簡単ではない新エネルギー移行

発電電力量の構成と化石燃料依存度

知人とエネルギー問題についてディスカッションしていたら,原発や化石燃料に替えてソーラーや風力発電にすればよいというお決まりの話になった.それが簡単ではないことを説明するために「新エネルギーへの移行状況」に関する資料をさがしていたら,資源エネルギー庁が「発電電力量の推移」等の年次データをホームページに公表していることを知った.

さっそくホームページを見てみたが,データが多すぎるため,素人には分かりにくい.そこで,「発電電力量の推移に関するデータ」と「化石燃料依存度の推移」を抜き出してみた.

次図は発電電力量の推移とその内訳である.総発電量は2007年をピークに下降気味であるが,ほぼ10,000億KWh, 言い換えると1000TWhである.

現在,日本の全発電量に占める新エネルギーのシェアは1%程度である.そのうち太陽光発電の占める割合は,20%,全発電量の0.2%程度である.統計によると全国で100万世帯が太陽光発電装置を設置している.標準的な設置費用は1件200万円程度であるから,100万戸設置するのに要した民間投資額は2兆円に達する.今後設置戸数を前年の10%ずつ増加させても8年経たないと2倍の200万戸にはならない.現在年間1000TWh(10,000億KWh)である総電力量の31%を占める原発分を太陽光発電等の新エネルギーに置き換えるには国家予算を越える投資が必要である.

次図右側には非化石エネルギーと化石エネルギーの比が示されている.原発を廃止すれば化石燃料へ移行せざるをえない.原発事故以来,火力発電へ切り替えて不足分を賄っている.LNG(液化天然ガス)は、燃焼時のCO2排出量が少なく,環境によいと言われているが,依存し過ぎると総量的に問題になってくる.原発や火力による発電方式を新エネルギーへ一気に転換できれば問題はないが,そう簡単ではない.年次計画で増やすと言ってもかなりの時間が必要であることを覚悟しなければならない.

当面,地球温暖化防止のために全力を注ぐことはできないだろう.そうは言っても国際公約のため化石燃料の削減努力を怠るわけにはいかない.世界をリードしてきた我が国の半導体産業もテレビ産業も破綻した,残るは再生エネルギー産業だけかもしれない.また,我が国は火山国,無尽蔵のクリーンな地熱エネルギーを有している.ところが,「地熱発電を実現すべきである」と誰かが言うと,「国立公園で規制されているからダメ」という,また,観光業者は「温泉源が絶たれる」と反対する.しびれを切らしたのか大手の商社はインドネシアで大規模地熱開発プロジェクトを受注したそうである.日本は島国のため,ヨーロッパ諸国のように隣国から電力を輸入することはできない.一昔前の火鉢,こたつの時代に戻り,新幹線や航空機の便を減らすことができるとは思えない.現在国家が抱えている長期的視点で対応しなければならない諸々の課題と同様にすでに「答え」は出ている.

太陽光発電協会によれば,太陽電池容量 1kWシステム当たりの年間発電量は約1,000kWh,一世帯当たりの年間総消費電力量は5,650kWh/年であるから,4kWシステムを設置すれば、70%程度を太陽光発電でまかなえる計算になるそうである.全家庭が太陽光発電装置を付ければほぼ家庭用電力はま確保できるとしても,家庭のエネルギー消費量(電気以外も含む)は全体の14.2%である(下図参照).産業部門,運輸部門等の残りが問題である.メガソーラー,メガ風力,メガ地熱等の開発が緊急の課題である.電気事業連合会には次の記載がある.

メガソーラー発電計画 - 新エネルギーへの取り組み

14万kWのメガソーラー発電の年間発電量(約1億5,000万kWh)は、約4万軒分の家庭の電気使用量に相当。約7万トンのCO2排出量削減に貢献します。

14万kWのメガソーラー発電建設には、約400万㎡(甲子園球場のグラウンドの約270倍)の広大な用地が必要となります。

注)4万軒は多すぎるようである.2万6千軒分程度?

注)出力が1MW(メガワット) (1000kW)以上の施設は一般的にメガソーラーと言われている.

(2012/4/8)