かつてホテルで働いていたとき、私が勤務しているホテルに知人が宿泊してくれました。その人は普段あまりホテルを利用しない人で、宿泊後「ホテルで最高のおもてなしを受け、快適に過ごすことができた。」と感謝の言葉を伝えてくれました。


 何が最高だったのかというと、「ホテルに車で到着すると車を駐車場に入れてくれた。正面玄関では自分で開けなくてもドアを開けてくれたし、重い荷物を運んでくれた。部屋は清潔に整えられ、廊下ですれ違う従業員は笑顔で挨拶をしてくれた。レストランに行くと、椅子を引いてくれ、美味しい食事が運ばれてきた。帰るときには車を正面に準備し、長距離のドライブに気を付けるよう声をかけてくれた。どこへ行ってもよくしてもらい、まるで王様になった気分だった」とのことでした。そんなに喜んでもらえたことは嬉しく、共に働く従業員のことを誇らしく思ったものです。

 

 しかしながら、よく考えてみると、その人が受けた行為はホテルの従業員が業務としていつもしていること、して当たり前のことばかりです。決して何かサプライズをしかけたわけでも、お金をかけて特別なサービスをしたわけでもありません。ホテルではするべきことをきちんとすることがどんなに意味のあることか気づいた瞬間で、今後も毎日の業務を心をこめてしっかりしようと思いました。


 ホスピタリティという言葉がよく使われるようになって、上記のように誰かに喜んでもらうために何かサプライズをすることや、特別なサービスをすることがホスピタリティだと思っている人も多いと思います。もちろんそれもホスピタリティの気持ちがあるからできることですが、そんなに大げさなことではありません。「サービスはみんなにすること、ホスピタリティはその人のためにすること」とも言われますが、人に喜んでもらえるならどちらも同じではないでしょうか。


 当たり前のことを当たり前にして、喜んでもらえるホテルの仕事、もちろんそのためには様々な苦労もありますが、シンプルに考えるとてもいい仕事だと思います。ホテルで働く人は、常に最高のおもてなしをしていると誇りを持ってほしいと思っています。

(Spike8)