避雷針 ≡ 導雷針

避雷針 ≡ 導雷針

8 月6日,36度を越える猛暑のため室内で古文書の勉強をしていたら,午後4時半頃,突然雨が降り出した.夕立(降雨量20ミリ)は歓迎と思いきや雷鳴が轟き,雨歓迎ムードは一変した.早速ノートパソコンで九州電力の「落雷情報」を見ると,熊本市の中心部(盆地的地形)に局所的に落雷を示す赤の三角マークが目白押しであった.

追記)18日にも同じパターンを記録した(右図).

かなり前,ケーブルモデム,無線ルーター,VTRが落雷で壊れた経験がある.その時はケーブルテレビ会社が借りている電柱(あるいは電信柱)に落雷し,あ ちこちの情報機器が壊れた.規制緩和でいろいろな会社が情報を配信できるようになったが,既存の電柱を借りてケーブルや各種機器を取り付けているため,被害も多岐にわたる可能性があるようだ.

注)我が国では,電柱にケーブルテレビ,有線放送等の配線をすることを「共架」と呼び制度化されている.


自宅前の電信柱 先進国とは思えないバラック配線? 保守車両の駐車のため家の前のスペースに駐車許可を依頼される.横の道は電線地中化が進行中

最近,自宅はマンション群に囲まれ,その屋上には避雷針が設置されている.そのためビルの谷間の我家に被害が及ぶことは少ないと思って,以前のよ うに全てのコンセントを慌てて抜くことはしなくなった.雷のサージ対策を施したコンセントや一斉電源OFFできるコンセントを利用していることもズボラに 拍車をかけている.それにしても昔に比べると,雷が一旦鳴り始めると近くに落ちる頻度が高くなったようだ.避雷針は,原理から判断して「雷を避けるための装置」というよりも「雷を引き寄せる装置」ではないかと日頃思っていたのでWikipediaを見てみた.


避雷針 - Wikipediaの記載内容

避雷針(ひらいしん、英: Lightning rod)は建築物を雷・落雷から保護する仕組みのひとつ。

地 面と空中との電位差を緩和し落雷の頻度を下げ、また落雷の際には避雷針に雷を呼び込み地面へと電流を逃がすことで建物などへの被害を防ぐ。そのため、「雷 を避ける針」という表記ではあるが、実際には必ずしも雷をはねのけるものではなく、字義とは逆に避雷針へ雷を呼び寄せる、いわば「導雷針」ともなる。以下省略


案の定,「雷を誘き寄せる装置」になると書かれている.マンションは屋上にテレビの共用アンテナを設置しているため,避雷針は必須なのだろう.家の周囲を調 べてみると,25本程度は見えるし,避雷針の外に先端金物類がたくさん設置されている.よく見ると携帯電話等の基地局アンテナ群である.


仕事の上でも雷に泣かされた.1970年の初めから単結晶X線回折計を利用した有機化合物の構造解析を行ってきたが,雷の時期は纏まった測定(回折データの収集)が可能な好機であるのと同時に落雷に気を配らなければならない嫌な時期でもあった.当時,九州大学薬学部に設置されていた四軸回折計は1週間程度の長時間の連続測定が必要であった.そのため,雷が鳴り始めたら急いで回折室まで走ったものである.熊大薬学部に分析センターが設置された時,避雷針を付けても安心してはいけないとIT専門家に言われた.鉄筋コンクリートの場合,網の目状の内部鉄筋を伝わらせて接地する方式もあるらしい.その場合,落雷時建物全体が強力な電荷の中に置かれるため,半導体を多用した精密機器の設置には不向きであり.また独立した導線を外壁に這わせてアースしていても直撃すれば分岐したサージ電流の回り込みによって壊れることがあるとも言っていた.落雷保険を勧められたが旧国立大学では実現しなかった.「測定を中止すればよいではないか」という考えが主流であった.新設私立大学では,二次元検出器を使ったX縁回折計を導入したため,半日で高速測定できるようになったが,それでも制御パソコンが落雷のサージで壊れたことがあった.幸い落雷保険に加入していたため,たいへん役に立った.滅多にないことだが,昼夜運転を前提にしたコンピュータ制御の測定機器では万全の対策が必要であることを実感させられた.


ところで,市販のコンセントに,バリスタ(varistor) という電子部品を使った雷対策機能を持ったものがある.バリスタはコンデンサのようなもので,素子両端において電圧が低い場合には電気抵抗が高いが,ある程度以上に電圧が高くなると急激に電気抵抗が低くなる性質を持つている.その素子を電源(コンセント)に並列に入れておくと,雷のサージが入ってきた時はバイパスしてくれるというものである.

バリスタ

1円玉より小さいセラミック素子

電子部品としての価格は100-200程度

ただし,バリスタが身代わりになって破壊された場合,以後は普通のコンセントとして利用できる製品もあるが,もはや雷サージを吸収することはない.なお,バリスタで保護する方式の雷保護装置がすべて安全とは云えない例もあるので注意が必要である.雷からパソコンを守る以前にバリスタの劣化で装置自体が発火した報告があり,152万個がリコールの対象になっている(参考資料 2参照).

家電製品の基板を調べてみると,リレーのサージアブソーバー (ZNR)として使用されている.


地震,雷,火事,おやじ,どんなに科学技術が発達しても地震を克服できないことは昨年大きな犠牲を払って経験した.雷も竜巻に関連して制御できそうな状況ではない.雷鳴が遠くに聞こえる距離は10km程度である.電力会社のホームページにほぼリアルタイムに「落雷情報」が地図表示されているので,それを見て雷雲の動きを確認し,コンセントを抜くのが最良の策である(AC電源に接続されていないバッテリー駆動のノートパソコンを無線環境下で利用する).

参考資料

1)バリスタ - Wikipedia バリスタは高電圧に弱い集積回路等の部品を突発的な高電圧(サージ)から保護するためのバイパスとして用いられる.

2)バリスタの用い方によっては異常発熱・発火が起こることがあり,温度ヒューズの併用による改善が求められている.[PDF] 電気製品の発火事故原因究明事例につ いて

3)(無償製品交換)について - 経済産業省

(2012/8/10)