その昔、大学1年生の英語の授業でダニエル・スノーマンというイギリス人の作家の作品「Kissing Cousins」が原書購読の課題に指定されました。イギリスとアメリカの文化比較論です。詳細はすっかり忘れてしまったのですが、イギリスとアメリカの文化の結びつきの強さが印象に残りました。「Kissing Cousins」は、イギリスとアメリカは、会えばキスを交わすいとこ同士の関係、というほどの意味だと思います。

 イギリスに限らず、ヨーロッパとアメリカの結びつきはわれわれ日本人が漠然と考えているよりもはるかに強固です。アメリカの歌劇場や交響楽団の多くは長年にわたりヨーロッパ出身の芸術家を数多く招聘してきました。ヨーロッパの残像が今も色濃く残っている分野と言えるでしょう。アメリカの各地には、ヨーロッパの様々な地域の出身者のコミュニティーが存在しており、例えばシカゴ市はポーランド人が多数移民してきたため、今もポーランド語を話すアメリカ人が数多く居住し、シカゴ市北西部のポーランド人街では伝統的なポーランド風ソーセージを購入することもできます。


 そのヨーロッパとアメリカの濃密な関係を如実に表しているのが北大西洋線のネットワークの充実ぶりです。これは太平洋線とは比較にならない規模なのです。イギリスのブリティシュ・エアウェイズは、ロンドンからアメリカ内の実に20地点以上に運航しており、最も頻度の多いロンドン=ニューヨーク間は1日に8便以上。このような路線はアジアとアメリカ間の太平洋線には一つもありません。

 大西洋線は所要時間も意外なくらい短いのです。ニューヨークやボストンなどのアメリカ東海岸からロンドンへ向かう東行きは、ジェット気流の追い風の影響もあり、所要時間は6時間を下回ることもしばしばです。2020年2月8日にニューヨークを離陸したブリティシュ・エアウェイズBA112便は強い追い風に乗り、なんと4時間56分で大西洋を横断し、超音速機を除く世界記録を樹立しました。


 このようにヨーロッパとアメリカは歴史的、文化的、人種的、そして地理的にも非常に近い、でも必ずしも同じではない微妙な関係にあることがわかります。

 イギリス英語とアメリカ英語の違いもその微妙な類似と相違を象徴している現象ではないかと感じます。日本人が大西洋線に搭乗することは多くはないと思いますが、もし機会があれば乗っている乗客をざっと眺めてみてください。太平洋線とは全く異なるプロファイルに驚かされることでしょう。

(江の島太郎)