イギリス・四季の風物詩 秋から冬

今年は彼岸を過ぎても暑い日が続き、例年のように日一日と日没が早くなる実感がありませんでしたが、緯度の高いイギリスでは9月に入ると急速に日の入りが早くなり、10月下旬の日曜日(今年は29日)にサマータイムが終わると、一気に16時ごろには辺りは夜の帳に支配されるようになります。

 イギリス各地に点在する遺跡やマナーハウスなども、一部の有名施設を除いて9月の最終日曜日を以って公開を終了、春までの休館(冬眠?)期間に入ります。

 代わって街では多くのコンサートやオペラ、ミュージカルなどが催され、人々の楽しみはアウトドアからインドアへと入れ替わります。


 日本でも最近では「若者のバカ騒ぎの場」として注目されるようになったハロウィンは、イギリスでは「子供たちのお祭り」の色彩が強く、各家庭ではスーパーの特設コーナーで求めたお菓子を用意して、近所の子供たちの“襲撃”に備えます。

 俳句では初秋の季語である「花火」も、イギリスでは「冬の訪れ」を告げる風物詩で、11月5日のガイ・フォークス・デー(=国会議事堂爆破・国王暗殺未遂事件の犯人の名に因み、未遂で防げたことを感謝する日)には、イギリス全土のあちこちで打ち上げ花火があがります。(但し日本の花火大会とは質・量ともに比べモノにもならないレベル。)

 11月11日はリメンバランス・デー(第一次世界大戦戦勝記念日・戦没者慰霊の日)で、日本の赤い羽根と同様、各局テレビのキャスターはお決まりのように左襟に赤いポピーを挿し、街中で遺族募金が呼びかけられ、募金者は胸にこの赤いポピーを挿してもらいます。

 アメリカと違ってイギリスではあまりサンクスギビングを祝う習慣はありませんが、それでもシティなどではどこでも我が物顔で振舞うアメリカ人と一緒に、イギリス紳士・淑女もタキシードやパーティードレスに身を包み、パーティーに繰り出します。企業毎に行われる職場のクリスマスパーティーも一足早く12月の第一週辺りに集中、夜の街にはシャンパンやビールを抱えた陽気な酔っ払いが溢れます。


 会社のクリスマスパーティーが終わると、勤め人は次々とクリスマス休暇を取得して、両親の待つ実家に帰って行くため、正月の丸の内同様、オフィス街は閑散となります。

 イギリス人にとってのクリスマスは、家族と過ごす神聖な日で、1990年代の半ばまではクリスマスイブの午後からは電車やバスなどの公共交通機関も止まってしまう程でした。日本人がパーティーなどでクリスマスを楽しく過ごし、新たな年の初めである正月を家族と共におごそかに過ごすのと反対に、クリスマスを家族とおごそかに過ごしたイギリス人は、友人などとガラ・パーティーで派手に騒いで、カウントダウンで新年を迎えます。


 この年末年始の行事の過ごし方、実は日本とイギリスに共通点があるのを、ご存知ですか?

 クリスマスを迎えるイギリスの家庭で用意する定番料理が、七面鳥のローストとクリスマスプディング(ドライフルーツを入れた甘いケーキ生地を長時間蒸してラム酒やブランディを塗ったもの)。一方日本のお正月に家庭で準備するのがおせち料理。モノは違えど意味するところは同じで、クリスマスやお正月の準備に忙しかった家人が、「クリスマス・お正月の間くらいゆっくり過ごせるように」考えられたもので、「三が日」をおせちで過ごすように、イギリスの家庭ではクリスマス休暇の間、大きな七面鳥の丸焼きを切り取って、ターキーサンドイッチ、ターキーカレー、ターキーシチューなど、七面鳥のローストを使い回して過ごします。さらに保存食であるクリスマスプディングも、その間のスイーツとして大きな塊を切り分けて食べ継いでいきます。

 クリスマスの翌日12月26日は“ボクシング・デー”の祝日。と言っても日本の大晦日の様にボクシングのタイトルマッチが何試合も行われる日、というわけではなく、箱のボックスが原意。落語にも出てくる日本の商家の風習「藪入り」と同じで、正月明けに住み込みの奉公人に休暇を与え、実家に戻る際に手土産を持たせたのと同様、クリスマス明けに住み込みの執事やメイドに実家に帰る休みを与える際、お菓子やプレゼントを箱につめて持たせたことに由来しているそうです。

 そしてクリスマスが終わると、クリスマス商戦の売れ残りを捌くための風習、駐在員夫人達の一大行事、“セール”が始まり、散財の後の自重期間を経て、日一日と長くなり始めた日照時間を実感しつつ、春の訪れを告げるイースター休暇の過ごし方を模索することになります。

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