アルベルコ・ディフーゾ(=AD)ってご存知ですか? どこかの国のおじさんの名前のようですが、実はコレ、イタリアで生まれた“少子高齢化による過疎対策、特に「空き家問題」を観光産業で解決しようという取組”のことで、集落内の空き家等をホテルとして再生し、レセプション機能を持つ中核拠点を中心に、宿泊施設やレストラン等を水平的にネットワーク化(一体化)するというものであり、日本では「地域まるごとホテル」とも言われている取り組みです。


 イタリアでも地方都市の過疎化が社会問題となっており、その解決策の一つとして、地域活性化の目玉として、また「持続可能な農村ツーリズム」の実現に向けた新たな地域づくりの鍵として、注目されている試みです。

 もう一つオスピタリタ・ディフーザ(=OD)という派生的な取り組みもあり、ADがレセプションから半径200m以内に施設が集約されるのに対し、ODは、より広域(概ね半径1km)に渡り分散される、広範囲な地域が一体となり、統一的で連続的なコンセプトでサービスを共有し、旅行者へ価値提供を行う取り組みです。既にお気づきの方もいらっしゃると思いますが、「オスピタリタ」はイタリア語で「ホスピタリティ」、「ディフーザ」は「分散された」を意味し、「分散されたおもてなし」が原意です。

 

 日本でも岡山県の矢掛町が、アルベルゴ・ディフーゾ インターナショナルから、アルベルゴ・ディフーゾタウンとして、最初の認定を受けました。

 岡山県の南西部にある矢掛町は江戸時代に山陽道の宿場町として栄え、島津氏や黒田氏、毛利氏など西国の大大名が参勤交代の定宿とし、時に800人を超える大名一行が本陣や旅籠屋など町の中に分散して滞在したとのこと。「名物のゆべしを薩摩藩から将軍家に嫁ぐ途中で宿泊した篤姫が気に入った記録が残っています」。矢掛町には天保元年(1830年)創業の和菓子店などが残り、歴史に身近に触れることができます。


 そんな歴史ある街でも、10年前の観光客数は20万人で「若者は歩いていない」活気のない状態でした。町には古民家の売却や寄付の相談が増え「町並みの存続も危ぶまれていた」(同町)という。危機感をもった町は古民家再生事業を12年度に始め、その一環で宿泊施設を整備。運営を担うことになった企業が株式会社シャンテです。同社は銀行でホテル再生に取り組んだ社長が「ホテルの黒字化だけでなくまち全体を元気に」と起業、かつての旅籠をまとめて、現代に宿や宴会場など6施設を手掛けた「地域密着型ホテル」として運営、今年その取り組みが認められ、ADの認定を受けました。


 少子高齢化、地方の過疎化が深刻な社会問題となっている日本には、一方で豊富な自然・文化・歴史などの遺産があります。ただ残念なことに「のどかな景観」が広がる日本の田舎が、ヨーロッパの田舎と比べて「きれいではない」のは、景色に割り込む電柱・電線、トタン板などにあるように感じます。

 民間だけの取り組みには限界があり、行政も一体となったADやODが広がっていくことを期待したいと思います。

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