飛行機で海外旅行をする際に、途中の国の上空を通過することがあります。例えば、日本からタイへ向かう便は、日本列島を南下して間も無く、台湾、ベトナムなどの国の上空を通過してバンコクに向かいます。日本とアメリカ大陸間のように、経路のほとんどが太平洋上空であっても、一部は実はカナダの上空を通過しています。さて他国の上空を通過するのに許可は必要なのでしょうか。

 民間航空の約束事は、1944年に締結された国際民間航空条約(通称シカゴ条約)が今も原則になっており、その第一条で、その国の上空は各国の主権に属することが決められています。従って、航空機が他国の上空を通過する場合には、原則として当該国の許可が必要です。制空権は国の安全保障にも関わる重要事項ですから、このような原則となっているわけです。

 ただ、国によってはその手続きを簡素化している場合も多いようです。航空会社は、シーズンごとに自社の運航スケジュールに基づいて、上空を通過する予定の国に申請し、包括的に許可を取ります。航空機の運航経路は、その日の天候や風向きなどによって異なるため、上空を通過する可能性のある国全ての許可を取得しておくことが求められます。

 現在、日本とヨーロッパの間を飛ぶ飛行機はロシア領空を回避した迂回経路で運航しています。往路は北極周りですので、上空通過する国はアメリカ、カナダ、グリーンランド、アイスランドなどの数カ国だけで済むのですが、帰路のヨーロッパから日本に向かう飛行機は、ヨーロッパ内地点を離陸すると南ヨーロッパまで南下して、その後、トルコ、中東・中央アジアの諸国、中国の上空を通過しているため、かなりの数の国の上空通過許可を取得しなくてはなりません。

 この許可を得ると、毎日の運航はこの上空通過許可の範囲で運航経路を決定して、各国の航空管制の当局に運航経路を事前通知してから離陸することになります。ごく稀ですが、何らかの事情で当日の許可が得られない場合には、安全上の理由から、迂回経路をとったり、便の出発ができなくなったり、引き返しをしたりせざるを得なくなるのです。

 この上空通過許可の取得の仕事は、年に2回なのですが、すべての許可が取得できるまで気が抜けません。国によっては行政の人手不足でなかなか認可作業が進まず、時差の関係で許可の取得が日本時間の深夜にまで及ぶこともあり、その都度、ドキドキします。

 皆さんの乗った飛行機が安全に飛べるよう、どの会社にも黒子のように、上空通過許可を取得する役割を担ったスタッフが冷や汗をかきながら頑張っています。

(江の島太郎)