全国曹洞宗青年会、ビハーラ秋田
高柳龍哉さん
全国曹洞宗青年会、ビハーラ秋田
高柳龍哉さん
第42回 宗援連情報交換会 「能登半島地震支援活動のその後の展開」
3)高柳龍哉さん(全国曹洞宗青年会、ビハーラ秋田)
皆様、はじめまして。私はビハーラ秋田に所属し、全国曹洞宗青年会、通称「全曹青」にて活動しております高柳と申します。昨年の能登半島地震発災時には、全曹青副会長として現地での支援活動に従事してまいりました。今年5月末をもって任期満了となり、現在は災害復興支援部のアドバイザーとして活動を継続しております。
本日は「心の復興を支える傾聴の場」と題し、昨年9月より石川県輪島市門前町にて、シャンティ国際ボランティア会と連携して開催している「おぼうさんカフェ」についてご紹介いたします。
全曹青は、曹洞宗の青年僧侶が仏教の智慧を活かし、現代社会の諸課題に対して自由かつ創造的な活動を通じて、心豊かな社会の形成を目指す団体です。災害復興支援部では、阪神淡路大震災、東日本大震災、能登半島地震などの大規模災害、さらには台風や豪雨による水害などに際して、積極的にボランティア活動を展開してまいりました。
その中でも、僧侶として特に重視しているのは、被災者の心のケアと地域コミュニティの再建です。物理的な支援にとどまらず、精神的な側面から被災者に寄り添い、長期的な心の復興を支えることが重要であると考えています。
「おぼうさんカフェ」が生まれた背景には、災害が人々の生活基盤を奪うだけでなく、心に深い傷を残すという現実があります。家族や友人との死別、住み慣れた土地からの離別、財産の喪失、そして未来への不安。こうした状況下では、物的支援のみならず、心のケアが不可欠です。しかし、専門的なカウンセリングに抵抗を感じる方や、気軽に悩みを打ち明けられる場が少ないと感じる方も少なくありません。
当会は「古教照心」、すなわち古の教えに照らして己の心を明らかにすることを旨とし、仏教の智慧を現代に活かすことを活動理念としています。被災地において僧侶が果たすべき役割とは何か。この問いに対する一つの答えが、「おぼうさんカフェ」による傾聴活動であると考えました。
お寺が持つ心の拠り所としての機能と、カフェのような気軽で開かれた雰囲気とを融合させることで、被災者が安心して心の声を語れる場を提供することを目指しています。
「おぼうさんカフェ」の活動においては、宗教色を前面に出さないことを基本方針としています。輪島市門前町には曹洞宗大本山總持寺祖院があり、仏教が地域に根付いていることから、仏教をツールとして取り入れつつも、布教を目的としないよう細心の注意を払って開催しております。
事前調査により、法話やご詠歌を望む声があることを受け、仮設住宅の集会所や地域の公民館など、様々な場所をお借りして柔軟に展開しています。活動の核となるのは「傾聴」であり、来場者の話に耳を傾け、その感情を否定することなく受けとめることを大切にしています。これは仏教の教えである慈悲の実践そのものであり、良し悪しを判断せず、相手の苦しみに寄り添い、ただ話を聞くという姿勢を貫いています。
言葉にならない感情や、繰り返し語られる体験にも辛抱強く耳を傾けることで、心の重荷を少しでも軽くすることができればと願っております。
また、安心できる空間の提供を目指し、温かいお茶やコーヒー、開催を担当した青年会によるご当地のお菓子などを提供し、リラックスできる雰囲気づくりに努めています。お寺の厳かな雰囲気とは異なり、座談会のような形で数人の僧侶が交代しながら話を聞いています。
さらに、僧侶の得意分野を活かしたワークショップも開催しています。写経、ご詠歌、法話はもちろん、数珠作り体験や一文字写経なども行っております。一文字写経では、来場者一人ひとりが般若心経の一文字を書き、裏に願い事を記すことで、完成後には一つにまとめて掲示し、復興の証として皆様の目に触れる機会を設ける予定です。
今後は季節の行事も取り入れ、例えばクリスマスにはスノードーム作りやリース作りなど、仏教の枠にとらわれず、参加者が手を動かし、声を出すことで認知症予防にもつながるような活動を検討しています。小さな作品が思い出として持ち帰られることも、継続の励みとなっております。
現地に入ると、発災当初と比べて道路や建物の解体など物的な復旧は進んでいる一方で、心の復興にはなお時間がかかると痛感しております。短期的なイベントではなく、長期的な行事として、地域に根差した「おぼうさんカフェ」となるよう、今後も継続してまいります。
「おぼうさんカフェ」は、被災された方々への支援であると同時に、私たち僧侶にとっても多くの学びと気づきをもたらすものであります。まず、精神的負担の軽減と孤独感の解消という点において、仮設住宅での生活が想像以上に高いストレスを伴うものであることを実感しております。特に降雪地における冬季の仮設住宅は、寒さが厳しく、身体的にも精神的にも過酷な環境です。そうした中で、私たちの活動が少しでもその負担を和らげる一助となればと願っております。
また、安心できるコミュニティ空間の創出という観点からも、「おぼうさんカフェ」は重要な役割を果たしています。被災によって地域コミュニティが分断されることは少なくなく、能登半島においても、地域ごとの強い結びつきが一時的に失われ、様々な地域から一箇所の仮設団地に集まって生活するという状況が生まれました。開催初期には、新しい住民同士のつながりを促進し、分断されたコミュニティの再構築を目指して活動を展開しました。
例えば、今年2月には、私の寺の檀家が作成した干支のキーホルダーを配布したところ、隣同士の住民が干支や年齢の話題で交流を深める様子が見られました。こうした小さなきっかけが、仮設団地における相互理解の第一歩となり得ることを実感しております。お坊さんという中立的な立場の存在が運営することで、安心して参加できる場が形成されるのではないかと考えています。
さらに、グリーフケアの側面も見逃せません。足湯の写真にもあるように、「お坊さんだから話すけれども」と前置きしながら、ご家族を亡くされた経験を語る方もいらっしゃいました。生と死に関する話題は、なかなか人には話しづらいものですが、そうしたことを語れる場として、多くの方々にご参加いただけることを願っております。
仏教の存在意義の再確認と社会への貢献という点では、僧侶にとっても大きな意味があります。お寺や僧侶が地域社会にどのように貢献できるのか。混迷を極める現代において、仏教の教えが人々の苦悩にどう寄り添えるのかを、実践を通して学ぶ機会となっています。伝統的な仏事に加え、社会的なニーズに応える新たな活動を通じて、仏教の存在意義と価値を再定義することが可能であると感じています。
そして、地域における「心のインフラ」の構築という視点も重要です。被災地における心のケアは、継続性が何よりも求められます。全曹青による「おぼうさんカフェ」が定期的に開催されることで、単発のイベントではなく、地域に根差した心のインフラとして機能し始めることを期待しています。
「おぼうさんカフェに行けば、困った時にお寺が近くにあり、気軽に立ち寄れる。そしてそこにはお坊さんがいる」という安心感を提供できれば、何より嬉しく思います。心の健康を維持するための穏やかなセーフティネットとして、今後も構築を進めてまいります。
今後の展望としては、「被災地の心の復興」を極めて重要なテーマと捉えています。仏教が持つ普遍的な智慧と、私たちの「寄り添いたい」という思いが結びついたこの取り組みは、非常に意義深いものです。物理的な復興が進む中で、取り残されがちな心の部分にこそ、僧侶として寄り添い、現代社会において果たすべき役割を明確に示しながら、明るい未来への希望を灯していければと考えております。
以上をもちまして、私の発表を終えさせていただきます。ご清聴、誠にありがとうございました。
島薗:高柳さん、ありがとうございました。秋田から能登までの距離はどれほどでしょうか。
高柳:およそ650キロほどになります。
島薗: 毎週のように通われているとのことで、まさにご尽力の賜物と感じます。東日本大震災の際の曹洞宗による支援と、今回の活動には異なる側面も見受けられました。時期的にも、今まさに求められている支援の形に即したお話だったと思います。ご質問のある方はどうぞ。
大滝晃史(新宗連・世話人): 「おぼうさんカフェ」は門前町のみでの開催でしょうか。それとも、もう少し広い地域でも展開されているのでしょうか。
高柳: 仏教の要素を取り入れていることもあり、現在は門前町のみでの開催となっております。
大滝: 継続性が重要とのことでしたが、開催の頻度や、今後どれくらい継続する予定かについて教えていただけますか。
高柳:
開催頻度については、彼岸やお盆など、僧侶として多忙な時期を除き、月に1〜2回のペースで実施しております。現在、静岡の青年会が中心となって活動しており、距離の関係もあり、1回の訪問で2日間にわたり、午前・午後の2回ずつ、計4箇所で「おぼうさんカフェ」を開催しています。つい先日も、出雲の青年会が午前・午後に分かれて活動を行いました。全国各地の僧侶が協力し合いながら継続している状況です。
終了時期については、現時点では未定であり、しばらく継続したいと考えています。東日本大震災の際には、静岡や山口など遠方の青年会が10年近く東北に通い続けてくださいました。今回も、能登の方々から「もう来なくても大丈夫」と言われるまで続けたいと考えております。
大滝:
ありがとうございます。高柳さんご自身も毎回現地に行かれているのでしょうか。
高柳:
私自身は、最後に現地に赴いたのが2月から3月にかけてです。その後、全曹青の総会などがあり、しばらく現地に行けていない期間がありましたが、最近は落ち着いてきましたので、他の青年会が現地入りする際には、秋田の名産「いぶりがっこ」などのお土産を持参して参加したいと考えています。
平田寛(末日聖徒イエス・キリスト教会):
貴重なお話をありがとうございました。私も能登でボランティア活動をしておりますが、現地でカフェを運営されている方々が「何としてでも続けたい」と語っていたのが印象的でした。子どもたちを含め、地域の方々が集まり、コミュニティが形成されている様子に深く感動しました。コメントのみですが、あらためて感謝申し上げます。
島薗:
オンライン参加からご質問をいただいております。どうぞお声をお聞かせください。
(オンライン参加者):
現地で他宗派の方が開いているカフェなどに、互いに行き来することはあるのでしょうか。また、そうした場に他宗教の方が参加してもよいのかという点について伺いたいです。
高柳:
ご質問ありがとうございます。私たち全国曹洞宗青年会が主催する「おぼうさんカフェ」に限って申し上げますと、他宗派や他宗教の方々が「何か一緒にやりたい」「手伝いたい」とご連絡いただければ、事前に調整の上で、もちろんご参加いただけます。
(オンライン参加者):
被災者側としての参加も可能でしょうか。
高柳:
はい、もちろん可能です。仏教徒以外の方が参加してはいけないということは一切ありません。「傾聴カフェ」という枠組みの中で、たまたま曹洞宗の僧侶が仏教をツールとして開催しているという理解で受けとめていただければと思います。
島薗:
東日本大震災の際には、宗援連の「シニアボランティア」として、比較的年齢の高い方々が参加されていました。私自身は若い方だったかもしれませんが、全曹青が全日仏と一体となって「行茶」という名称で活動されており、他宗教の方々、キリスト教徒、天理教の方々も参加していました。今回は門前町という、曹洞宗に馴染みのある地域での開催ですが、今後、私どもも一緒に参加させていただくお願いをすることがあるかもしれません。ありがとうございました。
以上