戦時中,島崎の隠宅に疎開していた5〜6歳の頃,父親が刀の手入れを始めると,もの凄く怖かったことを幼児体験として記憶している.何本あったか覚えていないが,床間のある座敷に座り,刀身を立て,光にかざして何かをチェックしながら,丸い布球で打ち子を塗っていた.怖いので,早く手入れが終わることを願いながら物陰から見つめていたのを思い出す.現在,その刀は我が家には存在しない.終戦直後,進駐軍がやってくる前に,所有している刀などは処分すべきということになったそうである.父は鍛冶屋に頼んで切断しナタなどにしたものも あったが,すべて土に埋めてしまったと姉に聞かされた.

父の遺品の中に薬缶に入った鍔や鎺(はばき)があった.40年間手入れしていなかったので錆だらけになっていた.錆を落とし板に半固定して壁に飾っていたがよくみると錆びたもののなかに金象嵌の後をうかがわせるものもあった.金はほとんど脱落しているが残っていたら興味ある造形であったと思われる.金が埋めこまれていたと考えられる部分を黄色の線で描きコンピュータ上で再現してみた,

注 ハバキ(鎺・鈨・はばき)とは日本刀の部材の一つで、刀身の手元の部分に嵌める金具

穴の開いた板が「切羽(せっぱ)」

次の写真の鍔には,月,花(梅),家の明かりの部分に銅が埋めこまれているようである.

刀狩りが行われたわけではないので,隠し通した人も多かったようである.我が家には槍一本と刀の鍔が残っているだけである.残っていたら登録の手続きが必要であるので,残っていなかった方がよかったかもしれない.(2012/1/20)