航空会社の運航乗務員、客室乗務員、グラウンドスタッフ、整備のスタッフは、業務中は制服を着ていることがほとんどだと思います。華やかに見えることもある制服ですが、どのように制服を決めているのでしょうか。


 航空会社の制服は作業着です。仕事を行う上で必要となる機能や、大勢のお客様の中でスタッフを瞬時に識別できる目印の役割も担っています。ファッション性よりも機能が重視されることは言うまでもありません。従って生地や素材の選択も重要です。丈夫で動きやすいものであることが必要とされます。ポケットの数などの機能は業務内容によってそのニーズが異なるため、現場のスタッフの意見を吸収しながらデザインとの兼ね合いで形状を決定していきます。


 日本の航空会社は長い間、日本の著名なデザイナーを選定してデザインから制作までを依頼してきましたが、近年は若手のデザイナーにお願いすることも多いようです。時代と共にデザインも変遷し、客室乗務員の女性スタッフはスカートが基本だったものが、パンツスタイルも採用されるようになり、スタッフの判断で着わけすることができるようになってきました。運航乗務員や整備スタッフは、従来から、その業務の特性からスカートが採用されたことはありません。


 航空会社によっては民族衣装をモチーフにした制服を採用している会社もあります。マレー半島、インドネシアなどの会社は女性客室乗務員用にサロンケバヤ(長スカート)、南アジアの会社はサリー(ロングドレス)などです。美しい色彩と共に、人の目を引くデザインで、空港で見かけると思わず目を奪われます。日本の航空会社や、外国の航空会社の日本人乗務員も一時期、機内サービスの際に数名が着物に着替えていた時期もありますが、狭い機内での着付けが大変であることや、草履では動きが良くないため、今では廃止されてしまいました。乗務の際にシワにならないようにきちんと畳んで着物を持ち歩くのも一苦労だったそうです。


 ファッションの国フランスの航空会社は、自国のデザイナーを採用しており、かつてはディオールやシャネルまで総動員した大変ファッション性の高い制服を採用してきました。エレガントでシックなデザインはフランスならではの制服だと感服します。ここまで洗練され昇華するとマーケティング戦略の効果も期待できます。一方で、アメリカなどの低コスト航空会社(LCC)では、制服にポロシャツを採用している会社もあります。フレンドリー、カジュアルがキーワードだと思います。


 多様性の時代に、アメリカでは性別の制服を定めず、いずれの制服を着用することも可能にした航空会社もあります。男性がスカートを着用することも認めるようになったと報じられていましたが、私にはまだ現実感が湧いてきません。制服とは関係ありませんが、体の一部にタトゥーがある場合、従来は、勤務中には長袖のシャツやパンツなどで覆い、お客様に見えないようにする美容基準を設けている会社がアメリカでも大半でしたが、一部の会社は自己表現の一環としてタトゥーを露出する事を認めるようになった航空会社もあるとのことです。この辺りは議論を呼ぶ分野だと思いますが、基本はお客様がどう感ずるかが最も重要なポイントではないかと思います。客室乗務員の自己表現に多様性を認める寛容性と、顧客体験や満足度とのバランスを考えた判断が求められるのではないでしょうか。


 私も新入社員の時代に短期間ではありましたが、制服を着用して仕事をしていた時期があります。制服があると通勤時に楽な格好で済む手軽さや、会社が支給してくれる制服のおかげで被服費があまりかからない、といった良い点もありましたが、制服の洗濯や紛失しないようにする管理責任を負うことになり、面倒だなと思ったことを懐かしく思い出します。その後、スーツとネクタイ着用のサラリーマン生活に移行して、特に夏の暑さには閉口することになるわけですが、現在では夏の軽装クールビスが浸透して、夏以外も服装のカジュアル化が進んだため、昔ほどの難行苦行ではなくなったのではないでしょうか。


 私は中学校から大学まで制服着用義務のない学校に通ったことから、会社入社後に制服を支給してもらったのが大変嬉しかった事も思い出しました。皆さんは制服にどんな思いをお持ちでしょうか。


(江の島太郎)