宗教者災害支援連絡会 第21回情報交換会
2014年11月10日(月)於・東京大学仏教青年会
稲場圭信氏(大阪大学大学院准教授、宗援連世話人)発表議事録
(文責・報告部分:稲場圭信、質疑応答部分:星野壮)
東日本大震災で宗教施設が避難場所となったことや宗教者が災害支援に尽力したことが、世の中に少しずつ認知されるようになった。災害時における宗教への期待も高い『第11回学生宗教意識調査報告2013』。そして、宗教施設と災害協定を締結する自治体が増えている。京都市は2013年11月大規模地震などの災害発生時に多くの観光客が帰宅困難になることを想定し、市内の清水寺、東本願寺などの寺院を一時的な避難場所や滞在場所として提供してもらう協定を提携した。奈良県斑鳩町は、2013年12月に法隆寺と、境内を避難所とする「災害協定」を締結した。
全国の自治体と宗教施設の災害協定の実態に関して情報を収集するために、「宗教施設を地域資源とした地域防災のアクションリサーチ」(科学研究費基盤A、代表稲場圭信)の研究の一環として、「全国の自治体と宗教施設の災害協定」の実態調査を2104年7月に実施した。(全国1916(政令指定都市の区も含めた数)の市町村に質問票配布し、回答数1184、回答率62%)。
① 自治体と宗教施設:災害協定・協力
本調査で、248の自治体が2103の寺社教会等宗教施設を避難所指定していることがわかった。災害協定を締結している自治体は95(399宗教施設、うち避難所指定は272宗教施設)、協定非締結だが協力関係がある自治体は208(2002宗教施設、うち避難所指定は1831宗教施設)あった。
宗教施設と協定締結もしくは協力関係のある自治体は合計で303(2,401宗教施設)であった。
② 災害協定の内容
協定の内容は、避難場所としての施設の提供、応援機関等の活動拠点としての施設の提供、津波発生時において緊急避難場所として使用、災害時に公設の避難所が開設するまでの一時的な収容施設として活用、災害時に帰宅困難者の一時滞在施設として使用、遺体安置所として使用、備蓄品の相互援助を目的とした大規模災害相互物資援助協定など、その地域と施設の事情にあわせて、多様な内容となっている。
自治体が、費用を支出する場合もある。兵庫県多可町は町内にある35箇寺の本堂を災害時に使用し、かかった費用は町が負担するという協定を地元仏教会と締結している。東京都台東区は浅草寺を帰宅困難者の受け入れ先とし、区の負担で発電機などを設置した。
③ 災害協定を検討していない主な理由
宗教施設との災害協定を検討していないと回答のあった自治体は合計871件であった。主な理由として、「施設の構造面や立地条件などから避難場所となりうる宗教施設が無い」という自治体が155件と最も多かった。協力関係はあるが、宗教施設の建物が古く、耐震の基準を満たしていないため、災害協定を締結できないケースもあった。今後、宗教施設の耐震化も大きな課題である。一方、「政教分離の観点から」という回答は5自治体にとどまった。
④ 災害協定の締結時期
東日本大震災前は19自治体だったのが、東日本大震災発災後の2011年は6自治体、2012年は14自治体、2013年は20自治体、2014年は7月までで15自治体と震災後に顕著に増加している。
宗教施設に対して、一時避難所としての役割期待が社会や自治体からあるが、宗教施設としては、受け入れに躊躇することもあろう。何を準備したらよいのかもわかないという声も聞く。民間の資格である防災士の資格取得を進めることもひつつの案。若い宗教者や地域の方々に資格取得のための費用を助成するなどして、地域での防災につなげる。
地域で防災を考え、備蓄をすることは、地域コミュニティのつながりを作り出すことにもなる。同じ地域の避難所および宗教施設で、水・食料の備蓄品の消費期限を数か月ごとにずらして設定し、消費期限が近づいたらフードバンクなどへ寄付する、あるいは、地域で防災を考えるイベントを開催し、皆で食べる。そして、また新しい備蓄品を購入するといったサイクルを作ることが大切。
今回の調査で、自治体と宗教施設の災害協定締結、災害時協力の動きが進んでいることがわかった。災害対策基本法が改正され、2014年4月から、各市町村において避難所を指定・更新することが定められた。市町村による地域防災計画に加えて、地域住民が取り組む地区防災の動きでも、寺社教会等の宗教施設に目が向けられ、自治体および地域住民と宗教施設の連携の動きは、今後も広がっていくだろう。特に、都市部では、一時避難所として自治体が宗教施設に協力を打診するケースが増えるであろう。
しかし、課題も多い。2014年4月1日施行の「地区防災計画」(内閣府)には、市町村内の一定の地区における自発的な防災活動の担い手として、宗教施設への言及は一切ない。東日本大震災では、多くの寺社教会等の宗教施設が緊急避難所や救援活動拠点となった。一方で、公設の仮遺体安置所や火葬場に宗教者が入れなかったケースも存在する。緊避難所となった寺社教会等宗教施設に、指定避難所ではないという理由で、行政の支援物資の配布が遅延する事態もおきた。防災計画に宗教施設についての言及がなく、現場の自治体職員も、宗教者、宗教団体に対して、政教分離を名目に連携を断ってしまったケースがあった。今、宗教施設を地区防災計画の中に取り込まないのは日本社会にとって、大きな社会的損失であろう。
一方で、宗教施設は、宗教施設としての目的がある。指定避難所となっている小学校には、平生普段は小学校としての目的があるのと同様だ。宗教施設には、聖なるもの、また、文化財もある。当然ながら、その点も踏まえた上で、地域防災計画、地区防災計画を検討する必要がある。一方的に、行政からの要請で災害協定を締結するのではなく、内容を精査した上で、協働で協定内容を作成したりするなど、行政に働きかけていくことも重要だ。
① 宗教者災害救援マップ
2011年3月19日に立ち上げた宗教者災害救援マップは、当初、交通網遮断とガソリン不足の中、物資支援の中継地点となりうる宗教施設を地図上にプロットして、支援の連携を企図した。その後、被害状況、避難所・活動拠点情報、被災者受け入れ情報などデータ拡充した。 振り返って、情報源として一定の成果を上げたが、支援の連携の促進には機能しなかった。平常時からこのようなマップをもとにした防災の取り組み、地域づくりが必要である。
② 「未来共生災害救援マップ(略称:災救マップ)」http://www.respect-relief.net/
2013年4月にインターネット上に公開。各地域の防災の取り組みとしての防災マップは存在するが、全国の指定避難所および寺社教会等宗教施設を集約したマップは存在しなかった。災救マップは、全国約8万件の避難所および約20万件の宗教施設のデータを集積した日本最大のマップ。
③ 災救マップ・スマホアプリ
アプリは、発災時にユーザーによる避難施設および被災状況の情報共有を目的として、災救マップと連携するよう開発したものである。
アプリ起動と同時に、GPS機能により、現在地周辺の避難施設が表示される。平常時は地図としても活用可能で、近隣の避難所や宗教施設の場所を確認することにも利用できる。
大災害時、自分自身が避難所や宗教施設に避難した時に、避難施設アイコンをタップし、自分で救援要請メッセージ(被災状況、「コメント」、「投稿者連絡先」)を発信することができる。被災状況が登録されると施設アイコンの周辺に各色の■が表示される。その■をタップすると、「コメント」や投稿者の連絡先が表示される。災救マップの更新情報や使用方法の詳細は以下を参照されたい。
http://www.respect.osaka-u.ac.jp/map/
Q. 浅井伸行氏(創価学会)
震災前と後の締結自治体数を合計しても、資料の締結数の総数とは計算が合わないが。
稲場氏
自治体も一定の時期で担当者が変わってしまう。それによって、いつ締結を結んだのか分からない、という事態が起きてしまう。数が合わないのは、そのような現象のせいだと思われる。担当者が変わると分からなくなるので、毎年会いに行って、意見交換していかないと、有名無実化する可能性がある。
Q.ランジャナ・ムコパディヤーヤ氏(デリー大学)
災害時の情報交換の信憑性の問題があるのではないか。つまり、ウソや流言といったことが書き込まれる可能性はないのか?どこかでチェックが必要じゃないかと思うのだが。
稲場氏
一元的にどれが正しいか、と把握することが難しい。ただ、人口に膾炙させておけば、嘘が書き込まれても、他の人がうまく更新してくれるはず。いろんなルートが確保されて、そこで取捨選択されて、正しい情報が反映されるようにならなければ。さらに受益者たちが、このような情報に関するリテラシーを身につけるといったことが重要。
Q.蓑輪顕量氏(東大)
マップでニーズの状況が分かるが、どこが食糧を送ってくるのだろうか。その支援元が状況を把握できていて、このマップの情報を参照して、送ってくれそうな見込みがあるのか?
稲場氏
同じ宗派、同じ教団などではやりとりがあると思うのだが、それを超えると、同じ地域でも、情報がシェアされないことが分かった。だから、プラットフォーム作りが重要。情報の確かさも含めて、全ての宗教者がリテラシーを持ち、このデバイスを、しっかり担当者が管理するようになればと思う。
また、地域ぐるみで平常時から連携を取っておくことが重要だと思われる。
Q.高瀬顕功氏(大正大)
303の自治体が災害協定も結んでいるとのことだが、自治体にはどのような傾向があるのか。地域、規模などで偏差はあるのだろうか?
稲場氏
データを丁寧に見ていくことがまだできていないが。沿岸部、もしくは都市部で避難所がたりないようなところは、協定を結ぶという動きがあるように思える。