岩上敬人氏「クラッシュジャパンの災害支援活動について」

宗教者災害支援連絡会第31回情報交換会

2017年9月30日(土)15:30-19:00

常圓寺

報告

岩上敬人氏(クラッシュジャパン副代表理事・イムマヌエル綜合伝道団武蔵村山キリスト教会牧師)

「クラッシュジャパンの災害支援活動について~災害時の「こころのケア、スピリチュアルケア」~」

[スライド(PDF)]

http://crashjapan.com/ja/

■クラッシュジャパンについて

「クラッシュ」という言葉は"事故""壊れる"という破壊のイメージがあるが、実は、下記のような意味を込めてアメリカ人プロテスタント宣教師が命名。

Cクリスチャン Rリリーフ(救援) Aアシスタンス(援助) Sサポート(支援)

Hホープ(希望)

日本のクリスチャンは、カトリックとプロテスタントに大きく分かれる。カトリックは大きな組織があるが、プロテスタントは日本ではマイノリティに属する。各教派が一緒に活動することはあまりなく、それぞれバラバラでの活動のため働きが小さくなりがちではある。

クラッシュジャパンは、東京都東久留米市に本部を置くキリスト教会災害支援団体。2011年8月より一般社団法人として活動。災害時に被災地域で求められる活動が迅速にできるように取り組んでいる。海外とのパイプが強いので海外ボランティアも来てくれる状況。中越地震の時にクラッシュが始まったが、2011年に世界から支援を頂いてクリスチャンボランティアがやってきた。3年間で3000人が活動に参加。宮城、岩手、福島、茨城、栃木にベースを置いて支援活動を行っている。

当時頂いた資金はすべて東北での支援で使い切ったため、その後の災害では日本のキリスト教会と協力して支援活動を行った。

(これまでの活動)

2013年伊豆大島土砂災害

2014年広島土砂災害

2015年常総市集中豪雨災害

2016年熊本地震、岩泉市集中豪雨災害

2017年九州北部集中豪雨災害(熊本地震も継続)

今年は、朝倉市にて現地の九州キリスト災害支援センターと協力しながらボランティア活動に参加した。

■クラッシュジャパンの活動

心のケア、スピリチュアルケアの提供(災害対応チャプレンの働きと育成)

クラッシュジャパンは、災害時にいちばん大切なのは心のケア、スピリチュアルケアだと考えている。災害では、長期にわたっての喪失経験、心的外傷を受ける。

専門な心のケアはできないが、ボランティアレベルでもケアを提供することができれば、と考え、これが一番の活動主眼となっている。

ボランティア参加者には、心のケア研修を受けてもらった上で、派遣している。

また救世軍と協力しながら、キリスト教会に声をかけて「心のケア」研修を実施。

参加する人たちには、満足感を得るためではなく、傷ついた人たちの声に耳を傾けながらcare giverとして行っている意識をきちんと持って頂いている。

※「救世軍」:The Salvation Army。社会奉仕活動に重きを置く世界的なキリスト教団体。。

アメリカでは災害時にいち早く現場に駆けつけて支援プログラムを展開。特に心のケアは、一番始めに現場に行き、心的外傷を受ける悲惨な状況や、遺体を掘り起こしたりする消防士、警察をケア。救世軍は災害対応チャプレンのプログラムを持っており現場で指揮をとってもらった。9.11の現場ではテントを立て、休憩所を作りコーヒーを飲んでもらいながら話を聞く場所を設けた。テキストを作っているのに合わせ、研修プログラムも作り、各教会に声をかけて心のケアを実施している。

1)一年に2泊3日で研修プログラムを行った

アセスメント基礎と実践、喪失と向き合う、心的外傷からの回復、心的外傷の成長など。

自然災害というよりは、日常生活での家族・個人レベルの小さな災害(愛する人を失う、自死、等)ケアに重きを置き、その延長上に大きな災害や事故のケアがある。牧師、信徒が研修を受けることで、どう声をかけて傾聴するのかなどを学ぶ。

テキストは、岩上氏が邦訳した2冊の本

「危機対応 最初の48時間」、「災害時の心のケア スピリチュアルケア」

※CISN(Critical Incident Stress Management危機介入原則)の原則に基づいて書かれている。航空会社CAもこのような研修を受けている、その基準となるプログラム。

学んでいる内容

中心は、PCAID

Presence(存在すること)

Connect(つながること)

Assessment(アセスメントすること)

Intervention(介入すること)

Developing an Ongoing Care Plan(長期的支援計画を立てること)

この5つの言葉を柱として、まずは傷ついた人の隣に行ってそこに存在する。

存在することがどんな意味を持つかが、心のケアの基本的な部分。その人とどう繋り、関係を築いていくのか。アセスメントは、基本的なアセスメント。

必要であれば介入(ボランティアでできるレベルのもの)を行う。

臨床心理士などの専門家ではなく、現場レベルで一般の人がどうケアできるかのレベル。できるだけたくさんの方に支援活動ができるように展開し、身近な災害から、大きな災害まで対応。実施する中で、失敗例も色々と出てきており、かえって現地の人を傷つけ、相手の立場にたって考えられないこともある。もちろん、そういう事があってはならないが、教会内でも起こる場合がある。それは宗教をしているからこそであり、一つのものの見方を相手にあてはめて苦しめてしまう。教会こそが学んで行わないといけない。

また、長期的に関係を継続していけるようなケアプランを立てる。

「傾聴・心のケア研修」

救世軍、DRCnet(災害救援キリスト者連絡会)、クラッシュジャパン、ワールドビジョンなどのキリスト教系支援団体が協力しながら、30人~40人が集まって研修。現地の支援者は一番ストレスがかかり燃え尽きがちなので。

・2012-15年は東北、関東を中心に

・2016年からは九州でも行われている

・内容は「被災者の心のケア」、「支援者の自己ケア」、「子どもの心のケア」など多岐に渡っている

・研修対象は、牧師、神学生、支援団体スタッフ、ボランティア

2)教会防災ネットワーク

都市部を中心とした教会は、災害が起こった時には避難所として使ってもらう。キリスト教会は縦割りが多く、教派が違えば横で繋ることはあまりない傾向がある。そのため、地域に支援を提供する際には近隣の教会で協力して活動することが大事だと考え、声かけをつづけてきた。首都圏直下地震等にも備えたネットワーク作りにも繋っている。

地域の教会と牧師が連携することで、防災について意識を高めあい、災害が起こった場合には助け合いながら、地域に貢献できるように準備をしている。

① 防災セミナーの開催

新宿大久保通りには大きな教会があるので、地元消防団、新宿区の防災担当と防災フェスタなどで啓蒙活動をしている

② 定期的な教会ネットワークの会合の実施

(地域の牧師や信徒の顔合わせ)

教会ネットワークが地域自治体の防災担当者とつながり、防災や災害対応について話し合い、啓発活動を行っている。

例)新宿防災フェスタ、町田防災フェスタ

首都圏各地の防災ネットワークが広域でつながり、一年に一度集まり顔を合わせている。

現在は東京都各区にネットワークができるようにと目指し、大きな災害が起きたときには、一時受入や役割分担などを話し合う予定。まだ草の根レベルでの活動だが、地道に全国にネットワークを広げていきつつある。

一方、東北や九州など、教会が少ない地域ではコミュニティに入っていけない弱さがある。

広く全国を網羅するのは厳しく都市部に集中しがち。何か役に立てるようにとこれからも活動を継続。

<質疑応答>

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Q) いきなり現場にとびこんで活動するだけではなく日頃からセミナー等をしているのに感銘を受けた。信徒の方々もこのようなところから防災に関心を持つと感じた。この6年での信徒の関わり方の変化は?(世話人:黒崎浩行)

A) 研修プログラムをした初期は、東北から多くの方が来られたが、6年が経過し現地の方が疲れてきた様子。九州は今も熱をもって取り組んでいる。神戸も阪神淡路の経験があるので関心を持ってくれている。時期等で違いはあるが、支援者の支援を含んでおり、信徒のレベルで関心は高まってきている。

Q) 行政と連携について、より小さな町会、自治会との連携はあるのか?また、ネットワークの会議は牧師も信徒も来ているのか?(創価学会:浅井伸行氏)

A) 教会同士が最初集まり、段階を経て、キリスト教に対してオープンな自治体の場合は連携がすぐ取れたりするようになった。備蓄や敷地の提供意志があるので、なるべく地域の自治会と連携したい気持ちを伝えている。現状、大久保通りでの活動が一番進んでいる。現在は集まることからまず始めている段階。

参加は、やはり牧師中心になっている。縦割りの組織が多いので。牧師と信徒に区別がある。信徒の方が参加するのはまだ少ないが、代表信徒は参加している。牧師だけではなく多くの信徒に。自治体で働く信徒もいるのでネットワークを広げていきたいところ。

Q) 宗教的な素材を社会に生かす意味で、希望のあるお話。例えば、災害でお数珠をなくした場合にもう一度用意されたり、祈りのツールを取り戻すことも心の支えになる、と、兵庫こころのケア研究センターの訳した「サイコロジカルファーストエイド」にはあるが、どのように取り組まれているか。

ご提供の災害支援チャプレンプログラムは、米国の臨床牧会教育Clinical Pastoral Educationのような長期研修ではないが、市井の中で人間力をもっている人、役にたちたいと志を持つ方のための研修プログラムとして有効だと思う。教会でされる事に、他宗教が関わった経験など教えて頂きたい。(世話人:葛西賢太)

A.宗教的スピリチュアルな部分についてキリスト教は保守的な面がありオープン性は少ないと感じる。私自身が直面したのは、弔いの話。悲しむことさえできないほど打ちひしがれているところを、いかに悲しめるようにケアするか。クリスチャンとしてのアイデンティティを持ちながらもそれをおしつけるのではなく、どう取り組んで、どれだけ寄り添えるのか。自分たちのアイデンティティ、枠を保ちながら深いスピリチュアルなケアに関わっていけるか、を課題としている。現場レベルでは、仏教で弔いたいという形があれば、かたちには執れないで、要望にあわせて行っていくのは必要だと思う。それに抵抗をもつ保守的な人もいるのは事実。

勉強会の素材としては、聖書を使って勉強会をしている。他宗教の方が支援に入ることに関しては、本人に抵抗がなければどんな方でも参加して頂いている。PTGの研修会時には、全く知らない方が入って来られ、ずっと黙って研修を受けていた。でもアンケートには、研修に出て自分は生きていて良かったと感じられたとの感想をいただいた(自死念慮のある方だったのではないかと推測される)。このように参加された方の生きる支えにもなったら嬉しい。

Q) 九州で特化した組織はどのようなきっかけで持ったのか?(世話人:御手洗隆明)

A) 熊本地震の際、熊本教会の牧師のお嬢さんが教会に閉じ込められた(その後無事救出)ことを通して、何か支援活動をしていきたい、という動きが翌日から始まった。

現場だけだと疲れるから、福岡の教会に拠点をおいて外から支援を展開。そこから全国教会に呼びかけて資金要請。教会をボランティアベースにして支援活動を一年継続した。いくつかの仮設住宅を担当し、カフェや傾聴活動、子どもの学習支援、などを現在も実施している。

Q) チャプレンというとふだん病院や学校のイメージがあるが、その研修と通じる所があるか?(世話人:島薗進)

A) 基本理念については通じる。医療現場だと病気をもっていらっしゃる方に対して専門的な面も必要。私たちは、専門的ではないが、トラウマを受けた人に対してどこでもできるような対応をしている。

Q) 災害の中での心のケアが、一般の医療機関にも注目され現場に入っていらっしゃると思うが、病院でのチャプレンの経験の長さも活動に活きているのか?(世話人:島薗進)

A) 救世軍にはチャプレンの専門がいるが、まだそこまで連携はできていない。ただ、こういったプログラムをきっかけに病院でチャプレンを希望する方も出てきている。

Q) 民間としての関心から質問します。広範囲な災害に対しての準備は、地域でも体制を作ろうと社協を中心に中間支援組織も進めていると思うが、そういう組織との連携は?

(関西学院大学:岡本仁宏氏)

A) 教会が抱える問題。基本的には多くの団体との協力を目指しているが、なかなか実現は厳しく、これから。まず自分たちが繋り、その上で広く協力できたら素晴しい。