【研究員コラム】 2023.2.23

 小豆島フィルム・コミッション

フィルム・コミッションという言葉を知っていますか。

映画やドラマなどの撮影を誘致してその地域の活性化を図るために、撮影をサポートする非営利団体のことで、この言葉が使われるようになったのは、故石原慎太郎氏が東京都知事であった頃に公共団体として設立した時が初めだったようです。

つまり、制作と地域をつなぐための仕事を無償で行う団体です。

制作側、撮影側としては、手探りでひとりひとりの相手とロケ交渉をしなければならないところを、窓口一か所で面倒を見てもらえるわけですから、実にありがたい存在で、その価値は大きく、全国に広がっていきました。

そうした役割をする企業、団体は以前からありました。ロケーションサービス、ロケーションサポートなどと呼ばれる、有償で制作者のサポートをするビジネスですが、元は単に制作、撮影の便宜を図ることを目的としていました。


もちろん、作品のヒットの結果、そのロケ地を見たい、訪れたいと思う人が増えて観光促進につながる例も少なくはありません。フィルム・コミッションと企業が協力している地域もあり、登場人物になりきって写真を撮りたい人たちが溢れ、交通の妨げになっている地域さえもあることは皆さんもご存じと思います。

こうした目的の旅はロケツーリズムと呼ばれ、ロケの誘致による地域活性の狙いを大きく超えて、その作品の影響で持続的な観光振興につながる、観光の大きな要素の一つにもなっているのです。


コロナ前は、年に100日は撮影や準備に追われていたという小豆島のフィルム・コミッションの元事務局長に話を聴く機会を得ました。

小豆島は古くは幾度かにわたって映像化された「二十四の瞳」の舞台として有名ですが、最近では映画「八日目の蝉」、「魔女の宅急便」、「8年越しの花嫁 奇跡の実話」あたりが記憶に新しいのではないでしょうか。また、その地を知っていると、実に多くのテレビドラマやコマーシャルなどで小豆島の風景を目にすることに驚きます。


それも道理、この島ではなんと、観光協会の定款に、事業内容の一つとして、「小豆島におけるフィルム・コミッション業務」と明記されているのだそうです。観光協会が兼ねることによって、行政、住民、とより密接な、かつしっかりと観光活性を目的としたフィルム・コミッションができることは言うまでもありません。

橋が架かっていないこの島では、物を調達するだけでも苦労があったはずです。映画成功の3要素の一つ、「ヌケ」と呼ばれる映像として美しい景色と環境が整ったのは、瀬戸内の風景の穏やかさだけではなく、定款にそう定めたまでの島の決意に加え、担当事務局の皆さんが日夜奔走し、撮影に愛情を持って寄り添い、一方で島民の協力の気持ちを整えてきたからこそであることは言うまでもありません。結果、彼の事務局長現役時代、ロケ地の提供で島の中で断られたことは一度もなかったと言います。


笑える苦労話や、綱渡りの事件解決話はたくさんありますが、何よりの聴きどころは、その仕事が島にもたらした効果についてでした。

まずはロケによる経済効果。映画のスタッフ全員の宿泊、飲食、交通費を考えただけでも小さな額ではありません。さらにこれを広告費と考えると、莫大な間接的効果が望めます。

また、観光地としては、地域にストーリーを持たせやすくなり、訪れてみたいと思う、来てくださったお客様はそれにより地域を「感じ」やすくなり、また観光の幅が広がる、といった効果もあるそうです。

もう一つ重要と聞いて心打たれたのは、地域住民への影響でした。撮影の協力をしたり、エキストラで出演したりすることで、自分たちの地域の価値を実感する、地域の素材に自信と誇りを持つ、地域の一体感が生まれる、といった効果があり、さらなる地域観光活性の動機になっているというのです。


地域の映像が人の目に触れるのは、単に「知ってもらえた」に過ぎないけれど、それをストーリーで彩り、興味を持ってくれた人、来てくれた人に地域の誰もが誇りをもって伝える気持ちがあることが、大きな地域観光活性のきっかけになっていると、元事務局長は力を込めて話していらっしゃいました。

(悠)