【研究員コラム】 2023.4.18

 大圏距離ってご存じですか

 日本とアメリカ大陸の間を飛ぶ太平洋線の便が太平洋の真ん中のハワイ上空のあたりを通過していると思っている方は結構多いようですが、実はハワイの上は飛ばないのです。それは最短距離ではないからです。

 地球上の任意の2地点を結ぶ最短距離を大圏距離(Great Circle Distance)、または、大圏航路(Great Circle Route)と呼びます。飛行機の飛行は、なるべく最短距離をたどることで燃料の節約や所要時間の短縮を目指すため、大圏距離に近い航路を選択することが多くなります。

 地球はほぼ球体の形状をしており、赤道付近は最も張り出していることから、日本からアメリカ大陸に向かう便は、地球の最も張り出した赤道付近を避けて、日本を出ると北太平洋上を北上し、アメリカのアラスカ州やワシントン州、カナダのブリティシュ・コロンビア州の上空を通過して、目的地の北米内地点に向かいます。直感的には遠回りをしているような気がしますが、実はこの航路が最短なのです。これは数学の一部である球面幾何学の球面三角法の公式を使用すれば比較的簡単に算出することができますが、Sin(サイン)、Cos(コサイン)、Tan(タンジェント)などの三角関数を使うことになり、これはちょっと頭痛がしますので、もし地球儀が手近にあれば、球面に糸をピンと張って2地点間の最短距離がどのような経路になるのか試してみてください。


 ところが気象上の条件や日ごとに変わるジェット気流の流れの強さにより、大圏航路が必ずしも最適であるとは限りません。最短距離であっても経路上の空域の天候が悪かったり、ジェット気流が強すぎて飛行機の揺れが予想されたりする場合は、お客様の快適性を確保するために、その空域を回避して迂回する必要があります。従って飛行機が東に向かう(アメリカ大陸へ向かう)場合と西に向かう(日本へ向かう)場合とでは条件が異なることもありますので、往復の経路が同じとは限りません。

 ジェット気流は通常、西から東へ向かって吹いており、その追い風に乗ると所要時間が短縮できますが、逆方向は向かい風となるためより時間がかかることがあります。東行きと西行きでは、最大2時間程度の差が出ることもあります。

 日本とヨーロッパの間の便ではロシアのシベリア上空を通過するのが大圏航路となりますが、現在、ロシアとウクライナをめぐる紛争によりロシア上空通過ができない状態にあるため、大変な迂回経路で運航されています。ジェット気流が西から東に向かって吹いていることを最大限活用し、日本を離陸した飛行機は、いったん太平洋を北上し、アメリカのアラスカ州の上空を通過して北極近辺を通り、グリーンランド、アイスランドなどの上空を通過してヨーロッパにたどり着きます。帰路はヨーロッパを離陸すると南下し、トルコ、中央アジア、中国の上空を通過して飛行し、往路・復路で世界一周をして日本に戻ってくるのです。1990年代初頭までは航空機の性能上日本とヨーロッパを無着陸で運航することができなかったため、アラスカ州のアンカレッジやロシア(当時はまだソ連でした)のモスクワに寄航していましたが、現在は航空機の性能が向上し、このような大幅な迂回経路をとっても無着陸で運航が可能となりました。しかし、所要時間は往路・復路ともに2時間以上余分にかかり、お客様の利便性は低下していると言わざるを得ません。

 一日も早くまた最短経路で運航できるようになってほしい、と願っています。

(江の島太郎)