飛行機で旅行する際に、皆さんは乗り換えをした経験はあるでしょうか。日本国内は国土が小さいため、乗り換えを伴う旅程は離島や需要の少ない地点に限られますが、アメリカの国内旅行や長距離国際線の旅行ではしばしば乗り換えが発生します。これはネットワーク航空会社が展開するハブ・アンド・スポークと呼ばれる運航形態が、各社のハブ空港発着を中心に設計されているため、一旦ハブ空港へ行き、次の便に乗り換える形式となっているからです。東京の西の郊外から私鉄で一旦、新宿駅まで出て、地下鉄に乗り換えるようなものです。


 ところが私は飛行機の乗り換えをするときにドキドキします。舞台裏を知っているからだと思いますが、心配のネタは二つです。まず自分の乗った飛行機が定刻に到着するか。飛行機はまま遅れることがあります。天候不良、空港混雑、機材の到着遅れ、整備などです。私はアメリカのダラスからニューヨーク経由で日本に戻ろうとした時に、経路の途中に巨大な嵐が発生してしたために、搭乗したニューヨーク行きの便がメキシコ湾まで南下して大きく迂回することになり、到着が大幅に遅れ、日本へ帰る便に乗り遅れたことがあります。パリでは深夜の空港内を走りに走って、幸運にも遅れていた東京行きにようやく間に合ったこともあります。


 もう一つの心配の種は手荷物です。出張の際は機内持ち込みだけで済ませることが多いのですが、家族旅行となるとそうはいきません。荷物をチェック・インすると、荷物が最終目的地まで届くかどうかが心配になります。ほとんどの場合は大丈夫なのですが、巨大なハブ空港を経由する時は、何が起こるかわかりません。まして自分の乗った飛行機の到着が遅れると、人間は大急ぎで走って乗り換えられても、預けた荷物は走ってくれません。運悪く間に合わなかった時は、最終目的地で手荷物事故の手続きをして、後送されてくる荷物を待つことになります。その日のうちに届けば良いのですが、そうでない場合には着替えや洗面道具などが届かず、不自由な思いを強いられます。航空会社によっては、当座の身の回りの品を購入する補償をしてくれる場合もあります。私も何度か経験がありますが、荷物が届くまでドキドキします。


 大昔、新婚旅行でカリブ海まで出かけた時のことです。帰りがけにプエルトリコのサンファンという空港で乗り換えたのですが、カリブ海を出発する便が遅れ、サンファンではターミナルビルの中を走ってアメリカ本土行きの便に乗り換えました。出発搭乗口にたどり着いた時はもうゲートが閉まる寸前でしたから、座席についたときはホッとしましたが、今度は荷物がどうなったのかが心配になりました。ところが、なかなか飛行機のドアが閉まらず、出発しないので窓の外を覗いてみると、まだ貨物室のドアが閉まっていないのです。やがて客室乗務員のアナウンスが入り、カリブ海からお乗り換えのお客様の荷物をお待ちしています、との情報提供がありました。2人で顔を見合わせて、もしかして我々のことかな、と小声で話をしました。シカゴに到着してみると、何と我々の荷物が無事に出てきたではありませんか。我々2人も走りましたが、荷物も大急ぎで乗り継ぎをさせてくれたのです。この航空会社に感謝したことは言うまでもありません。


 荷物が届かない不快な思いをされた方もあると思います。私も何度か経験があります。しかし、日本の手荷物取扱品質は間違いなく世界最高峰です。これほど手荷物事故の少ない国は私の知る限り、世界広し、といえどもどこにもありません。


 でも、万が一に備えて、手荷物には何か目印になるものをつけておくことをお勧めします。多くの手荷物は類似しており、なかなか識別がつかないからです。そして、機内持ち込みの手荷物に、一泊分の着替えと洗面道具を入れておくと、なお安心です。現代ではGPS信号を発信するタグも比較的お手頃の価格で販売されており、これを手荷物に入れておけば、万が一の紛失の際に即時に現在地が特定できるそうです。

(江の島太郎)