【研究員コラム】 2023.6.8

 技術着陸

皆さんは技術着陸(Technical Landing)という言葉を聞いたことがありますか。最近はめっきり聞かなくなりましたが、飛行機の航続距離が短かった頃に、給油だけの目的で途中の地点に着陸することを、技術着陸と言います。

1980年代まで、日本からヨーロッパに行く便やニューヨークへ向かう便は、アメリカのアラスカ州にあるアンカレッジに給油のために寄港していました。アンカレッジ空港は1日に両方向の何便もの便が寄港するため、待合室には大きな免税店が設置されており、日本語を話すスタッフの皆さんも大勢働いていました。和食が恋しくなった方のために、和風のうどん屋さんまでありました。通常は給油に1時間程度かかるため、ロビーの中で時間を過ごしていたのです。また、乗務員は全員がアンカレッジで交代していました。 

実はアジアとアメリカを結ぶ貨物専用便の多くは、今もアンカレッジに技術着陸しています。貨物専用便は直行するよりも、離陸の際に最大限の貨物搭載を行うため、航続距離を短めにして燃料の搭載量を抑制しているのです。


さらに昔の話ですが、戦後初の日本の航空会社による国際線は、羽田からサンフランシスコに向かう便でした。1954年のことです。まだジェット機が開発される前でしたので、プロペラ機による運航で、何と途中、二箇所に寄港し36時間かけてサンフランシスコまでたどり着いたそうです。寄港地は太平洋の真ん中のウェーキ島とハワイのホノルルでした。現在はウェーキ島に寄港している便はありません。米軍の施設だけが残されているようです。現在では東京からサンフランシスコまで直行便で9時間程度です。

北米とヨーロッパを結ぶ大西洋線もプロペラ機の時代には無着陸で横断することはできなかったため、カナダ側のガンダーやグースベイ、ヨーロッパ側のアイルランドのシャノンなどに技術着陸していたため、これらの空港は両方向の飛行機が何便も飛来して賑わっていたそうです。他にもポルトガルのマデイラ、カーボベルデのサル島などがかつての技術着陸に多く使用された空港だったそうです。

一度世界地図を広げて、これらの地点がどこにあるのか確認してみませんか。

江の島太郎