中井康博(シャンティ国際ボランティア会)
中井康博(シャンティ国際ボランティア会)
250109 宗教者災害支援連絡会シンポジウム
発題者:中井康博(シャンティ国際ボランティア会)
島薗: 能登は永平寺に次ぐ重要なお寺、總持寺ゆかりの地です。總持寺は現在鶴見(横浜市)にありますが元々は門前にあり、その名の通り總持寺の門前町として栄えました。現在は輪島市に属するこの地でコミュニティ活動に携わる、シャンティ国際ボランティア会の中井康博さんにお話を伺います。
中井:
シャンティ国際ボランティア会は、1981年に日本で設立され、「共に生き、共に学ぶ」平和(シャンティ)な社会を目指し、子どもたちへの本を通じた教育文化支援、国内外の災害や紛争後の緊急人道支援を行っています。元々はカンボジア難民救済会議が曹洞宗門から生まれたのが前身で、その後公益社団法人化し現在に至ります。アジア7ヶ国8地域に事務所を構え、東南アジアを中心に教育支援を行うほか、緊急支援としてポーランドを拠点にウクライナ支援も実施しています。
国内の緊急支援は、阪神・淡路大震災を契機に継続し、これまで34ヶ所で活動してきました。私自身は、大学卒業後に曹洞宗本山の永平寺で1年間修行し、2021年にシャンティに入職しました。今年で5年目となり、国内の緊急救援、防災・減災活動に携わっています。昨年は、能登半島地震に1月6日から現地入りし、基本的に常駐して現在に至ります。その間、山形での水害支援にも関わりました。
輪島市の人口は23,575人(2023年4月現在)、避難者数は最大時12,834人、死者150人(うち災害関連死50名)に上りました。地震後には水害も発生し、現在も避難所生活を送る方がいらっしゃいます。家屋が使用不能となり、仮設住宅が建設されましたが、水害の被害を受けた仮設住宅もあり、現在もボランティア活動が続けられています。
我々は、門前町を中心に活動しています。門前町の人口は4,373人(2024年9月1日現在)、65歳以上が64.37%、75歳以上が42.34%を占めます。2024年1月10日には2,275人が避難し、約50ヶ所の自主・指定避難所が開設されました(二次避難、親戚宅への避難者、みなし仮設、県外避難者は含まず)。8月28日をもって震災避難所は閉鎖され、12ヶ所、約700戸の仮設住宅が完成、水害後には1ヶ所が追加建設中です。
門前町は、もともと過疎化が進む地域であり、曹洞宗の大本山總持寺祖院がある地です。2007年の地震で被災しましたが、再建途上に今回の地震で再び大きな被害を受けました。当会は17年前の地震でも支援経験があり、直ちに支援に入ることを決定しました。
ボランティア活動としては、家屋の片付け、泥かき作業が多い印象ですが、我々は「共に生き、共に学ぶ」ことをモットーに、現地と協力し、触媒として支援をつなげることを重視しています。曹洞宗門だけでなく、超宗派、超宗教、そしてNGO・NPO、行政、社協など、様々な垣根を越えて連携し、災害支援に当たってきました。
門前町に拠点を置き、以下の活動を継続してきました。
1. 避難所運営・環境改善
2. 炊出し調整・炊き出し実施
3. サロン活動(足湯・お茶会)
4. 入浴・買い物支援車の運行
5. セントラルキッチン構築による地域の食生活改善事業
6. 大学と連携した被災者ニーズの収集、ニーズ対応
7. 地域支援:商工会議所主催の復興祭りのサポート
8. 各種連携:県域・輪島市・門前町・輪島市災害VC(門前町)
9. 移動図書館事業
これらの活動は、我々からの提案だけではなく、地元の要望に応える形で実施してきたものです。
発災直後から情報収集を行い、1月6日に石川県入りしました。大阪大学の稲場先生、真如苑の方々と共に七尾に入りましたが、大雪で道路規制があり、輪島からの支援要請を受けながらも、門前町到着は9日となりました。
輪島市役所門前町総合支所(町役場)を訪問した際、近隣の門前公民館に約200人が避難しているものの、公民館長や行政職員がインフルエンザやコロナに感染し、運営者が不在で人手が足りない状況を知りました。後方支援が来ても5日交代制で、細かな被災者の要望や外部支援の受け入れ態勢を整えることに課題を感じました。そこで、まず避難所運営から支援を始め、避難所を拠点に環境整備や炊き出しなどを行いました。
1月、2月の発災直後のニーズは、生活環境の改善でした。非常に寒い中、門前町では3月から仮設住宅建設が始まりましたが、着工が8月末まで遅れたケースもあり、8ヶ月以上避難所生活を送った方もいます。門前町は輪島市と合併しましたが、道路が寸断され、距離も離れているため、情報や物資が届きにくく、支援の行き届いていないという声もありました。
一方、外部からは炊き出しの要望がある中、自主避難所や福祉避難所を含む避難所の生活状況の把握や支援の多少に併せた調整が求められました。例えば、避難所には200人いるのに、炊き出し団体はできるだけ多くの人に食事を届けたいという思いから500食を作ったが配食先がないという事態が多々発生していました。そこで、避難所運営に入っていた我々が、避難者リストから近隣の避難所担当者に連絡を取り、振り分けを行うことで対応しました。この経験から、20箇所以上、2,000人以上が避難する中でのエリアマッチングの必要性を感じ、炊き出しの調整業務を一時的に担うようになりました。この活動は現在、輪島市支援調整窓口として引き継がれております。
2月頃には、避難所が物資拠点として11か所に集約されましたが、自主避難所や在宅の方に炊き出しが届かなくなったため、セントラルキッチン事業を実施しました。地元の飲食店経営者の多くが全壊で営業を中止していたため、彼らと協力して雇用を生み出し、1日最大436食の炊き出しを行い、配送しました。当初から12月までの活動で、炊き出しは計18,000食を提供しました。9月からは水害対応として、1ヶ月ほど断水が続く地域に行政と連携して炊き出しを実施しました。その他、入浴・買い物のための移動支援、サロン活動(足湯・茶話会)、家屋の片付け作業、学生や曹洞宗ボランティアの受け入れ、お祭りの開催サポートなど、多岐にわたる活動を行いました。
門前連携会議では、門前町に拠点を置く支援団体、行政、社協と顔を合わせ、毎週情報交換、連携の場を設けています。宗門内の連携としては、全国曹洞宗青年会と1月から連携し、被災した寺院の片付け作業は全国曹洞宗青年会が担う一方、住民を対象としたボランティアの受け入れは我々が担当し、家屋の片づけ作業や炊き出し、行茶活動などを行いました。技術的なサポートや、より専門的な福祉的サポートが必要な場合は、門前連携会議で福祉の専門家につないだり、技術的なボランティアに専門的なサポートを依頼したりしました。
こうした活動の中で、被災地に拠点を置き活動するNPO・NGOの新たに求められた役割として、以下の点を認識しました。
- 外部支援調整
- 公的支援を補完する取り組み(炊き出し、土砂撤去、移動支援、仮設住宅への備品整備、風呂支援)
- 地域密着型多機能拠点(民間ボランティアセンター):災害ボランティアセンターや地域支え合いセンターのような役割
外部支援の調整については、決まった時間に決まった場所で決まった食数を届けることで、支援の漏れやムラを防ぐことができた一方、即興性・即効性のある支援を重視する方々との連携が難しい場面もありました。炊き出しや移動支援、土砂撤去など、公的な部分を補完するNGO・NPOの支援が増えており、仮設住宅への備品整備なども行っています。大規模災害では、地方自治体だけでは対応が難しいため、我々もサポートできる体制を整えていく必要があると考えています。
地域密着型多機能拠点として、禅の里交流館を活用させていただきました。門前連携会議の最初の開催場所となり、4月からは毎週サロン活動、ご意見箱の設置、物資配布などを行いました。交流館という名前の通り、平時はバスのチケット販売、観光客のガイド、地域の方のお茶飲みなど、多様な利用があり、被災者支援のチャンネルを加えることで、気軽に立ち寄り、被災者の悩みを吐露できる場としました。現在は営業を再開し、今後は街づくりに関わる都市計画の方々も関わる中、住民の声を反映した街づくりに活かされることを期待しています。
- 地域コミュニティの崩壊:従来の自治会が成り立たない
- 新しい住まいのことが考えられない
- 仮設住宅が浸水し、避難所生活に逆戻り
- 仮設住宅に入居したが、近所に誰がいるか分からない。漁も畑もできず、することがない
平時からの課題が顕在化し、今後の対応は災害だけでなく、地域福祉に関わる課題となっています。門前町では以下の対応が行われています。
A:仮設住宅や公民館・集会所でのサロン活動
B:まちづくりのための意見交換、ワークショップ
C:個別ニーズ対応の継続(NPO・建築士・保健師など)
D:仮設住宅や在宅の方への定期的な見守り活動
NHKの調査(12月)では、復旧・復興の進捗について被災地の70%近くの方が進んでいないと感じています。家屋の解体や仮設商店街の建設など、町の様子は変化していますが、人とのつながりがないと復興を実感することは難しいと、現在感じています。
昨年7月から、輪島市図書館と協定を結び、「ほんねんて!」ブックカフェという移動図書館活動を開始しました。図書館は老朽化のため取り壊し予定でしたが、地震で建て替えが頓挫し、ライフラインも止まり、15万冊の本が出せない状況でした。仮設住宅の建設で図書館に行けなくなった人、足が悪い人、畑や漁ができなくなった人に読書の機会を届け、地域コミュニティを取り戻すことを目的にしています。
7月から9月は調査期間として、輪島全域の仮設住宅、公民館を調査しながらプレ実施し、10月に本格的に貸し出しを開始しようとしたところ、大きな水害に見舞われました。その後、門前の一部で再開し、輪島に少しずつ広げ活動を続けています。
1. 仮設住宅や公民館の調査
2. 運行計画作成のサポート
3. 書籍の購入:1500冊購入予定
4. 移動図書館に必要な備品購入
5. 車両の提供
6. 新移動図書館車両の購入、改造(今年秋頃を予定)
7. その他事業における備品購入
- 「仮設住宅に入って以来、こんなに集まることはない。集まれる場所がない。漁師の旦那は海に行けなくなった。みな、地震でできた土木の仕事を見つけている」
- 「普段図書館には行かないけど、本はいいものだ」
- 「ここの仮設は集会所がないから、こういう集まれる場所があるといいね」
- 「久しぶりの再会で『元気にしてた?』『何とか生きとったわ』『仮設どこにおるの?近いやん!』」
- 「簡単な本なら読めた。楽しい」
- 「お友達に背中を押されて家から出てきた」
- 「みんな暇だけど、集まる機会がもっとあるといい」
- 「次いつ来てくれるの?楽しみ」
最近はニットの編み物の本が人気で、借りた本を参考に手編みしたニット帽を見せに来る方もいます。仮設住宅では、住民同士に地域のつながりがほとんどない場合もあり、移動図書館で初めて顔を合わせ、仲良くなったり、久しぶりに顔見知りと再会したりする出会いの場となっています。地震で棚の下敷きになった時は死んでもいいと思ったが、生きていれば出会いがあり、本が読めて良いこともある、と話してくださった方が印象的でした。
本を読むだけでなく、老若男女を問わず交流の場となり、毎月1回運行することで、来月には返却し、また新たに借りるという、毎月顔を合わせる機会、楽しみができることが大切だと考えています。
1年が経過し、外部支援は少なくなっています。シャンティも外部支援者として伴走型で地元の方が無理なく引継ぎ長く続けることが出来る活動になれば良いなと思っています。
東日本大震災でも、シャンティは3県(岩手県・宮城県・福島県)で移動図書館活動を行い、南相馬市では2018年まで事務所を置き、最終的に南相馬市立図書館に活動を引き継ぎました。シャンティは現在、福島事業として福島大学災害ボランティアセンターと共同で復興公営住宅でのサロン活動を定期的に行っています。震災から14年を迎える現在、復興予算がなくなっていく中で、復興公営住宅の地元でコミュニティ支援を行う人たちが、地元のリソースでどう関われるかとなった時、移動図書館が残っており、復興住宅で月2回巡回することになりました。10年以上が経った現在でも、新しい役割を担う活動となっています。
輪島の活動も、そのように地元に引き継がれることを願い、日々努めています。
以上