日本の総電力需要を賄うソーラーパネル&熱プラントの面積

一般家庭用の太陽光発電装置の価格はかなり低下したが,売電により元を取るには25年くらい必要である.いくらエコ貢献とは言え,われわれ世代の年寄りが今更投資をして導入しても自己満足に過ぎないと思い真剣に考えることはしなかった.一方,東北関東大震災以来小規模の発電装置や発電機能を持った商品が開発され,いろいろなアイデア商品が販売されている.携帯電話依存社会を反映して,停電しても携帯電話の充電ができる手回し発電機兼ライト&ラジオはその代表的な一例である.ノートパソコンとなると車のルー フ程度のソーラーパネルが必要である.120センチ×50センチ程度のソーラーパネルを使えば,太陽光発電装置(パネル,制御器,AD変換器,蓄電池)が5万円程度で自作することが可能になった.この程度の装置で30Wノートパソコンが1日使用できる.パソコン用ソーラー発電システムの自作をトライしてみようと思い,いろいろ資料を収集している過程で,システムの設置面積に関する記事を見つけた.2012年時点のデータです

太陽光パネルの場合

「年間発電量の(10%にあたる)1000億kWhを太陽光発電所でまかなうにはどれだけの面積が必要か?」という記事がインターネットに載っている.詳細は下記URLを参照.

http://greenpost.way-nifty.com/softenergy/2009/03/1000kwh-4b6c.html

太陽電池モジュールの変換効率が15%のパネルを用いた場合,730km2の面積が必要であり,一辺が約27kmの正方形の土地にソーラーパネルを敷き詰めればよいという答えになったそうである.

ところで,日本の年間電力消費量は十倍の約1000TWh/y(テラワットアワー/年)である.注)1テラ=1 000 000 000 000(1兆)

福島第一原子力発電所の年間発電量は33TWh/y,太陽光発電はその1/10である.

これをすべてソーラーパネルで賄うためには,熊本県 7405.21km2あるいは宮城県 7285.73km2に匹敵する面積が必要である.

日本の全発電量に占める太陽光発電の割合は,わずか0.2%(2008年)である.当面の目標として,太陽光発電の割合を10%に定めると上述の27km x 27kmの面積が必要である.これを47都道府県に均等に分割すると各県あたり3.9km×3.9km程度の面積である.一軒で4kWシステムの場合,太陽電池モジュールの設置面積は約25~40m2である.一軒40m2として試算すると一般家屋だけなら38万世帯必要である。熊本県の世帯数は689,190であるから、2軒に1軒太陽光パネルを設置しなければならないということになる.公的機関,企業,学校,新築家屋等の屋上や屋根に設置すれば実現可能な気がするが妄想だろうか. 日本の総電力を賄うにはその10倍の規模になり,個人の協力(投資)で解決できるものではない.2020年は8.5%である.

なお,パネルの必要面積は変換効率で変化する.現在,ソーラーパネルの変換効率は量産レベルで17%程度,人工衛星に装着されているパネルの変換効率は35%である.

追記:産総研のホームページには,「日本の平均的な環境においては、1kWp分のパネル(pはピーク)を用いた設備は、一般的には1年間に約1000kWh前後を発電します。」と書かれている.これをもとに全世帯4KWパネルとして計算すると,日本の年間発電量の10%である1000億KWhを賄うには全国で2500万世帯,一都道府県あたり53万世帯になる.シリコンは無尽蔵かもしれないが周辺設備に必要な金属,半導体,プラスチック類の量は膨大な量になる.

太陽熱システムの場合

集光型太陽熱発電に関する論文がインターネットで見ることができる.

http://www.dlr.de/tt/Portaldata/41/Resources/dokumente/institut/system/projects/Ecobalance_of_a_Solar_Electricity_Transmission.pdf

論文タイトルは,Eco-balance of a Solar Electricity Transmission from North Africa to Europe(北アフリカからヨーロッパへの太陽光発電送電のエコバランス)であり,ヨーロッパで2番目に古い名門であるブラウンシュヴァイク工科大学(TU Braunschweig)の論文である.

論文は仮定の話だけではなく,種々の技術的提案とシミュレーションを行っている.その中で,単位面積あたりの太陽エネルギー(3000 kWh/m²)をもとに理論面積を見積もっている.試算では、気候条件の面から太陽エネルギー発電に適した北アフリカ諸国(モロッコ、アルジェリア、チュニジア、リビアとエジプト)の何処かに254 km x 254 kmの敷地を確保し,敷地いっぱいにソーラー熱発電プラントを設置すると世界全体の電力需要を賄うことができる.EU加盟国なら110 km x 110 km,ドイツ一国なら500 TWh/y(テラワットアワー/年)であるから45 km x 45 km程度の面積で十分と分析している.この結果をもとに,日本について推算すると,日本の年間電力消費量は約1000 TWh/yであるから,64 km x 64 kmの面積で賄うことができることになる.ちょうど鹿児島県全体にプラントを設置することに相当する.昨年秋スペインで集光型太陽熱発電所が稼働開始した.中央のタワーに太陽光を集め,溶融塩に熱をためて発電する.この方式は緯度の低いところでないと効率が悪いので日本には向いていないようである.

注)ドイツの2010年度年間電力消費量 604000GWh.

北アフリカ諸国の砂漠に太陽熱プラントを敷き詰めたと仮定した場合の世界,EU,ドイツの電力需要に対応した面積

地図上に赤枠で示された面積

大 世界の電力需要,中 EUの電力需要,小 ドイツの電力需要

インターネットで公開されているpdfファイルの図を切り出し使用した.

原文 Total yield of the solar thermal potential

An area of 3.49 million km² is available for potential locations of solar thermalpower plants in the North African countries Morocco, Algeria, Tunisia, Libya and Egypt (DLR, 2005). If a solar electricity yield of 250 GWhel/km² is taken as base for

this area, a yield of 872,500 TWhel/y would result. The actual world’s energy demand of 16,076 TWh/y could theoretically be met many times better (BMU,2004b; Statistisches Bundesamt, 2004).In other words, an area of 254 km x 254 km would be enough to meet the total electricity demand of the world. The amount of electricity needed by the EU-25 states could be produced on an area of 110 km x 110 km. For Germany with a demand of 500 TWh/y an area of 45 km x 45 km is required, which concerns 0.03% of all suited areas in North Africa (BMU, 2004b).

資料

TECHNICAL UNIVERSITY OF BRAUNSCHWEIG

Faculty for Physics and Geological Sciences

Eco-balance of a Solar Electricity Transmission from North Africa to Europe

Diploma Thesis of Nadine May

First Referee: Prof. Dr. Wolfgang Durner

Second Referee: Prof. Dr. Otto Richter

Braunschweig, 17th August 2005

(2012/3/1)