真宗大谷派(東本願寺)
能登教務所 竹原了珠所長
第38回 宗援連情報交換会「能登半島地震における宗教者による災害支援」
5.真宗大谷派(東本願寺) 能登教務所 竹原了珠所長
真宗大谷派はおそらく能登地域で最も教勢を維持している教団と思われる。大谷派能登教区の寺院数は353ヶ寺、門徒戸数は約2万。この方々に対して、宗教の垣根を越えたご支援をいただいていることに御礼を申し上げる。
私自身は七尾市の浄願寺住職であり、そこで被災し二日間ほど避難生活をしたが、1月2日から能登教務所長として災害対応に務めている。大谷派の寺院・門徒のほとんどが被災され、宗派行政として寺院のある地域の被害状況・避難状況の把握に相当手間取った。
被害状況などの情報収集を進めながら、1月3日より宗派(宗務所・教務所)から派遣された本山隊(職員派遣)の受け入れが始まった。本山隊は1陣ごとに基本7名で編成され、現時点で第13次まで計画されている。当初からの支援物資と水の配給、地域の被害状況の把握状況に相当な時間をかけてきた。
それ以外には、これまで東日本大震災や熊本地震、新潟県中越地震等のでの災害ボランティアが自主的に入ってきたが、そうした個人・団体など対して宗派からの援助はなかった。宗派としては、道路が被災し緊急車両も通れないという状況で、積極的にボランティアを呼びかけるべきではないという判断をもっていた。
約1ヵ月が経過し、いよいよ現地に入れる雰囲気になってきたが、現地拠点のとして期待された能登教務所の断水など様々な状況があり、ボランティアの受け入れが難しい状況が続いた。その中で、宗派としては被害状況の把握と支援物資の配布に尽力してきた。ここまでの報告にあった宗教の垣根を越えた支援活動を、門徒の皆さんもきっと喜んでいると思う。けれども、宗派としては353ヶ寺がある能登の被災地をずっと見守る責任がある。能登の寺院は活動を続けるなかで、地域の人々をずっと見守り続けることができると考えている。
これまでの被災地では、お寺の片付けは門徒さんにお願いすることが多かったようだが、能登では高齢者の割合が高く、かつ被災者でもあり、門徒さんに「お寺の片付けをしてほしい」と住職からはなかなか言えない。そのため、本山隊がお寺の片付けや法宝物の救出も行っている。
能登は、少ない門徒さんたち皆で寺を護ってきた。過疎で困窮状態が続いているなかで被災した。お正月のお飾りのまま、ずっと何もできずにいるところもある。2ヶ月たった今でも「いよいよ廃業だ」「立ち直れない」という住職も多くいる。このままではお寺も解散ということになり、地域にお寺を護っていく方々がいなくなる。
皆さま方が支援されている能登に、くまなく点在する大谷派寺院353ヵ寺が、これからも地域をカバーし、見守り続ける役割を果たすということが、真宗大谷派としての責任ある立場ではないか。そのように考えて、本山隊はお寺の片付け、本山や法宝物の救出などの支援を続けている。
能登教区では公式LINEを立ち上げて、支援活動の内容をお知らせしている。こうした時だから、真宗仏教の教えを音源としてお届けしている。また被災寺院の境内墓地で倒れたままになっている墓石への対応に関してのアドバイスを発信したりもしている。
能登教務所におかれている済美精舎が旧来の機能を回復したため、3月1日から宗派関係者のボランティア受け入れを開始することがホームページでも発表されている。今後、必要な支援のニーズを把握し、派遣させていただくことになっている。
この2ヶ月の間、宗派の動きとは別に宗派関係の個人・団体など有志による炊き出し、バスをチャーターして買い物・洗濯・お風呂になどに連れていく支援も行なっている。それらを経済的に支援するための基金を有志で立ち上げ、有志による支援活動を支えるという図式が生まれている。
これから真宗大谷派としては、寺院を拠点としながら地域の人たちをずっと見守り続けていくことを長期的なスパンで考えていくことができたらと考えている。
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島薗:真宗大谷派は約2万の門徒戸数をもつ能登で最も大きな宗教勢力ということになる。その組織全体を見守るお立場としてのご発言ありがとうございました。
茅野:SVAが門前町でも孤立した集落、皆月漁港のある七浦(しつら)という地域で、ようやくジャンボタクシーが通行可能となり、自衛隊風呂への入浴支援を行っている。その際に浄土真宗常光寺の奥様とお話した。七尾の教務所から常に5名の方が派遣され寺院の片付けを始めて頂いていると。お寺どうしが連携する活動を知った。門前町も昨日、ボランティアセンターが立ち上った。一般の方々に寺院の片付けは難しい。派遣された教務所の方が片付けをしてくださるのは本当にありがたいと言っておられた。
竹原:今日の報告をお聞きし、大谷派には皆様のような継続した災害活動の対応スキーム、方法論といったものが蓄積されておらず、活動の展開に限界があると感じた。大谷派の行政とボランティアということになってくると、行政がボランティアを抑制してしまうという問題も起こってくる。どこまでも宗派の行政である私たち事務官と個人有志のボランティアの隙間を埋めていく様々な専門的知識と経験値を備えた人材が宗派資源にないことが、これから派遣していく場合の大きな課題だと感じた。寺院の片付け作業も手作業のみで、お寺さんによっては「重機がないのか」「専門的な知識がないのか」とお叱りを受けることが現場ではよくある。本山の派遣職員も心が折れたり、または喜んで頂いたりと悪戦苦闘している。
参加者:宗教者でない民間のものです。石川県が募集で珠洲でのボランティアへ行った。人が大量に行ける状況ではないと実感した。行政やボランティアができることも限られている。一般人からすると宗教団体が動いている事に抵抗感を感じる方がいるかと思う。行政側から見て協力をお願いすることが難しいと感じたことはあるか?
島薗:これまでお話くださった皆さんへのご質問になるかと。いかがですか。
竹原:真宗大谷派に関しては「東本願寺」という名前がいたるところに普及しており、「本山の人が来た」と喜んで頂いている方がほとんどだと思う。ただ行政とは連携がない。要請が来たとか、お互いにアプローチもない。それでも現場での支援活動は続いており、避難所ではでも住職や坊守、門徒さんが避難しているため抵抗感はない。
竹内:私たちも行政とはあまり関わりがない。ただ、東日本大震災と比較し宗教者に対する圧がゆるやかになってきたように感じる。それは島薗先生や稲場先生が間を取り持って下さったからと捉えている。昔は宗教ということで、「駄目です」「帰って下さい」と。
島薗:宗援連自体がそのように意味をもっていると感じている。
茅野:私たちも1月12日から輪島市から要請を受けた。これは宗教法人ではなく、公益社団法人として要請を頂いた形になる。理事副理事の構成も半分以上が僧侶であり、緊急支援に入った職員はみなお坊さんだった。雪国で育ったので、雪でも平気で断水の中でもキャンプ生活をしている。風呂にも入れないが、エベレストにでも登るような気持ちでテント生活で2ヵ月暮らしている。今朝も裸になって体を拭き、頭を剃って―そういう生活を繰り返している。また被災した総持寺祖院を何とか復興との思いもあって、お寺と地域住民(商工会議所・調理師等々)がうまく連携してこれた。今回ここに入れたのは仏縁というか、我々も勉強になった。これを何かのかたちで皆さんにも還元できるように、災害支援のあり方もまとめていけたらと感じている。