国際線の航空機にはファーストクラス、ビジネスクラス、プレミアム・エコノミークラス、そしてエコノミークラスの4クラスが存在しています。しかし、どの機材にもすべてのクラスが装着されているわけではありません。それでは航空会社はどのように航空機の客室仕様を決めているのでしょうか。

 航空会社は所有する航空機で最大の収益を得ることを経営の重要な目標としています。従って、航空機の客室仕様も最大の収益を得るようなものを配置することが重要な課題となります。ところが航空機といっても、様々な種類が存在し、サイズ、航続距離、搭載可能重量などは機材によって異なります。また、路線特性も異なります。お客様の快適性をどのように確保するかも重要な要素です。これらの異なった変数を勘案して最適の客室仕様を決めるのが各社の商品開発担当の腕の見せ所です。


 ファーストクラスの運賃が最も高く、エコノミークラスの運賃が最もお手頃なのは言うまでもありませんが、すべてファーストクラスにしてしまえばそう簡単に席は埋まらず、多くの空席を抱えることになります。また、全席エコノミークラスにすれば、多くのお客様に利用していただけることにはなりますが、上位クラスを希望するお客様を取りそこなうことになるため、その間のどこかで座席数を決めることになります。

 例えば東京=ニューヨーク線や東京=ロンドン線では、上位クラスを選択する多くの業務渡航のお客様が乗ることになるわけですが、東京=ハワイ線では多くのお客様がエコノミークラスを希望されます。従って、路線特性に応じた客室仕様を設定すればそれで済むような気がしますが、話はそれほど単純ではありません。

 多くの場合、航空機は特定の路線専用となっているわけではありません。航空機は非常に高価な生産用資産ですので、不必要に休ませておくわけにはいかないのです。航空会社の収益最大化の重要な要素として機材稼働が挙げられます。簡単に言えば、ある航空機が1日24時間中、何時間飛んでいるか、という指標です。当然のことながら、この機材稼働が長ければ長いほど収益が増える傾向にあります。機材稼働を優先しすぎると、出発・到着時刻などのダイヤが魅力的でなくなりお客様から選択されにくくなる、という逆の効果もあります。従って、航空会社のダイヤ設定の担当者は、拠点空港に戻ってきた飛行機を次にどこに投入するか、様々な要素を考慮して時刻表を作成します。例えば夕方にロンドンから東京に戻ってきた大型機で4クラスすべてを装着した航空機を夜に出発するシンガポール線へ投入したりすることになります。しかしシンガポール線の路線特定はロンドン線とは異なるため、最適の客室仕様の機材がシンガポール線に活用できるわけではなくなります。

 お客様の快適性も重要な変数です。お客様にとってはスペースに余裕があればあるほど快適性は上昇します。座席の前後の間隔をどの程度にするのか、横に何列を配置するのか、トイレをいくつ設置するのか、機内食を準備するギャレーをどの程度確保するのか、などです。しかし、あまりにも余裕のある客室仕様を作ると収益最大化に影響が出ますので、そのバランスが難しいところです。

 現在でも中東の航空会社の大型機エアバス380機には、ファーストクラスやビジネスクラスのお客様用のバーが設けられていたり、シャワーまで完備したりしている会社まであります。これらのスペースは座席として販売することができないため、上位クラスの顧客サービスと収益とのバランスで、バーやシャワーを設置することが収益最大化に寄与する、という結論になったのだと思います。かつては日本の航空会社やアメリカの航空会社の大型機にも、上位クラス用のバーやラウンジが設置されていたこともありますが、現在ではほとんど廃止されています。

 この航空機の客室仕様の話ですが、私はサービス業には非常に多い共通の課題だと思っています。短期的にはサービスを追加生産することが難しい業種であるホテル、レンタカー、美容院、劇場、そして限られた面積という点ではショッピングモールなどの施設運営も同様ではないかと思います。

江の島太郎