く認識され、その役割が理解されるようになれば、寺院の復興と継承を地域全体で支えることにつながると考えております。
先行きが見えない寺院へのサポートと並行して、この地域連携の取り組みをなんとか推し進めていきたいと考えております。
以上、このような状況と今後の方向性については、本山とも共有しており、能登教区に対しては、相当規模の助成金や人員について継続して支援を行うことが表明されています。
引き続き、被災された皆様と能登教区の復興に向けて、全力を尽くしてまいります。ご清聴ありがとうございました。
御手洗隆明(真宗大谷派・宗援連世話人):
竹原所長の報告によれば、復興住宅への移行が新たな住民の不安を呼び起こしており、コミュニティのつながりが弱まることが懸念されています。真宗大谷派の寺院が多い地域において、寺院と住民の関係が希薄になることは、地域コミュニティの衰退に直結する問題です。被災寺院・門徒に対する、これからの対応が問われています。
島薗:
私自身も稲場氏とともに能登に滞在し、何度かお話を伺ってまいりましたが、今回の報告は復興という言葉では表しきれない厳しい現実を改めて感じさせるものでした。復興住宅への移行が、かえって住民の不安を増幅させているように思われます。
山根陽一(文化時報):
寺院の合併や廃寺の可能性について、具体的な数値は明らかになっているのでしょうか。
御手洗:
昭和30年代には能登地区に400以上の真宗寺院がありましたが、現在数まで減少しています。寺院減少の経緯は明らかにされておらず、寺が消えることへの痛みが伝わっていないことを懸念しております。能登地震の発生当初、かなりの寺院が廃寺に向かうのではないかという予想もありましたが、現状は踏みとどまっています。しかし、今回の竹原所長の報告によれば、やはり状況は厳しいようです。過疎地域における寺院の存続は全国的な課題でもあります。能登の動向は、他の地域にも影響を与える可能性があると考えております。
島薗:
真宗寺院は地域に根差した存在です。親鸞聖人が「非僧非俗」と述べられたように、多くの寺院は道場の形態を維持しながら、僧侶が農業や公務員、教職などを兼業している例も多く、地域社会との関係性が深いものです。今回の災害は、そうした寺院の在り方にも大きな影響を与えております。
過疎地の問題は全国に共通するものですが、能登にはまた異なる事情があるように感じました。今後、在家の立場からの意見も伺えるかと思います。