薬学6年制の定員割れ(2012)
田中文科省大臣の問題提起は,規制緩和による薬系学部の乱立問題にそのまま当てはまる.
2010年3月末,新設の薬学部を定年退職した直後,「薬学部入学者,3年連続総定員割れ」という薬事日報の記事を目に し,翌年の2011年5月にも同様の記事を見た記憶がある.4年連続で総定員割れが続いたことになる.
2012年度は,(薬局を閉局し業界紙を見る機会がないためか)記事を見た記憶がない.退職後に耳にする薬学部の人気も今ひとつ,いろいろ気になりウエブ上の情報を調べると「定員割れは免れた」と記されていた.
以下に,過去5,6年の定員充足率(定員に対する入学者の割合)等の動向をまとめてみた.情報源は薬事日報(新聞,ウエブ版)の記事である.
2007年度
倍率にして1.05倍
全国 50大学の6年制と4年制を合わせた入学定員は1万1094人で,それに対し入学者は1万1694人.
入学者数が定員数を割った大学(1倍以下)は11大学.50校の定員 1万1094人に対し、志願者数が8万3514人
2008年度
入学者数が定員を割り込む.0.99倍
入学時に教養学部として入学する東京大学(定員80人)を除く08年度 の総定員数1万3414人に対し、入学したのは1万3260人.
入学者が定員の1.0倍を下回る“定員割れ”は,新設2校を含む全74校中22校と約3割に達した.特に新設校に“定員割れ”が目立った反面、入学者が定員を超えていた薬系大学・学部も20校に及ぶ.
2009年度
昨年度に引き続き総定員数に届かず.0.97倍
東京大学を除く総定員数1万3294人に 対し,入学者数は1万2869人.
定員充足率(定員に対する入学者の割合)が100%を下回る“定員割れ”は,前年度より1校増え23校と約3割を占め た.一方、18校で入学者数が定員を1割以上オーバーした.
全74校の総定員数は前年度の1万3494人より 120人減の1万3374人.新設ラッシュで増加一途の“薬学生”が,初めて前年度を下回った.
2010年度
3年連続して総定員数に届かず.0.97倍
東京大学を除く73校の総定員数は1万3078人 で,入学者数は1万2668人.
“定員割れ”した大学は,昨年度より1校減少,全体の 約3割に相当する22校となった.一方、14校で定員を1割以上オーバー,引き続き大学による明暗が分かれる結果.
また,昨年度からの「定員削減」の動きは今年度も続き、総定員数は185人減少.
2011年度
前年同様に総定員数に届かず. 0.97倍
入学方式が異なる東京大学と北海道大学を除くと,総定員数1万 2938人に対し、入学者数は1万2638人.定員充足率は昨年度と同率の平均0.97.
定員割れした大学は昨年度より2校少ない19校.一方,定員オーバーの大学も20校と昨年度より6校増え,各大学間の格差が広がるアンバランスな状況が一段と顕著になった.
2012年度
一昨年、昨年と続いた“定員割れ”は免れた が,定員減などの要因が加わっている.
薬学部・薬大入学者数は,入試方式が異なる東京大学と北海道大学を除くと、定員数1万2778人に対し1万2983人( 101.6%) .しかし、入学者数が定員割れした大学や超過する大学などバラツキが見られ,アンバランスな状況は続いてい る.定員割れした大学は19校.
今年度の総定員数は1万2938人 (昨年度の1万3068人より130人減少).
定員数は“新設ラッ シュ”最終年度の08年度に,1万3494人とピークに達した後,09年度1万3344人,10年度1万3158人,11年度1万3068人と減少し,今年度は1万3000人台を割り込み,ピーク時より556人(約4%)減少した.
今年度,定員見直しが行われた大学は,北海道医療大10人増員.城西国際大20人減,安田女子大10人減,徳島文理大20人減,徳島文理大「香川」30人 減,松山大が60人減である.2年連続して減員した大学もある.
表:2012年度国公私立薬科大学・薬学部 入学状況
2006年度入学者(6年制一期生)について
入学者数全67校(国公立17校、私立50校)(東大:3年次振り分け数)--------11957人
2009年度,4年次に実施された共用試験の最終合格者 ------------------------------ 9338人(対入学者数比78・1%)
5年次へ進級,実務実習を修了し,国家試験を受験した者 ---------------------------- 8581人(71・8%)
薬剤師国家試験 合格者数(6年制第一回)-------------------------------------------- 8182人(68・4%)
入学時点から国試合格までの過程で,全体の 約3分の1が脱落したことになる(文部科学省調査).
定員割れが続いている原因については次稿で述べたい.
(2012.12.4)