ベンザルコニウム塩化物による緑苔退治


陽が当たらない場所のコンクリート,外壁,家の基礎部分等は緑の苔が生えてくる.その除去には高圧洗浄機が威力を発揮する.しかし,高圧洗浄機で除去するといっても高圧水流のノズル幅が狭いため,駐車場の広さを除去するのは大変な仕事である.例えて言えば,小さな紙片を黒く塗るのにマジックで塗れば簡単であるが,同じことを鉛筆を用いて行うようなものである.そのうえ,長時間にわたって物凄い音(誇張ではない)を撒き散らすため,隣家が不在の時を選んで実施するようにしているが,それでも信号待ちの車の中に居る人が何事かと注視する始末である.苦労してきれいになっても,雨が降ると,再び苔が生えてくる.毎年イタチごっこが続いている.

そこで,何か名案(もっと楽な)はないかとネットで調べると,無料相談サイトに同様な質問がたくさん寄せられていた.デッキブラシでこする,高圧洗浄機をかける,専用の薬剤をスプレーするなどである.手抜き法?である専用スプレーはあちこちのネットショップで,そのものズバリの商品名(コケ・カビトレールのような)で販売している.成分を明記しているものは少ないが,いくつかの製造メーカーが開示している情報や特許情報を調べるとベンザルコニウム塩化物と銅化合物である.銅化合物の代わりに酵素,防腐剤,アルコール等が調合されている場合もある.主剤はベンザルコニウム塩化物,日本薬局方収載の逆性石鹸であり,2%程度の溶液である.医療分野での濃度は0.01〜0.2であるから2%はかなり高い濃度である.

さっそく,手持ちの10%オスバン溶液を2%に調製し実験してみた.スプレーしても直ぐには綺麗にならない.1日〜数日放置しておくと予想に反して綺麗になっていたので少々驚いた.

左の写真は車の前バンパー下のコンクリートの苔に2%オスバン液を円形にスプレーして約20時間後の様子,真ん中の写真の右半分は1年前に高圧洗浄機で洗浄した外壁(店舗)である,左半分はオスバン液を噴霧した結果である.右の写真は緑黒色になった小石の左半分に本液を塗って数日放置したものである.左側の小石も液がかかった部分は一部綺麗になっている.

ベンザルコニウム塩化物は,四級アンモニウム塩の混合物であり, C6H5CH2N+(CH3)2R•Cl (R = C8H17 ~ C18H37)で表される.

R=C12H25誘導体の分子構造

青色の原子は窒素

緑色の原子は塩素

添付文書の一部を以下に示した.

添付文書(一部)

オスバン消毒液10%

基準名 日本薬局方ベンザルコニウム塩化物液

組成 ベンザルコニウム塩化物(塩化ベンザルコニウム)、10w/v%水溶液

性状 無色~淡黄色澄明の液で、特異なにおいがある。振ると強く泡立つ。

薬効薬理

  1. 本剤は芽胞のない細菌、カビ類、すなわちグラム陽性・陰性菌のみならず、真菌類にも有効であるが、結核菌及び大部分のウイルスに対する殺菌効果は期待できない。

  2. アルキル側鎖がC12H25のベンザルコニウム塩化物は有機物存在下での殺菌力が優れている。

有効成分に関する理化学的知見

ベンザルコニウム塩化物の分子式は〔C6H5CH2N(CH3)2R〕Clで、本剤の場合、RはC12H25が80~85%、C12H25+C14H29が98%以上である。

逆性石鹸はプラスに荷電しているため,タンパク質のマイナス電荷と 電気的吸引力(クーロン力)により吸着する.そのため,細菌カビなどの微生物に作用させると,表面に吸着して細胞膜を変性させることで殺菌作用を示すと言われている.

ベンザルコニウム塩化物の苔に対する作用機序も同様に考えることができると思われるが,繁殖に関わるどのような細胞に作用するかはっきりしない.この種の商品は誇大広告であることが多いが,ベンザルコニウム塩化物だけでそれなりの効果があると考えてよさそうである.本剤を自然界に撒き散らしてよいかという問題はあるが,逆性石鹸はリンスや衣類の柔軟剤に大量に使用されていることを考えるとそれほど問題はなさそうである.

追記 10%溶液600mlが800円,これを2%溶液に希釈した溶液500mlを同程度の価格で販売している.


関連リンク

(2012.9.29)