シェアド・エコノミーとインターモダル

音楽の楽しみ方はこの50年で大きく変わりました。かつては黒いビニール盤のレコードだったものがCDになり、更に音楽のダウンロード、そして現在では音楽を所有するのではなく、共有するサブスクリプションに変遷してきました。映画も同様です。これらの新たな消費形態は、宿泊のAirbnb、配車サービスのUberも含めて、シェアド・エコノミー、又は、シェアリング・エコノミーと呼ばれます。


今年の夏、久しぶりにヨーロッパへ旅行する機会がありました。変わらぬパリやロンドンの街角に立ち、ヨーロッパの空気を吸って来ましたが、パリやロンドンでの自転車の共有サービスの発展ぶりには瞠目するものがありました。

朝の通勤時間帯に、セーヌ川左岸を多くの自転車に乗った通勤者と思われる人が行き来するのをみて、その進化に感心しました。特にフランスは温室ガス削減を非常に重要な政策課題としており、車から自転車通勤に切り替えると補助金まで支給されるというではありませんか。ただ、天気が良くない日や気温が下がってくると辛くなるような気もします

フランスではパリと地方都市の間には高速鉄道TGVの充実したネットワークが完備しており、フランス政府は航空から鉄道へのシフトを推進しています。ヨーロッパの一部では飛行機を使った旅行を『飛び恥』などと呼ぶ風潮もありますが、海越えや山越えは飛行機の得意とする領域で、さすがに長距離国際線まで船旅にする人は少ないと思います。

 

日本は山がちで、多くの島からなっている地理的条件から、飛行機が活躍する地域が多い国土ではありますが、東京と大阪間の大動脈は新幹線の圧勝で、85%程度が新幹線で移動していると言われています。東京と仙台間、東京と新潟間のように、新幹線の開通により、すでに航空が撤退してしまった路線もあります。しかし、これが東京と福岡間のように距離が長くなると、航空のシェアが90%超になります。所要時間の差が大きいためです。東京と鹿児島間に至っては、航空のシェアが98%となります。

 

フランスでは、高速鉄道で2時間半以内に到達できる国内線で一定の条件を満たす路線は、政府主導で鉄道に集約することとなり、2023年にエール・フランス航空のパリ(オルリー空港)=リヨン・ナント・ボルドー線は廃止となりましたが、長距離国際線からの乗り換えの多いパリ/シャルル・ド・ゴール空港発着は廃止から除外されています。

 

航空と鉄道、バス、船舶などの異なった輸送機関間の輸送をインターモーダル(Intermodal Transport)と呼びますが、インターモーダルが競争になる場合と、提携関係に変遷するものもあり、ルフトハンザドイツ航空とドイツ国鉄(DB)は古くから相互送客を行ってきました。エール・フランス航空もフランス国鉄(SNCF)と一部提携関係にあります。パリやフランクフルトの空港の地下には立派な鉄道駅が整備されて、街中と空港を結ぶアクセス線だけでなく、高速鉄道が乗り入れており、乗り継ぎ利便性は非常に高くなっています。パリ=ブリュッセルやフランクフルト=デュッセルドルフなどの路線は全て鉄道が担い、列車には航空会社の便名が付されています。言わば羽田や成田や関空に新幹線が乗り入れているようなものです。他にもアムステルダム、ジュネーブ、チューリッヒ、ウィーンなどの空港に高速鉄道が乗り入れをしています。

 

日本ではまだ空港に新幹線が乗り入れる例はありません。施設面での制約が大きいと思われますが、今後、航空と鉄道はどのような競争・協力関係になっていくのか興味のあるところです。

(江の島太郎)