熊本藩年表稿ー話題いろいろ

「熊本藩年表稿」(熊大学術レポジトリ)は話題満載である.大きな出来事に隠れて目につき難い話題のいくつかを以下に紹介した.それぞれの項目の詳細を調べるとさらに面白いことが分かるはずである.史料の略号は「熊本藩年表稿」のものである.注)熊本藩年表稿はダウンロードできなくなっている(2022年1月).

史料には,「手永」という言葉が使われている.手永とは,細川氏が採用した肥後藩特有の行政区である.郡奉行の助役である惣庄屋を手永に任命し,政治,経済,軍事を民間に委託して行わせた.忠利は前任地の小倉時代にもこの制度を採用している.民間にやらせることで,予算を節約できたため,細川藩はしだいに豊かになり,裏の石高は75〜100萬石と言われるようになった.また,熊本には,市内,郡部あちこちに石橋が残っているが,これらも手永による工事である.手永制度は肥後人気質を醸成したと指摘する人もいる.

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藩主の借金 1642年

寛永19年3月14日 藩主入用分として1000両を甲賀道賢より借用す.金利は1割5分とす(神雑 159).藩主 光尚

オランダ外科 1642年

寛永19年8月13日 内藤宗印に長崎にてオランダ外科を習わせる.(奉書).

参勤交代の人数 1645年

正保 2(家光)光尚

2.15 光尚、参勤のため熊本を発す。 3 月16日江戸に着。 総数2,720人 (本). 延べ人数?

巨大流星 1652年(西暦1652年10月9日)

承応元年 (家綱) 綱利

9月8日いぬの下刻に西より東の方へ火飛ぶ。 瞬間昼間のようであると報ず(玄察).注)鹿児島,宮崎の古文書にも記載あり.

佐土原城 遠侍間 -日向国 謎の事件簿-西国光り物の事

飛脚,参勤に必要な日数 1703年

10月15日 去月27,28日江戸より仕立てられた飛脚により綱利先月28日未ノ刻江戸発駕,河崎へ宿泊の段申来(奉日)

綱利9月28日江戸発駕,11月5日熊本着(奉日)

富士山崩落 1707年

安永4年10月4日 東海道大地震(本,合,覚).肥後地震,とくに人吉において被害多し(蔓綿,肥)

11月22日 この日から25日にかけて富士山麓山焼け近国大地震.宝永山生ず.28日平静にもどる(本).

藩主の肥満 1716年

享保1年(吉宗),4月6日 藩主(宣紀)肥満にて歩行不自由に付城内杖願許さる(家譜続・肥).

重賢も足をいため同様の願いを出し,許されている.

温泉湧出づ 1725年

11月22日 辰の下刻,肥後大地震,山鹿辺最も烈しく山本郡慈恩寺温泉湧出づ(肥・肥国誌下 290).現在は鹿本郡

黒田家と和解 1736年

6月 忠興以来久しく確執ありし黒田家と和解(肥).関が原合戦後の転封の際の争い事,諸説あり.

鯨漂着 1763年

11月 郡浦手永赤瀬村黒崎へ鯨漂着,村方へ肥料として下渡す(年覚).宇土半島?

阿蘇山噴火 1765

明和2年1月 阿蘇山噴火,砂,筑後豊前肥前薩摩に及ぶ,特に阿蘇谷中諸人難渋甚し(肥).

鯨油(殺虫剤)1766

稲の虫害防除に鯨油を試用(年覚),その後効果を検証,費用の半額補助を実施.

北の方空一面炎光 1773年

安永2年7月28日 暮頃より北の方空一面炎光見え,夜四ツ頃に至り(夜10時頃),熊本内白昼の如く明り,其炎光の内に縦に笠を立てしようのもの幾筋も見ゆ,夜半消失(肥) 現象を特定できていない.

死者よみがえる 1782年

天明2年9月 合志郡久米村での死者,葬儀の際,よみがえる,以後葬儀は時刻を考えること(藩法 899)

医師には相応の謝礼を 1782年

天明10月19日 近年家中の病家より医師への謝礼を怠るものあり,このため難渋の医師少なからず,故に去る6日医業吟味役より通知,医師には相応の謝礼をする様達(肥,「触」は11日とす).

山鹿灯籠 1784年

天明4年9月8日 山鹿灯籠,両夜に執行すること(覚).

雲仙岳崩落 1792年

3.1 熊本地震60余度、 島原温泉岳に煙り見ゆ。 5 日よりよな降る (肥)。 14 柳川城下出火、 900軒余焼失 (本)。

4.1 肥後沿岸一帯に温泉崩れ津波来襲、 2,250軒流失、 5,520人死亡 (年譜) (「肥」は 2,252軒流失、 5,209人死とす)。 「本 」 は 1,520人死とす)。 川尻で泰宝丸新造出帆式あるも津波で二丁村陸地に突上げる (肥)

熊が生息していた 1801年

享和元年5月 熊胆,再春館に貯めるにつき矢部,砥用,菅尾3手永で毎冬とれ次第,1手永(熊本藩の行政区)3疋宛再春館に払うように,尤も相応の代銭を渡下されるとの達 (年合).

箒星 1807年

文化4年8月 阿蘇山不穏(寺例続).寅卯の間に箒星あらわる(肥).川尻にて三つ子誕生,例によりて銀5枚下されるべきところ,すぐに一人死亡ゆえ下されず(市雑坤82)

鼠小僧 1832年

天保3年8月19日江戸にて鼠小僧次郎吉死刑獄門 (本)。

サフラン 1833年

天保4年 11月 サフラン中品目方1匁に付,14匁6分2厘5毛にて買上(肥)注)銀1匁1500円

生薬としては番紅花(ばんこうか、蕃紅花とも書く)と呼ばれ、日本薬局方第二部に「サフラン」の名で収録されている.有効成分は、乾燥した雄しべは、配糖体クロシン(黄色の色素)が含まれ、化粧品や食品の着色料に使われていて、サフナラールは、鎮痛、沈静、通経作用がある.

時習館運営の苦労

明和2年 1765 町在の者時習館に居寮する事は抜群の者に限る(年合).

天明元年 1781 3月1日時習館聴衆の中に不敬の者あるにつき達示(藩法623).

享和元年 1801 3月 時習館に千石以上の家士子弟の出席少きを以て督励す(肥)

天保5 1834 1月 時習館通学の往来にて争論する者あり、弊害少からざるを以て子弟心得方示達す、 2 月 6 日家老よ り 通達 (肥)

天保9年 1838 5月 時習館往来にて崎村只之助口論,相手を切殺,帰宅の上切腹,双方共12,13才なり(本)

初もの売買禁止 1842

天保13年 4.11 江戸においても初もの野菜売買停止

種痘 1850年

嘉永3 家慶 斉護

1月 寺倉秋堤.高橋春圃とともに長崎に赴き,モーニッケについて種痘を学ぶ(城南史 483)

3月 寺倉秋堤,長崎より帰国し,上益城郡鯰会所で,二名に種痘す(城南史 483)

その他,4月にかけて山野のすず笹に実成る(肥)

通潤橋工事 1852

12月 矢部郡手永惣庄屋布田保之助,通潤橋の架設に着手,安政元年 (1854) 8月竣工(肥).

化学製薬など 1870年

明治3年

10月9日菜園内に舎密所を創設し、化学製薬等を研究せしむ(国事)

10月20日洋学所を再興し,職員を任命す(国事)

11月14日洋学所規則を制定して,入学志願者を募る(国事)

西洋医学所 1871年

明治4年 護久

1.18 治療所(西洋医学所)入学規定を定む(肥)

3.4 藩学時習館を解消して,兵式操練場とする(国事)

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大地震

1619 3.17 肥後大地震

1625 6.17 熊本地方大地震 熊本城内も被害甚大

1661 7.10 肥後大地震 翌日まで中小地震3回

1662 9.19 是夜大地震

1695 4 大地震あり

1705 阿蘇大地震

1706 4 大地震,大地破れ家屋の崩壊,圧死するもの多

1723 11.22 辰の下刻,肥後大地震,山鹿温泉湧出(前出).詳細資料

1725 9.25 天草地方大地震,引続余震あり

1769 6.11 川尻方面大地震

7.28 未ノ刻,熊本大地震

8.1 烈風地震.川尻方面も地震

1778 2.5 川尻方面大地震3回

1789 10.8 大地震にて此日迄日数7日昼夜数度襲う

1854 11.5 5日および7日に大地震

大火事

1628 3月 熊本坪井竹屋町から出火し,1200余軒を焼く(県史,年表)

1671 1月下旬 熊本大火,侍屋敷,足軽及町屋敷500余軒焼失す(家譜続).

2月14日 八代城下に前月下旬火事あり,500戸焼失するという(実紀).

1707 3月5日 府内山崎住江専右衛門長屋より出火,侍屋敷 78軒,古町町屋 1036軒,本山村百姓20軒,寺18寺焼失(本・肥).

1708 3月10日 坪井竹屋町より出火,1200余軒類焼,死人怪我人が多く出たため,草葉町,広町できる.

1716 9月30日 牛刻,千葉城長岡内膳家から出火,飛火にて竹の丸下,竹小屋焼失,下通から宝町筋,白川端まで焼失(家譜続).

1719 4月28日 藪の内より出火,1403軒焼失(肥).

1778 閏7.28 焼失家屋 1,798軒,内侍屋敷 353, 軽輩屋敷 1353,町家 92,寺社 13,その他(肥,家譜続).

1791 12月18日 府内城下町より出火,400軒焼失(本).

1858 1月18日 山鹿本町出火・400軒類焼(肥).

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(2012/7/10)