メタンハイドレートの構造

2月14,15の両日,メタンハイドレート試掘開始の話がテレビで報道されていた(2012年).

かなり前に,次世代エネルギーのひとつとして話題になっていたので,それなりに進んでいるものと思っていた.ところがようやく日本近海で試掘が始まるとのことである.本件も原発が問題にならなければ,風力,地熱,波力などと同様に放置?されていた案件かもしれない.

ところで,2004年に,水分子がメタン,プロパン,アダマンタン等を抱接した構造(抱接水和物)を単結晶解析したという論文が米国化学会誌に掲載された.メタンガスとの抱接水和物がメタンハイドレートとして知られているが,ほかの炭化水素でもよい.

専用のソフトで結晶充填図を描いてみた.水分子には2個の水素,メタンには4子の水素が付いているが,結晶では向きが一定でないため水には4個の水素が付いたような図になっている.メタンも同様にあちこち向きの異なるものが存在する. 水分子間に働く結合力はO-H---O(俗にいう水素結合),メタンとの結合はC-H---Oである.分子間に働く力は弱いが三次元的に規則正しく配列することにより集積されるエネルギーはかなりのものになる.

以前,半経験的分子軌道法による構造予測ができないか試したことがあるが,AM1, PM3ではカゴ型構造が崩れて再現できなかった.

Gas Hydrate Single-Crystal Structure Analyses

.J. Am. Chem. Soc., 2004, 126 (30), pp 9407–9412

著者 Michael T. Kirchner, Roland Boese, W. Edward Billups, and Lewis R. Norman

サマリー

The first single-crystal diffraction studies on methane, propane, methane/propane, and adamantane gas hydrates SI, SII, and SH have been performed.

最近,2−ハイドロキシインドリン系ホストの結晶抱接体の構造計算に半経験的分子軌道法であるPM6が適していることを報告したので,さっそくPM6法を用いて計算してみた.

米国化学会の追補資料として座標がダウンロードできるので,それをケンブリッジ結晶データセンター(CCDC)が提供しているMercuryというソフトで開き,分子計算用のデータを作った.

構造最適化した結果を次図に示した.水の酸素原子に注目すると5員環を構成し,それがサッカーボールのように12面体で球状に張り付いている.

中心にメタンが鎮座しているのが五員環の中心の窓から覗くことができる.

充填モデル

水素を隠した図

20分子の水によってメタン1分子が単純に抱接されると仮定して,安定化エネルギーを計算するとかなりの値になる.

実際は以下に示すようにメタン1分子に対して約6分子が抱接に関与する.共有結合で繋がっている分子を計算するのは難しいことではないが,今回のように弱い結合(相互作用)によって集合している分子を計算できるようになると分子軌道計算も利用価値が飛躍的に上がるものと考えられる.その理由は医薬品が生体に作用する際,共有結合することはない.弱い相互作用で薬効を発揮する.薬を認識する部位は高分子である.PM6のような経験的分子軌道法でないと到底計算できない.そういう意味で大変興味ある結果である.

(2012/2/16)

タンハイドレートは、メタン分子CH4を水分子H2Oが取り囲んで(正に近い)十二面体になっています。(下の参考サイトの図を参照してください)図形としての十二面体には頂点が20個有り、そこに水分子が存在します。メタンハイドレートの十二面体にはさらに3個の水分子が有るようで1個のメタン分子CH4に対して合計23個の水分子H2Oが対応しますが水分子1個は4個の十二面体に共有されていると考えられるので、4で割って23÷4 = 5.75 だから、比率がCH4 : H2O = 1 : 5.75

追記

弱結合,弱相互作用には,CH--O, CH--N, CH--π, Ar--Ar(垂直⊥型)等がある.その存在を疑問視する人もいるが,最近その存在と重要性が証明されたと言っても過言ではない.

水は液体状態ではいろいろな様式で会合し,それらが混じり合っていることが判っている.次図は2分子,環状5,6分子のPM6計算構造である.