百貨店では隠語が使われているのをご存じでしょうか。隠語なのであまり表には出ていませんが、私が何年も前にアルバイトをしていた2つの百貨店で、当然百貨店によって違う言葉ですが、トイレや休憩に行くときに、どちらも隠語が使われていました。トイレに行くときは「さんさん行ってきます。」や「仁久です。」というように本来の言葉との関連のなさを不思議に思いながらも、研修で習った隠語を使用していたものです。それが今でも続いているようです。

 

 百貨店での隠語は、日本特有の文化だと思いますが、日本でも接客を伴う他の業界では使用されていると聞いたことはなく興味深いです。(百貨店から派生してスーパーなどでは使われているようです)

 どういう理由で長年に渡り隠語が使われているのか考えてみました。百貨店では高級なイメージを維持し、お客様に快適で上品な環境を提供することを前提に、トイレや休憩などの日常的な活動を従業員が言葉にすることは、このイメージに合わないと考えるからでしょう。現在では「トイレ」や「休憩」を使用することで、お客様が不快な思いをするとは考えにくく、百貨店のイメージが壊れることはないですが、かつての日本人の奥ゆかしさが影響しているのでしょう。


 隠語は館内放送でも使われていて、「〇〇からお越しの〇〇様、お近くの従業員にお声がけください」というように、従業員を呼び出す時もお客様を呼び出すかのように伝えたり、万引きがあった場合やお得意様の来館を従業員にしかわからない言葉で知らせるために放送するようです。また、「雨に唄えば」の曲を流して、雨が降ってきたことを館内の従業員に知らせることで、紙袋にビニールをかける日本独特のサービスにつなげたりと、BGMにも意味があるようです。


 このように隠語は本来の言葉の意味を隠す言葉ですが、従業員にしかわからない専門用語のようにも使われ、身内のみのコミュニケーション手段として使うことで、一体感やプロ意識を感じられるのかもしれません。

 

 百貨店業界も時代の流れとともに販売方法等変化していますが、隠語は利用者が知らないところで使われているからこそ、今後も効果的に使い続けられるのではないかと思います。百貨店に行った際に、従業員同士の会話や館内放送を聞いた際、その意味を想像してみるのもおもしろそうです。

(Spike8)