通訳ガイドテキスト(初版)
チェックノート
2025.09. 26 全国通訳案内士1次筆記試験合格発表(予定)
チェックノート
通訳案内士の実務の試験範囲であるテキスト(試験範囲)が「観光庁研修テキスト(第1版)」から「通訳ガイドテキスト(初版)」に変更されました。
全国通訳案内士1次試験の1教科「通訳案内士の実務」の試験勉強には必ず「通訳ガイドテキスト」(初版)を読み込む必要があります。
結構細かい部分も出ます。
なお、以下に「ちよろぎ:」とあったり、アンダーラインを引いているのは、私ちよろぎが重要と思ったり過去に出た記憶があるところです。また、追加、改訂など赤字がある部分は今回の変更による部分です。
目次
本文
↑今年度、変更になっています
<過去に『観光庁研修テキスト(第1版)』(~2024年)(2025年『通訳ガイドテキスト(初版)』へと改訂)から出題があったので全文引用掲載します→
2025年のガイドラインには、「本科目については、原則として、令和7年4月に観光庁より発行された「通訳ガイド
テキスト(初版)」を試験範囲とする。」との記載があります>
[通訳ガイドテキスト(初版)]
『初めに』
◎通訳ガイドが求められる背景
2024年に我が国を訪れた訪日外国人旅行者(以下、「訪日外客」という。)数は、過去最高となる3,687万
人を記録するとともに、年間の訪日外国人旅行消費額も過去最高の8兆1,257億円となるなど、観光は我が
国の経済を支える重要な産業となっています。
直近の訪日外客の動向は大きく変化しています。インバウンド消費動向調査(旧:訪日外国人消費動向調査)
によると、2012年には観光・レジャー目的の訪日旅行のうち約61%を占めていた個人旅行は、2024年では
約83%となっています。さらに、モノ消費からコト消費への移行、地方部への訪問など、我が国の豊かな自然
や文化に直接、深く触れたいというニーズが高まっています。
これまで、通訳ガイドは、訪日外客の「言葉の壁」を解消するとともに、快適かつ有意義な滞在を支援し、訪日
外客の満足度の高い旅行に貢献してきました。一方で、通訳案内士法は、制定から70年以上が経過し、通訳案
内士の不足に加え、大都市部への偏在や対象言語の偏り等が顕在化してきたことから、訪日外客の増加及び
ガイドニーズの多様化に対応した見直しを行うべく、2018年に改正され、通訳ガイドが働きやすい環境整備
が進められています。
◎これからの通訳ガイドの役割と重要性
全国通訳案内士については、高度な外国語能力や日本全国の歴史、地理、文化等の観光に関する幅広い知識
を有し、急増する訪日外客や多様化するガイドニーズに的確に対応すべく、重要な役割が期待されています。
また、高付加価値旅行者の訪問は、大都市圏への訪問が多数を占め、地方を訪れる旅行者は少ない現状であ
り、各地で、高付加価値旅行者の消費額拡大や地方誘客を促進するため様々な取組が行われています。知的
好奇心が強くその土地ならではの本物の体験を志向し、それに見合う消費が期待できる高付加価値旅行者に
おいては、単なる情報提供ではなく、高付加価値旅行者の潜在的要望や興味関心を読み解き、ストーリーを
持って魅力を伝えることができる通訳ガイドの重要性がますます高まっています。
観光庁としては、語学力及びガイドスキルの高い通訳ガイドが「憧れの職業」となるよう認知度向上や魅力発
信等、各種施策に取り組んでまいります。日本の魅力を的確に伝え、訪日外客の満足度を高め、持続可能な観
光地域づくりに貢献できる通訳ガイドを目指しましょう。
(下線・赤字などはちよろぎ。以下も同じ)
↑通訳ガイドが求められる背景
全国通訳案内士(国家試験合格、登録により資格取得)
高い知識・日本全国の歴史・地理・文化等の観光に関する質の高い知識・技能を有するガイド
訪日外国人旅行者に対して満足度の高いガイドサービスを提供する者として期待
⇒通訳案内研修の導入により全国通訳案内士の質を高めていくとともに認知度向上・就業機会確保を図る
地域通訳案内士(自治体による研修修了、登録により資格取得)
特定の地域について、その固有の歴史・地理・文化等の現地情報に精通した地域のガイド
各地において多様化するガイドニーズに的確に対応することができる人材として期待
⇒各地域において地域通訳案内士制度の導入促進により当該地域におけるガイド不足の解消を図る。
多様な主体の外国ガイド(ボランティアガイド等)
語学に長けた人材や留学生・海外勤務経験者などの通訳案内士の資格は有しないものの自身の知識・能力と訪日外国人旅行者のニーズに合わせた観光案内を行うガイド
海成通訳案内士法施行により、多様な主体の外国語ガイドが有償でガイドを行うことが可能
*「外国語ガイド」の名称は使用できるが、「通訳ガイド」等の通訳案内士法上の有資格者と同じ又は類似する名称を利用することは出来ない。
(名称独占)
*通訳案内士法(条文)→ サブページへ。 ↑サブページの表示を変更。見やすくしました。
通訳案内士制度は、訪日外客の「言語の壁」を解消するとともに、快適かつ有意義な滞在を支援することに
より、訪日外客に対する満足度の高い旅行の提供に貢献してきた。
近年、訪日外客数が急激に増加している一方で、これに対応する通訳案内士の絶対数の不足に加え、大都市
部への偏在や有資格者(資格言語)の英語への偏りもあり、通訳案内士制度は、多様化する訪日外客のニーズ
に対応できていない状況にあった。こうした状況を受け、政府の規制改革会議の中でも、通訳案内士制度のあ
り方についての審議が行われた。規制改革会議の答申を受け、「規制改革実施計画」(平成28年6月2日閣議
決定)において、「訪日外国人旅行者の増加とニーズの多様化に対応するため、通訳案内士の業務独占規制を
廃止し、名称独占のみ存続する」と盛り込まれた。
結果、第193回国会に提出された改正法案が平成29年5月に成立し、「通訳案内士法及び旅行業法の一部
を改正する法律」(平成29年法律第50号)(以下、「改正法」という。)は平成30年1月4日に施行された。
↑この改正により、外国人と日本の観光従事者の間に入って外国人のために観光案内や旅行に対する通訳(旅行ガイド→外国語ガイド)の便宜を図ることは、誰でも可能になった。(ただし、旅行業法に係ることは全国通訳案内士の資格の有無にかかわらずできない)
全国通訳案内士は内容を規定され、質の高い知識・技能を持った特別のガイドとしての品位を保つため、知識の維持向上の努力義務とあっせん行為などの違反行為に対する規定が明記された。メリットとしては名称独占のみが残った。
2025年通訳案内士の実務試験に出題
改正法施行後の通訳案内士法(以下、「通訳案内士法」という。)では、改正前の通訳案内士法(以下、「旧通
訳案内士法」という。)に基づく通訳案内士の名称が「全国通訳案内士」に変更となった。同時に、特定の地域で
活動する通訳案内士については、これまで「沖縄振興開発特別措置法」、「中心市街地の活性化に関する法律」、
「構造改革特別区域法」等の法律で規定されてきたが、新たに「地域通訳案内士」として定められた。
これにより、地域通訳案内士も通訳案内士法に規定された有資格者として位置づけられることとなった。
[通訳案内士法条文]
(目的)
第一条 この法律は、全国通訳案内士及び地域通訳案内士の制度を定め、その業務の適正な実施を確保することに
より、外国人観光旅客に対する接遇の向上を図り、もつて国際観光の振興に寄与することを目的とする。
(業務)
第二条 全国通訳案内士は、報酬を得て、通訳案内(外国人に付き添い、外国語を用いて、旅行に関する案内をする
ことをいう。以下同じ。)を行うことを業とする。
2 地域通訳案内士は、その資格を得た第五十四条第二項第一号に規定する地域通訳案内士業務区域において、報
酬を得て、通訳案内を行うことを業とする。
(1) 様々な主体の参画
通訳案内士制度のあり方については、前述の規制改革会議の答申等を踏まえ、平成26年12月より、観光庁
において開催された「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」(以下、検討会という。)の最終取りまとめ(平
成29年3月)において、以下の方針が示された。
「外国人に対し、有償で、外国語による旅行に関する案内を行うことが独占的に認められている通訳案内士
の業務を開放し、様々な主体が参画して多様なニーズに臨機応変かつ的確に対応できるようにし、観光先進国
として質の高い観光交流を実現するために必要な環境を整備すべきであるということである。
具体的に、『通訳案内士』については、下記の点について見直しを行うべきである。」
• 我が国の歴史や文化に関する正確な知識を有し、かつ、訪日外客に満足度の高い案内を行うことができる
者として、憧れの職業となるように位置づけを整理し直す。
• 現場感覚を取り入れた試験を課し、定期的な研修を義務付ける。
(2) 業務独占の廃止
改正法により、旧通訳案内士法第三十六条「通訳案内士でない者の業務の制限」(通訳案内士でない者は、報
酬を得て、通訳案内を業として行つてはならない。)が削除された。
これにより、通訳案内士制度において業務独占規制が廃止され、全国通訳案内士又は地域通訳案内士の資
格を有さない者であっても、有償で通訳案内を行うことが可能となった。
(3) 名称独占
一方、以下の条項については条文の一部を改めて残され、名称独占規制は存続することとなった。
名称独占規制の存続は、全国通訳案内士及び地域通訳案内士以外の者が、当該名称を用いて業務を行うこ
とを禁ずることにより、訪日外客や旅行業者等、ガイドの利用者が質の高いガイドを選択することを容易にす
るものである。
2025年通訳案内士の実務試験に出題
通訳案内士法条文
(名称の使用制限)
第五十二条 全国通訳案内士でない者は、全国通訳案内士又はこれに類似する名称を用いてはならない。
(略)
第六十条 地域通訳案内士でない者は、地域通訳案内士又はこれに類似する名称を用いてはならない。
(略)
第六十四条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第二十五条第三項の規定により全国通訳案内士の名称の使用の停止を命ぜられた者で、当該停止を命ぜられた期間中に、全国通訳案内士の名称を使用したもの
二・三 (略)
四 第五十二条の規定に違反した者
五 第五十七条において準用する第二十五条第三項の規定により地域通訳案内士の名称の使用の停止を命ぜられた者で、当該停止を命ぜられた期間中に、地域通訳案内士の名称を使用したもの
六 (略)
七 第六十条の規定に違反した者
(1) 様々な主体の参画
通訳案内士制度のあり方については、前述の規制改革会議の答申等を踏まえ、平成26年12月より、観光庁
において開催された「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」(以下、検討会という。)の最終取りまとめ(平
成29年3月)において、以下の方針が示された。
「外国人に対し、有償で、外国語による旅行に関する案内を行うことが独占的に認められている通訳案内士
の業務を開放し、様々な主体が参画して多様なニーズに臨機応変かつ的確に対応できるようにし、観光先進国
として質の高い観光交流を実現するために必要な環境を整備すべきであるということである。
具体的に、『通訳案内士』については、下記の点について見直しを行うべきである。」
• 我が国の歴史や文化に関する正確な知識を有し、かつ、訪日外客に満足度の高い案内を行うことができる
者として、憧れの職業となるように位置づけを整理し直す。
• 現場感覚を取り入れた試験を課し、定期的な研修を義務付ける。
(2) 業務独占の廃止
改正法により、旧通訳案内士法第三十六条「通訳案内士でない者の業務の制限」(通訳案内士でない者は、報
酬を得て、通訳案内を業として行つてはならない。)が削除された。
これにより、通訳案内士制度において業務独占規制が廃止され、全国通訳案内士又は地域通訳案内士の資
格を有さない者であっても、有償で通訳案内を行うことが可能となった。
(3) 名称独占
一方、以下の条項については条文の一部を改めて残され、名称独占規制は存続することとなった。
名称独占規制の存続は、全国通訳案内士及び地域通訳案内士以外の者が、当該名称を用いて業務を行うこ
とを禁ずることにより、訪日外客や旅行業者等、ガイドの利用者が質の高いガイドを選択することを容易にす
るものである。
条文略
(4) 名称独占の例と通訳案内士制度
日本の法制度上の名称独占の例としては、介護福祉士、訪問介護員、製菓衛生師、栄養士、技術士、社会福祉
士、保健師、調理師、管理栄養士、技能士、マンション管理士などがある。これらの職業の中には、保健師や管
理栄養士のように、職業的な地位が確立されているものも多い。観光庁において、全国通訳案内士及び地域
通訳案内士が憧れの職業となるように、引き続き適正な制度運用をしていくこととしている。
(5) 全国通訳案内士及び地域通訳案内士に類似する名称
全国通訳案内士及び地域通訳案内士に類似する名称については、改正法の施行に伴い、観光庁において以
下のように整理を行った。全国通訳案内士及び地域通訳案内士でない者は、有資格者であるとの誤認を避け
るため、全国通訳案内士及び地域通訳案内士のほか、以下の名称を用いてはならない。
名称の種類 具体例 用いてはならない理由
①単純な名称「通訳ガイド」等
「通訳ガイド」は、通訳案内士と誤認される恐れがある
②地域名+ガイド
「日本ガイド」、「(地域名)ガイド」等 全国通訳案内士や地域通訳案内士と同様に、地名+ガイドを名乗ることにより、有資格者と誤認される恐れがある
③公主体+ガイド 「国家ガイド」、「政府ガイド」、「〇〇県ガイド」、「〇〇市ガイド」等
「公主体+ガイド」と名乗ることにより、「政府や自治体等が認定したガイド」と誤認される恐れがある
④行為+ガイド 「認定ガイド」、「登録ガイド」等 「行為+ガイド」と名乗ることにより、「公主体等から認定されたガイド」と誤認される恐れがある
⑤高品質+ガイド 「トップガイド」、「ハイレベルガイド」、「スペシャルガイド」等
「高品質+ガイド」と名乗ることにより、有資格者と同等の知識・能力と誤解される恐れがある
2025年通訳案内士の実務試験に出題
旧通訳案内士法の通訳案内士試験においては、試験科目として「通訳案内の実務」を実施しておらず、試験に
合格した者は、新たに試験科目に追加された「通訳案内の実務」に関して、知識を補う必要がある。そこで、改
正法の附則により、旧通訳案内士法の通訳案内士試験に合格し、全国通訳案内士となった者は、観光庁が実
施する「通訳案内の実務」に関する研修(以下「観光庁研修」という。)の受講が義務付けられ、2017年度から
2019年度にかけて実施された。なお、当研修は1-1-7.の通訳案内研修とは異なるものである。
改正法の施行により、全国通訳案内士は、5年ごとに、登録研修機関が実施する通訳案内研修を受講するこ
とが義務付けられた。
(研修)
第三十条 全国通訳案内士は、三年以上五年以内において国土交通省令で定める期間ごとに、第三十五条から第三十
七条までの規定により観光庁長官の登録を受けた者(以下「登録研修機関」という。)が実施する通訳案内に関する研
修(以下「通訳案内研修」という。)を受けなければならない。
2 前項の登録に関し必要な事項は、国土交通省令で定める。
第三十三条 全国通訳案内士は、第三十条第一項に定めるもののほか、外国語に関する講習を受講することその他の
全国通訳案内士として必要な知識及び能力の維持向上に努めなければならない。
2025年通訳案内士の実務試験に出題
通訳案内士法第三十条に規定された通訳案内研修は、観光庁長官の登録を受けた登録研修機関が実施する
こととなっている。任意団体として全国通訳案内士の能力の維持向上に関する研修は自由に行うことができ
るが、通訳案内研修を実施するには、登録研修機関として観光庁長官の登録を受ける必要がある。
なお、登録研修機関は、通訳案内士法の定めに基づき、研修業務規程を定め、財務諸表等の備付け及び閲覧
等が義務付けられている。
第五節 登録研修機関
(登録研修機関の登録)
第三十五条 第三十条第一項の登録は、通訳案内研修の実施に関する業務(以下「研修業務」という。)を行おうとする
者の申請により行う。
(登録基準等)
第三十七条 観光庁長官は、第三十五条の規定により登録を申請した者の行う通訳案内研修が、別表の上欄に掲げる
科目について、それぞれ同表の下欄に掲げる講師によつて行われるものであるときは、その登録をしなければならな
い。この場合において、登録に関して必要な手続は、国土交通省令で定める。
2(略)
(研修業務の実施に係る義務)
第三十九条 登録研修機関は、公正に、かつ、第三十七条第一項の規定及び国土交通省令で定める基準に適合する方
法により研修業務を行わなければならない。
(財務諸表等の備付け及び閲覧等)
第四十三条 登録研修機関は、毎事業年度経過後三月以内に、その事業年度の財産目録、貸借対照表及び損益計算
書又は収支計算書並びに営業報告書又は事業報告書(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その
他の人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に
供されるものをいう。以下この条において同じ。)の作成がされている場合における当該電磁的記録を含む。次項及
び第六十六条において「財務諸表等」という。)を作成し、五年間登録研修機関の事務所に備えて置かなければならな
い。
2(略)
以下の項目の他に「旅行業法」(サブページ)も参照
(1) 目的
旅行業法は、全国通訳案内士の業務において直接的、又は間接的に関係する重要な法律である。
旅行業法の目的は、以下のとおりである。
(目的)
第一条 この法律は、旅行業等を営む者について登録制度を実施し、あわせて旅行業等を営む者の業務の適正な運
営を確保するとともに、その組織する団体の適正な活動を促進することにより、旅行業務に関する取引の公正の維持、
旅行の安全の確保及び旅行者の利便の増進を図ることを目的とする。
(2) 定義
「旅行業」とは、「報酬を得て」「一定の行為(旅行業務)」を行う「事業」を指す。ここで「一定の行為(旅行業
務)」とは、旅行業者等が自ら運送・宿泊サービス等の旅行に関するサービスを提供するのではなく、旅行者と
運送・宿泊の旅行に関するサービスの提供機関との間に入り、旅行者が旅行に関するサービスの提供を受けら
れるように旅行を企画する行為若しくは手配する行為、これらの行為に付随して、レストラン等の運送等関連
サービスを手配する行為、海外渡航手続代行を行う行為又は旅行相談に応じる行為を指す。
なお、通訳案内士においても、旅行者から依頼を受け、運送・宿泊サービスの手配等を行い、手配行為に対す
る報酬を得ていると判断される場合には、旅行業の登録が必要となる場合がある。
「企画旅行」とは、旅行業者が旅行に関する計画を作成し、旅行業者が自由に旅行代金を設定し、運送等サー
ビス(運送・宿泊に関するサービスのことをいう。)の提供に係る契約を締結する旅行のことを指す。企画旅行
では、旅行に係る一連のサービスについて、包括的に料金を設定する。企画旅行には、以下の2種類がある。
① 募集型企画旅行
いわゆる「パッケージツアー」のことをいう。
募集型企画旅行では、旅行業者が全ての旅程や旅行代金を定め、パンフレットやウェブサイトでの広告等
により参加する旅行者を募集して実施する。訪日外客を対象に、外国語で広告を作成し、参加者を募集し
て実施する国内旅行も「募集型企画旅行」に該当する。
② 受注型企画旅行
旅行者の依頼により、旅行業者が計画を作成して実施する旅行であり、いわゆる「オーダーメイドツアー」
のことをいう。
受注型企画旅行では、旅行者からの依頼に応じ、旅行業者が旅程を組み立てて実施する。一般的に修学
旅行や職場旅行等の旅行は、「受注型企画旅行」に該当することが多い。
手配旅行とは、旅行者からの依頼に基づいて、運送・宿泊サービス等の手配のみを引き受けて実施する旅行
である。 手配旅行では、自由に旅行代金を設定できるわけではなく、サービス提供機関が旅行者に対して支
払いを求めているサービスの対価及び旅行業者が手配の対価として収受することができる旅行業務取扱料金
の合計額のみを旅行代金として請求することができる。また、企画旅行における「旅行に関する計画の策定」や
「旅程管理業務」等も存在しない。
(1) 登録制度
旅行業を営む者は、登録行政庁(観光庁長官又は都道府県知事)の登録が必要である。登録行政庁は、一定
の財産的基礎を有しており、旅行業務取扱管理者を選任している等の要件を満たす事業者の登録を行う。
(2) 旅行業の種別と登録業務範囲
旅行業には下記の種別があり、旅行業の種別ごとに、取り扱える業務の範囲が異なる。各区分の詳細や用語
の定義については、観光庁ウェブサイトや各都道府県ウェブサイト参照。
(観光庁ウェブサイト旅行業法 https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/ryokogyoho/index.html)
(3) 罰則
登録を受けずに旅行業を営んだ者には、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はその両方が科せられる。
(1) 法改正の背景
これまでも日本の旅行業者は「企画旅行」や「手配旅行」を実施する際に、旅行サービス手配業を行う事業者
(いわゆるランドオペレーター)を通じて、企画・手配・予約を行っている場合があった。
また、訪日旅行の増加とともに、外国の旅行業者が日本国内で、ホテルやレストラン、バス・鉄道などの手配
を、旅行サービス手配業者に依頼する場合も多くなっている。
旅行サービス手配業者が旅行業者の依頼で、こうした行為を行う場合、従来は旅行業法上の規制の対象外と
されていたが、訪日旅行の一部において、キックバックを前提とした土産物店への連れ回し、高額な商品購入
の勧誘等の実態があり、是正が必要とされた。また、下限割れ運賃での貸切バスの手配など、一部の旅行サー
ビス手配業者の不健全な業務実態に起因して、旅行の安全や取引の公正の維持が脅かされる事案も発生した。
(2) 旅行業法の改正による規制
平成30年1月4日施行の改正旅行業法により、旅行サービス手配業を営む者は、都道府県知事の登録を受
けなければならないことになった。
なお、登録を受けずに、旅行サービス手配業を営んだ者には、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金
又はその両方が科せられる。
(3) 旅行サービス手配業務
「旅行サービス手配業務」とは、旅行業を営む者(外国の旅行業者を含む)の依頼を受けて行う、以下のような
行為である。
① 運送(鉄道、バス等)又は宿泊(ホテル、旅館等)の手配
② 全国通訳案内士及び地域通訳案内士以外の有償によるガイドの手配
(ただし全国通訳案内士及び地域通訳案内士を手配する場合には、旅行サービス手配業の登録は不要)
③ 免税店における物品販売の手配
なお、旅行業の登録がされている旅行業者は、「旅行サービス手配業務」にあたる行為を行う場合でも、重複
して旅行サービス手配業の登録を受ける必要はない。
『2.旅行サービス手配業の登録制度について』神奈川県HPより
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/b6m/senryaku/ryokogyo.html
改正旅行業法により、旅行業者及び旅行業者代理業者(以下「旅行業者等」という。)が旅行者に対し、取引条
件の説明や契約締結を行う際のルールも変更となった。
(1) 取引条件の説明
旅行業者等が旅行者に対し説明を行う際、全国通訳案内士又は地域通訳案内士の同行の有無について、書
面に記載することが新たに義務付けられた。
(取引条件の説明)
第十二条の四 (略)
2 旅行業者等は、前項の規定による説明をするときは、国土交通省令・内閣府令で定める場合を除き、旅行者に対し、
旅行者が提供を受けることができる旅行に関するサービスの内容、旅行者が旅行業者等に支払うべき対価に関する事
項、旅行業務取扱管理者の氏名、通訳案内士法(昭和二十四年法律第二百十号)第二条第一項に規定する全国通訳案
内士(以下単に「全国通訳案内士」という。)又は同条第二項に規定する地域通訳案内士(以下単に「地域通訳案内士」と
いう。)の同行の有無その他の国土交通省令・内閣府令で定める事項を記載した書面を交付しなければならない。
(2) 契約締結時の書面の交付
旅行業者等が旅行者との契約の締結を行う際、全国通訳案内士又は地域通訳案内士の同行の有無について、
書面に記載することが新たに義務付けられた。
(書面の交付)
第十二条の五 旅行業者等は、旅行者と企画旅行契約、手配旅行契約その他旅行業務に関し契約を締結したときは、
国土交通省令・内閣府令で定める場合を除き、遅滞なく、旅行者に対し、当該提供すべき旅行に関するサービスの内容、
旅行者が旅行業者等に支払うべき対価に関する事項、旅行業務取扱管理者の氏名、全国通訳案内士若しくは地域通訳
案内士の同行の有無その他の国土交通省令・内閣府令で定める事項を記載した書面又は当該旅行に関するサービス
の提供を受ける権利を表示した書面を交付しなければならない。
旅行業法では、旅行業者等が旅行業を営む際の「禁止行為」を定めている。このうち、添乗員や全国通訳案内
士として特に注意を要する禁止行為は、以下の諸点である。
旅行業法では、旅行業者等が旅行業を営む際の「禁止行為」を定めている。このうち、添乗員や全国通訳案内
士として特に注意を要する禁止行為は、以下の諸点である。
① 法第十三条第一項第二号
旅行業務に関し取引をする者に対し、その取引に関する重要な事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを
告げる行為
「取引に関する重要な事項」とは、一概に規定することは難しいが、旅行者がその情報を知っていたとしたら、その旅行に申し込まなかったであろうと考えられる事項、又は、申し込んだあとであっても、旅行者が旅行契約を解除したかもしれないと考えられる事項をいう。
例えば、重要な契約内容の変更の発生について、添乗員や全国通訳案内士は知っているにもかかわらず、故意に旅行者に告げない場合などをいう。
1) 運送サービス(専ら企画旅行の実施のために提供されるものに限る。)を提供する者に対し、輸送の安全の確保を不当に阻害する行為
第 1 章 通訳案内士法・旅行業法等に関する知識
② 法第十三条第二項
旅行業者等は、旅行業務に関し取引をした者に対し、その取引によつて生じた債務の履行を不当に遅延する行為をしてはならない。
例えば、ホテルや旅行サービス手配業者に対する支払いや、旅行者に対する払い戻し等を、正当な理由がないのに意図的に遅らせることなどである。
③ 法第十三条第三項第一号
旅行者に対し、旅行地において施行されている法令に違反する行為を行うことをあつせんし、又はその行為を行うことに関し便宜を供与すること。
例えば、旅行地において禁止されている麻薬、盗品やブランド品のコピー商品等の店舗に添乗員や全国通訳案内士が案内すること等である。
④ 法第十三条第三項第二号
旅行者に対し、旅行地において施行されている法令に違反するサービスの提供を受けることをあつせんし、又はその提供を受けることに関し便宜を供与すること。
提供されるサービス自体が旅行地における法律、条例に違反するものをいう。例えば、国内旅行において、売春防止法に違反するサービスの提供を受ける行為といった法令、条例に違反する行為の助長等をいう。
⑤ 法第十三条第三項第四号
旅行者の保護に欠け、又は旅行業の信用を失墜させるものとして国土交通省令で定める行為
ここで、「国土交通省令で定める行為」とは、以下の2点である。
1) 運送サービス(専ら企画旅行の実施のために提供されるものに限る。)を提供する者に対し、輸送の
安全の確保を不当に阻害する行為
主に貸切バスを利用した企画旅行において、以下のような事由により、旅行の安全の確保が阻害される場合
• 道路交通法で定められた最高速度による継続的な走行を前提とするなど、現実には実施が困難な旅行計画に基づいた契約を貸切バス事業者と締結すること
• 契約の内容を出発日の直前又は一方的に変更すること
• 旅客の乗降場所について、乗降時の安全の確保が十分でない場所を選定すること
2) 旅行地において特定のサービスの提供を受けること又は特定の物品を購入することを強要する行為
• 添乗員や全国通訳案内士が土産物の販売額が一定の金額に達するまでバスを出発させない等、旅行者の意志に反して特定の商品やサービスを購入せざるを得ないような状況に置く行為をいう
• ただし、旅行者の便宜のために単に土産物屋等に案内する行為は含まない
旅行業法では、旅行業者が企画旅行を実施する場合には、「国土交通省令で定める措置」を講じなければな
らないと定めている。
第十二条の十 旅行業者は、企画旅行を実施する場合においては、旅行者に対する運送等サービスの確実な提供、旅
行に関する計画の変更を必要とする事由が生じた場合における代替サービスの手配その他の当該企画旅行の円滑な
実施を確保するため国土交通省令で定める措置を講じなければならない。
そして、「国土交通省令で定める措置」を講じるために必要な旅行業者の業務のことを「旅程管理業務」という。
「旅程管理主任者」とは、旅行業者が実施する企画旅行に同行し、本旅行が安全かつ円滑に実施されるよう、旅
程管理業務を行う者のうち、主任の者のことをいう。
契約規則第十三条により、旅行業者は、企画旅行の広告において、旅程管理業務を行う者(添乗員)の同行の有無を表示しなければならない。旅程管理業務を行う者が同行しない場合、旅行地の旅行業者に委託したり、常時連絡可能な窓口を設けたりすることにより旅程管理業務を実施しなければならない。
上記の措置を取らない限り、企画旅行においては当然に添乗員が同行することになる。この場合、添乗員のうち主任の者には、旅程管理主任者としての選任が必要である。
旅程管理主任者は、旅程管理研修の課程を修了し、一定の実務経験に従事した者から選任することができる。
そして、旅程管理主任者として選任される場合は、企画旅行を実施する旅行業者、もしくは、派遣添乗員の場合は日本添乗サービス協会や添乗員派遣会社から交付された「旅程管理主任者証」を携帯することとなっている。
なお、国内旅程管理研修の課程を修了した者は、国内旅行の旅程管理主任者に選任されることができ、総合旅程管理研修の課程を修了した者は、国内旅行に加え、海外旅行にも旅程管理主任者に選任されることができる。
(1) 資格要件
旅程管理主任者の選任要件は、旅行業法で定める一定の事由に該当していないこと(例えば、破産手続開始
の決定を受けて復権を得ない者ではないこと)のほか、旅程管理研修の課程を修了し、また一定の回数の旅程
管理業務に従事した経験があることが必要である。
(2) 研修実施機関
旅程管理研修は、日本旅行業協会(JATA)、全国旅行業協会(ANTA)、日本添乗サービス協会(TCSA)のほ
か、各旅行業者、学校等、観光庁長官の登録を受けた者が実施している。
(3) 国内旅程管理研修の内容
国内旅程管理研修では、以下のカリキュラムが義務付けられている。
① 旅行業法令及び旅行業約款 3時間以上
② 旅程管理業務(基礎・国内旅程管理) 13時間以上
③ ①及び②の修了テスト
研修を修了後、研修を修了した日の前後1年以内に1回以上、又は研修を修了した日から3年以内に2回以上
の旅程管理業務に関する実務の経験を積むことで、旅程管理主任者として選任が可能となる。
なお、実務経験については、旅程管理主任者の要件に適合する者の指導のもとで、添乗実習を行ったものも
認められる。また、要件を満たした後、旅程管理主任者として選任されるには、企画旅行を実施する旅行業者、
日本添乗サービス協会や添乗員派遣会社から「旅程管理主任者証」を交付してもらう必要がある。
旅程管理主任者は企画旅行に同行する際、旅行業者が行うこととされている国土交通省令で定めた4つの
旅程管理のための措置について、当該企画旅行の円滑な実施を確保するために現場で対応を求められるケー
スがあるため、以下に旅行業法施行規則第三十二条各号について説明する。
① 旅行開始前に必要な予約等
一 旅行に関する計画に定めるサービスの旅行者への確実な提供を確保するために旅行の開始前に必要な予約その他の措置
② 旅行サービス提供のための手続き等
二 旅行地において旅行に関する計画に定めるサービスの提供を受けるために必要な手続の実施その他の措置(本邦内の旅行であつて、契約の締結の前に旅行者にこれらの措置を講じない旨を説明し、かつ、当該旅行に関する計画に定めるサービスの提供を受ける権利を表示した書面を交付した場合を除く)
例えば、「企画旅行」に参加している訪日外客が、旅行地において、「旅程に組み込まれたホテルに泊まれる」、
「列車に乗れる」、「レストランで食事ができる」ように、添乗員が「予約の再確認」を行ったり、ホテルや旅館の
「チェックインを行ったりすること」等をいう。
③ 旅行サービスの内容変更時の代替手配等
三 旅行に関する計画に定めるサービスの内容の変更を必要とする事由が生じた場合における代替サービスの手配及び当該サービスの提供を受けるために必要な手続の実施その他の措置(同上)
例えば、A社の航空機で移動する予定であったが、急遽欠航になったため、B社の航空機を利用して移動する、
又は列車を利用して移動するといったように、旅行契約の内容(旅程)の変更を必要とする事由が発生した場
合には、旅行業者は、A社の航空機を利用して移動する替わりの手配(これを「代替サービス手配」という。)を
する等の措置が必要になる。
④ 訪日外客がグループで行動する際の各種指示
四 旅行に関する計画における二人以上の旅行者が同一の日程により行動することを要する区間における円滑な旅
行の実施を確保するために必要な集合時刻、集合場所その他の事項に関する指示
旅行業者(添乗員)が団体行動のリーダー的役割を果たすことをいう。例えば、旅行業者(添乗員)は、円滑な
旅行の実施を確保するために、訪日外客に対して集合時刻・集合場所やその他の必要な指示をしなければなら
ない。
日本の旅行業者が企画旅行を実施する場合には、その旅行業者に旅程管理業務が発生する。旅行業者がこ
の旅程管理業務を行うために、添乗員を同行させるときは、当該添乗員が旅程管理主任者としての要件を満
たしていることを確認した上で、旅程管理主任者として選任する必要がある。
なお、貸切バス等による企画旅行については、全国通訳案内士と旅程管理主任者がそれぞれ1名ずつ参加す
る場合もあれば、全国通訳案内士が旅程管理主任者としての要件を満たした上で選任を受け、1名で兼務する
場合もある。
全国通訳案内士が日本の旅行業者から依頼されて、旅程管理主任者を兼ねて企画旅行の添乗を行う際は、
旅行業者の代わりに旅行業法で規定された4つの旅程管理業務を現場にて行うことは、前章で述べたとおり
である。また、裁判所の判例等で示された安全確保義務に基づく業務も履行しなければならない。
さらに、全国通訳案内士の実務としては、旅程管理主任者として添乗する場合の旅行業法上の業務に加え、
幅広い内容に対応する必要がある。例えば、訪日外客が楽しい旅行を満喫していただけるよう各種演出をす
る、訪日外客の旅の相談役を務める、訪日外客が更に旅行を楽しんでもらえるよう必要な情報を提供するな
ど、いずれも全国通訳案内士に求められる場面がある。
本章においては、旅行業法や施行規則に基づく旅程管理(狭義の旅程管理)だけではなく、全国通訳案内士
として、通訳案内業務を行うに当たってポイントとなる旅程管理(広義の旅程管理)についても説明する。なお、
この「広義の旅程管理」については、ツアーの目的や旅行者の性質によって対応が異なる場合があるほか、商
慣習等による所も多く、事業者によって異なる対応が求められる場合もある。そのため、以下の内容について
は、あくまで一般的な対応例として捉え、旅行者ごとに、丁寧に確認することが大切である。
全国通訳案内士の業務における旅程管理は、次の二つに整理することができる。
① 「狭義の旅程管理」
前章にて説明した、旅行業法や施行規則三十二条各号に規定された旅程管理主任者の行う旅程管理のこと。
② 「広義の旅程管理」
通訳案内士法に規定する「通訳案内」を行うに当たって、訪問先等との調整や訪日外客の来日中のサポート等、
広い意味での旅程管理のこと。
これらの関係を整理すると、下図のようになる。←(ちよろぎ)図は引用できないので以下に文字で示す
「狭義の旅程管理」 企画旅行、法定業務等
共通事項 添乗準備、添乗実務、精算、報告等
「広義の旅程管理」 手配行為、旅行サービス業者からの依頼、アクティビティ、個人旅行等
(1) 「広義の旅程管理」とは
ここでは、全国通訳案内士であれば、企画旅行以外の場合であっても、対応が求められる「広義の旅程管理」
について説明する。
通訳案内士法によれば、「全国通訳案内士(地域通訳案内士)は、報酬を得て、通訳案内を行うことを業とす
る」とされている。すなわち、全国通訳案内士は、訪日外客の旅行に付き添って、交通機関などを利用して、観
光施設、宿泊施設、食事施設等の案内を行う場合は、訪日外客の旅程についても配慮すべきであり、この点に
おいて、「広義の旅程管理」を実施すべきであると解される。
したがって、「広義の旅程管理」とは、「狭義の旅程管理」を一部含む概念であり、かつ法定業務のみならず、
任意的なサービスとしての業務を含むものである。
(2) 企画旅行以外で想定される旅程管理
旅行業者が実施する企画旅行において、全国通訳案内士が旅程管理主任者の立場を兼ねて添乗している場
合には、当該全国通訳案内士に「狭義の旅程管理」が義務付けられる。しかし、こうした場合以外でも、全国通
訳案内士には「広義の旅程管理」の実施が想定される。以下、①~③のケースごとに考える。
① 旅行サービス手配業者からの依頼
外国の旅行会社等が交通、宿泊、観光施設、全国通訳案内士等の手配等を、日本で活動する旅行サービ
ス手配業者に委託するケースが多い。
この場合、旅行業法における企画旅行、手配旅行のいずれにあたるか、必ずしも明らかでない場合があ
る。なぜなら、外国で参加者を募集する場合にあっては、日本の法律ではなく、外国の法律が適用される
ためである。
② アクティビティ
宿泊や運送サービスの手配を伴わず、旅行の行程がいわゆる「ウォーキングツアー」や「茶道、料理等の体
験」に限られる場合は、当該旅行の手配者は旅行業の登録を要しない。したがって、全国通訳案内士がこう
した活動に従事する場合、「狭義の旅程管理」を行う必要はない。
しかし、日本の事情に精通していない訪日外客の団体が行動する場合等には、訪日外客の安全管理や、
解散・集合に関する指示、日本の道路状況についての注意等を行わなければならない場合もある。
③ 個人旅行(FIT)
宿泊しているホテルや旅館のスタッフの紹介により、個人旅行で日本を訪れる訪日外客から、通訳案内
業務を依頼されることがある。
また、インターネット上に掲載された全国通訳案内士の情報等を基に、直接、訪日外客や当該旅行者の日
本での受入れ先企業等から、依頼されることもある。
旅行業者を介さないため、「狭義の旅程管理」を求められることはないが、これらの場合も、全国通訳案
内士には「広義の旅程管理」業務が発生する。
(3) 「広義の旅程管理」が求められる理由
旅行業法に基づくか否かを問わず、訪日外客にとっては、全国通訳案内士を同行させることで、以下のメ
リットが期待できる。
① その土地の地理や事情に明るい人に誘導してもらうことで、安心して楽しめること
② 不慣れな土地で効率よく行動し、限られた時間を最大限に活用できること
③ 自分の興味に合わせた説明や必要となる情報が得られること
④ 全国通訳案内士を含め現地の人との交流・コミュニケーションができること
今日、訪日外客向けの旅行情報は、各種ガイドブック、ウェブサイト、SNSなどに豊富に存在する。また、自治
体等が作成するウェブサイトやパンフレットのほか、最近では、空港や美術館、博物館での音声ガイダンスやロ
ボットガイドまである。
しかし、全国通訳案内士に求められる情報の種類は、これらの観光情報にとどまるものではなく、旅程管理に
属するものから、日本の生活文化に対する様々な疑問まで、およそ日本社会すべてといっていいほど、実に多
様である。だからこそ、人間である全国通訳案内士が必要なのである。日本における各種の情報収集に精通し
ていることも、全国通訳案内士として必要なスキルの一つとなる。
つまり、全国通訳案内士には、日本の事情に暗い訪日外客に対し、機微を説明できる十分なコミュニケーショ
ン能力を有することが求められる。「旅行の究極の魅力は、人との出会い」と言われる。全国通訳案内士は、こ
の意味で「民間外交官」と称される。
(1) 対象者による分類
(2) 滞在歴・ツアーへの参加歴による分類
(3) 年齢層などによる分類
(4) 移動手段による分類
(5) 予算の違いによる分類
(6) 業務の受注形態や依頼形態による分類
※ 受注元や依頼方法の違いにより、業務の内容に違いがある
※ 旅行業者や旅行サービス手配業者を介さない場合は、通常、旅行業者等が担うべき業務を全国通訳案内士個
人が負う場合がある
(7) 日数・範囲による分類
以下、頻出です! 最近5年では2020年2022年出題。
長期のツアーガイド。代表的なものは、成田イ ン、関空アウトのように、空港送迎から、出発空港まで、同一の全国通訳案内士が対応する。長期のものは、2~3 週間程度のものもある。 この場合、全国通訳案内士は、広域の交通情報 に加え、トピックスの面でも、幅広い知識が求め られる。
観光地での見物だけにガイドがつき、それ以外 は旅客が単独で旅行する方式で、個人旅行に多い 形態である。 交通機関による移動中はガイドが付かず、旅行 目的地にお客様が到着すると、旅行契約の内容に より出迎え、ホテルへの送迎、ガイドによるロー カル案内等のサービスが行なわれる。
近年は、日本に 2~3 週間滞在するが、ガイドが 同行するのは、東京や京都といった主要都市で 1 ~2 日間のみ、というケースが増加している。こ のようなケースにおいては、ガイドが同行しない 他の都市/地域に関する情報をお客様から求めら れることも多い。
(8) 目的や形態による分類
個人又は家族等による少人数の外国旅行のことで、観光庁「インバウンド消費動向調査(旧:訪日外国人消費
動向調査)」(2024年)では、訪日外客の約83%がこの形態である。
FITであって、全国通訳案内士を必要とするのは、高付加価値旅行者である場合のほか、特定の地域や体験
にあたって、部分的に全国通訳案内士を必要とすることもある。体験型観光やショートの地域ガイドは、全国通
訳案内士の登竜門としても貴重な機会となる。
また、高付加価値旅行者等のプライベートガイドは、ホスピタリティを含め、極めて高いスキルを求められる。
知識レベルの高い訪日外客の質問のレベルは高く、かつ範囲も広範なことから、全国通訳案内士自身の知識
や情報収集の高いスキルが求められる。
特定の興味や目的に絞ったツアーのこと。これ らのツアーへの対応には、全国通訳案内士自身の特定のテーマに対するスキルや対応力が求められる場合が多い。近年、以下のようなツアーが増 加している。
登山、スキー、釣り、自転車など、スポーツ の実施や体験に関わるツアー
サッカー、ラグビー、オリンピックなどの観戦 ツアー
アニメ、建築、バードウォッチング、お遍路、 文化体験等特別な関心や趣味によるツアー
ショッピングツーリズム
工場見学など、先進技術等の視察旅行のこと。 産業視察だけでなく、行政視察も含まれる。
現地の企業や行政機関、専門機関などの訪問先との交 渉や視察のコーディネートが必要となることか ら、テクニカルビジットを扱う旅行業者は視察分 野ごとの専門知識を持っていること、もしくは専門代理店との連携が必須条件となる。
また、同行する全国通訳案内士は、通訳技術を求められる場 合が多い。なお、最近は、現地企業や専門機関の スタッフが外国語で説明を行う場合も増えてい る。
企業ミーティング、インセンティブ旅行、国際会議、展示会・見本市、イベント等の総称。企業が海外の得意先や、
現地法人の関係者などを招聘して実施するのがインセンティブ旅行の基本である。この場合、工場見学など、
Technical Visitの旅程が含まれる場合も多い。MICEには専門的な通訳が求められるため、専門的な通訳
が必要な場合は、全国通訳案内士が通訳をするのか、別途通訳の手配があるのか確認が必要。専門的な通訳が
できる全国通訳案内士はそれだけ活躍の機会も多い。
国際会議やイベント等では、参加者または同伴者を対象としたツアーが企画される事がある。参加者数が多い
ことがあり、クルーズ船同様のハンドリングが必要となることもある。また、JNTOや一般社団法人日本旅行業
協会(JATA)の主催するトラベルマートなどは、地方の全国通訳案内士が活躍する絶好の機会となる。
ファムトリップやモニターツアーと呼ばれる ツアーのこと。地方自治体や観光協会、DMO など が、インバウンドの誘致のために、旅行業者、ブ ロガーなどを招聘し、無料又は格安で実施するツ アーを指す。
クルーズ船の寄港地発着ツアーである。国土交通省の「訪日クルーズ旅客数及びクルーズ船の寄港回数
(2024年速報値)」によると、2024年の港湾別のクルーズ船の寄港回数は、博多港204回、那覇港175回、
長崎港160回となっている。
これらのツアーでは、訪日外客は、前日に参加するツアーのコースを決定することが多いため、直前までコー
スや人数が決まらないことが多い。そこで、全国通訳案内士としては、特定寄港地発の複数のコースをこなせる
ことが望ましいが、地域の実情に精通した全国通訳案内士の確保は難しい状況である。
反面、地方在住の全国通訳案内士にとっては、絶好の活躍の機会となる。
クルーズ船客が船を離れ陸上移動しながら旅 行するツアーである。日本での事例は、少ない。 なお、日本の港でクルーズを始める前の Pre Tour、クルーズを終えてからの Post Tour の事例 はある。
いわゆる定期観光バスツアーのこと。宿泊を伴 わない場合が多く、京都市内、東京都内、富士山・ 箱根などが代表的である。安定的な仕事の機会を 得ることができれば、全国通訳案内士にとって魅 力的な仕事である。より長期のバスツアーも計画 されている。
乗り合いツアー
初めて日本を訪れた時に日本の生活様式やルールを知らないのは当たり前である。しかし一方で、日本の
旅館、食堂、その他の施設では、外国人の文化や言語への理解が不足しているために、訪日外客とのトラブ
ルを過度に恐れ、「外国人お断り」といった形で受入れ自体を拒否してしまうこともある。
訪日外客が慣れない土地で、戸惑いを感じたり、ばつの悪い思いをしたりしないように、的確なアドバイス
をしてあげること、また日本の施設側が理解していくために間に入ることは、全国通訳案内士として社会的
意義のあることである。
また、日本の施設に対しても、どのような情報を提供すれば、訪日外客を受け入れられるか、アドバイスし
ていくことも、重要である。
こうしたトラブルを文化の違いと理解し、どうすれば解決できるかを考え、訪日外客にアドバイスすること
は、訪日外客にとっても日本文化に対する理解を深めるのに役立ち、訪日旅行の貴重な思い出となる。例え
ば、以下のようなことに対する説明やサポートが挙げられる。
(1) ホテル
• あらかじめ禁煙ルームをリクエストしても消臭対応(喫煙がされた部屋を、単に消臭しただけの部屋をあ
てがわれる)のケースが往々にしてあること
• ダブルの部屋をリクエストしても、ダブルの部屋が少なく、ツインが割り当てられるケースがあること
• ダブルベッドの場合、ベッドが大変小さいと感じられるケースがあること
• フロントが外国語で対応できない場合があること
上記のようなケースは、ホテルに申し出ることによって解決できることもあるが、ゴールデンウィークや三
連休などの繁忙期では、変更が難しいことも多い。ホテルへの申し出の手伝いをしながら、該当する年中行
事などの状況を説明し、丁寧に理解を求める必要がある。
(2) 温泉
• 身体を先にシャワーなどで洗ってから湯船に入る、タオルは湯につけない等のマナー
• 男女の区別が明確でないところがある
• タトゥーがあると入れない施設が多いこと(状況を確認し、本人に説明する。旅館等の場合、貸切風呂があ
れば、利用可否を確認した上で、提案してみるのも有効な場合がある)
(3) レストランやカフェ
• 店舗の営業時間(説明しておかないと夕食の遅い国からの訪日外客が食事をしそびれる恐れがある)
• 休業日(日曜日でも営業している店が多い)
• 飲食街での客引き
• 居酒屋でのお通し
• 会計方法(個別会計の対応可否、キャッシュレス決済の対応可否、セルフオーダー方式の注文方法)
• 日本人は麺を食べる時などに音を立てる習慣があること
• チップは通常は不要であること
• 予約が必要かどうかの確認と予約の方法
(4) トイレ
• 和式トイレの使い方
• 温水洗浄便座の使い方
• 室内スリッパとトイレスリッパの違い
• トイレが無料で使える場所(コンビニによっては誰でも自由に利用出来るトイレが設置されている等。)
• 水洗トイレでのトイレットペーパーの使い方
• ハンドドライヤーが設置されてないこともある
(5) 喫煙
• 屋外での喫煙を禁止する場所が多いこと(都市によっては罰金が科せられることもある)
• 屋内は原則禁煙のため、喫煙は指定場所で行うこと
• レストランやコーヒーショップ、とりわけ居酒屋、バーでは、未だに喫煙可や分煙の店舗も多いこと
(6) 買い物・ATM・通貨
• 店舗の営業時間
• コンビニについて
• 自販機の使い方
• 消費税について。店により内税・外税の表示が異なること
• キャッシュレス決済の対応可否
• 外国のクレジットカードやデビットカードで現金が引き出せるATMについて(地方では都心よりも少ないた
め、都心で用意しておいた方が安心である)
• 日本のTax Free、Duty Freeについて、免税店での買い物を希望される場合には、パスポートの所持を出
発前に確認。なお、その際に管理の注意喚起も行う
• 免税制度の変更により、電子化対応が進んでいるため、行先の店舗の手続き方法を確認する
• 両替機の場所
• 通貨について、特に5円玉は漢数字表記のみなので説明が重要。2024年7月以降、新紙幣と旧紙幣が混在
しており、新紙幣が使えない自販機や支払機もある。500円玉も新旧混在しており、新500円玉が使えない
自販機や支払機もある
• レジ袋有料の店舗が増加している。店員にレジ袋の必要性を伝えなければならない場合もある
(7) 列車・バス
• きっぷの買い方
• 改札の通り方
• Suica等のICカードの購入方法や使い方
• インバウンド向け乗り放題パスの利用方法(公共交通機関の乗り放題パスには、JAPAN RAIL PASS、
JBL PASS、JAPAN BUS PASS等の全国的に利用できるものや、Kansai Area Pass、KyotoOsaka Sightseeing Pass等の一部地域限定のものもある。高速道路の乗り放題パスは、Hokkaido
Expressway Pass、Kyushu Expressway Pass等、地方ブロックごとで販売されている)
• エスカレーターの乗り方・駅のプラットホームやコンビニでの並び方
• 駅のプラットホームでは白線の内側にいること
• 優先席や女性専用車両について
• 列車やバスなどでの携帯電話での音声通話がマナー違反であること
• 地下鉄とJRの違いと乗り方、路線図の見方
• 通勤ラッシュの時間帯と混雑の多い路線
(8) タクシー
• タクシーの乗り方について。後部左側ドアが自動であること。また、原則的に後部右側ドアは開閉しないこと
• チップを渡す必要のないこと
• 歓楽街では夜間乗り場規制があるところがあること
• 英語のできないドライバーもいるので、ホテルカードを用意する、目的地を日本語で書く
• クレジットカードが利用できないタクシーもある
• タクシー配車アプリ(「GO」、「S.RIDE」、「DiDi」等)が利用できる地域もある
(9) ゴミ箱
• 公共の場所にゴミ箱が少なく、飲食物のゴミは買った店舗でないと処分できないこと
• ゴミは分別して捨てる必要があること
(10) コミュニケーション
• 従業員が外国語で話すことに慣れていないこと(ただし、ゆっくりとした英語で話せば通じることもある)
• 中国系の訪日外客には、英語で話すときでも地名は漢字で筆談によって伝える
(11) 表記
日本の生活様式やルールには、日本に暮らす者にとっては当然のこととして、無意識のうちに行っていること
が多い。そこで、あらためて訪日外客の視点を持って周りを見渡すことが必要である。
また、日本には、日本語のみの表記しかない場所や物も多く、日本語を読めない人には何を指すのか、想像す
らできない場合が多い。業務中もそのようなことを意識し、先回りして訪日外客をサポートすることが大切であ
る。例えば、次項のようなことが考えられる。
• 食券自販機が日本語表示だけである
• 価格が漢数字で書かれている
• メニューの食材がわからない
• 方向を示す看板の日本語表記がわからない
• ピクトグラムが日本独特のものでわからない
• 自販機の飲み物表示が、温かいのか冷たいのかわからない
• 水とスポーツドリンク、サイダーの違いがわからない
(12) その他
• 多くの場合、水道水が飲めること
• 空気汚染でなく花粉症や風邪の対策のためにマスクをしている日本人が多いこと
• 日本人は鼻をかむのには抵抗がある反面、鼻をすすることには比較的寛容であること
• 観光地でレンタルの着物を着て楽しんだり、お茶の会や観劇などの機会に着物を着るのを楽しんだりするこ
と(着物を着ている女性を芸者と勘違いすることがある)
• 一部の国の訪日外客からは手招き等のジェスチャーが悪い意味で受け取られることがある
• 点字ブロックについて、「これは目の不自由な人が、このでこぼこ(bumpy tiles)をつえや足の裏で確認し
ながら道を歩くためのものです。視力は弱いが全く見えないわけではない人のため目立つように黄色にして
あります。1967年に世界で初めて、日本で敷設されました。線上を進むのですが、横断歩道の前では点状に
なっています。」のように説明するとよい
• 寺社や庭園などにも開門・閉門の時間があり、季節によって違うことを伝える
• 寺社等での靴を脱ぐ場所と脱ぎ方について
ベッドに入るまで靴を脱ぐ習慣のない西洋人などは靴を脱ぐことを苦痛と感じる人もいる。
また、寺社などでスノコに靴厳禁と書かれていても、そこで靴を脱ぐ場所と思い込んだり、スノコなどのかな
り前で靴を脱いで、そのまま地面を歩いて中に入ろうとしたりする。
椅子や手すりがあればそれを利用する、パートナーや友人の手を上手に借りる等、的確なアドバイスが大切
• 日本では公共の場(駅や列車等)であまり大声では話をしない習慣があり、大声でしゃべったり大勢で道をふ
さぐなどは迷惑行為となるので注意する
今日の日本の観光施設、駐車場等における外国語表記は、まだ不十分な箇所もある。また、住居表示や道路名等も海外と日本では全く異なる表記となっている。そこで、訪日外客に集合時間や集合場所をわかりやすく伝え、正しく集まってもらうことは、きわめて重要である。その方法として、以下のようなことが考えられる。
• 訪日外客の時計が正しい時間に設定されているか確認。特に何カ国かを周遊されている場合、日本以前に訪れた国の時刻のままになっているので注意
• 口頭で集合時間や集合場所を何度か繰り返し伝える。発音が間違いやすい数値(15 or 50など)は別の方法でも言い直す(15はone fiveやジェスチャーなど)
• 時刻ボードを使って視覚的に伝える
• バス集合の際は、バスのフロントガラスに集合時間を書いたボードを掲げておく
• 下車観光の際も、別の時刻ボードを持ち歩き、時々掲示して集合時間を知らせる
• 言葉数を多くせず、時刻と場所をゆっくりはっきり繰り返す
• お連れの方と一緒でも、各自が集合時間や集合場所を覚えてもらうように伝える
• 時間や場所を訪日外客に反復していただくように、失礼のないようにお願いする
• 再集合する場所で「ここに再集合」と説明して自由行動とする
• 集合場所を説明する際に、周辺の目立つ施設もあわせて説明する
• 集合場所が乗車していた観光バスの降車地ではない場合、集合場所の地図を用意し配布する。その際に、できれば集合時間も書き加える
• 集合時には、集合時間より5~10分前に集合場所行き、旗を掲げて集合場所をわかりやすくする
• 集合場所を明記したボードや目印の場所を、写真等に撮っておくことを薦める
• 分かれ道に、ガイドが先回りして立ち、方向を示す
食は旅の大きな楽しみであり、その印象は旅の思い出として最も心に残るものの一つである。訪日外客は、
和食を楽しみにしているが、想像していた和食のイメージと日本での実際の和食が必ずしも同じでないことも
しばしばある。
また、日本人が和食のレストランで当たり前と思っていることに、訪日外客が当惑することもあり、レストラン
と協力して楽しんでいただけるよう以下の点を参考に配慮することが大切である。
• 食事会場が地上階でない時などに階段が使えない訪日外客がいる場合は、エレベーターの有無などを確認
して対応する
• 靴を脱ぐか脱がないか
• 掘りごたつ式かそうでないか
• 寄りかかれるところがあるか
• 畳に座れない訪日外客は案外多いので、椅子が用意できるか(早めに店舗へ情報をお伝えし、対応をする)
• 水を全員分用意しておいてもらうとスムーズ。お茶よりも水を好まれることが多い。また、国によっては氷が
入った水を好まないので、訪日外客の文化等に合ったサービスをお願いする
• 中国系には冷たい水よりもお湯が好まれることが多い
• 中国系にはビールも常温のほうが好まれることが多い
• お箸で食べる場合でも、できるだけナイフ、フォーク、スプーンを用意しておいてもらう(訪日外客の中には遠
慮して自分から要求しない方が多い)
• 日本の会席料理などではご飯と味噌汁は最後に出てくるが、訪日外客の場合、初めからご飯が欲しい方が多
い。コースなどの場合は初めに聞いてあげるなどの配慮をしたい。また、レストランによってはコースの構成
にこだわりをもっていることも多く、訪日外客との間に立って上手に訪日外客の要望をお伝えするのも、大
切な役割である
• アレルギーや宗教上の理由などでなくても、食べられない食材があれば、可能な範囲で代わりの食材でお楽
しみいただけるように配慮する(長いツアーであれば特に)
• 生ものを食べられない訪日外客への配慮が必要となるケースもある
食と並んで、日本旅館に宿泊することは日本滞在の楽しみの1つである。初めて日本を訪れる訪日外客は、期
待と同時に不安にも思っている場合があるので、日本人にとっては当たり前のことまで、細かく説明することが
必要になる。旅館によって詳細が異なるので、事前にできるだけ詳細まで打ち合わせ、到着後に速やかに部屋
に入ってくつろいでもらえるように準備しておく。
特に、旅館では往々にしてグループに割り当てられる部屋の大きさやタイプが異なることがあるので、ツアー
リーダーがいる場合は相談し、いない場合は事前にくじ引きをするなどして訪日外客に不平等感を与えないよ
うにしておくことが必要であり、以下の点を参考に配慮することが大切である。
• 貴重品の保管方法
• 玄関での靴を脱ぐ位置や部屋でスリッパを脱ぐ場所について
• 浴衣を着るタイミングと着方。できればバスの中やチェックイン時に実演して見せられるとよい
• 大浴場の説明とお風呂の入り方・マナーについて(多くの場合、男湯と女湯に分かれていること。男湯と女湯
はのれんの色で区別することを伝える。大浴場に入浴の際は水着を着ず、全ての衣服を脱ぐこと。身体はバ
スタブに入る前に洗い、洗った後でバスタブに入ること。タオルはバスタブにつけてはいけない、等)
• 和室の楽しみ方(床の間・掛け軸・生け花などについても話す機会)
• 多くの場合は、訪日外客が食事をしている間に布団を敷いてくれるので、自分で敷く必要はないこと。ただ
し、休みたい時は、布団を出して使っても良いことを告げる。訪日外客の不在時に布団の担当者が部屋に入
ることなども伝えておく
• 不安を感じたり、質問がある訪日外客には丁寧に対応し、必要であれば訪日外客の部屋に出向いて説明する
• 床の間に座らないように注意する
• エアコンの使い方
• 敷布団が薄くて痛くて眠れない場合、フロント等に問合せるように伝える
必ずしもすべての訪日外客が日本文化に好感を抱いているわけではない。中には自国文化の付属文化や後
進文化と捉える場合があり、クレームに発展してしまうこともある。日本式の旅館を嫌がり、別のホテルに泊
まったという事例もある
インターネットや通信技術の発達により、全国通訳案内士に求められる知識の質も変化する。例えば、金閣寺
をいつ誰が建てたかというような歴史的な事象は、スマートフォンを使えば、容易に入手できる情報である。
全国通訳案内士が話したいと思って用意した情報に、訪日外客が関心を示さない場合もある。
訪日外客が全国通訳案内士を必要とする大きな理由の1つは、全国通訳案内士が話したい情報を聞くことで
はなく、知りたい情報を聞くことである。
ツアー中、全国通訳案内士は訪日外客にとって一番身近な日本人である。質問は、観光内容や日程、食事、買
い物、日本の文化・産業・歴史・習慣・マナー・ルール等、多岐にわたることが多い。どんな質問であれ、極力答え
てあげようとする姿勢を持つことは、全国通訳案内士のイメージアップに繋がるだけでなく、日本全体のイメ
ージアップにつながる社会貢献でもある。
そのために、以下のような取組みが有効である。
• トピックリストを作り、質問に対して最低限の説明ができるように備える。特に、現代の日本の社会や日本人
の生活については、訪日外客の関心が高い
• 自分の家族写真(結婚式や七五三など)等を見せて親近感を持っていただくのは効果的
• 日本文化などは、常日頃、自身で実際に経験をしてみるとよい。その感想をもとに説明ができる
• 流行や最新の施設など、新しい情報に常にアンテナを張り、情報として入手しておく。流行や最新の施設、
外国メディア、SNSなど海外に流れている日本についての情報など
• FacebookやInstagram、WeChatなどのSNSが普及しているため、写真写りの良い場所を提案する
• 日本のことだけでなく、海外の動向や一般的な歴史・地理・文化を頭に入れておくと、日本を紹介する場合
の比較対象として話ができる
• 税金制度、医療や社会保障制度についてもよく聞かれるので勉強しておく
• 訪日外客が自分の話にどれだけの関心を示しているかをチェックする
• 訪日外客の視点を意識し、訪日外客の質問内容や撮られている写真の被写体に目を向け、情報収集の際の
ソースとする
• 相手の国の文化を理解し、相手に伝わるように説明する。例えば、神社のお神酒の説明では、キリスト教の
ミサで赤ワインをキリストの血として与えられることなどを例に出して理解してもらうなどの工夫も良い
• 歴史上の人物の名前などは、最初はできるだけ避ける。必要な場合には、相手の理解度を確かめながら小
出しにしていくこと
• 訪日外客の質問に答える中にも、楽しい会話の時間を作り出すことに注力することが大切
• すぐに答えが出ない場合、「時間を下さい」とお伝えし、後で回答することもできる。その際、最終的に答え
るのを忘れてしまわないように注意する
• 質問された内容についてよく知らない場合、スマホのインターネットで検索するのが便利である。いろいろな 検索アプリやサイトを入れておくことも有効である。ただしスマホで頻繁にチェックしていると、訪日外客の 信頼を損なう危険性もあるので要注意(もし答えが見つからない場合も、「わからない」とだけ伝えるのでは なく、確認した過程をお伝えすれば、納得していただけ、また感謝していただけるだろう)
特定の商品を買い求めるために専門店等を回 る旅行が存在する。特に古物のオークションに仲 買人とお客様と通訳案内士で会場入りして、落札 を手伝うこともある。また、体験で伝統工芸の職 人の元を訪問した場合には、体験後に職人の品物 を買うケースもある。
見出しのみ。詳細は、後程
(1) 書類等の受け取り
(2) 受け取る書類等について
① 受け取る書類等の例
② クーポン減員処理の方法について
③ 離団と離団書について
訪日外客がツアーの途中で団体から離れて、一部もしくはその後すべて別行動をとることを、離団という。離
団には、一時離団と全面離団がある。いずれの場合も、離団書に署名してもらうのが原則だが、手配会社によっ
て扱いが違う場合もあるので、確認する事が必要である。
※ 一時離団:一部のみ別行動をとる場合。離脱・復帰予定日時と場所を確認する。また、日本の旅行業者が実施
する企画旅行であれば、離団中も企画旅行参加中とみなされ、旅行業約款で定められた特別補償の対象と
なる
※ 全面離団:途中から離団し、その後旅行に復帰しない場合。離団以降は特別補償の対象とはならない
(3) 書類等の内容確認
(4) 詳細な確認ポイント
① 交通機関
② 荷物別送有無
③ 立ち寄り場所
④ 食事場所
⑤ 宿泊施設
⑥ 参加者データ
⑦ 移動途中の休憩予定場所
(5) 手配会社との打ち合わせ
(6) 現地の施設等との確認
(7) 運送機関についての確認
① 貸切バス
② 列車
③ 船舶
④ 遊覧船・ロープウェイ
(8) 食事場所についての確認
(9) 立ち寄り施設等についての確認
(10) 宿泊施設についての確認
(11) その他用意するもの
① 宿泊施設に関するメモ
② ハンドアウト
③ バス・列車の席割り表-必要に応じて作成
④ 添乗の際の持ち物例
見出しのみ。(詳細は後程)
(1) 業務概要
① 到着・下見(集合時間の30~40分前までに)
② スタンバイ
③ 受付(集合時間の10~30分前から開始)
④ 誘導(再集合後)
⑤ 出発
⑥ 降車前
⑦ 降車・休憩
(2) 運転手との打ち合せ内容
① バス出発前の確認事項
② 最初の休憩場所や訪問場所での確認事項
(3) 現地からの添乗員(ツアーリーダー)・代表者が同行している場合の打ち合わせ
(4) 出発前の挨拶
① ツアー参加へのお礼
② 自己紹介
③ お願い
• 参加章の着用
• 席順の確認
• シートベルトの着用
• リクライニング使用時の配慮
• 車内は禁煙であること
• 携帯電話をマナーモードに変更し、通話は極力控えていただくこと
• 貴重品をしっかり管理してもらい、忘れ物にも注意してもらうこと
• ゴミ処理について
• 集合場所と集合時間の理解
• バス運行中は窓を開けないこと。運転手の許可を得た上で窓を開けられる場合でも手を窓の外に出さない
こと
④ 行程案内
(5) 降車時のアナウンスについて
① 貴重品の管理
② 集合場所
③ 集合時刻
④ 乗降時の安全確認
(1) 業務概要
(2) 団券の減員処理(出札・改札証明)
• 減員が判明した場合は、減員証明を受ける必要がある
• 減員証明には「出札証明」と「改札証明」があり、どちらの証明も受ける必要がある。
• 乗(下)車駅が無人駅等で、証明が受けられない場合は乗車後、車内で乗務員等に申し出ること。
• 払い戻しができる人員については、減員人数等により異なるため、駅の窓口で確認すること。
出処:『通訳ガイドテキスト』(初版)観光庁 https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001893740.pdf
(3) 団体乗車券
(4) JRについて(団券にかかる情報)
① 団体旅客の種類と区分
② 運賃と料金
③ 旅客の区分
大人 12歳以上(12歳の小学生は小児)
小児 6~12歳未満(6歳でも小学校入学前は幼児)
幼児 1~6歳未満
乳児 1歳未満
④ 団体旅客の無賃扱い人員
団体の人数によって、無賃扱いが適用される。ただし、学生団体には無賃扱いはない。
• 普通団体:31~50人で1人分
• 訪日観光団体:15~50人で1人分
• いずれも、51人以上の場合は、50人増すごとに1人増加する
(5) JAPAN RAIL PASSについて
利用資格者は以下の①あるいは②に当てはまる者のみに限られる。
① 外国から「短期滞在」の入国資格により観光目的で日本を訪れる訪日外客
• 日本の入国管理法が定める「短期滞在」の在留資格により、観光等の目的で15日間もしくは90日間の滞在
が許される。日本への入国にあたり観光目的の滞在を希望すると、入国審査官によりパスポートに「短期滞
在」のスタンプ/シールが押される。JAPAN RAIL PASSは、パスポートにこのスタンプ/シールを受けた
者だけが引換・利用することができる
※ 入国時に自動化ゲートを使用する際は、パスポートにスタンプ/シールが押されないので、有人の自動化
ゲートを利用するか係員に申し出のうえ、スタンプ/シールを受けなくてはならない。
• 「研修」「興行」「再入国」等の資格で入国した場合は、利用できない
② 海外在住の日本人で、日本国の旅券及び「在留期間が連続して10 年以上であることを確認できる書類で、
在外公館で取得したもの等」を有する者
なお、利用規則は随時変更されるため、『JAPAN RAIL PASS』の公式サイトを確認し、最新の利用方法に
関する情報を把握しておくことが重要である。
乗 ※各航空会社により異なるため、各社ウェブサイト等を確認すること。
(1) 業務概要(国内にて団体券で国内線移動を行う場合)
① 事前確認
② 出発当日朝
③ バス等で空港到着前(車内)
④ 空港到着時
⑤ 搭乗手続(センディングスタッフに手続きを代行してもらう場合あり)
⑥ 再集合後
⑦ 出発
⑧ 到着・降機
(2) 業務概要(空港ミートの場合)
① 事前確認(空港到着前)
② ミート前
③ ミート後
④ 市中への移動時
<貸切バス・ハイヤーの場合>
<鉄道・公共のバスの場合>
(3) 業務概要(空港センディングの場合)
① 事前確認
② 空港へ向かう際(ホテル等出発時)
③ 空港へ移動中
④ 空港到着時
(4) 航空旅客券の取り扱い
国際線 国内線
大人 12歳以上
小児 2歳以上、12歳未満 3歳以上、12歳未満
幼児 2歳未満 3歳未満
小児及び幼児
運賃
小児運賃は大人運賃の75%
座席を使用しない幼児は、同伴大人1人につ
き1人のみ大人の運賃の10%
小児運賃は、航空会社により異なる。
座席を使用しない3歳未満の幼児は、同伴大
人1人につき1人のみ無料
(5) 運賃と料金
(6) 手荷物
① 受託手荷物(国内線のエコノミークラスの場合)
無料手荷物許容量 20kg(超過分については超過手荷物料金を支払う)
個数 制限なし
サイズ(1個につき) JAL:50×60×120cm
ANA:3辺の和が203cm以内
② 機内持込手荷物(国内線の場合。国際線は航空会社によって違いがある)
個数/サイズ
① 身回品1個:
② 荷物1個:
(100席以上の機体の場合)
3辺の和が115cm以内で、55×40×25cm以内
(座席数100未満の場合)
3辺の和が100cm以内で、45×35×20cm以内
最大重量 ①+②=10kg以内
(1) 業務概要
① 事前確認
② 乗船ターミナルへの移動中(バス車内等)
③ 乗船 ※クルーズ船ではガイドが添乗することは少ない
④ 到着・下船
(1) 入れ込み電話
必要に応じて一つ前の立ち寄り場所などから(予約している訪問先には)次の立ち寄り先に電話をして、一つ
前の立ち寄り場所とそこの出発時間を連絡しておく。
途中で渋滞に巻き込まれたりして、到着が大幅に遅れそうな場合は、その都度連絡をする。もし人数に変更
があれば、早めに連絡をしておく。
(2) 到着前の案内(観光バス車内等)
① 見学場所の案内
② 忘れ物注意/貴重品の管理
• バスの中には貴重品は置いていかないことをお伝えする
③ 集合場所、出発時刻
(3) 到着後
① 見学場所までの誘導
② 入場券の購入・精算等
• 購入・精算をする。必要に応じて領収証の受け取り(宛名/日付/内容の確認)。その際、訪日外客にはまとまっ
てお待ちいただくようにお願いする
• 場合によっては、入場券を先に受け取り、訪日外客に入場していただいて、その後精算をすることもある
• 手数料の受け取りがある場合は、その手続きをする
• クーポン支払いで人員減の場合は、減員の手続きをする
③ 入場
(4) 立ち寄り場所での留意点
(5) 訪問終了後
(1) 入れ込み電話
• 一つ前の立ち寄り場所から入れ込み電話をして、その場所の出発時間を連絡しておく
(2) 到着前
① 食事場所についての案内
② 忘れ物注意/貴重品の自己管理
• 貴重品をバスの中に置いておかず、自身で管理いただくようお伝えする • 忘れ物がないかどうか、退席時に訪日外客によく確認していただく
③ 出発時刻(確定している場合)
(3) 到着後
① 食事場所までの誘導
② 食事会場にて
③ 精算
• 訪日外客の食事中に精算を済ませる
• 必要に応じて領収証の受け取り(宛名/日付/内容の確認)
• クーポン支払いで人員減の場合は減員の手続きをする
④ 食事終了後
(1) 入れ込み電話
• 一つ前の立ち寄り場所から入れ込み電話をして、その場所の出発時間を連絡する
• 人数に変更があれば分かった時点で早めに連絡をしておく
• グループの場合、可能であればフロントではなくチェックイン用のデスクを用意してもらえるよう依頼する。そ
の際鍵の他にホテルカードや近辺地図も人数分用意しておいて頂くと良い
(2) 宿泊施設到着前のご案内
(3) 車内忘れ物の注意喚起
• 翌日も同じバスでの移動である場合は、座る席が替わる可能性があるので、座席には忘れ物をしないように
伝える
• 一日の行程終了後、運転手が車内清掃をするので、バスの中にはできる限り何も残さないように伝える。契
約によっては、ごみの回収などをする事もある(バスの走行中は行わない)
(4) 宿泊施設到着
① 旅行者の誘導
② 運転手と打ち合せ
• 運転手の宿泊施設(別泊の場合)、翌日の配車・発車時間、行程等を確認
③ 現地の施設等へ翌日以降の予約の確認電話
④ 夕食準備の確認・案内
⑤ 夕食時
⑥ 夕食終了後
• 温泉がある宿泊先の場合は入湯税の支払いが必要
• 当日の報告書作成
• 当日の精算書記入
⑦ 宿泊施設での留意点
• 宿泊代の精算。訪日外客の宿泊はバウチャーあるいはクーポン支払いが多い。全国通訳案内士・運転手分
は現金支払いが多い
• チェックイン後は、訪日外客が落ち着かれたかどうかを確認してから自分自身の部屋に入る
• 訪日外客の場合、日本旅館で一緒に浴衣を着て夕食をとるなど、日本を楽しんでいただけるように工夫す
ることが大切である
• 必要以上に訪日外客の部屋を訪問しない
• 飲酒は控える
• 外出は控える。やむを得ない外出時はフロントに連絡先を伝えておく
(5) 宿泊翌日
① 起床後
② 朝食
③ 出発前
④ 出発後
(1) 行程表で自由行動(フリータイム)と定められた時間の設定がある場合について
(2) オプショナルツアー: 行程表で自由行動(フリータイム)中に、旅行業者が別途募集する企画旅行のこと
(3) ショッピング
(1) アンケートの配布・回収(ある場合)
(2) 貸切バスで帰着地まで行く場合
(3) 忘れ物確認等
(4) 貸切バスで他の交通手段に乗り換えて最終解散地に向かう場合
添乗業務の最後の業務である。この報告と精算をきちんと終えて、はじめて一連の添乗業務が終了する。日本
の旅行会社や外国の旅行会社にとっては、参加した訪日外客の満足度や改善点は貴重な情報となるものである
ため、しっかりとした報告ができるよう心掛ける。
通訳ガイドの評価や信頼を高めるには、2つの方法がある。
まずは、訪日外客の知りたい事、聞きたい事に適
切に応えて、魅力あるガイディングを行う事でプラスを高めること。
次に、旅程管理等で発生するトラブルをで
きるだけ小さくして、安全で安心な旅行を実現することである。第3章では、後者に関するものを扱う。
さて、通訳ガイドにとっての危機には、訪日外客からのクレームやトラブルから、生命・健康の危機まで多様な
ものがある。これらへの対応は、「第2章 旅程管理の実務」と共通する事項も多い。しかし、危機防止の観点か
ら、再度、体系的な整理が必要であり、本章を設けて課題を整理する。
日本人の国内旅行と比較して、訪日外客による旅行においては、以下のような危険が内在している。
例えば、
• 台風のさなかに行動中、強い風に飛ばされた物体の衝突による怪我、死亡
• スキー、山岳ウォーク等における吹雪、予想外の積雪等による遭難、自動車の立ち往生
• 35℃を超える猛暑のなかでの行動による熱中症などの障害
• 地震、火山、津波等の被害
• 豪雨、強風、台風などの影響による輸送機関の欠便、欠航とそれに伴うツアーの遅延、延泊
• 感染症のまん延による出入国制限やツアーのキャンセル
などが考えられる。もちろん、これらは日本人にあっても、同様の問題があるが、訪日外客にあっては、以下のような理由から、より対応が困難となる。
(1) 時期変更が困難
日本人であれば、台風等の到来があれば、旅行を延期又は中止するかもしれない。しかし、外国人が訪日時
期や期間を設定するときは、長期休暇の取得時期等、出国者側の事情に左右されるため、訪日する時期の変
更が困難である傾向がある。
(2) 情報の不足
訪日外客は、日本の気候、地理の知識が不足している場合が多く、その結果、災害に遭遇したり、災害時に適
切な対応が取れない場合がある。
(3) 身体の対応
35℃を超える気温は、日本の夏と同様、スペインなどの南ヨーロッパでも珍しくない。しかし、暑いうえに、湿
度が高い日本の夏は、訪日外客に多くのダメージを与える。訪日外客が日本の気候・風土に身体が順応してい
ないためである。
また、冬季に南半球から、又は東南アジアから訪れる訪日外客は、日本の寒さへの準備や対応が十分でないこ
とがしばしばある。
3-1-3. 通訳ガイドにとっての危機管理
訪日外客が災害等で危機に陥らないようにするのが、通訳ガイドの課題である。同時に、旅程管理上のトラブ
ルに対応しクレームを防ぐのも通訳ガイドにとっての危機管理といえる。トラブル防止は、訪日外客の生命・健康
や財産の侵害というような重大な危機ではないが、職業人としての通訳ガイドにとっては、重要な危機である。
クレームやトラブルに代表される、旅程管理が不十分なこと等による危機は、少なからずあり、かつ突然発生
するもので、その対応は極めて重要である。
クレームやトラブルの多い通訳ガイドは、仕事の機会が減っていく。クレームが発生する原因は、単に通訳ガイ
ドの力量(語学力が低い、情報が不足している等)によることもあるが、特に致命的なのは、突発事故等の危機
管理に対する対応が良くなかった場合である。
危機管理に適切に対応し、クレームやトラブルを減らす方法は、大きく以下の3点である。
① 適切な事前調査
現地の情報をたくさん有していればいるほど、危機に際して適切な行動がとりやすい。十分な事前調査を行っ
ていれば、危機の未然防止や、例え災害等の危機が発生しても、その被害を最小限にとどめることができる。
② 危機の事前防止
ツアーの実施中は、通訳ガイドとしての本来業務(訪日外客に喜ばれる適切なガイディングとリーダーシップの
発揮)を通じて、危機の事前防止を図ることが重要である。例えば、貸切バスに乗車中、事故渋滞が生じた際に、
運転手と相談の上適切なルート変更を行う事などにより、到着時間の大幅な遅延、飛行機への乗り遅れ等を回
避することができる。
③ 危機発生後の適切な対応
訪日外客の病気や怪我、交通機関の乗り遅れ等の危機が発生した場合、適切なガイディングとリーダーシップ
を発揮して最小限の被害や損害に留めることが重要である。また、同時に、他の訪日外客の円滑な旅行の継続
を実現することも必要である。
次頁以降では、これらの3点について、説明する。
通訳ガイドに必要な情報としては、日本の食習 慣や文化など、一般的な情報と、特定のツアーに 関する観光ポイント、地理、ホテル等の情報があ る。仕事の依頼を受けた際に、当該地域について、 未知な領域があるときは、事前調査が必要である。 現地の下見を行うことが理想であるが、下見以 外にも可能な対策、実施すべき調査が多くある。
3-2-1 依頼者からの情報の収集・整理
(1) 手配内容の事前の確認 仕事が決まってから、打合せあるいは詳細な連 絡があるまでに、事前の準備を行う。事前の準備 は多岐にわたるので、時間もかかり大変である。 事前に対策をし、万が一の事態に備える準備によ って防ぐことのできるトラブルも多い。
また、この作業をきちんとしておけば、添乗中 に余裕ができ、確実に業務を行うことができる。 さらに、何度かこのような事前準備をすることに より、業務に必要な知識や情報を蓄積することが できるので、毎回の準備に時間がかからなくなる。 具体的な準備事項としては、以下のような点が考 えられる。
① 手配内容の確認
・依頼者(旅行会社の担当者等)に問い合わせる。 また、各サプライヤーにも確認を行う。
・料金に含まれているもの、含まれていないもの、 あやふやなものはないか確認する。 ただし、依頼者が全てを把握しているとは限ら ない事を理解し、互いに協力する。
② ツアー内容やお客様に関する情報の整理
・日時、ツアー名と主旨、人数、メンバーリスト (どんな集団か)、添乗員の有無
・お客様の国籍、職業、訪日目的、団体の人数、 年齢層、日本滞在の全日程、特別手配や VIP な の連絡事項がないか
・招待者側の責任者(契約責任者)の同行有無と 緊急時の判断、決定権は誰が持っているか
※お客様の国籍、年齢、宗教等は、依頼者である エージェントでも分らないときがある。この場 合、全国通訳案内士がホテルに問い合わせるな どして、必要以上に情報収集しようとすると、 依頼者のプライバシーの干渉になることもあ る。節度のある調査とともに、依頼者がどのよ うなタイプの方でもガイドできる対応力を養 う必要がある。
③ 行程の確認
・ルート、移動時間、各訪問地の所要時間(時間 配分)、訪問地情報(誘導経路、駐車場有無)、 最優先の目的地、通過地点、車窓風景等をでき るだけ打ち合わせ時に確認するとともに、不足 する情報は、自ら調査する。
・日程にしたがって手配内容や支払い方法などを 確認し、行程に予約漏れがないかをチェックし、 もし手配されてなかったり、不明点があれば必 ず担当者に確認する。
・不明点を確認しないまま、或いはそれに気づか ずに出発してしまうと現場で大きなトラブル に発展することがある。
・想定される問題がある場合は必ず担当者から対 応や代替案について指示を受けておくように する(業務上の判断に迷った場合も、まずは依頼元に確認すること)
3-2-2 事前調査のポイント
(1) ウェブサイトや文献による調査
① インターネットによる検索
・インターネットを活用すれば、必要とされる情 報の 80%は収集できる。
・ウィキペディア等は素早く情報が収集できるが、 正確ではない情報もあるので、出典に注意する 必要がある。
・訪問先の神社仏閣、観光施設のほとんどが公式 のホームページをもっているので、まず、こち らから情報収集すると良い。
・統計や資料、事象説明については、まず、思い ついた言葉で、キーワードにより検索をおこな う。そして見つけた記事、情報のなかから、自 分の欲しい情報が、より的確な表現で書かれて いれば、その言葉で再度、キーワード検索をか けると良い。
・観光関係の情報は、JNTO や観光庁のホームペ ージに掲載されている。
・統計データを整理した表や図など、より詳細な 情報がほしいときは、国等の委員会や審議会で 提出された資料で公開されているものがあり、 信頼性の高い情報が得られる。
・地図は貴重な情報である。画像検索で調べるこ とにより、必要な情報にアクセスできる場合も 多い。
・国宝、重要文化財等については、国立博物館等 のホームページにアクセスすると、正確な情報 を得られる。
② 訪問地の情報
・都道府県・市町村のウェブサイト、旅行サイト を参考に、訪問先の歴史、地理、文化、名産品、 食べ物等の最新情報を入手する。
・訪問施設の営業時間、最終入場時間、休日等の 情報を確認する。
・年末年始やお盆での観光スポットの休日につい て確認する。
・ランチが自由食の場合にはどこでランチをする のが適当かを調べておく。
・コンビニ、両替、コインランドリーの有無を調 べておく。
③ 多様な情報
・その日の主要通貨のレートを調べておく。
・ミシュランガイドやロンリープラネットなどの 外国語によるガイドブックも参考になる。
(2) 情報の整理
① 地図 ・地図は、最大の情報源であり、地図には、様々 な情報が潜んでいる。国土地理院のマップから、 高度差、針葉樹か広葉樹か、がけ地等を読み取 ることができる。 ・間違えやすい地名の読み方を確認する。
② 距離と時間、交通機関 ・A 地点と B 地点の距離。これに平均的な徒歩の 速度を組み合わせると、A 地点から B 地点まで の所要時間が計算できる。グーグルマップやマ ピオンなどを活用すれば、移動に要する時間を 容易に調べられる。
・徒歩により、坂道を上る場合は、標高差 50 メ ートルで約 10 分が基本である。
・道路地図・交通地図を使い、行程のルート、立 ち寄り場所の位置と行き方を確認する。
・新幹線などの電車の場合、降車駅が途中駅か終点か、乗り込む際の停車時間、所要時間、停車駅の数を確認する。
・当該電車にトイレはあるのか、車内販売はある かを確認する。
・JR パスの引き換えがある場合には、引き換え JR 駅の場所と営業時間を確認する。
・日本の駅には、ポーターがいないことをお伝え する。
・新幹線を始め通常の列車には、大きなスーツケ ースを置く場所がないことをお伝えしておく。
③ 気温・気候 ・緯度と高度を組み合わせると、平均気温が推定 できる。
・高度が 100 メートル上がると、気温は 0.6 度下 がる。たとえば、東京や横浜等と比較して、富 士五湖は、標高 900 メートルなので、約 5.5 度 気温が低く、3,776 メートルの富士山頂は約 22 度気温が低い。
・また、緯度が 1 度異なると、平均気温が 1 度下 がる。札幌は、北緯 43 度だから、北緯 35 度の 東京、大阪より、8 度気温が低い。緯度と高度 を組み合わせると、北緯 43 度、標高 2000 メー トルの大雪山の頂上付近は、東京より、20 度寒 い。
・つまり、富士山山頂と大雪山山頂の気温は、同 じ位の気温である。
(3) ヒアリング
・ホームページやパンフレット等でわからないと きは、直接施設に電話やメールで問い合わせて 疑問点を確認する。
・経験のある先輩、仲間等に、注意点を聞くこと も非常に有効である。
・過去の日報や、周りの全国通訳案内士などから 情報を入手することもできる。
(4) シミュレーション
・出発前の準備段階で、起こる可能性がある事故 やトラブルを想定し、その場合の対応を考える と同時に、ツアー担当者の指示も受けておくよ うにする。また、トラブル発生に備え、緊急連 絡先の確認をしておく。
・収集した情報を取捨選択する。特に、外国人の 目線を意識すること。
・収集した情報を全て出そうとしないこと。お客 様のニーズに応じて答えられるように、簡単な 情報から複雑な情報まで、意識して整理するこ と。
・ロープウェイが止まった際には近くの水族館見学に変える等、不測の事態が起きたときの代替 案を日頃から用意しておく。その場合は、エージェント等の許可を得る必要がある。
3-2-3 下見による調査
日程に余裕がある場合、特に、あまり経験がな い場合は、下見が極めて重要である。 事前に下見を行い、十分に準備をすることで気 持ちにゆとりができ、現地でのお客様の対応にも ゆとりができる。 時間があれば、コースに合わせて下見し、シミ ュレーションするとよい。 以下は、下見でのチェックポイントである。
[下見のチェックポイント]
(1) 訪問地・観光ポイント
・予約状況
・動線(駐車場から降りて入り口へ、入り口から 出口まで、団体用又は個人別入口など、実際に 歩く予定のコースを動線といい、下見で歩くと 所要時間がわかる。また、動線上に、面白い看 板や建物などがあれば、チェックするとよい。)
・所要時間の見当(上記の時間、駐車場からの時 間や観光に必要な時間など、団体行動の特性を 加えて推定する。)
・集合場所に使用できるような目印となる建物や 看板 ・トイレ(洋式かどうかなども)、トイレットペー パーの有無
・売店の有無、カード使用可能か、現金の場合の レート確認
・写真撮影の制限及び写真撮影に適したスポット
・禁煙、分煙、喫煙場所 ・靴の着脱(建物に上がる場合、靴を脱ぐ必要が あるか、否か。また、脱いだり履いたりする場 所や、脱いだ靴の取り扱い方法も確認しておく こと。)
・季節や祝休日、曜日による変更点の有無
・通常と異なる状況の有無(マラソンに伴う交通規制、祭りなどの特別行事、修復、混雑、ルー ト変更など)
・迷いやすいところや道路・階段など危ない所の 有無
(2) ホテル
・到着場所(バスなどの車両到着場所、徒歩での 出入り口)
・国際電話対応の公衆電話の有無
・ロビー内の様子(トイレ、集合場所)
・館内設備 ・チェックインの場所と当日段取り(部屋の鍵、 食券などをセットで受け渡すなど)
・朝食(場所、時間、食券の有無の確認)
・部屋割り、部屋タイプ(禁煙・喫煙、その他の 指定或いは希望の条件の確認)
・荷物の取扱いについて(引取り、集荷など) ・設備・サービス―両替、ATM、貴重品の保管、 インターネット接続(無料で使える接続サービ スはあるか、Wi-Fi は使えるか、有線か、部屋で 使えるか、ロビーのみか)、コインランドリー、 国際放送、ジム・プール・サウナの有無、ビジ ネスセンターの有無など
・周辺情報(コンシェルジュやフロントが対応し てくれることもあるが、ジョギングコース、ち ょっとした飲食店の情報、ネットカフェ、マッ サージなど、いろいろ聞かれることもある)
・荷物の取り扱いについて(また、別送の場合、 荷物は部屋入れか別途保管か確認を要する)
・雨天時等の場合に代替となる観光施設・交通機関
(3)旅館、和室、大浴場
・館内施設と旅館が提供するサービス、チェック インした後のサービスの流れ ・靴の着脱の場所、スリッパで行動できる範囲、 浴衣での行動
・部屋着のタイプ、外国人用の大きなサイズがあ るかどうか
・部屋の設備仕様の確認―和洋室、鍵、金庫、バ ス・トイレなど ・大浴場―浴場設備の使用方法、タオル・バスタ オルの有無、貴重品の保管方法、浴場の使用時 間及び男女の入れ替え、露天風呂・混浴など
(4) レストラン
・食事を取る場所(部屋 / 宴会場 / レストランな ど)
・座席のタイプ(個室、テーブル、座敷、掘りご たつ、座椅子など)
・和食の場合、箸しかないことがあるので注意す る。
・宴会場の会場設営に関する打合せ(必要な備品、 カラオケなどの設備)
・不可食材の対応がされているか確認
・洋食器が必要な場合は事前に手配しておく。
1 広義の意味での危機としてのトラブルを防止 する方法
(1) 災害・工事等による道路事情や、台風等の天候 の影響などで、当初の予定が実施できない場合 は、旅行会社が責任をもって説明するなど、説 明責任の所在を明らかにしておく。同時に、手 配や予約内容については、出発前の確認のみな らず、出発後の再確認も怠らないようにする。
(2) ツアー中は、当日しか収集できない情報(交通、 天気、各種注意警報、イベントなど)の収集を 心がけ、お客様に適切な情報提供やご案内、ア ドバイスができるようにする。天候不順や事故 渋滞などで、当初の予定の行程が実施できない 場合でも、適切な情報提供があれば、クレーム は少ないものである。また、突発要因により、 トイレ休憩の場所の変更などが必要な場合は、 運転手とよく相談する。
(3) トラブルを未然に防ぐため、お客様にも健康や安全の管理、貴重品の管理といった点で、注 意していただくようにする。
・貴重品は基本的に常に身につけるとともに、宿泊施設では金庫の利用など安全策をとってい ただくよう案内する。
・車内持込の弁当の保管などに注意し、食中毒の 発生を防ぐようにする。
・歩道を走る自転車が多いこと、広がって歩かな いことを伝える。
2 トラブル事前防止の方法
(1) スケジュールの遅延を防ぐ
バス等の運行で、計画通り進まないときは、 様々なトラブルが発生する。予定した列車に乗れ ない、閉館時間を過ぎて到着する、夕食時に間に 合わないなど、さらに大きなトラブルにつながる。 運行スケジュールに遅延が発生する原因とし ては、事故渋滞に遭遇する、途中でトイレ休憩を 求められる、集合時間に遅れる人がいるなどがあ る。
より根本的には、スケジュール自体が非常にタ イトな場合、何かトラブルが起きると、全体に決 定的な遅延が発生する。その防止策は、スケジュ ールにスラック(余裕・たるみ)を作っておくこと である。例えば、高速バスが時速 100 キロのスピ ードで走ると、90 分で着くのが分かっていても、 82 キロで走ると想定して、110 分かかると想定し ておくことなどである。そして、こうしたスラッ クは、お客様に言わず、目標達成が確実となるま で、自分で管理しておく。
例えば、京都の二条城を案内するとき、時間が ない時は、全部を見せるのでなく、時間内で終わ る安全なコースを取っておく。もし、時間どおり でガイドを進めていても、突然、お買いものをし たい、写真を撮りたい等の声が出て、出発が遅れ ることがある。 見せたいものを全部見せるのでなく、時間配分ができる冷徹な進行管理の能力が求められる。ま た、下見が不足していると、時間管理が大変難し くなる。
(ちよろぎ:私は普段別の仕事をしているが、冷徹な進行管理は本当に重要だと思う。お客様は常に自分の予想を超えた行動をとると思うくらいでちょうどいいと思う。余った時間はとっておきの話をする時間にでもすればいいと思っている)
(2) グループ内の一番弱い人に配慮する
観光ツアーで最悪の危機は、山岳ツアー等の冒 険ツアーにおける遭難死である。遭難死の発生し たケースを分析すると幾つかのパターンがある。 山岳では、天候判断が極めて重要である。
(ちよろぎ:元の文章では、募集型企画旅行で大量の遭難死を出したツアー例の考察が載せられている。旅行募集の際に旅行会社が厳しい条件を付けて置かなかったことやツアーリーダー(添乗員・案内士)に引き返しの権限を与えて置かなかったことによって最悪の結果を招いてしまったと説いている。しかし、ツアーリーダーはグループ内の一番弱い人に配慮する、決められた行程は遂行するを守っており、また、条件をつけても虚栄で嘘をつかれたり、誤認があったり、行程をパスしたことで評価が下がったりすることもあり得る。なんだかなあ、と言う思いである)
全国通訳案内士の実務においても、山岳ツアー と同様の問題が発生する場合が多くある。例えば、 宮島の弥山や伏見稲荷など、外国人が好むウォー キングコースがある。このような場合、お客様の うちの一人が歩けない、途中で帰る、著しく遅い などの問題をおこすことがある。「トイレが近い」、 「歩くのが遅い」、「病気」などの人がいる場合も ある。早めにその人の状況を把握し、1 人のトラ ブルがツアー全体のトラブルとならないような 配慮が必要である。行程の距離、標高差、次のト イレ情報等を周知することで、トラブルを未然に 防ぐことができる。
ガイド、添乗員、アシスタントなど、2 名以上 の体制の場合、1 名をフォロー担当として、最も 遅れそうな人への配慮や、ウォーキングの最後列 に配置する。適切な役割分担をして行動すること が適切と考えられる。
また、ガイド一人で添乗員を兼ねるときは、遅 れがちな人はなるべく前におき、視野から離さな いことが大切である。一番足の遅い人は、前から 2番目か3番目に歩くように誘導する。それでも、 例えば、高低差が大きい山寺や、歩行距離が長い 高野山奥ノ院への往復などのケースで、あまりに もブレーキになりそうな人が出たときは、本人の 申し出があった場合、そこで動かないことを条件 に、待っていただくこともある。ただし、別の合 流点を指示することは大変危険である。
バスツアーの場合、運転手と良好な関係が構築 されているときは、運転手との連携で危機を克服 できる場合がある。
(3) 突出型に注意する
通訳ガイド泣かせのもう一つのタイプは、飛び ぬけて体力や知識のあるタイプである。 羊蹄山における 2 人の遭難死事件では、天候が 悪い中、体力のある人が先に行き、添乗員がそれ に同行してしまった。ツアー客はバラバラになり、 一番体力のない人が取り残され、濃霧のなか道を間違えて遭難死した。 通常のツアーでも、このケースと類似した状況が 発生する可能性がある。突出して能力の高い人間が 全体のチームワークを乱さず、調和のとれた行動を 取るように、指導する必要がある。 反面、能力の高い人と良好な関係を築けば、ガ イドの力となってくれるかもしれない。例えば、 先頭を歩いてもらい、ガイドは数メートル遅れて 歩く。ただし、変なところに行かないようにコン トロールする。いずれにしても、ガイド自身が実 力をつけて、信頼されるようになることが大切で ある。
3 迷子を出さないための工夫
全国通訳案内士にとっての危機で重大なもの は、迷子である。
自由行動をとるときは、バスの車内等、周知徹 底できる場で必ず、集合時間・集合場所を徹底す る。また、集合時間に遅れてきた人、特に常習の 人には、時にはジョークを交えながら、キチンと 時間を守ってほしい旨を伝える。
特に、災害時の迷子は、生命の危険を呼ぶこと にもなりかねない。迷子を出さないコツは、解散前の連絡にあることを忘れないこと。
天候、事故、病気など、旅程の変更を要する場 合は、旅行会社など、旅程を決定する権限のある 者に速やかに情報を伝え、判断を仰ぐ。FIT など の場合、予定変更は常にある。こうした場合の的確な対応力こそ、全国通訳案内士の能力の重要な要素である。集合場所にお客様が集合できない場 合、ツアー全体の行程が実施できなくなる、又は 行程の変更を求められる場合も想定される。
全国通訳案内士にとって、迷子を出さないこと は、最重要課題の一つである。そこで、以下のよ うな工夫により事前に対策しておくことが有効 である。
・全国通訳案内士自身が目立つように、目立つ旗(飾りと棒の長さを工夫する)を持つ。
(ちよろぎ:現地ガイドの方だが、ものすごく変わった坪型の黒い傘を旗代わりにしておられた。一目で覚えるので有用だったと思う。たぶん小さい方だったからだと思うが、かなり長かった)
・全国通訳案内士自身が目立つように、目立つ色 の服を着る。長期のツアーの場合は、毎日でき るだけ同じ色の服を着て、印象が変わらないよ うにする。
・集合時間は、その後の行程を考慮して、余裕を 持って設定する。
・ツアー最初の行程案内の際に、行程の地図など の配布物に緊急連絡先の電話番号を書き込み、 常に携帯してもらうように伝える。
・迷子になった場合は、どうなるか、たとえば、 タクシーで戻るのには 5,000 円程度かかるなど 具体的に説明をして、そうならないように念を 押して伝える。
・滞在中のホテルのホテルカードを配布しておく。
・自由行動の際、お連れの方が常にいるかを意識 してもらう。また一人での参加者は迷子になりやすいので個別にも注意喚起を行う。
・全国通訳案内士は常日頃から、日本語表示しかない曲がり角など、お客様が迷いやすいと思われる箇所を、お客様の目線で見て予想しておく ことが大切である。
なお、全国通訳案内士自身が上記のような工夫・努力をすることはもちろんであるが、外国の お客様の場合、団体行動をすること自体に慣れて いないことも多い。ツアーの始めに全体の行程を 話して、遅れが生じないように協力をお願いし、 また問題が予想されることについて(このあと渋 滞の可能性があるなど)早めにお伝えして、お客様とのコミュニケーションを密にしておくこと が大切である。また、その際には決して命令口調 にならないよう気をつけ、お客様が今日の行程全 てをスムーズに満喫されることを心から願って いることをお伝えする。
なお、教育旅行の一部のケースでは、先生のよ うな命令口調が効果を発揮することもある。信頼 のある先生には生徒はついてゆくので、このような管理方法もケースバイケースであり得る。 4 万が一、迷子が出てしまった場合の対応方法 以上のような配慮をしても、迷子が発生する場 合がある。どんなベテランの全国通訳案内士であ っても、一度や二度は、この苦い経験を持ってい るものである。 全国通訳案内士にとって、重要なのは、迷子を 出さないこととともに、迷子が出てしまったとき の的確な対応である。対応事項・注意事項は次の とおりである。
・出発国からの添乗員(ツアーリーダー)や代表者が同行している場合は、必ず連絡を取って対 応する。全国通訳案内士単独で動かない。
・迷子になったお客様が携帯電話を持っていて番 号がわかる場合は電話をする。
・お連れの人に探しに行かせず、全国通訳案内士 が行くようにする。その際、お連れの人に、洋服などの特徴を確認する。
・捜索する場合、旗を持つなど、迷子になってい る人から目立つようにして、捜索する。
・お客様が集合場所であるバスに戻ってこない場 合、バスの運転手に協力を求め、運転手と携帯番号を交換し、捜索途中に迷子になったお客様がバスに戻ってきたら連絡してもらうように する。
・すでに集合しているお客様に状況を説明し、バ スの中など待ちやすい所で待っていただくよ うにする。
・同じコースに複数の台数のバスが出ているツア ーでは、別のバスに乗車されていないかを確認 する
・交番(警察)へ連れて行かれていないかを確認 する。 以上の対策を講じてもお客様と会えず、ツアー の進行に影響が出る場合は旅行業者に連絡して 対応の判断を仰ぐ。
また、以下のような事前措置も有効である。
・自身の携帯電話番号をあらかじめ知らせておい て、迷子になった時には近くにいる日本人に電 話をしてもらうようにと説明しておく。 ・どうしても見つからない場合には最終的にご自分でタクシーなどでホテルに帰るようにお願 いしておく。その場合、ホテルに到着したら電話を入れてもらうようにする。
第 4 危機発生後の適切な対応
1 危機における基本姿勢
(1) あわてない
緊急時に際してはクレームに対しあわてて対 応することで、より大きな問題を起こすこともあ る。まず、現状を把握し、可能な範囲で最善の対 策をとる。また、自分だけでは判断できない場合 は、旅行会社など管理責任を有する機関とすみや かに連絡をとり指示を仰ぐ。その時に、自分の考 えた解決方法でよいかどうかの確認や了承をと るようにする。
(2) お客様の立場に立った解決策を考える
どうしてトラブルが発生したか、その原因が分 らなくても、緊急の対応が必要になる場合がある。 その場合、お客様の立場に立ち、解決策、次善の 策を考えることが大切である。 例えば、ダブルブッキングで席数が足りない時 などは、ひとまず、お客様に満足していただける 方法をとる。しかし、同じ問題が再度起きないよ うに、原因の究明や責任の所在については、明ら かにしておく必要がある。
(3) ピンチをチャンスに変える
列車トラブルや天候の悪化による欠航など、全国通訳案内士の責任外で危機が発生することが ある。ここで大切なのは、精神の持ち方である。
「大変だ、困った」ではなく、「チャンスと捉える」 精神である。こうした状況を適切に判断し、与え られた状況の中でベストを尽くせば、全国通訳案 内士に対する評価や信頼が高まる。
2 クレームへの適切な対処
どんなに楽しくツアーを行っていても、クレー ムが発生すれば、そのお客様はもとより、ツアー 全体の楽しさが半減してしまう。 したがって、クレーム対策は、ツアーの成功に とってきわめて重要である。
(1) クレーム内容をよく聞く クレームの発生には、それなりの理由があること が多いので、相手の主張をきちんと聞く姿勢が必要 である。スケジュールの進行上その時間が十分とれ ない場合でも、のちほど聞く、申し入れ先を教える など、誠実な態度を心がける。
(2) エージェントに報告・連絡・相談する クレームが出そうな場合は、率先してエージェ ントに連絡する。先にお客様から情報が入ると全 国通訳案内士の立場が悪くなる。むしろ、ベスト を尽くしたが、トラブルが発生したことを正直に 報告しておいた方が良い評価となる。
(3) お客様に状況を説明する お客様に関係情報や処理対応経過を伝え、ご理 解をいただくようにする。もし、当初の旅程を変 更せざるを得ない場合は、お客様に対して適切な 事情説明を行い、同意を得るようにする。
(4) 丁寧にお詫びする 原因が旅行会社や関係機関にある場合は、丁寧 にお詫びをする。たとえ、自分の責任でなくとも、 言い訳や弁解などは慎む。お客様は、添乗員や全 国通訳案内士に責任の一端があると思っている。
(5) 賠償責任等について軽はずみに答えない
賠償責任、保険金請求が発生する可能性がある 場合は、「すみません」、「ごめんなさい」、「悪かっ たです」、「失敗しました」等ガイドの一存で適当 な返事をしてはいけない。軽はずみな謝罪の言葉 は、過失を認める、すなわち賠償支払いをすると いう意思と誤解される。なお、この場合、「Sorry for the inconvenience.」などの話し方もある。 いずれにしても、損害賠償は、過失責任が基本 である。善良な態度で管理した場合は、過失責任 は発生しないので、その場しのぎの発言は控え、 慎重に対応すべきである。
(6) 証明書の入手、手続き、記録を怠らない
トラブルの処理に必要な証明書類の入手、関係 手続を怠らないようにする。また、トラブル発生 時は、どんな場合でも、時間や状況、経過につい て詳細に記録しておくようにする。旅行会社等へ の的確な報告を行うことは、全国通訳案内士に求 められる大切な能力である。
※クレームが発生する状況は、繰り返されること が多いものである。何度も同じクレームが発生 する場合は、構造的な問題があることが考えら れるので、関係者で確認しておく必要がある。 ひとつひとつクレームを少なくする努力が、サ ービス向上・顧客満足度の上昇につながる。
※突発的事項への対応こそ、ガイドや添乗員の力 量が問われる。もとより不可能なことはできな い。そうした状況のなかで、とりうる最善の対 応をとれば、当初、何らかの間違いがあって問 題が発生したとしても、それが大きなクレーム につながることは少ない。問題を大きくするの は、一次的な問題だけでなく、二次的な対応が 不適切であることに起因する場合も多い。
※例えば、全国通訳案内士の言葉使い等により、 反発を受けることがある。ガイドには、組織規 律と顧客へのホスピタリティをふまえた、バラ ンス感覚ある態度が求められる。
3 危機対応の事例
以下、具体的な危機管理の事例と対応を示す。
(1) 遊覧船の欠航
訪問を予定していた施設が、何らかの事情で予 定していたサービスの提供ができなくなった場 合、代替サービスの提供が考えられる。箱根ツア ーでの芦ノ湖遊覧船の欠航は、しばしば生じる。
代替サービスの提供が不可能な場合は、その部 分のみ旅行契約を解除することになる。欠航した 場合の乗船代金の返金がこれにあたる。返金は、 ツアー担当者が実施するものだが、その手続きは 添乗員が行うことになる。また、返金する場合は 帰着後ではなく、多くはツアー中に行われる。後日返金する場合は、処理時間や振込手数料が別途 発生することになる。
(2) 航空機内での緊急事態
冷静沈着を保ち、航空会社などのフライトアテ ンダントの指示に従う。避難等の対応をとった後、 全員がいるかどうかを確認するとともに、旅行会 社に対してすみやかに連絡をするようにする。
(3) 航空機等での荷物紛失
預け入れた荷物が見つからないことがある。荷物を紛失したお客様自身が到着時の空港税関内 で紛失に伴う手続きを行うことになるが、他のお客様の誘導や待機場所の指定等適切な処置をす るとともに、荷物を紛失されたお客様に対しては 必要に応じてこれを補助し、クレーム手続きの証明書類のコピーにより、航空会社と連絡をとるなどする。
通常は 1~2 日で解決し、航空会社が荷物をホ テルまで届けてくれるが、携行品を失い不便を感じているお客様に対しては適切な助言をする必 要がある。
また、荷物紛失のため、お客様が衣類や下着などを購入した場合は、航空会社の弁償制度を利用 することができる。詳細は航空会社やクラス別で違いがあるので確認が必要である。
(4) 宿泊施設等での所持品の紛失、盗難発生時
まずお客様からのお申し出に対し、失った場所 やいつまで持っていたかなど、情報を整理する。 紛失場所が宿泊施設であればフロントに届け、そ の後、状況により警察に届ける。宿泊施設以外の場所では状況により警察に届け、更に盗難届を発 行してもらう。 いずれにせよお客様から事情をよく聞くなど、 受容的な態度が必要である。
第3章の終わりには、訪日外国人や通訳案内士、外国人添乗員を嫌ってクレームや悪口、言いがかりなどをされる場合のコラムがある。SNSによる、悪意の誹謗なども考えられる。事件発生時はエージェントと密に連絡を取り合い、拡大を防がなければならないと説く。
通訳ガイドの業務において、災害発生等に見舞われる場合も想定される。「災害は忘れた頃にやってくる」と
いうことわざのとおり、緊急事態はいつ起こるか予測できない。そのような予測不能な事態に備えて、いろい
ろな事例を予め想定して学び、準備しておくことが大切である。
では、予測不能な緊急事態とは何か。
• 出産
• 事件
• 感染症
• 災害
• 事故
• 病気などの発症
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
1 災害 暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又
は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる
被害をいう。
(1) 訪日外客の特性
災害発生時における通訳ガイドの行動の基本は、何よりもまず、ツアー参加者全員の生命を守り、安全を確
保するように努めることである。
その際、以下の点に留意する必要がある。
① さまざまな地域からの訪日外客で構成され、災害の経験や知識についてばらつきがある
② 日本で発生する災害の基本的知識や避難行動について、日本人が通常持っている知識を持ちあわせてい
ないことを前提に対応を考える必要がある
③ 土地鑑がないため、いざというときの避難などの行動が円滑に進まない
④ 日本語能力に制限(日本語では話を十分には理解できない、日本語を話すことができない等々)のある場
合が多い。そのため、災害時の最新情報の入手や日本語によるコミュニケーションが困難となる
⑤ 文化の違いから集団行動にも慣れ親しんでいない場合があり、災害時の行動において周囲とのトラブルに
発展する可能性がある
⑥ 海外では医療費や救急搬送費が自己負担であったり、医療行為を受けるかどうかも自己判断である場合
があり、無断で医療行為を手配するとトラブルになる可能性がある。
(2) 地震発生時に想定される状況
では、訪日外客が実際に災害に直面した場合、どのような反応を示すのか、地震を例に考察する。
① 地震そのものを理解できない人もいる
地震の無い国から来た人は、地震が起こると地面や建物が揺れ、家具が倒れて危険であることを咄嗟に想
像できない。
内陸や山がちの国から来た人は、地震が起こると海辺では海面が急に盛り上がり、そのまま波が町や村を
飲み込んでしまう場合があることを想像できない。このため、驚いて気が動転し、パニック状態に陥ること
がある。
② 地震の揺れで感じた疑問をそのままぶつける人もいる
あまり大きくない地震でも、揺れに驚いて過剰に反応し、「建物は崩れないのか?」「一体何がどうなってい
るのか?」などと質問が殺到することがある。
③ 地震・余震の揺れに対する恐怖でパニックを起こす人がいる
大きな地震の後の余震が続くと、恐怖で精神的に追い詰められてしまう場合がある。
④ 地震後に停電や断水する場合があることを理解できない人がいる
突然の停電や断水が宿泊施設などの過失と思い込み、早く修復するよう迫る場合がある。
⑤ 地震後もエレベーターを使おうとする人がいる
地震の際は停電で閉じ込められる危険があるためエレベーターを使わないことは日本人にはよく知られて
いる。しかし、そのことを知らない訪日外客の場合、エレベーターを使って避難しようとすることがある。
⑥ 多くの訪日外客は自分だけで避難することはできない
建物内にとどまることが危険だと判断される場合に屋外への避難誘導や避難場所への避難を指示したと
しても、訪日外客の場合は土地鑑が無い場合が多く、自分一人では避難場所にたどりつけないことがある。
⑦ 多くの訪日外客は最新の正しい情報を入手できない
⑧ 訪日外客の関係者から安否や滞留場所の問合せが殺到する
地震発生時に家族や同行者と別行動だった場合は、宿泊施設に家族や同行者の安否確認を求めてくる。
⑨ 多くの訪日外客は被災している場所から移動することを希望する
地震に対する恐怖から、「安全な場所にすぐに移動したい」「すぐに帰国したいがどうすればよいか」などの
情報を求めてくる。
地震に限らず、大規模な災害発生時には、多くの訪日外客がパニックになる等の状況が想像される。そうした
状況においても、重要なことは、自分自身が落ち着いて対処することである。
初動対応を上手く行うためには、訪問先の自治体等が策定する災害の初動対応マニュアルを確認しておくこ
とが有効である。(参考:「大阪市市民防災マニュアル」
https://www.city.osaka.lg.jp/kikikanrishitsu/page/0000011873.html)
また、一般的に地震発生時、最初に行うことは、以下のとおりである。
(1) 大きな声で「大丈夫。落ち着いて!」
地震が起きたら直ちに、全員に届く大きな声で「大丈夫。落ち着いて!」と声をかける。訪日外客が驚いて動
揺する前に声をかけることにより、こちらの言葉に耳を傾けてくれて対応しやすくなり、パニックに陥る人も減
る。
(2) 身の安全や危険から離れることの呼びかけ
次に身の安全の確保を具体的に呼びかける。大きな声で指示を出すことにより、地震を初めて体験する訪日
外客にも、身の安全を守るための行動を促すことができる。具体的には、以下の点等について注意喚起を行う。
• 姿勢を低くする
• 窓・背の高い家具・調度品・機械などから離れる
• 机やベッドなど頑丈な家具の下に潜り込む
• 枕や鞄などで天井からの落下物から頭を守る
• ドアは開け放っておく
• エレベーター、エスカレーターは利用しない
(3) 状況の説明
揺れが落ち着いたところで、現在何が起きているかを簡潔に説明する。停電時の情報伝達にはメガホンや拡
声器を使ったり、文例集やイラスト集がある時はそれを示すなどして、全員に情報を行き渡らせる。
(4) 出火防止と初期消火の呼びかけ
出火防止と初期消火について具体的に呼びかける。
• 電気製品を止めてコンセントからプラグを抜く
• 火災を発見したら、大声で周囲に知らせる、もしくは非常ベル等で通報する
• 消火器や屋内消火栓を使い、早期に初期消火をする
(5) 冷静な行動の呼びかけ
施設・建物が安全と判断した場合は、落ち着いて様子を見るよう呼びかける。その際、慌てて屋外に飛び出し
たり、むやみに動き回ったりしないよう、注意を呼びかける。
(6) 役割分担の依頼
訪日外客とチームを組んで、協力してもらえることは協力してもらう。
また、大きな団体だったり、ツアー団体が複数その場にいるなどで、引率する通訳ガイドが複数いる時は、人
数確認のための点呼など役割を分担して協力しあうことで、より効率的に対処できる場合が多い。
(7) 旅行会社への現状報告
できるだけ早い段階で、一度旅行会社に連絡し、現状の報告と安否確認情報を伝達する。同時に、テレビ・ラジ
オなどで報道されている最新情報を教えてもらい、今後の指示を仰ぐ。この時、もし旅行会社が被災していない
場合は、訪日外客の国の大使館への連絡や留守家族への連絡も担当してもらうとよい。
携帯電話など無線の電話は早い段階で災害対応に切り替えられ、不通になる。できるだけ有線の固定電話や
公衆電話を使う。公衆電話ボックスは基地局アンテナの役割も果たすので、他ではつながりにくい携帯電話も公
衆電話ボックスのそばに行くとつながる場合もある。
通話用の電話回線は不通になっても、モバイルデータ通信用の回線は不通にならないことが多いので、第一報
を入れた後は、メールなどで連絡すると(時間はかかるかもしれないが)つながる可能性が高い。
(8) 傷病者の扱い
訪日外客に傷病者が発生した場合は、応急手当をする。手に負えないほどひどいものや治療が必要なものの
場合は医療救護所等が開設されていたり、近隣医療施設が開いているかどうかを確認し、傷病者を搬送・随行
する。この時、決して無理をせず、手に負えないと思ったら、すぐに119番に通報し、救急車の出動要請をするこ
とも大切である。
宿泊先などで起きた場合は、宿泊先スタッフに相談するが、引率の通訳ガイドが他にいればその人に事情を説
明し、自分のチームの様子を観察してもらうよう依頼するのもよい。医療施設の探し方は後述する。
なお、世界的な基準に照らすと、「現地の言語能力(この場合は日本語)に制限がある訪日外客」は、災害時要配
慮者に位置づけられる場合が多い。
(1) 今後の予定を立てる
旅行会社やテレビ・ラジオなどから入手した情報を整理する。そして今後の方針について、旅程をそのまま続行するか、一部旅程を変更して続行するか、旅程を取りやめるか等について旅行会社に指示を仰ぐ。
この時、訪日外客に詳しく説明し、よく話し合うことが大切である。訪日外客に納得してもらうことで、その後の旅程がより順調に進むことが多いからである。
その場に応じて臨機応変に、最善の選択をすることが望ましい。
(2) 正確な情報と的確な行動
最終的には、個々の置かれた状況は、個々に判断すべきである。客観的な情報をできるだけ収集し、最善の行動を実行することが必要であるが、下記に対応方法の例を記載する。
① 客観的な情報の収集
• 地震の規模や震度は、インターネットを使用すれば数分程度で把握できる
• 東京などでは、「東京都防災マップ」等で、主要観光地点(例、浅草、皇居、明治神宮等)近くの避難所、給水拠点、医療機関等が調べられる
• 東京都や高山市などの主要観光都市では、それぞれ「訪日外客の安全確保のための災害時初動対応」に関するマニュアルを発行しているので、それらを参考にすると良い
② 地形的な特徴等の考慮
• 過去の事例から、津波の発生しやすい地域はある程度決まっている
• 土砂災害の危険性も、地形から見て、ある程度は、判断できる
• 日の出や日没の時間も確認しておく
③ 非常時における的確な判断
• NHK等の放送や、自治体等からの避難情報の入手はむろん必要であるが、これだけで常に最適な行動を取れると限らない
• 広域的に警戒警報が出ていても、特定地域では、それ以上の危険が潜んでいる場合がある
• 災害時には、すべてを他人の手に委ねるのでなく、それぞれの状況を見て判断する必要がある。例えば、「施設・建物が安全」と判断した場合は、落ち着いて様子を見るよう呼びかける
• 慌てて屋外に飛び出さない
• 2(5)で「むやみに動き回らない」とされているが、倒壊しつつある建物からは、すみやかに脱出しなければならない
大規模な災害ではなく、行程中の交通事故、急な病気などへの対応は、次のとおりである。
(1) 訪日外客の保護が最優先であり、状況により、救急車の手配や病院への搬送を行う
応急処置については、その場に立ち会った方の助言や投薬に十分に注意する必要がある。間違っていた場合、
添乗員や旅行会社の責任を問われることにもなりかねない。
(2) 腹痛、下痢、嘔吐などの症状が複数の訪日外客に発生した場合は、食中毒の可能性があるため、病院へ
の搬送を行う
(3) 病気やけがの状況により、ツアー担当者等への連絡をすみやかに行う。また、交通事故などの場合は警
察に届ける
本人の意識がある場合は、通訳ガイドは、まずは本人の希望や意志を聞くことが重要である。
その際に、可能な治療、施術に関する情報等をお伝えする。また、その時に伝えた事柄は、後のために記録を
取っておくことが大切である。
旅行会社に責任がある場合や、或いは旅行会社に問合せがされる可能性がある場合には、軽症であっても
必ず旅行会社に連絡を入れるようにする。
グループの内の一人が怪我あるいは病気の場合、グループ本体が極力当初の予定通りに旅程を全う出来る
ように務めなければならない。ツアーリーダーがいる場合は連携して本体グループのケアも怠らないこと。
(4) 治療代は訪日外客負担の場合が多いので、「会社で負担する」といった不注意な発言には気をつける
(5) 訪日外客が任意の旅行傷害保険に加入している場合は、必要書類(領収書、診断書など)を入手する
傷害事故の場合は、帰着後、「事故現認書」の提出が必要となることがあるので、事故発生時の状況を詳細に
記録しておく。
(6) 死亡者が出た場合は、その状況に応じて、警察、消防、旅行会社、医療機関等にすみやかに連絡し、指示を
受けながら現場対応を行う
留守宅へは旅行会社から連絡してもらう。死亡診断書の作成も依頼する。
4-2-1. 救急救命措置における通訳ガイドの役割
緊急事態が発生したら直ちに対応することが必要である。
通訳ガイドとしては、119番への通報、医師・看護師等医療関係者、訪日外客の親族・友人等関係者への協力依
頼等、語学を活かした対応を最優先に行動する。
飛行機や鉄道、バス等の車内においても、急病人・怪我人等が発生した場合、居合わせた医療従事者等の通訳
としての対応も時によっては、必要である。
なお、周囲に医療関係者や訪日外客の親族・友人等がいない状況では、通訳ガイド自らが救急救命措置を行う
ことも想定される。
4-2-2. 応急手当
(1) 応急手当の種類と対応方法
突然の怪我や疾病が起きた時に、家庭や職場など、その場でできる手当のことを「応急手当」という。
緊急事態の傷病は、軽症なものから重症なものまで多くの種類があり、対応もさまざまである。通訳ガイドが
実務の中で実際に遭遇する傷病は、生命にかかわるような重症なものよりも、軽症のものが圧倒的に多いが、
突発的な対応に備えて具体的な応急手当の種類と対応方法を把握しておくことが重要である。
総務省消防庁の「一般市民向け応急手当WEB講習」には、応急手当の種類ごとに対応方法が動画形式でわか
りやすくまとめられている。こうしたサイトを活用しながら、突発的に応急手当を行う必要が生じた場合に備えて
学習をしておくことが有効である。
(参考:総務省消防庁 https://www.fdma.go.jp/relocation/kyukyukikaku/oukyu/index.html)
第 3 外国人旅行者に対応可能な医療施設等に関 する知識
1 主な医療施設の種類
日本国内には、平成 30 年 10 月 1 日時点で約 18 万軒の医療施設がある(厚生労働省平成 30 年医 療施設動態調査)。医療法によると、医療施設は大 きく分けて病院と診療所の 2 つに分類される。
(1) 病院
病院とは、20 床以上の病床(入院施設)を有す る医療施設で、通常「病院」と呼ばれるものであ る。主なものには大学病院、国公立病院、私立病院等がある。大学病院などのように、地域医療推進のほかに最先端医療の研究・推進を目的とする 施設もある。
病院を機能で分類すると、急性期の治療のため の(急性期)病院、容態が落ち着いた後に長期に わたる療養などを担う療養病院がある。
注意が必要なのは、「総合病院」という名称の病院であっても、全ての診療科に対応しているとは 限らないことである。もともと総合病院は、「100 床以上の病床を持ち、少なくとも内科、外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科の 5 科があり、集中治 療室、講義室、病理解剖室、研究室、化学、細菌 及び病理の検査施設、その他があること、総合病 院として都道府県知事の承認を得ていること」が 条件であった。しかし、平成 8 年の医療法改正に より、総合病院に関する条項は削除され、現在は 「複数の科をもつ病院」という概念的な名称にな っている。
つまり、現在は、総合病院であっても全ての診療 科が揃っているとは限らず、例えば産婦人科や精神科など一部の科が無い病院もあるので注意が必要 である。また、総合の救急病院であっても夜間当直 の医師が、病人の必要とする診療科の専門医でない ことがあるのでこれも要注意である。
(2) 診療所
診療所とは、20 床未満の病床、もしくは病床を もたない医療施設のことで、通常、「クリニック」、 「医院」、「診療所」、「個人病院」など、さまざま な名称で呼ばれるものである。文字どおり地域医 67 療推進を目的とした、地域密着型の施設が多い。
小規模の施設が多く、設備等の都合上、対応で きる事項に限りがあり、地域の医療拠点となるよ うな比較的大きな病院と提携を結んでいる施設 が多い。例えば、ある施設を受診したところ、レ ントゲン検査はできたが、MRI 検査は提携してい る総合病院で検査することになった等という事 例はこれに該当する。
地域密着型であり、近所の住民のかかりつけ医的な存在であったりすることから、その医師の専門分野を多少外れても診てくれることが多い。例えば、ある内科クリニックで、本来呼吸器内科を 専門とする医師が、食あたりや食中毒の患者も診察・治療するといった事例である。
地域の診療所では、看板に掲げている科(標榜 科という)が複数であることが珍しくない。この 場合、最初に掲げてある科がその診療所の本来の専門であるので、知っていると便利である。よく ある例は、「内科・小児科」という診療所と、「小児科・内科」という診療所である。これは、その 診療所の医師の専門分野は内科であるが小児の 患者も診察すると言う意味なら「内科・小児科」、 逆に医師の専門分野は小児科であるが大人の患者も診察するという意味であれば「小児科・内科」 となる。
2 どの医療施設を受診するか
日本語能力に制限がない人の場合、患者の症状 に合わせて診療科を選び、その診療科を掲げてい る近所の診療所を受診する。そこで専門的な診療 が必要と判断されると、紹介状を書いてもらい大きな病院を受診するというのが一般的な流れで ある。医療保険に関しても、健康保険に入ってい れば医療費もあまり高額にならずに済む。
一方で、患者が外国人である場合、最初に直面するのが言語の問題、次に保険と医療費の問題で ある。
(1) 言語の問題
日本語能力に制限がある場合、医師などとの会 話ができないために、患者も医療スタッフも困ることになる。そのため、できうる限り外国人患者が日頃使っている言語で会話可能な医療施設、少 なくとも外国人でも受け入れてくれる医療施設 を探す必要が出てくる。しかし、その数はまだあまり多くないのが現状である。
(2) 保険と医療費の問題
外国人旅行者の場合、海外で旅行保険に加入し てくるか、無保険の状態で訪日することが多い。 しかし、日本の医療施設では海外の保険は扱わな いことが珍しくない。加入してきた保険がきかず 無保険と同じ扱いになると、医療費は全額患者負担となり、思わぬ高額の請求に驚くことになる。 しかし、旅行者であるから、持ち合わせの現金は あまり多くないことに加え、医療施設は通常はク レジットカード決済も扱っていないことが多いため、患者は途方に暮れてしまうのである。外国 人患者の増加に伴い、医療施設も少しずつクレジ ットカード決済を扱うようにはなってきたがま だまだあまり多くないのが現状である。
とはいえ、日本の観光立国宣言や円安傾向の影 響もあり、日本を訪れる外国人が増加の一方をた どるにつれ、外国人を受け入れる医療施設の整備 が少しずつ進みつつある。
医療機関に対しては、外国人患者受入れ医療機 関認証制度(JMIP)やジャパンインターナショナ ルホスピタルズ推奨制度(JIH)が始まり、認証・ 推奨を受ける医療施設が少しずつ増えている。こ の ほ か に 、 認 証 の 目 的 は 少 し 違 う が Joint Commission International(JCI)という、アメリカ で始まった認証団体の国際版の認証を受けた医療施設も外国人患者を受け入れている。JMIP、JIH、 JCI のいずれも認証を受けた医療施設リストを作成しており、ネット上に一般に公開している。資 料編・資料 9 にこれらを掲載する。
このほかに、観光庁(JNTO)も HP 上で情報(医療機関リスト(2022年12月27日 更新) )を公開している。この JNTO の HP の特色は、医療 施設のリストだけではなく、受診方法、主な症状 と診療科目、海外旅行保険、多言語(日本語の他、 英語、中国語、韓国語、タイ語)による医療施設 の利用ガイドを掲載していることである。また、 日本に到着後に加入できる保険も紹介されてい る。こちらについても資料編・資料 9 に掲載する。
3 診療の流れ
ここでは全国通訳案内士が医療通訳業務を担 当することを前提にして、日本の医療施設での診 療の流れを中心に、大まかな仕事の流れを考察す る。なお、主な診療科名等の医療用語の 10 か国語 訳を資料編・資料 15 で紹介する。
(1) 来院前に用意するもの
・(保険に入っている場合)保険の ID カード
・(海外旅行保険に入っている場合)保険証
・クレジットカード
・現金
・パスポート(施設によっては必要)
・(持病があり持ち合わせている場合)服用してい る薬及び診断書
・処方箋
医療施設到着までに、日本の医療制度について 次にあげる項目等を簡単に説明しておくとよい。
・日本の保険に入っていない限り、日本の保険は ほぼきかないこと
・現金での決済の場合が多いこと ・クレジットカードを使える施設は増えてはきて いるがまだまだ少ないこと
・おおまかな診療の流れ
(2) 受付(総合受付・診療科受付)
①来院時に、受付に以下の事項を確認する。
・患者が外国人であること
・(医療通訳がいない場合)自分が通訳に入ること また、通常患者はあまり現金の持ち合わせが無 いため、費用の概算を計算してもらいたい旨依頼 することも大切である。これは日本ではあまり行 われていないことではあるが、旅先での不慮の事 故や突然の病気であり、本人があまり現金の持ち 合わせがないことを説明し、医療施設に協力を依 頼することを勧める。
②診療申込書一式を受け取り、患者と一緒に作成 する。記入後、受付に提出する。
③患者と一緒に問診票に記入する。記入後、受付 に提出する。
(3) 待合室で待機
診察のために名前が呼ばれるまで、指示に従っ て待合室で待つ。
※診察室入室前に、できるだけ正確に通訳するた めに診察などの時は、
・はっきりした発音で
・ゆっくりと
・短い文で
話すよう依頼しておくとよい。
(4) 診察・処置・処方
診察室に入室後、自分が通訳に入ることを医療 スタッフ(医師・看護師など)に了承してもらう。 同時に医療スタッフに対しても、出来るだけ正確 に通訳するために、
・はっきりした発音で
・ゆっくりと ・短い文で
話すよう依頼する。 検査の内容や費用などについても詳しい説明 を受け、1 つ 1 つ患者に確認しながらどれを受け るか患者に決めてもらう。
※医療通訳の際の注意点
医療通訳は、全国通訳案内士の資格のみでは対応できない特別なスキルを必要とし、通常は、専 門の医療通訳者に委ねるべきである。
医療スタッフ・患者の通訳の際は、話者の話を 正確・忠実に相手に通訳するように努める。すな わち、話者の話に対して
・何も足さない
・何も引かない
・何も変えない
・自分(通訳)の判断や意見は言わない
ことを心がける。これは、通常の観光案内業務と 最も違う部分なので、特に注意が必要である。
ただし、文化的背景等の違いにより誤解が生ま れることが懸念される場合は、患者の了解を得た 上で通訳が説明を入れてもよい。
また、患者と医療スタッフが直接アイ・コンタク トを取れる位置に通訳がいることも大切である。
(5) 検査
(4)と同様、診察室に入室後、自分が通訳に入る ことを医療スタッフ(臨床検査技師など)に了承 してもらう。 同じ検査でも患者の出身国等で行われる方法 とはやり方が違う場合があることに配慮しなが ら通訳する。また、人によっては針を刺されるこ とを極端に怖がる場合もあるので注意する。
(6) 検査後の診察・処置・処方 検査の結果などを受けて、処置・処方が決まる ことが多い。処置・処方についても詳しく説明を 受ける。
処方薬の効能効果や費用などについても詳し い説明を受け、1 つ 1 つ患者に確認しながらどれ を処方してもらうか患者に決めてもらう。
(7) 会計と処方箋の受け取り
会計を済ませたら、処方箋の説明をする。処方薬の受取薬局の指定が無く、院内薬局でも院外薬 局でも受け取れる場合は、院内薬局と院外薬局の 説明をし、どちらで受け取るかを確認し、希望の 薬局に移動する。
(8) 薬局
処方箋を提出し、名前が呼ばれるのを待つ。 薬剤師による処方薬の説明、服用方法の説明を通訳し、薬袋に薬剤名・薬の効能・服用方法などを 記載する。
受診する医療施設の混み具合にもよるが、混んでいるとこれでほぼ 1 日かかる。
ただし、災害時は前述のように、通常どおりの 診療の流れにはならないことが多い。その場合は 現場の状況に合わせた臨機応変な対応が必要に なる。
4 遠隔医療通訳サービス
外国人旅行者にとって、各医療施設に医療通訳 が常駐していれば少なくとも言語の問題はかな り軽減されると思われる。しかし、実際には医療 通訳が常駐している医療施設はまだまだ少ない のが現状である。この問題を少しでも軽減しよう と考えられたのが、遠隔医療通訳である。具体的 には、電話通訳、スカイプ等を利用した通訳、端 末を貸与してその端末を使って通訳するシステ ムなどがある。訪日外国人旅行者など外国人の患 者が増加する傾向は続いており、今後もこの分野 は発展が見込まれる。 70
4-4-1. 自然災害時に役立つアプリケーション等
自然災害はいつ起こるか判らない。訪日外国人 旅行者にとって、不案内な地で災害に遭遇する不 安は大変なものであると推察される。そこで、増加する訪日外国人旅行者に向けて、以下のような アプリケーションが開発された。これは、訪日外国人旅行者に限らず、在留外国人にも役立つものに仕上がっている。
(1) 災害時情報提供アプリ「Safety tips」
自然災害の多い日本において訪日外客が安心して旅行できるよう、2014年10月から提供を開始した観光庁監修の訪日外客向けアプリ。
日本国内における緊急地震速報、津波警報、気象特別警報等をプッシュ型で通知できるほか、周囲の状況に照らした避難行動を示した対応フローチャートや周りの人から情報を得るためのコミュニケーションカード、災害時に必要な情報を収集できるリンク集等を提供。
日本地理や日本の災害についての知識がある人や通訳ガイドと一緒にサイトを参照すると、より効率的に使用できる。
(操作画面とダウンロード用QRコードは省略)
(2) JNTOウェブサイト(訪日外客用病院検索サイト)(追加)
4-3-2.の再掲となるが、JNTOウェブサイトでは、訪日外客の病気・怪我に対応可能な医療機関を検索できる機能が備わっている。47都道府県ごとに、言語別・医療科目別(内科、小児科等)・対応クレジットカードの種類別(VISA、MASTER等)といった条件を設定して医療機関の検索ができるため、訪日外客が病気やけがをした時、旅行者の言語が通じる最寄りの医療機関を探す際などに有効である。
(JNTOウェブサイト https://www.jnto.go.jp/emergency/jpn/mi_guide.html)
4-4-2. インバウンド向け旅行保険 (追加)
訪日外客が増えるに従って、当然ながら不慮の事故や突然の病気の発症を経験する外国人の数も増え、医療
施設を受診する件数も増えている。しかし、日本の医療施設では、まだまだ海外の保険を扱うことは少ないのが
現状である。そこで、インバウンド向け旅行保険が誕生した。
まだ数はあまり多くないものの、日本到着後に加入でき、日本滞在期間中のみの保険のため保険料も手頃で、
日本の医療施設でも使える保険は利便性が高く、安心である。同時に、医療施設にとっても、日本の保険である
ことから、保険会社と日本語でコミュニケーションを取れることに加え、未収金の懸念も軽減され、安心・便利で
ある。
現状の課題は、訪日外客がこの保険に気付くかどうか、また、気付いたとしても、保険に加入すること自体を渋
り、無保険の状態で旅行を継続する場合があることである。
法令や規則を守ることを、法令順守(コンプラ イアンス)という。全国通訳案内士の業務におい ても、通訳案内士法を始めとする様々なルールを守って業務を行わなければならない。通訳案内士法は、全国通訳案内士に関わる禁止行為
について、次のとおり定めており、これは地域通訳案内士にも準用される。
(禁止行為)
第三十一条 全国通訳案内士は、次に掲げる行 為をしてはならない。
一 通訳案内を受ける者のためにする物品 の購買その他のあつせんについて、販売業者 その他の関係者に対し金品を要求すること。
二 通訳案内を受けることを強要すること。
三 登録証を他人に貸与すること。
第三十二条 全国通訳案内士は、前条に規定す るもののほか、全国通訳案内士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。
訪日外客や旅行業者の信頼を獲得して業務にあたるためには、様々なルールを順守することが求められる。
そこで本章では、通訳ガイドが把握しておくべき法令等について説明を行う。
人々の暮らしや歴史・文化の姿を伝える通訳ガイドの業務では、様々な著作物を使用して説明を行う場合も
多い。例えば、あるお寺について紹介する際に、写真やDVD等を訪日外客に見せたり、ガイドブックの説明文
を利用したりするかもしれない。
これらの映像作品や言語作品は著作物に該当するため、利用にあたっては、著作権法に定められたルールを
順守する必要がある。ここでは、著作権に関する基本的事項について確認する。
5-1-1. 著作権制度の概要
(1) 著作権法とその目的
文芸、学術、美術、音楽等の作品は、人間の思想や感情を創作的に表現したものである。この表現されたもの
を「著作物」、その創作者を「著作者」、著作者に付与される法的権利を「著作権」という。
著作権法は、そうした著作物、著作者、著作権等に関係するルールを定めた法律である。
(目的)
第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利
を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与す
ることを目的とする。
(2) 著作権の種類
「著作権」は著作者の財産的利益を守る権利であり、具体的には「複製権」、「上演権・演奏権」、「公衆送信権」
など、著作物の利用形態ごとに個別の権利が規程されている。
各権利の詳細については、文化庁の「著作権テキスト」をご確認いただきたい。
(参考:文化庁「著作権テキスト」 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/textbook/pdf/94141901_01.pdf)
(3) 著作物の定義
著作権法では、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲
に属するもの」と定めている。
参考資料・資料3に具体例を示すが、上記の定義に当てはまるものは全て著作物に該当する。
(4) 著作権の発生と保護期間
著作権は、著作物を創作したタイミングで発生し、権利を得るための手続きは一切必要無い。
また、著作権の保護期間は、原則として著作者の死後70年(名前の分からない場合は公表後70年)と定められ
ている。例外を含めて整理すると参考資料・資料4のとおりとなる。
なお、保護期間を経て著作権が消滅した著作物は、誰でも利用できるようになる。
(5) 海外の著作物について
著作物は国境を越えて利用されるため、世界各国は条約を結ぶことで、お互いに著作物を保護し合っている。
日本は著作権に関する主要な国際条約に加入しており、大半の国々と保護関係にある。
5-1-2. 著作物の使用方法と罰則について
(1) 著作物が自由に利用できる場合について
著作権法は、他人の著作物を利用する際には、原則として著作者の許諾が必要と定めている。
しかし、一定の条件を満たせば、著作者の了解を得ずとも無断で利用できる場合がある。例えば次のような場合である。
• 私的使用のための複製
• 学校等の教育機関における複製
• 営利を目的としない上演・演奏 等
その他の場合を含めた著作物を自由に利用できる場合の一覧を参考資料・資料5に示す。
(2) 著作物の利用手順
著作物を利用する際は、原則として著作者の許諾が必要となる。著
作者の許諾が必要かどうかは、右図の手順で調べることができる。
ステップ①:日本で保護されているか調べる
利用しようとするものが以下3つの条件のいずれかに該当するものであれば、日本で保護されている著作物に該当する。
• 日本国民の著作物
• 日本国内で最初に発行された著作物
• 条約により日本が保護義務をもつ著作物
上記のいずれにも該当しない場合、日本では許可をとらずに著作物を利用することができる。日本で保護されている場合は、ステップ②
へ進む
ステップ②:保護期間内のものか調べる
著作物には保護期間があり、その期間が過ぎれば、だれでも利用可能である(参考資料・資料4参照)。
著作権が消滅している場合、無許可で利用可能である。保護期間内の場合は、ステップ③へ進む。
ステップ③:自由に使える場合か調べる
一定の条件下では、許諾を得ずとも著作物を自由に使える場合がある(参考資料・資料5参照)。
該当する場合は、許可をとらずに利用することができる。該当しない場合は、ステップ④に進む。
ステップ④:著作権者から利用の許諾を得る
著作物の使用許諾が必要なことが分かった場合、まずは著作者を調べる必要がある。本やCD等の場合、出版社や発行元に問合せて確認できる。
また、利用許諾を得る際には、利用方法等についてできる限り詳しく説明し、利用の範囲や利用料等について文書で確認しておくことが望ましい。
(3) 著作権侵害と罰則について
著作権者から許諾を得ずに著作物を利用した場合は、著作権侵害となる。その場合、民事上の措置の他、刑事上の処罰を受ける場合もある。
民事上の措置としては、著作権者から侵害の差止、損害賠償、名誉の回復措置等を請求され、事態の解決に向けて話し合いを進めることになる。
刑事上の罰則規定も非常に厳格であり、10年以下の懲役と1,000万円以下の罰金のいずれか、又はその両方が科される。また、法人の場合には、3億円以下の罰金刑が科せられる。
5-1-3. 通訳ガイドによる著作物の使用について
通訳ガイドの業務においては、他者の著作物を使用する場面が多々ある。
しかし、著作権者から許諾を得ずに著作物を利用した場合の罰則は、極めて厳格である。しかも、その責任の範囲は通訳ガイド個人にとどまらず、旅行会社等へも及ぶ場合もある。例えば、通訳ガイドが募集型企画旅行に旅程管理主任者として添乗した際に著作権侵害行為を行った場合、旅行の実施主体である旅行会社も責任を負う可能性がある。
したがって、通訳ガイドにとって著作権に係る基本的な知識・ルールを学ぶことは非常に重要であり、通訳案内業務において他者の著作物を利用する際には、本書で説明した利用手順に従う必要がある。
著作権法の別項も参照
第 2 道路運送法 90p
ここでは「道路運送法」のうち、全国通訳案内 士にとって利用頻度及び重要性が高い「旅客自動 車運送事業」の概要と注意点について紹介する。
5-2-1. 旅客自動車運送事業について
旅客自動車運送事業について 他人の需要に応じ、自動車を使用して「有償」 でお客様を運送する事業を「旅客自動車運送事業」 という。
第四条 一般旅客自動車運送事業を経営しよ うとする者は、国土交通大臣の許可を受けな ければならない。
第四十三条 特定旅客自動車運送事業を経営 しようとする者は、国土交通大臣の許可を受 けなければならない。
旅客自動車運送事業は、以下のように分類される。
旅客自動車運送事業の分類(原文は図)
旅客自動車運送事業は、大きく分けて「一般旅客自動車運送事業」と「特定旅客自動車運送事業」(特定の者との契約に基づき,自動車により有償で特定の旅客の運送を行う事業所をいう。)の2種類に分類されます。一般旅客自動車運送事業は、さらに「一般乗合旅客自動車運送事業」(いわゆる「路線バス」)、「一般貸切旅客自動車運送事業」(いわゆる「貸切バス))「一般乗用旅客自動車運送事業」(いわゆる「タクシー」)の3種類に分けられる。
「大分類H−運輸業,郵便業 総 説」総務省
https://www.soumu.go.jp/main_content/000417301.pdf
5-2-2. 通訳ガイドの業務における自家用車の使用について ガイドライン変更
自家用車で有償の運送を行うことは、原則として禁止されており、通訳ガイドに限らず、道路運送法に基づく許
可等を持たない者が、自家用車を使用して「有償」で送迎行為を行うこと(いわゆる「白タク・白バス」行為)はで
きない。
(有償運送)
第七十八条 自家用自動車(事業用自動車以外の自動車をいう。以下同じ。)は、次に掲げる場合を除き、有償で運送の
用に供してはならない。
一 災害のため緊急を要するとき。
二 市町村、特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項に規定する特定非営利活動法人その他国土
交通省令で定める者が、次条の規定により地域住民又は観光旅客その他の当該地域を来訪する者の運送その他の国
土交通省令で定める旅客の運送(以下「自家用有償旅客運送」という。)を行うとき。
三 公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運
送の用に供するとき。
では、自家用車を用いた運送行為に対しては金銭等を受け取らずに「無償」で行い、その他の通訳案内業務を
「有償」で行った場合はどうか。かつてはこのような場合であっても、違法行為となるという解釈が国土交通省
によりなされていた。
(追加)しかし、令和6年3月1日付で国土交通省物流・自動車局旅客課長名で発出された「道路運送法における許可
又は登録を要しない運送に関するガイドラインについて」において、通訳案内士等による観光ガイド事業との一体運送については、道路運送法に基づく許可等が不要であるとされている。
⑤ 通訳案内士等による観光ガイド事業との一体運送
• 国・地方公共団体及び公益社団法人日本観光振興協会並びに公的機関が認定・付与する資格を有する観光ガイド
が、ガイドのために人を運送する場合で、運送に特定した反対給付がない場合は、許可又は登録は不要である。
• ただし、観光ガイドと称していても、提供されるサービスの実態が、当該地域に関する専門的な知識や高度な語学力等に基づくガイドの提供ではなく、単に目的地への運送のみである場合には、許可又は登録を要する。
この根拠は、観光ガイドという、旅行者に提供されるメインのサービスが有償であっても、当該サービスの利用者に付随的に提供される運送については、運送に特定した反対給付がない(送迎利用の有無にかかわらずサービス利用料に差異がない)というものである。
なお、送迎利用の有無によってサービス利用料に差異を設ける場合については、当該差額が運送サービスに要する実費の範囲内であれば許可等が不要であるとされている(詳細は参考資料・資料6及び資料7参照) 。
5-2-3. 旅客自動車運送事業者の利用について
路線バスやタクシーを利用する場合は、一般的なルールやマナー等を守って利用すれば法令等に触れる可能性は少ない。
一方で、「貸切バス」については、近年の重大事故の発生等を受け法整備が進んでいる。よってここでは、貸
切バスの利用に関係するコンプライアンス事項等について紹介する。
(1) 貸切バスのコンプライアンス事項について 変更 過去問出題
貸切バスの運行に関する制度の多くは、貸切バス事業者を主な対象として定められたものだが、旅程の確認
や当日の運行等、通訳ガイドの業務にも大きな影響を及ぼしうる。よって、貸切バスの安全でスムーズな運行
のためには、通訳ガイドも下記に紹介する事項等を把握しておくことが重要である。
令和4年12月23日に改正され、令和6年4月1日から適用された「自動車運転者の労働時間等の改善のた
めの基準(改善基準告示)」を受け、現状は下記のような制限があることを把握しておくとよい。
① 運転時間・休息時間等
• 運転手の連続運転時間は4時間が限度である。運転開始後4時間以内(又は4時間経過直後)に運転を中断して30分以上の休憩等を確保しなければならない。なお、少なくとも1回につき10分以上として、分割することも可能である
• 1日の運転時間は2日(始業時刻から起算して48時間)平均で9時間が限度である
• 1日(始業時間から起算して24時間)の拘束時間(始業時刻から終業時刻までの時間で労働時間と休憩時間
(仮眠時間を含む)の合計時間)は、13時間以内が基本であり、延長する場合であっても15時間が限度であ
る。また、14時間を超える回数は一週間につき3回までである
• 休息期間(前日の終業から翌日の始業まで)は、原則として継続11時間以上与えるよう努めることを基本と
し、9時間を下回ってはならない
買い物は旅行における楽しみの一つであり、訪 日外国人旅行者に対して商品・サービスを紹介し たり表示を翻訳したりして説明を行うことは、全 国通訳案内士の重要な役割である。
説明する内容については、基本的には「表現の自由」が保証されているが、誤った情報や誇大な 情報が伝われば、お客様の適正な判断を妨げ、利 益等を損なわせることになる。事実、「ガイドに高 額な商品を購入させられた」などといったトラブ ル事例が確認されている。
全国通訳案内士による商品・サービスの説明は、 多くの場合、口頭でなされるが、口頭説明であっ ても、法で定められる「広告」又は「表示」に該当する場合がある。よって本項では、「広告」や「表 示」に関する禁止事項等を定めた 2 つの法律を紹 介しながら、全国通訳案内士による商品・サービ スの口頭説明時の留意事項について述べる。
5-3-1 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性 の確保等に関する法律
(1) 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性 の確保等に関する法律とは
「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全 性の確保等に関する法律」(以下「薬機法」という。) とは、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及 び再生医療等製品(以下「医薬品等」という。)の 品質、有効性や安全性の確保等を目的とするもの である。同時に、医療上特に必要性の高い医薬品、 医療機器及び再生医療等製品の研究開発の促進 により、保健衛生の向上を図ると定めている。
(2) 全国通訳案内士と薬機法上の禁止事項
薬機法の広告に関する禁止事項のうち、全国通 訳案内士の業務に関わりの強いものは次の 2 点で ある。
① 誇大広告の禁止
② 承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止
薬機法で定められる「広告」は口頭によるもの も含み、また、広告規制の対象について法では「何人も」と記載されている。
したがって、全国通訳案内士が医薬品等につい て口頭説明を行う場合、法で定められた禁止事項 に該当しないよう、注意が必要である。
それぞれの詳細は以下のとおりである。
① 誇大広告の禁止
誇大広告とは、医薬品等の名称・製造方法・効 能・効果等についての虚偽又は誇大な広告であり、 薬機法ではこれを禁止している。その他、第 2 項 にて、医師等が効果・効能を保証したかのような 広告も禁止している。
(誇大広告等)
第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化 粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、 製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽 78 又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布 してはならない。
2 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又 は再生医療等製品の効能、効果又は性能につ いて、医師その他の者がこれを保証したもの と誤解されるおそれがある記事を広告し、記 述し、又は流布することは、前項に該当する ものとする。
3 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医 療機器又は再生医療等製品に関して堕胎を 暗示し、又はわいせつにわたる文書又は図画 を用いてはならない。
② 承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製 品の広告の禁止
薬機法は、未承認の医薬品等の広告も禁止して いる。医薬品等の製造や販売には、承認や許可の 手続きが必要であり、そうした手続きを受けてい ない医薬品等についての広告は禁止となる。また、 医薬品以外のものを、医薬品と偽って広告する行 為も禁止される。
(承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製 品の広告の禁止)
第六十八条 何人も、第十四条第一項、第二十三 条の二の五第一項若しくは第二十三条の二の 二十三第一項に規定する医薬品若しくは医療 機器又は再生医療等製品であつて、まだ第十 四条第一項、第十九条の二第一項、第二十三条 の二の五第一項、第二十三条の二の十七第一 項、第二十三条の二十五第一項若しくは第二 十三条の三十七第一項の承認又は第二十三条 の二の二十三第一項の認証を受けていないも のについて、その名称、製造方法、効能、効果 又は性能に関する広告をしてはならない。
(3) 広告の該当性
「通訳ガイドによる口頭説明」が薬機法で 定められる「広告」に該当していることを確認す る。 まず、薬機法上の広告の該当性に関しては、次 のいずれの要件も満たす場合、これを広告に該当 するものと判断されている。
① 顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させ る)意図が明確であること
② 特定医薬品等の商品名が明らかにされている こと
③ 一般人が認知できる状態であること
これをふまえ、規制対象となる広告の具体例が 地方自治体により示されており、その中に「※口 頭での説明も規制の対象となりますので十分注 意ください。」と記載されている。 したがって、①~③のいずれも満たす場合、医 薬品等に関する口頭説明は、広告の主体を問わず、 薬機法上の「表示」に該当する。
(4) 医薬品等適正広告基準について
医薬品等に関する広告の禁止・制限事項は、「(2) 全国通訳案内士と薬機法上の禁止事項」で紹介し た事項の他にも「医薬品等適正広告基準」という 通達により別途定められている。基準の例は次の とおりである。
① 虚偽、誇大なおそれのある広告の禁止
② 効能効果等又は安全性を保障する表現の禁 止
③ 医薬品等の過量消費又は乱用助長を促すおそ れのある広告の禁止
④ 他社製品のひぼう広告の制限
⑤ 医薬関係者等の推せん表現の禁止 等
こちらの広告主体については、「広告を行う者」 として定められている。よって医薬品等について 広告を行う場合、通訳ガイドも「広告を行う 79 者」に該当するため、基準を順守する必要がある。
5-3-2 不当景品類及び不当表示防止法
(1) 不当景品類及び不当表示防止法とは
消費者はより質の高いものをより安い価格で 購入したいと考え、また事業者はその期待に応え ようと努める。ところが、商品についての不当な 表示や過大な景品の提供がなされると、消費者の 選択に悪影響を与え、結果として消費者の利益を 損なう場合がある。不当な表示や過大な景品の提 供を制限することで、消費者の利益を保護するこ とを目的とするのが「不当景品類及び不当表示防 止法」(以下「景品表示法」という)である。
以下では、不当表示規制・過大景品規制のうち、 前者についてその概略を示す。
(2)景品表示法で禁止される「不当な表示」とは
景品表示法は、口頭説明による場合を含めた 「不当な表示」を禁止している。この「不当な表 示」とは、広告に関する禁止事項を定めたもので あり、次の 3 点が該当する。
① 優良誤認表示
商品・サービスの「品質、規格、その他の内容」 について、実際のものや競争事業者のものより著 しく優良であると誤認される表示。
・例 1:アメリカ産の牛肉を「神戸牛」として表 示した場合
・例 2:「この製法で製造できるのは当社だけ」と 広告しているが、実際には他社も同じ製法で製 造できる場合
② 有利誤認表示 商品・サービスの「価格その他の取引条件」に ついて、実際のものや競争事業者のものより著し く有利であると誤認される表示。
・例 1:「通常価格○○円のところ 今だけ△△円」 と表示し、あたかも期間限定の安売りをしてい るかのように表示しながら、実際には、「通常価 格」で販売した実績のないものだった場合
・例 2:「他社製品の 2 倍の量」と表示しているが、 実際には他社製品と同程度の内容量だった場 合
③ その他誤認されるおそれのある表示
・例:外国産の商品のうち、その商品がその原産 国で生産されたものであることを一般消費者 が判別することが困難なものについて、その商 品の原産国以外の国の国名、地名、国旗、紋章 などを表示した場合
(3) 全国通訳案内士と景品表示法の関係
表示規制の対象は、商品・サービスを供給する 事業者である。 具体的には、同法第二条第四項において、次の とおり定義されている。
この法律で「表示」とは、
顧客を誘引するための手段として、
事業者が自己の供給する商品又は役務の内 容又は取引条件その他これらの取引に関す る事項について行う
広告その他の表示であつて、内閣総理大臣 が指定するものをいう。
(4) 景品表示法に関する注意点
(3)をふまえると、全国通訳案内士が直接の表示 規制の対象となることはないが、商品・サービス 事業者と一体となって「不当な表示」を行ったと 認められる場合は、全国通訳案内士も規制対象となる可能性がある。 また、全国通訳案内士は、当該商品・サービス と訪日外国人旅行者をつなぐ仲介者としての役 割を担っていることをかんがみ、説明内容が「不当な表示」とならないよう、十分に注意を払う必要がある。
(5) ステルスマーケティングの禁止 追加
消費者は、企業等による広告・宣伝であれば、ある程度の誇張・誇大が含まれているものと考え、それを踏まえ
て商品・サービスを選ぶものの、広告・宣伝であることがわからないと、その表示内容をそのまま受け取ってしま
い、消費者が自主的かつ合理的に商品・サービスを選択できなくなる可能性がある。
実際には広告であるにも関わらず、広告であることを隠すことを「ステルスマーケティング」というが、上記の
懸念点から、令和5年10月1日からステルスマーケティングを行うことは景品表示法違反であると定められてい
る。
通訳ガイドが、案内後に口コミの投稿を依頼するケースが増えている中、口コミの投稿を依頼すること自体は
違法ではないが、高評価での投稿をお願いすることはステルスマーケティングに該当する可能性がある
(参考:消費者庁ウェブサイト https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing )
5-3-3. 通訳ガイドによる商品・サービスの口頭説 明時の留意事項について
これまで述べてきたとおり、通訳案内士による商品・サービスについての口頭説明は、法で 定められる「広告」又は「表示」に該当する場合 がある。ただ広告や表示に関しては様々なルール が存在し、政令、省令、告示等により定められて いる場合や業界団体等による自主規制に委ねら れている部分もある。
よって、全国通訳案内士が 広告や表示に関する様々なルールを詳細に把握 することは困難である。 では、全国通訳案内士が商品・サービスの口頭 説明を行う際に、どのようなことに留意すればよ いか。具体的には、次のとおりである。
① 「不当な表示」とみなされる説明は避ける
通訳案内士は当該商品・サービスと訪日外 国人旅行者をつなぐ仲介者としての役割を担っていることをかんがみ、説明内容が「不当な表示」 で禁止される内容とならないよう注意し、商品・ サービスの「品質、規格、その他の内容」や「価格の他の取引条件」について、正確な情報発信 を行う必要がある。
② 説明する商品・サービスについてよく知る
正確な情報発信のためには、説明を行う商品・ サービスについてよく知ることが重要である。 また、薬機法で定められる医薬品等のように、商 品・サービスについて広告時の禁止・制限事項が 定められている場合もある。よって、特定のもの について詳細に説明すると想定される場合は、広 告に関する禁止・制限事項等が無いか、確認して おくことが望ましい。
第3編 外国人ごとの生活文化への対応
6-1-1. 背景
わが国ではこれまで、観光立国の実現に向けて、「ビジット・ジャパン・キャンペーン」をはじめとするインバウンドの誘致に官民一体となって取り組んできた。こうした中で、訪日外客数は、2011年の約622万人に比較して2019年は約3,188万人と、約5倍に増加した。その後、コロナ禍により一時的に落ち込んだものの、回復傾向にあり、2024年は約3,687万人と過去最高数値を達成している。
これに伴い、以下に示すように、訪日外客の「国籍」、「文化」等の多様化により、訪日外客の興味や訪問地等、旅行ニーズも多様化してきている。全国通訳案内士、地域通訳案内士の有資格者はもちろん、通訳案内業務を行う通訳ガイドにとっては、こうした新しい動向を踏まえ、訪日外客ごとの生活文化に対応していくことが重要とな
る。
なお、宗教、文化、国籍などの内容は多様であって、一つの宗教をとっても多くの宗派や教義等が存在する。本章及び次章で扱う内容についても、あくまで代表的な(特徴的な)一例に過ぎないことに留意し、訪日外客ごとに十分な確認をすることが求められる。
(1) 訪日外客の国籍の多様化
訪日外客の国籍は多様化している。とりわけ、経済発展やビザの発給要件の緩和、LCCの増加、円安等を背景に、距離の近い東アジアだけでなく、米国やタイ等からの訪日外客数も増加してきており、今後もさらに伸びていくものと考えられる。
JNTOの「訪日外客統計」によると、2024年の国籍別の訪日外客数は、韓国が約882万人、中国が約698万人、台湾が約604万人と東アジアが上位に並ぶものの、次いで米国が約272万人、香港が約268万人、タイが約115万人となっている。
(2) 訪日外客の文化の多様化
イスラム圏をはじめ、訪日外客の文化的多様性が増大している。なかでも、米国の調査機関であるPew Research Centerによると、インドネシアは人口の88%、マレーシアは人口の約60%がムスリム(イスラム教徒)であるといわれており、受入整備においてはムスリム対応が重要となる。欧州でもイギリス、ドイツ、フランス、オランダ、スイス、スウェーデンなどでもその割合は1割に近づいている。
また、日本を訪れるユダヤ教徒の旅行者も増加している。そのほか、キリスト教や仏教等、日本人が良く知っていると思う宗教であっても、国や宗派等によって様々であり、食をはじめとする多様な生活習慣や戒律、ルールを有している。
また、食習慣ということでは、観光庁「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド」によると、諸外国におけるベジタリアンの割合は日本よりもはるかに高く、インドでは約20%、台湾やカナダでは約12%、イタリアでは約9%となっている。
(3) 日本における訪問地の多様化
訪日外客の訪問地は、従来から人気の高い「ゴールデンルート」等に加えて、地方部へと大きく広がっている。
大都市圏においては、様々な飲食店や宿泊施設があるだけに、例えば、ムスリム対応、ベジタリアン対応等が可能な施設は少なくない。しかし、地方部においては、食品表示を含め、訪日外客ごとの生活文化への対応ができている施設は少ない。
だからこそ、一般の日本人と比較し、国際経験が豊富な通訳ガイドが率先して、訪日外客の生活文化への理解を広く普及していく役割を果たすべきである。
6-1-2. 食は、訪日旅行の最大の楽しみ
(1) 旅行の食に対する不安と大きな期待
多様な文化をもつ外国人に対する最も大きな課題とは、文化の根源を成す「食」への対応である。
食には「制限」と「楽しみ」の2つの側面がある。例えば、イスラム教では、戒律による様々な食事の制限がある
一方で、食事は、信徒に対する神からの報酬と考えられており、食事を楽しむことが重視される。この楽しみは、
非日常を求める旅行先であればなおさら大きく膨らむ。
それゆえ、訪日外客は、食の制限を守れるかどうかを不安に思いつつも、それを上回る大きな期待を持ってい
ると考えられる。
(2) 日本食に対する高い関心
日本では、特に大都市地域を中心に、日本食はもとより、フランス料理、イタリア料理、中華料理、韓国料理、エスニック料理、メキシコ料理等の世界各国の料理が食べられる。とりわけ、世界的な日本食ブームを背景に、数多くの外国人が日本食を食べ、日本食に親しむようになってきた。
観光庁のインバウンド消費動向調査(旧 訪日外国人消費動向調査)(2024年)による「訪日前に期待していたこと」では、「日本食を食べること」が83.4%で第1位、続いて「ショッピング」が64.9% 、 「自然・景勝地観光」が57.6% 、「繁華街の街歩き」が57.1% となり、日本食への期待は他を大きく上回っている。 ←(この部分の順位、毎年出ます)
また、「日本の酒を飲むこと(日本酒・焼酎等)」も、31.4%と高い関心を示している。
このように、日本食に関する関心は、極めて高いと言える。
もちろん、訪日外客の中には、来日中も自国の食事と同じようなものを食べたいと思っている人もいるので、そのような要求への配慮も大切である。
(3) 和食と多文化共生の精神
「和食」が2013年、ユネスコ無形文化遺産に登録された。これは決して天ぷら・寿司といった和食が世界的に認められたという意味ではなく、日本人の「自然を尊ぶ気質」と「食に対する習わし」及び「伝統的な食文化」が高く評価されたことが登録の理由としてあげられる。
近年、日本食(和食)が世界的ブームと言われるようになり、メニューばかりが注目されがちだが、和食を美味しく味わっていただきながらも、文化を正しく伝え理解してもらうことも重要である。
和食には4つの特徴があり、その内容は以下のとおりである。
①多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
日本の国土は南北に長く、海、山、里と表情豊かな自然が広がっているため、各地で地域に根差した多様な食材が用いられています。また、素材の味わいを活かす調理技術・調理道具が発達しています。
②健康的な食生活を支える栄養バランス
一汁三菜を基本とする日本の食事スタイルは理想的な栄養バランスと言われています。また、「うま味」を上手に使うことによって動物性油脂の少ない食生活を実現しており、日本人の長寿や肥満防止に役立っています。
③自然の美しさや季節の移ろいの表現
食事の場で、自然の美しさや四季の移ろいを表現することも特徴のひとつです。季節の花や葉などで料理を飾りつけたり、季節に合った調度品や器を利用したりして、季節感を楽しみます。
④正月などの年中行事との密接な関わり
日本の食文化は、年中行事と密接に関わって育まれてきました。自然の恵みである「食」を分け合い、食の時間を共にすることで、家族や地域の絆を深めてきました。
(出典:農林水産省ウェブページ https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/ich/)
このように、日本は古来より訪日外客に対して多様な食を提供できる基礎力が備わっていると考えることができる。通訳ガイドは、日本の食の伝統を踏まえつつ、外国人ごとの食の多様性の理解と対応を学び、多文化共生による国際交流を理解する必要がある。
6-1-3. 食の多様性と多文化共生
訪日外客に対応するときの基本は、食の多様性であり、多文化共生である。
多様な食文化・食習慣を、必要以上に区別して考えるのではなく、複数の文化・習慣の共通点を探ることが重要である。
例えば、右記の図でいうと、豚肉を忌避するムスリムと、動物の肉のみ不可のベジタリアンは、「肉や肉の成分に注意を
払うが、菜食は安心して食べられる」という共通点がある。
このような考え方で対応すれば、より幅広い国籍・宗教・嗜好の訪日外客に対応することができる。
*『ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム 旅行者おもてなしガイド』(令和6年4月)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001740443.pdf
をしっかり押さえる。
「ベジタリアン等やムスリムの人たちは個別にメニューを考えないといけないからコスト・手間が見合わなそう、、、
↓
訪日観光客の方は普段日本で食べられているような料理を食べたいと考えており、共通対応部分に着目して、少し既存のメニューを工夫するだけで多くの人に食べてもらえます!
多様な食習慣を有する方々への対応は、共通性に着目し、それぞれの事業者の方に合った取組み方で進めることがポイントです!」
6-1-4. 「訪日外客が要望する」食材と料理に関する理解
訪日外客の料理・食材に関する要望は多岐にわたるが、これらは「①食べてはいけないもの」、「②食べること
ができないもの」、「③食べたくないもの」の3つに整理すると分かりやすい。
① 食べてはいけないもの
宗教上の教義や信念に関する理由で訪日外客が食べることを忌避しているものが対象となる。これらは、実際に訪日外客が食べた場合も健康上の影響はみられないが、訪日外客と飲食店との深刻なトラブルを引き起こす可能性が非常に高いため、特に注意が必要である。豚肉・牛肉のエキスやスープ、豚・鰹節の出汁などが料理に
わずかでも混入することに対して、敏感に反応することが多い。これに該当する食材を取り扱う場合にも十分に注意を払う必要があり、訪日外客に対して事前に確認を取ることが重要となる。
② 食べることができないもの
アレルギー症状を引き起こすなど、健康上の理由で訪日外客が一切口にすることができないもの、最悪の場合には死に至ってしまうものが対象となる。これに該当する食材を取り扱う場合には細心の注意を払う必要があり、訪日外客に対して事前に確認を取ることが重要である。
その際、訪日外客の食べる楽しみをなるべく確保するため、アレルギー等の内容を細かく確認し、食べることができる食材も含めて取り除かれないように、対応することを心掛ける。
③ 食べたくないもの
個人の主義や嗜好に関する理由で訪日外客が食べることを忌避しているものが対象となる。①や②と比べて大きな問題を引き起こす可能性は低いと言えるが、要望に合わせて的確な対応をする必要がある。
ただし、団体旅行の場合は、この要望すべてに対応できる飲食店ばかりではない。そのような場合は、飲食店が可能な対応の範囲や、旅行会社からの指示の内容を確認した上で、的確に対応することが求められる。
なお、①②③の分類に関わらず、訪日外客の要望は非常に個人差が大きい。まずは、必要かつ正確な情報を飲食店に確認し、それを訪日外客に伝えた上で、判断を任せるとよい。
以下では、これらの原則に基づいて対応するための基礎知識として、「宗教ごとの特徴」、「食習慣に関する知識」及び「飲食店等での受入れ対応」を記載する。
6-2-1. 宗教ごとの対応の基本
(1) 宗教の多様性と個人差を前提とした対応
世界には様々な宗教があり、さらに、同じ宗教のなかでも、宗派、教義、居住地、年代、コミュニティ等による嗜好や行動の個人差が非常に大きいため、訪日外客の宗教に適切に対応することは簡単ではない。
また、訪日外客の宗教について、必ずしも事前に情報を得られず、来日してからも、訪日外客の思想や価値観に関わることなので、安易に尋ねることは適切とは言えない。
以下では、主要な宗教の概要と、訪日外客対応に当たって必要とされる、食を中心とした様々な知識を記載するが、これらは、あくまで一般的傾向や代表例に過ぎない。
また、説明の必要上、「ハラル」や「コーシャ」といった宗教用語を用いているが、これらは読み手の立場によって解釈やイメージが異なり、正確に定義することは困難であり、注意が必要である。
現場においては、これらの情報を目安として活用しつつ、訪日外客一人ひとりと向き合って要望を聞き、柔軟に対応していくことが重要である。
(2) 食事における共通的注意事項
前頁のような個人差がある一方で、大きな視点から複数の宗教を比較すると、食に関する禁忌、嗜好、それに応じた対応などにおいて、共通する注意事項が存在する。
以下のような共通的注意事項を、大きな「基盤」として身につけることは、個別の知識を学習することよりも効率的であり、しかも現場での柔軟な対応に役立つと考えられる。
① 出汁(動物性)
• 和食の基本である「出汁」には、カツオを代表とする動物性食品が多く使用される
• 魚食を禁忌する人のいる宗教(ヒンドゥー教、ジャイナ教)や一部のベジタリアンには、動物性食品の出汁を
使用することはできない
• そのような場合は、「昆布出汁」などの野菜や海草を使った出汁で対応する
② 動物性油脂、加工油脂
• 世界各地にはバター(牛乳の脂肪)、ラード(豚の脂肪)、ヘット(牛の脂肪)、鶏油、魚油、馬油など、様々な動
物性油脂がある
• 加工油脂であるマーガリンは、原料として動物性油脂が使われている場合がある
• ショートニングは、基本的には植物性油脂を原料としているが、製造に使われる乳化剤に動物性油脂が使わ
れることがある
• 上記のような動物性油脂や加工油脂は、様々な料理、菓子、飲料などに使用されており、ごく少量で分かり
づらい場合も多いため、訪日外客の宗教の禁忌に触れることがないよう、十分な確認が必要である
③ ブイヨン、ゼラチン、肉・魚エキス
• これらの食品には、鶏・牛・豚・魚の肉や骨が使われている
• これらの食品は、様々な料理、菓子、飲料などに使用されており、ごく少量で分かりづらい場合も多いため、
宗教の禁忌に触れることがないよう、十分な確認が必要である
④ 食事サービス
• 日本の飲食店におけるサービスは、食べられない食材やアレルギー等について、食事前に確認しないことが
多い
• 結果的に訪日外客が望む通りのメニューを提供できなかったとしても、事前に確認した上で対応に限界が
あることを説明すれば、訪日外客の印象は格段に良くなる。またトラブルの未然防止にもつながる
6-2-2. イスラム教
(1) イスラム教とは
① イスラム教の概要
7世紀初めにアラビアのムハンマドが預言者として神から授かった宗教である。唯一神「アッラー」を信じる一
神教で、「クルアーン」(以前はコーランと言われていた)を聖典とする。キリスト教、仏教とともに世界三大宗教
の1つに数えられる。
イスラム教は「スンニ派」と「シーア派」の2つに大きく分類できる。スンニ派における信仰の基本は、以下の「六
信五行」にまとめられる。
シーア派では、スンニ派とは異なる「五信十行」がある。
イスラム教徒は、唯一絶対の神「アッラー」からの教えに従って生きている人々のことで、ムスリムと呼ばれる
(女性は「ムスリマ」と呼ばれることもある)。
② イスラム教徒に該当する国民
米国の調査機関であるPew Research Centerによると、ムスリムは世界人口の約1/4を占めており、うち6割以上がアジアで暮らしているとされる。
近年、急速な経済発展が進む東南アジア諸国からの訪日外客数が増えてきている。マレーシア、インドネシアを中心にASEAN(東南アジア諸国連合)の人口の約半数を占めるムスリムの来訪も増えている。
イスラム教徒は世界各地に居住しており、特にアジア、北アフリカ、中東における人数が多いとされる。中東諸国は国民の大多数がイスラム教徒であるが、世界におけるイスラム教徒の人数ではアジアが多数を占める。
③ イスラム教の戒律
イスラム教では、神の教えをまとめた聖典「クルアーン」に従い、上記の「六信五行」(シーア派の場合は「五信十行」)を果たすべきとされている。
その他にも家族、友人との接し方や仕事の仕方、社会ルールなど人間社会のあらゆる場面における神の教えがあり、「義務とされること」「行った方が良いとされること」「許されないこと」などが決められている。
さらに、神の言葉を人々に伝えた預言者ムハンマドの言動の記録なども、ムスリムにとってあるべき姿として
考えられている。
④ 「ハラル」(HALAL) と「ハラム」(HARAM)
通訳ガイドが覚えておくべき言葉として、「ハラル」と「ハラム」が挙げられる。
「ハラル」とは、アラビア語で「許可された」「容認された」「合法的」という意味である。例えば、「ハラルフード」といった場合、それは「イスラム教の教義に則って食べることが許可された食事」という意味になる。「ハラル」は「ハラール」とも呼ぶこともあるが、同じ意味である。
一方、「ハラム」はそれとは逆、つまり「禁じられた」「違法な」という意味を持つ。例えば、豚肉を使った料理は、ムスリムにとって「ハラム」ということになる。
「ハラル」と「ハラム」の概念は、衣食住など日常生活全てに適用される。
なお、「ハラル」や「ハラム」については地域や宗派により解釈が異なる。実際、非ムスリムが解釈を行うこと自体が好ましくないため、事前のコミュニケーションや確認が大変重要である。
※ 「ハラル」という言葉の解釈は、上記のような教義を踏まえた厳格なものから、「豚肉やアルコール抜き」という寛容なものまで、様々なケースが存在する。本テキストでは、教義を踏まえた厳格な解釈を採用している
が、実際の観光現場で「ハラル」という言葉に出会った場合は、念のため解釈を確認する必要がある
(2) イスラム教徒の食習慣
① 食に対する意識
宗教が生活の土台となっており、食生活を含め、個人の宗教や信条を遵守する傾向が強い。食事の規制事項があるため、口に入れる食材に対して非常に気を遣う。
イスラム教徒は、「食材」、料理に付着する「血液」、調理される「厨房」と「調理器具」がイスラム教の教義に則ったものであるかということに対して、非常に敏感である(具体的な内容については④に記載する)。その一方で、食事は、信徒に対する神からの報酬と考えられており、食事を楽しむことを重視するため、イスラム教の旅行者を案内する際には、事前にハラル対応したメニューを用意しているレストラン等を調べておく必要がある。
② 日常の食事パターン例
イスラム教徒の食事回数は、通常、1日3回である。メインとなる食事は、国や地域における食生活の傾向が影響する(昼食メインや夕食メインなど)。
豚肉などの禁止されている食材が混入することへの不安から、外食を避ける人もいる。
イスラム暦9月に1ヶ月にわたる断食期間(ラマダンと呼ばれる)がある。断食期間中は、夜明けから夜になるまで、一切の飲食が禁じられる(水も飲んではいけない)。喫煙、性的な営みも禁止される。この期間の食事は、通常、夜明け前と夜の2回である。断食期間中ということもあり、夜の食事は、普段の食事よりもたくさんの量の食事を食べる。また、短期の旅行期間中に断食期間が重なった場合には、断食しないこともある。乳児や幼児、体調が優れない者(高齢者、重労働者、妊婦、生理中・授乳中の女性)は断食をしなくてよい。イスラム教徒は6~7歳頃から断食を始める(最初はお昼までなど、徐々に身体を慣らしていく)
③ イスラム教の料理の特徴
イスラム教徒が多い国では、イスラム教徒の教義に則った食材を扱い、家庭料理や外食での料理が作られている。扱われている食材や料理の形態は国や地域によって様々である。
また、海外から輸入した肉類などの食材や食品には、それらがイスラム教の教義に則ったものであることを表すために「ハラルマーク」(アラビア語や英語で“HALAL”と書かれる)を付けてあることが多い。
ムスリムが口にできる食事には様々な要件がある。「豚由来の成分やアルコールが含まれていないこと」「イスラム法に則って処理されていること(特に肉)」などが代表的なものである(詳細は④に記載)。
イスラム教徒が多い国では、マクドナルドなど、世界各国に店舗を持つファーストフード店は、その国や地域において食べてよい食材を用いた商品を開発し、提供している。
④ 食に対する禁止事項と注意事項
ムスリムが特に避けるべき食材は「豚肉や豚由来の成分」「イスラム法に則った処理が施されていない肉やその
成分」「血液」「アルコール」である。このことを踏まえ、教義により禁じられているため、細心の注意を払うべき
「禁止事項」と、人によっては嫌悪感があるため気を付ける必要がある「注意事項」に分け、ムスリムに対する食
のポイントを記載する。
1) 豚肉や豚由来の成分
●禁止事項
豚肉及び豚由来の成分が使用されている「ラード」「ブイヨン」「ゼラチン」「ポークエキス」などを使用しない。また、市販
の菓子や飲料に含まれる「乳化剤」「ショートニング」には動物性と植物性のものがあるため、動物性のものは使用しない。
●注意事項
豚は食べることだけでなく、見ることも嫌悪する人が多い。「豚を想起させる名称の料理」は、たとえ食材に豚が使用されていない場合でも、感覚的に拒絶されることが多い。また、梅肉という表示も、肉の成分が含まれていると誤解を受けやすい。厳格なイスラム教徒には、豚肉を料理した調理器具が使われることを忌避する人もいる。
2) イスラム法に則った処理が施されていない肉やその成分
●禁止事項
イスラム法に則った処理が施されていない肉(自然死、病死、事故死した肉を含む)」は、食べることを禁止されている。
そのため、肉はハラル認証マークのある肉を使用すると良い。例えば、ブラジル産の鶏肉の多くはハラルである。
しかし、日本のような非イスラム圏では、豚肉以外の肉類ということで、牛肉、鶏肉、羊肉を食べるイスラム教徒もいる。
●注意事項
市販のソースやスープには豚由来の成分のほか、「チキンエキス」などハラルの肉か不明な動物由来の成分が使われることが多い。
3) 血液
●禁止事項
血液は不浄なものとして忌避される。肉や魚の料理は、提供時に血が滴っていないか確認する必要がある。
4) アルコール
●禁止事項
アルコールを料理に加えない。「料理酒」「みりん」などを煮切った場合もハラムである。デザートの香り付け目的に使用
される「リキュール」も同様である。
●注意事項
「調味料」に微量に含まれるアルコールを気にする人もいるので、アルコールが添加されていないか、成分を確認する。
5) その他
●注意事項
「魚介類」は基本的にハラルであり、「うなぎ」「イカ」「タコ」などについては、宗教上の教義で禁じられているわけでは
ないが、人や国・地域によっては嫌悪感を示すので、確認をするとよい。
ハラル認証マークは、豚やアルコールなどの禁止成分が一切含まれていないことを保証するだけではなく、その製品が
製造環境・品質・プロセスもイスラム法に則り基準をクリアしていることを意味するムスリムにとっての安心・安全の基準
のひとつである。
同じイスラム教徒でも、ノンポーク・ノンアルコールメニューなら食べられるという寛容な人から、イスラム法に則った完
全な「ハラル」な料理しか口にしない厳格な人も存在する。後者の場合はハラル認証を取得している食品や飲食店を紹介
するとよい。
⑤ テーブルマナー
イスラム法(「シャリーア」と呼ばれる)は食事のマナーも定めている。食事前と食後には祈りの言葉(成句)を
唱える人もいる。また、相手に料理を手渡したり、給仕をしたりする場合には右手を使い、左手を使ってはなら
ない。その国や地域における食習慣に合わせて、右手、ナイフ、フォーク、スプーンなどを使って食事を取る。
⑥ 日本の食事で好まれるもの
<食事内容>
• 天ぷらなどの揚げ物や焼き肉を好む人が多い
⑦ 日本の食事で好まれないもの
<食事内容>
• 肉を扱う料理は、豚肉が混入することへの不安から、食材や調味料が明らかでない場合には忌避されるこ
とが多い。特に豚エキスに対する不安感がとても大きい
• 生魚は、食べる習慣がない国が多いため、好まれないことがある
• 内陸部に暮らしている人は魚介類を食べる習慣がないことも多いため、魚介類の料理全般を好まない人も
いる
• インスタントラーメンはフリーズドライでも豚のスープで作られている場合があるため、食べることを避ける
<サービス>
• イスラム教に対する理解が乏しい日本では、偏見などが原因で、ムスリムが不愉快な思いをすることがある
⑧ 現状とコミュニケーションの必要性
これまで述べてきたようなイスラム教徒の食習慣を厳密に満たすことは、日本ではかなり困難である。
ただし、日本を訪れるムスリムは、日本が非イスラム圏であることを理解した上で来る人もいるため、自国の
ルールをそのまま当てはめない場合もある。最低限のルールにも個人差があるので、確認をしたほうがよい。
個別対応が難しい団体旅行の場合には、トラブルを防ぐためにもツアーリーダーや旅行会社にルールの確認
や情報共有をしておくとよい。
⑨「ハラルフード」の調達
「ハラルフード」とは、イスラム法で食べることが許されているものを指す。ムスリムが食べる食事には、この
「ハラルフード」を使用することが望ましい(野菜、果物、魚、卵、牛乳は基本的にハラルフード)。
しかし、「ハラルミート」(イスラム法に則って適切な方法で処理された肉)や、「ハラル」の調味料や加工食品は、
調達が困難な地域も存在するため、対応できないことがある。その場合には、はっきりとその旨を訪日外客に
伝え、可能であれば個別対応又は「ハラル」対応などが可能な飲食施設を紹介するとよい。
「ハラルフード」をどうしても入手しなければならない場合には、日本国内にある各種団体を通じて、入手方
法を確認するとよい。
「ハラルフード」(イスラム教)
1) 「ハラルフード」を扱っている飲食店や食材店は国内に存在する。
2) 「ハラルミート」の牛肉、マトン、鳥肉はスーパーやオンラインショップで販売されている。鳥肉は比較的安価に
入手できるが、牛肉はやや高価である。
ハラル認証について
(1) ハラル認証の基本
① 市販されている商品には多くの原材料が使われており、一般的にはハラルかハラムか見分けがつかない。そこで、
宗教と食品衛生の専門家(ハラル認証機関)がハラルかどうかを判断し保証するのがハラル(ハラール)認証とい
う制度である
② ハラルの対象は食べ物だけではなく、健康食品・化粧品・生活用品・医薬品などの製造業はもちろん、小売・販売・
観光・ホテル・レストラン・物流・金融など幅広い分野に及ぶ
③ 世界各国には多くのハラル認証機関があり、世界的な統一基準が定められておらず、認証機関によって判断や指
導内容が異なることがある
④ 各ハラル認証機関では、ハラル認証マークを発行しているが、その形は様々である
(2) ハラル認証のチェックポイント
① 原料がハラルかどうか
② 保管状況、製造ラインでハラルでないものと交わらないか
③ 従業員教育はできているか
④ 管理体制(組織・文書)が適切か
(3)ハラル認証のサプライチェーン
ハラルの考え方は「農場から食卓まで」である。ハラル認証機関
など専門家から要求されることは、サプライチェーン(※)の全て
がハラルになっている状態だが、日本ではムスリム人口も少なく
専用化が困難なため、混載してもそれぞれの商品が物理的にコン
タミネーション(交差汚染)しないように対処されていれば問題な
いと判断するムスリムもいる
※ 製品の原材料が生産されてから消費者に届くまでの一連の流
れのこと
(3) 礼拝
① 礼拝の概要
礼拝は日の出前・正午ごろ・日没前・日没直後・夜の1日5回、クルアーンによって定められた方法で礼拝を行う。
ムスリムは決められた時間までに、サウジアラビアのメッカにあるカアバ神殿の方角に向かって礼拝をする。1回
の礼拝に要する時間は通常5~10分である。なお、礼拝の時間は太陽の動きに従うため、季節や場所によって
変化する。
ムスリムにとって礼拝とは、神によって決められた大切な行動であり、毎日行うもっとも基本的な義務のひとつ
である。ただし、旅行中は回数を減らしたり、省略したりすることもできるとされ、病気や妊娠している場合など
も、それらの状態が終わるまで延期することができるとされている。
イスラム教徒の訪日外客に対応する場合は、礼拝の習慣を尊重し、最寄りのモスクを調べておくなど、準備を整
え柔軟に対応することが望ましい
② 礼拝の内容
礼拝は、基本的には男女は別々で行うため、モスクや大きな礼拝室では入口も男女別々になっている。
別々のスペースが確保できない場合には、同じスペースをカーテンやついたてで仕切ったり、男性が前/女
性が後ろのスペースを使用したり、男女で時間を分けて使うといった工夫がされている。礼拝の手順は以下の
とおりである。
また、上記の手順に従って礼拝をするために、ムスリムの方々が必要としている設備やアイテムは、以下の通
りである。
(礼拝の手順)
1) 時間を確認
決まった時間までに礼拝するように定められているので、時間を確認する。
2) 身体を清める
手(ひじまで)・口・鼻・顔・腕・髪・足(くるぶしまで)を流水で清める。
3) 方角を確認
世界のどこに居ても、サウジアラビアのメッカに向かって祈る必要があるので、方角を確認する。
4) お祈り
お祈りは一人又は集団で行う。男性は金曜日に集団礼拝することが推奨されている。
(礼拝に必要なもの)
1) 時間を確認
• 礼拝時刻がわかるもの(ウェブサイトやアプリ等でチェックすることができる)
2) 身体を清める
• 洗い場(ウドゥー)
お祈り前に手足を清めるための設備。足が洗いやすいように、低い位置に蛇口があるものや、広い流し台があるもの
を設置するとより喜ばれる。なお、ホテルの部屋でお祈りをする際は、バスルームのシャワーを利用するので問題ない。
• ペーパータオル又はタオル手足を清めた後に、足などを拭くためのもの。
3) 方角を確認
• キブラコンパス
メッカの方角がわかるコンパスのこと。なお、一般的なコンパスでも、東西南北が分かれば、メッカの方角を推し測る
ことができる。最近では、スマホにキブラを示すアプリを入れているムスリムも多く、Wi-Fiが使用できる場合、スマホ
をコンパスとして利用することもある。
• キブラ(マーク)
サウジアラビアのメッカの方角を示すマーク。ホテルの部屋の天井や机の引き出しの中などに貼り付けて使用する。
4) 礼拝時
• 礼拝用のマット
礼拝の際は床に膝をつき、額を床に付ける動作があるため、特に礼拝場所の床が固い場合は敷くためのマットの準備
があると喜ばれる。また、清潔な場所で礼拝することも求められるため、そのためにマットが必要な場合もある。
• クルアーン(聖典)
礼拝に使うムスリムもいるが、ムスリムでない人が触ることを好まない人もいるため注意が必要である。用意する場
合はムスリムにとって大変聖なるものとして尊重し、丁寧に取り扱う必要がある。
(4) その他習慣・慣習、タブー等
① 服装について
男性は、へそから膝上までの部分を見せてはならないとされている。
女性は、家族以外の男性から美しい部分を隠すべきと定められているので、多くの女性は髪を隠し、胸元や体
のラインがわからないような服を着て、顔と手首から先以外は見せない。ただし、国によってはスカーフを被ら
ない人もいたり、半そででも問題ない、スカートも膝上まで隠せればよい、といった場合もあるので一概でない
場合も多い。
② 右手を優先する
イスラム教では、左より右を優先するという思想がある。例えば、食事では左利きの人でも右手で食べ物を口
に運び、礼拝の所作や衣服の着脱も右手(右足)から行うのが正式とされている。
逆に、左手は用便をする時に用いられるもので、不浄な手と考えられている。非ムスリムが左手の使用を避け
るよう求められるのは稀だが、知識として知っておく方が良い。
多くのムスリムは、人との握手、物の受け渡しでは右手を使う。そのため、対応する際にも同じように右手を使
うことが好まれる。
なお、家族、親戚以外の異性との握手などの接触は避けるように定められている。
③ 接客
イスラムの戒律は、お祈りや食事だけでなく、生活の隅々にまで及んでいるため、日常的な生活習慣にも配慮
が必要である。訪日外客が大切にしている信仰や生活習慣が旅先で尊重されることは、「心に残るおもてなし」
として喜んでもらえる。
1) 同性による接客を希望される場合もある
しばしば聞かれるのが、同性による接客、特にムスリム女性への接客は女性が担当して欲しいという要望である。男性
がムスリム女性への接客を行わざるを得ない場合、ホテルの女性従業員、訪日外客の女性友人などの同行を依頼する。
2) 観光地の選定にも配慮を
厳格なムスリムの場合、日本の神社仏閣を忌避することが稀にある。またギャンブルやみだらな雰囲気を嫌う方もい
るので、観光プログラムに配慮する。その他、満員電車での移動などは、他人と体が接触するため注意が必要である。
3) アルコールはわかりやすく
日本語が分らないムスリムにとって、アルコールかどうかの判断が難しい場合がある。例えば、カクテルなどは見た目
ではジュースと区別がつかないものが多くあるので、分かりやすくアルコールであることを明示する。
4) 聖書と仏典への配慮
ホテルの客室には聖書や仏典が置いてある場合があるが、ムスリムが滞在する場合は事前に取り除いておいた方が
望ましい。ただし、代わりにクルアーンを置く必要はない。非ムスリムがクルアーンを手にすることを嫌うムスリムもいる。
④ ムスリム旅行者の行動例
訪日中のムスリムの訪日外客は、どのように行動しているのか、以下の例を参考に、一般的なムスリムの一日
の流れをイメージしてみる。
1) [起床]ホテルの部屋で礼拝する
2) [朝食]ビュッフェで食べられる品を探して食べる
3) [観光(お寺)]異なる宗教なのでお参りはしない
4) [礼拝]礼拝できる場所を探す
5) [昼食]観光地のレストランで、「ハラル」なのか確認して食事する
6) [礼拝]礼拝できる場所を探す
7) [ショッピング]革製品の材料を気にする。カフェでケーキを食べたいが、食材がわからないので、結局フルーツ
の盛り合わせを食べる
8) [礼拝]礼拝できる場所を探す
9) [観光(テーマパーク)]英語の案内を頼りに楽しむ
10) [礼拝]ホテルの部屋で礼拝する
11) [夕食]ホテルの近くのレストランで、「ハラル」か確認して食事する
12) [お風呂]他人には裸を見せないので、大浴場には入らず部屋のお風呂を使用する
13) [就寝]
※ 国や民族、ライフスタイルによって個人差がある
※ 食事と礼拝の順は入れ替わることがある
(1) ユダヤ教とは
① ユダヤ教の概要
古代イスラエルに発祥し、唯一神「ヤハウェ」を信じる一神教である。ユダヤ人を神から選ばれた選民とみなし、
救世主(メシア)の到来を信じる。モーセの律法「トーラー」(キリスト教の旧約聖書中、モーセ五書を指す)、律法
「タルムード」などの聖典がある。
ユダヤ教を信仰する人とその子孫が「ユダヤ人」と呼ばれるが、厳密な定義は難しい。ユダヤ教は大きく3つ
の宗派に分けることができる。
厳格なユダヤ教徒(「超正統派」)は外見に特徴があって、黒服と黒の山高帽を身につけ、髭(ひげ)ともみあげ
を生やしており、食事の規程も厳格に守る。現代社会に合わせて、食事の自由を認めて生活をする「改革派」に
属する人たちもいる。その中間には「保守派」がいる。
② ユダヤ教徒に該当する国民
イスラエル、米国、ロシアなど、世界各国に分布する(イスラエルはユダヤ人の国家として1948年に建国され
た)。ユダヤ料理の食材が入手しやすい地域にまとまって住む傾向が強い。
(2) ユダヤ教徒の食習慣
① 食に対する意識
宗教が生活の土台となっており、食生活を含め、個人の宗教や信条を遵守する傾向が強い。食事の規制事項が
あるため、口に入れる食材に対して非常に気を遣う。
「カシュルート」と呼ばれる食事規程が存在し、食べてよいものと食べてはいけないものが厳格に区別されてい
る。食材を選ぶのは主婦の仕事であり、食べることが適当か不明な食材は、ラビ(=ユダヤの宗教指導者)に相
談をして、判断を下してもらう。
ユダヤ教には様々な食習慣があるほか、年6回の断食日が存在し、一切の飲食が禁じられているため、食に禁
欲的であると考えられがちであるが、むしろ、心のこもったご馳走が宗教的な境地を高めると考え、断食の後の
食事などを大切にしている。
規程を遵守することによって、ユダヤ人のアイデンティティを守ろうという意識も強い。
② 日常の食事パターン例
カシュルートに規定された食材を選び、律法に規定された作法に基づいて食事を取る。土曜の安息日(金曜日
の日没から土曜日の日没前までの期間で「シャバット」と呼ばれる)や祝祭日には食べる料理も決まっている。
シャバットの食事は、金曜日の夕食、土曜日の昼食、土曜日の夕食の3回で、金曜の午後に特別の食事が用意さ
れる。
禁止されている食材が混入することへの不安から、外食を避ける人も多い。
過越(すぎこし)の祭り(ユダヤ教三大祭り)の期間中(毎年日付は変わるが3月末から4月の初めころ)は、イー
スト菌の入ったものを食べることが禁じられる。また、食器も特別なものを使わなければならない。
③ ユダヤ料理の特徴
ユダヤ教では、「カシュルート」において、食べてよいものと食べてはいけないものが厳格に区別されている。
ユダヤ教で食べてよい食べ物はKosher(「コーシャ」、「コーシェル」)と呼ばれ、ヘブライ語で「適正な」という意
味をもつ。主にユダヤ教の食事規則である。発音は英語に基づいて「コーシャ」と言ったり、ユダヤ教学会の表記
に基づいて「コーシェル」と言ったりするが、どちらも同じ意味である。
具体的なメニューとしては、チキンスープ、ゲフィルテ・フィッシュ(鱒や鯉のすり身に卵や玉ねぎを混ぜて作っ
た団子)、ホレント(豆、肉、ジャガイモ、いろいろな野菜の煮込み)、白パン、ツィミス(かぶと人参のシロップ漬け)
などがある。詰め物をした魚は、典型的なユダヤ料理の1つである。
イスラエルやアメリカなどのユダヤ教徒が多い地域では、カシュルートの規程に則った食材を扱うレストランが
存在する。
④ 食に対する禁止事項と嫌悪感
日本で注意したいユダヤ教徒に対する食のポイントは、以下の通りである。
1) 特に注意が必要な食材は「豚」「血液」「宗教上の適切な処理が施されていない肉」「乳製品と肉料理の組合せ」である。
2) 「ブイヨン」「ゼラチン」「肉エキス」には豚の肉や骨が使われており、調理時に注意する必要がある。ソースやスープに
は「豚エキス」が使われることが多い。
3) 「ラード」(豚の脂肪)は、調理時に注意する必要がある。「植物性油」を代用するとよい。
4) 血液は不浄なものとして忌避される。肉類や魚の焼き具合と調理方法には気をつける方がよい。
5) イカ、タコ、エビ、カニ、貝類は酢の物などに使われることがあるため、注意が必要である。また、カニかまぼこなどの
「カニを想起させる名称の料理」は、たとえ食材にカニが使用されていない場合も感覚的に拒絶されるため、注意が必要
である。
6) 厳密には「宗教上の適切な処理が施されていない肉」も食べることができないため、肉類を食べることを忌避する
ユダヤ人もいる。専門の屠殺人が処理をして検査を済ませた肉でないと、「コーシャ」とは認められない。それほど厳格で
はないユダヤ教徒であれば、牛肉、鶏肉、羊肉を食べる人もいる。また、魚料理は食べられる。
7) ユダヤ教徒が食べてもよい食品は、「コーシャ(コーシェル)フード」と呼ばれている。欧米などの諸外国では、スー
パーマーケットに行けば「コーシャ」のマークが付いた食品がたくさん売られている。マークがあることで品質の信用がで
きる安全な食品として、ユダヤ教徒以外の人々からも多く購入されている。しかし日本で「コーシャ認証」を受けた食品の
入手は困難である。
8) 乳製品と肉料理の組合せとは、“お腹のなかで乳製品と肉料理が一緒になってはいけない”ということである。乳製
品と肉料理を一緒に使った料理を食べること(チーズバーガー、肉入りシチューなど)、献立の中に乳製品と肉料理が一
緒に存在すること、同じ調理器具で乳製品と肉料理を一緒に煮ること、乳製品を食べた後の数時間以内に肉料理を食べ
ること(肉料理を食べた後の乳製品も同様)も忌避される。よって、デザートに乳製品が使われているか気にする人も多
い。
9) 日本の料理で扱う食材としては一般的ではないが、ユダヤ教の聖典では「ラクダ」「ウサギ」「ほとんどの昆虫類」「肉
食動物」「一部の鳥類(猛禽類、ダチョウ、カラスなど)など、様々なものを食べることが禁じられている。特別な食材を使
う場合は事前に確認をするとよい。
10) 酒類の摂取について制限はないが、ワイン・日本酒はできれば「コーシャ認証」を取得したものが望ましい。
⑤ テーブルマナー
• 食事の際には手を洗い、感謝の祈りを捧げるなど、律法によって食事の作法が定められている
⑥ 日本の食事で好まれるもの
<食事内容>
• 肉をあまり使わず野菜と魚中心の日本の食事は、カシュルートに従った食事に近いため、安心して食べられ
ることが多い
⑦ 日本の食事で好まれないもの
<食事内容>
• 肉を扱う料理は、宗教上の適切な処理が施されていないため、忌避されることが多い
⑧ ユダヤ教徒に対して良いおもてなしをするための推奨事項
<食事内容>
• 肉類を使わず、野菜と魚を中心に扱う料理を提案するとよい
• 肉と乳製品を同時に食べることができないので、朝食に乳製品を食べる人が多い。そのため、朝食にチーズ
などを提供すると喜ばれる
<サービス>
• ユダヤ教徒の特性を理解したうえで、食べられない食材については必ず確認する。個別の対応を取ると喜ば
れる
<情報提供>
• 料理の食材が明確でないと安心して食べることができない人が多いため、オーダーを受ける際には、料理に
含まれる食材・含まれない食材(豚肉、牛肉など)について説明するとよい
⑨ 「コーシャフード」の調達
ユダヤ教徒は、教義に基づき適切な処理を施した食材(「コーシャフード」)を要望する場合がある。これらの食
材は調達が困難な地域も存在するため、対応できない場合には、はっきりとその旨を訪日外客に伝える必要が
ある。可能であれば、個別の対応をしてくれる飲食施設を紹介するとよい。
⑩ 食事以外の禁止事項
安息日(金曜日の日没から土曜日の日没まで)は、一切の労働が禁じられている。金銭を扱うこと、火をおこす
こと、書くこと、薪を切ること、裁縫をすることなどは、すべて労働とみなされる。
<ユダヤ教に関する問い合わせ先>
日本ユダヤ教団
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3丁目8-4
03-3400-2559
6-2-4. キリスト教
(1) キリスト教とは
① キリスト教の概要
イエスを救世主として信じる宗教である。聖典は「聖書」(旧約、新約) である。イスラム教、仏教とともに世界三
大宗教の1つに数えられる。
キリスト教は様々な教派に分かれており、代表的なものに、ローマ・カトリック教会、東方正教会、プロテスタント
諸教会が存在する。
② キリスト教徒に該当する国民
キリスト教徒は世界各地に居住しており、特にヨーロッパ、アメリカ大陸における人数が多いとされる。
東方正教会の信者はロシア、東欧諸国、ギリシアに多く存在し、それ以外の国では少数派である。
(2) キリスト教徒の食習慣
① 食に対する意識
キリスト教では、基本的に食に関する禁止事項はほとんどないと考えてよい。宗教儀式や断食を行う場合を除
いて、自由に食事を楽しんでいる。
キリスト教の一部の分派(モルモン教、セブンスデー・アドベンチスト教会など)には、食を含めた様々な禁止事
項を規定しているところがある。しかし、こういった食の制限をする宗派は少数派である。
② 日常の食事パターン例
キリスト教徒に特有の食事パターンというものは特にみられない。さまざまな国民や民族がキリスト教徒に
該当するため、それぞれの食生活の中で食材が選択されている。
ローマ・カトリック教会では、「灰の水曜日」と「聖金曜日」の2日間に、「大斎」と「小斎」と呼ばれる食事規制
がある。「大斎」では、18歳以上60歳未満の健康な信者が、朝食と夕食の量を抑える。「小斎」では、14歳以
上の健康な信者が、肉食を避ける。いずれも、健康上の理由がある者は対象外となる。
※「灰の水曜日」と「聖金曜日」は復活祭(イースター)直前の準備期間である「四旬節」の初日と最終日に当た
る東方正教会では、主に修道院を対象に、「大斎」をはじめとする長期間の斎戒(1年に4回)、1日間の斎戒
(毎週水曜日、毎週金曜日)が存在する。斎戒期間中は「肉」「魚」「卵」「乳製品」「アルコール類」「オリーブ油」
が避けられる(斎戒の種別によって異なる)。一般の信者は、これらの断食を比較的ゆるやかに実施してい
る
③ キリスト教の料理の特徴
キリスト教は世界の歴史に深い影響を与えてきたことから、世界中の様々な国の料理の発展に影響がみられ
る。また、キリスト教の伝統行事(感謝祭、クリスマス、カーニバルなど)では、七面鳥、羊、魚(タラなど)などを
用いた料理が食べられる。
④ 食に対する禁止事項と嫌悪感
キリスト教では、基本的に食に関する禁止事項はほとんどない。
⑤ 食事以外の禁止事項
大きな罪として、自殺を戒めている。また、数字の「13」は不吉とされ、嫌われる。
宗派などにより、様々な禁止事項が存在し、例えばローマ・カトリック教会には、人工授精、避妊、同性愛など
を制限するべきだという態度もみられる。また、エホバの証人は輸血拒否の立場を取っている。
(1) 仏教とは
① 仏教の概要
紀元前5世紀頃に釈迦を開祖として生まれた宗教で、仏となるための教えを説く。イスラム教、キリスト教と
ともに世界三大宗教の一つに数えられる。
仏教は「上座部仏教」と「大乗仏教」の 二つに大きく分類できる。紀元前後に「大乗仏教」が発生し、それ以前
の伝統仏教は「上座部仏教」と呼ばれるようになった。
② 仏教徒に該当する国民
仏教徒は世界各地に居住しているが、その9割以上はアジアに分布する(特に東アジアと東南アジアに広く
分布)。仏教徒が多い国は、中国、日本、タイ、ベトナム、ミャンマー、スリランカ、カンボジア、韓国などである。
上座部仏教は、タイ、ミャンマー、スリランカ、カンボジアなど、東南アジアを中心に広まっている。
大乗仏教は、東アジア(中国、台湾、韓国、日本、ベトナムなど)、中央アジア(チベット、モンゴルなど)などを
中心に広まっている。日本には6世紀に伝来した。
(2) 仏教徒の食習慣
① 食に対する意識
一般には、殺生すること、生き物を傷つけることを慎むという意識がみられるが、肉食をする人も多い。同じ仏
教徒でも、宗派や国などによって、食に対する意識は異なる。
僧侶などの厳格な仏教徒は、食事そのものを日常の修養の一つとして捉えていることもある。
② 日常の食事パターン例
厳格な僧侶の場合は教義に則った食事を取る。上座部仏教の僧侶は、通常1日2食で、午前中に食事を済ませ
て、午後以降は食事を口にしない(朝に托鉢をして、朝の勤行の前に1食、午前11時頃に1食を取る。ただし、肉
食は許されている)。
③ 仏教の料理の特徴
仏教からできた料理の一つに、精進料理がある。(鰹節の出汁を使用した場合、魚介類を食べないベジタリアン
には提供できないので、注意が必要)。
④ 食に対する禁止事項と嫌悪感
食に関する禁止事項がみられるのは、一部の僧侶と厳格な信者に限定される。
大乗仏教では、肉食を避ける傾向が強い。また厳格な仏教徒には、臭いが強く修行の妨げになるとの理由から、
五葷(ごくん:ニンニク、ニラ、ラッキョウ、玉ねぎ、アサツキ)を食べることが禁じられている。
一部の宗派には食べ物に禁止事項が存在する。中国系で観音信仰の人は牛肉を食べないこともある。
上座部仏教では、肉を食べてもよいとされる。ただし、僧侶のためにわざわざ生き物を殺して肉を提供するこ
とは禁じられている。また、在家(出家をしないで一般の生活をしながら仏教に帰依する人)は肉に関わる職業
に就いてはならない。
⑤ 食事以外の禁止事項
宗派などにより、様々な禁止事項が存在する(妻帯を禁ずるなど)。
(1) ヒンドゥー教とは
① ヒンドゥー教の概要
古代インドのバラモン教と民間信仰が融合しながら形づくられたもので、インドの宗教・社会制度・文化・風習な
どが総合されたものを意味する。
「ブラフマー」「ヴィシュヌ」「シヴァ」の三神を重要視する。輪廻と解脱の思想を根本とする。
インド社会においては独特な身分制度「カースト」が今も残っており、「バラモン」(司祭者)、「クシャトリヤ」(王
族)、「バイシャ」(庶民)、「シュードラ」(隷民)の4つを基礎に、現在では2000以上のカーストが存在するといわ
れる。
カースト内の団結は強く、カーストごとに共通の習慣を持ち、職業、飲食、交際、通婚などに関する厳格な規制
が存在する(なお、インド憲法ではカーストが否定されている)
② ヒンドゥー教徒に該当する国民
ヒンドゥー教徒はインド及びネパールを中心に多数存在している。
(2) ヒンドゥー教徒の食習慣
① 食に対する意識
宗教が生活の土台となっており、食生活を含め、個人の宗教や信条を遵守する。ヒンドゥー教では食事の規制
事項があるため、「口に入れる食材」、「食事の食べ方」(誰と一緒に食べるかなど)、「食事を食べる時間や時期」
に対して、非常に気を遣う。また、肉食と菜食の境界が非常に強く意識されており、ベジタリアンとノンベジタリ
アン(非ベジタリアン)を厳格に区別する。
穢(けが)れに対する意識が非常に強く、食べものを含め、他者の穢れが接触することを強く避ける。
特有の社会身分制度「カースト」が存在し、異なるカーストと一緒に食事をすることも忌避される。不浄は血液
や唾液で感染するものと考えられ、食器も使い捨てのものが最も清浄だと考えられている。不浄の対象はカー
ストや地域で異なり、絶対的な基準は存在しない。不浄を浄化するための方法として、菜食や断食や沐浴やヨガ
が行われ、高位のカーストや社会的地位の高い人ほど肉食を避ける傾向が強い。規制の度合いが厳格であるほ
ど、浄性が高いと考えられる。
一般に、男性よりも女性の方が口に入れる食材に対して厳しい意識を持つ傾向にある(女性が家庭を守ると
いう意識が強いため)。
② 日常の食事パターン例
自分の家庭で安心して食べることを選択する人が多数派である(外食は同じ調理器具で肉を扱っている可能
性も否定できないため)。
特定の宗教の祝日や特定の曜日に断食をする、願掛けのために断食する、特定の食材を一定期間食べないな
ど、日常的に断食をすることが多い。断食といっても完全に食を断つことは少ない(イスラム教のように厳しい
ものではない)。
③ ヒンドゥー教の料理の特徴
家庭料理を基本としており、ほとんど外食をしない。
④ 食に対する禁止事項と嫌悪感
• 一般的に乳製品を多量に摂取する。高位のカーストや社会的地位の高い人ほど肉食を避ける傾向が強い
• 厳格なヒンドゥー教徒には、肉類を料理した調理器具が使われることを忌避する人もいる
• 宗教上・健康上の理由や願掛けをするため、特定の日(1日や1週間など)だけ、肉食を避ける人もいる
• ヒンドゥー教徒が食べることのできる肉の種類は、鶏肉、羊肉、ヤギ肉に限定される
• 牛は神聖な動物として崇拝され、牛を食べることは禁忌とされる
• 豚は不浄な動物とみなされ、基本的に食べることはない
• 魚介類全般を忌避する場合、「鰹節の出汁」も対象であり、注意が必要となる。この場合には、「昆布出汁」な
どの野菜や海草を使った出汁を取る必要がある
• 「ブイヨン」「ゼラチン」「肉エキス」には鶏・牛・豚・魚の肉や骨が使われており、調理時に注意する必要がある
• 「卵」については、有精卵を避けて無精卵だけを食べる人もいる
• 厳格なヒンドゥー教徒は、五葷(ごくん:ニンニク、ニラ、ラッキョウ、玉ねぎ、アサツキ)を食べることが禁じら
れている
• 一般的に、生ものを食べる習慣はない
• 自国の料理しか食べない人も多い
• 不浄の観念から、他人の料理や残り物を取り分けて食べることを拒否する
• 異なるカーストと一緒に食事をすることを嫌う人もいる。ノンベジタリアンと食事を同席することを拒否する
ベジタリアンもいる
⑤ テーブルマナー
• 自分の皿によそわれたものは、不浄が感染しないように、決して他人に取り分けてはいけない(不浄は血液や
唾液で感染すると考えられているため)。共用の皿から取り分ける場合には、自分のスプーンが共用の皿に触
れないように気をつける。また、他人と飲み物を共有する場合には、容器に口をつけてはいけないので、スト
ローを用意する
• 食前と食後には手を洗い、口をすすぐ
• 食事をする場合、相手に料理を手渡す場合、給仕する場合には右手を使い、左手を使ってはならない
⑥ 日本の食事で好まれるもの
<食事内容>
• 野菜の天ぷらは、ベジタリアンにもノンベジタリアンにも人気がある
• 日本食以外では、野菜だけのピザやパスタなどのイタリア料理や、馴染みのあるインド料理が好まれる
⑦ 日本の食事で好まれないもの
<食事内容>
• 寿司、刺身、アジの開き、納豆、イカ、タコ、生もの全般は嫌われる
• 野菜天ぷらは好まれるが、エビや魚を一緒に(同じ油で)揚げたものを嫌う人もいる
• 鍋料理など、一つの鍋や皿を複数でつつき合って食べる料理は拒絶される
• 自国の本格的料理以外は食べない人もいる
⑧ ヒンドゥー教徒に対して良いおもてなしをするための推奨事項
<食事内容>
• 人によって宗教上の食の禁止事項が存在することがあるため、相手の食べられないものを事前に把握してお
くことが望ましい。ベジタリアン以外であれば、鶏肉とマトンは食べられると考えてよい
• 天ぷらなどを調理する場合、可能であれば、野菜を調理する鍋とそれ以外(魚やエビなど)を調理する鍋を
別々にするとよい
• 鍋料理など、一つの鍋や皿を複数でつつき合って食べる料理は避ける必要がある
<サービス>
• ヒンドゥー教徒の特性を理解したうえで、食べられない食材について必ず確認する。個別の対応を取ると喜
ばれる。
<情報提供>
• 料理の食材が明確でないと安心して食べることができないため、オーダーを受ける際には、料理に含まれ
る食材・含まれない食材(豚肉、牛肉など)について説明するとよい
• ヒンドゥー教徒の食の禁止事項を確認するには、まずベジタリアンかノンベジタリアンかを確認する。ノンベ
ジタリアンであれば鶏肉、マトンでの対応が可能となる。ベジタリアンであれば、根菜を食べられるかを確認
する
⑨ 食事以外の禁止事項
• 死は最大の穢れとされている
• 頭は神聖なものだと考えられており、人の頭(子どもの頭も)を触らない
• 左手を使うことは避けられる
• 女性が露出の多い服装を着ることははしたないと思われるため、避ける方がよい
• 異なるカースト間では婚姻関係を結んではならないとされている
<イスラム教に関する情報の問い合わせ先>
イスラミックセンター・ジャパン 〒156-0041 東京都世田谷区大原 1-16-11
03-3460-6169
(FAX)03-3460-6105 https://islamcenter.or.jp/
宗教法人日本ムスリム協会 〒141-0022 東京都品川区
東五反田3-17-23
03-6277-3561
宗教法人 日本イスラーム文化
センター / マスジド大塚
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(1) ジャイナ教とは
① ジャイナ教の概要
仏教と同時代(B.C.5世紀頃)に開かれた、インドの宗教の一つである。徹底した苦行、禁欲、不殺生の実践を
重視する。
② ジャイナ教徒に該当する国民
インドにはおよそ420万人のジャイナ教信者がいるといわれており、ジャイナ教徒はインド以外の国にはほと
んど存在しない。
ほとんどが商業、特に宝石や貴金属を扱う仕事に就くという伝統がある(経済的に大きな影響力を持つ)。海
外で活躍しているビジネスマンが多数いる。
(2) ジャイナ教徒の食習慣
① 食に対する意識
宗教が生活の土台となっており、食生活を含め、個人の宗教や信条を遵守する。食事の規制事項があり、口
に入れる食材に対して非常に気を遣う。
不殺生を教義で重要視しているため、日常生活の中で、あらゆる生物(動物、植物)を殺したり、誤って傷つけ
たりしないように、細心の注意を払う。
② 日常の食事パターン例
厳格なジャイナ教徒は、誤って虫を殺さないように、火を使って調理することを避け、また調理と食事は日中
(手元の明るい時間帯)に済ませる。また、ジャイナ教では、断食がしばしば行われる。
③ ジャイナ教徒の料理の特徴
生物全般が食材に使えないため、豆類、葉野菜と茎野菜(根菜以外)を中心とした食事になることが多い。
④ 食に対する禁止事項と嫌悪感
• 一切の肉食(肉類、魚介類)が禁止される。卵も食べない
• 厳格なジャイナ教徒には、肉類を料理した調理器具が使われることを忌避する人もいる
• 厳格なジャイナ教徒は、土を掘り起こして小生物を殺すことを避けるため、根菜(大根、にんじん、ゴボウ、カブ
など)も食べない
• 厳格なジャイナ教徒は、ハチミツも口にしない
⑤ ジャイナ教徒に対して良いおもてなしをするための推奨事項
<食事内容>
• 人によって宗教上の食の禁止事項が存在することがあるため、相手の食べられないものを事前に把握してお
くことが望ましい。豆類、葉野菜と茎野菜(根菜以外)を中心とした食事を組み立てるとよい
<サービス>
• ジャイナ教徒の特性を理解した上で食べられない食材について必ず確認する。個別の対応を取ると喜ばれる
<情報提供>
• 料理の食材が明確でないと安心して食べることができないため、オーダーを受ける際には、料理に含まれる
食材・含まれない食材(肉、魚、卵、乳製品、根菜など)について説明するとよい
⑥ 食事以外の禁止事項
• 厳格なジャイナ教徒は、誤って空中の虫を口の中に入れてしまわないように、マスクをして歩く
• 厳格なジャイナ教徒は、誤って足下の虫を踏みつぶしてしまわないように、座る前に足下をほうきで掃く
(1) 世界のベジタリアンの分布
ベジタリアンは世界各地に分布しており、特にアジアと欧米で多い。以下に、観光庁の「ベジタリアン・ヴィー
ガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド」の資料編に基づく、主な国、地域の人口に占めるベジタリアンの比率
を掲載する。
<主な国、地域別のベジタリアンの比率国、地域>
インド 20.2%
台湾 12.3%
カナダ 11.8%
イタリア 9.0%
ドイツ 8.6%
英国 7.5%
シンガポール 6.3%
オーストラリア 6.0%
(出典:観光庁「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド(資料編)」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001740444.pdf)
(2) ベジタリアンが食べない、又は食べないことがある食品
• 対象国は、米国、カナダ、英国をはじめとするヨーロッパ、インドや台湾をはじめとするアジアなど、世界中
に分布する
• ベジタリアンは多種多様な種類が存在するため、「ベジタリアン」という呼称だけで、単に肉・魚などの動物
性食品を食べない人と思いこんではならない。実際には鳥肉、魚肉、卵、乳製品を食べる人・食べない人が
いるため、訪日外客が食べられないものが何かを正確に確認する必要がある
• 厳格なベジタリアンには、肉類を料理した調理器具が使われることを忌避する人もいる
• イカ、タコ、カニ、エビ、貝類は酢の物などに使われることがあるため、注意が必要である
• 「卵」については、まれに宗教上の理由から、有精卵を避けて無精卵だけを食べる人もいる
• 乳製品は「牛乳」「クリーム」「バター」「マーガリン」「チーズ」などが該当する。主に、健康上の理由によるベ
ジタリアンが乳製品を忌避する。一般的に、宗教上の理由によるベジタリアン(ヒンドゥー教徒など)は乳製
品を多く取る傾向が強い。
• 根菜・球根類などの地中の野菜類は「ジャガイモ」「にんじん」「しょうが」「にんにく」「サツマイモ」などが該当し、
インドのジャイナ教では、掘り起こす際に小生物を殺傷することから、食べることが禁じられている
• 五葷(ごくん)は「ニンニク」「ニラ」「ラッキョウ」「玉ねぎ」「アサツキ」が該当し、厳格な仏教徒とヒンドゥー教徒
には、臭いが強く修行の妨げになるとの理由から、食べることが禁じられている
• 和食がベジタリアンに対応できる料理だと思いこんではならない。例えば野菜の炊き合わせにしても「鰹節の
出汁」を使用することがあり、魚介類全般を食べることができないベジタリアンには提供できない。その場合、
鰹節の代わりに昆布で出汁を取るなどの対応が必要である
• ベジタリアンには、野菜だけでなく豆腐などを使った料理も喜ばれる。欧米のベジタリアンは豆腐ハンバーグ
などを好んで食べている
• 特にアジアのベジタリアンは、特定の日時や特定の期間(お釈迦様が生まれた期間など)に限定してベジタリ
アンになる場合もあるため、注意が必要である
• インドのベジタリアンには、ノンベジタリアンと食事を同席することを拒否する人もいる
(3) ベジタリアンの分類
ベジタリアンは、単に肉・魚など動物性の食品を食べない人たちのみではなく、ライフスタイルなどにより、さま
ざまなタイプがある。
① ヴィーガン
• 肉、魚介、乳製品、卵、その他動物由来成分を含む食品を食べない人々。動物由来の衣類も非着用
② ラクト・ベジタリアン
• 肉類・魚介類・卵は食べないが乳製品は食べる人々
③ オボ・ベジタリアン
• 肉、魚介、乳製品は食べないが卵は食べる人々
④ ラクト・オボ・ベジタリアン
• 肉類・魚介類は食べないが乳製品・卵は食べる人々
⑤ ペスカタリアン
• 肉類は食べないが魚介・乳製品・卵は食べる人々
⑥ ポロタリアン
• 赤身肉(牛、豚、羊などの獣肉)は食べないが白身肉(鳥肉・魚介類)は食べる人々
以上の各種ベジタリアンの内容を整理すると、図の通りである。
図参照
(1) 食物アレルギーとは
食物アレルギーは特定の食物を食べたときに、体を守る免疫のシステムが過敏に働き、アレルギー症状が起きることである。
食物アレルギーでみられる症状はおよそ以下の4つが存在する。
① 皮膚粘膜症状(皮膚に湿疹やかゆみがみられる)
② 消化器症状(腹痛や吐き気を催す)
③ 呼吸器症状(くしゃみが出る、息苦しくなる)
④ アナフィラキシー(全身で起こるショック症状)
なかでも「アナフィラキシー」は、ぐったりする、血圧が低下する、意識障害を起こすなど、非常に危険な症状であり、もし起こった場合には早急に近くの病院に連れて行くか、救急車を呼ぶ必要がある。
※ 「アナフィラキシー」では、皮膚症状・消化器症状・呼吸器症状(上気道症状、下気道症状)を伴うケース、突然発症するケースがある。
また特殊な食物アレルギーとして、生の果物や野菜で口の中が腫れたりかゆくなったりする「口腔アレルギー症候群」も存在する。
(2) 食物アレルギーを起こす食べ物
① 食物アレルゲンの概要
アレルギーを起こす食物を「食物アレルゲン」という。食物アレルゲンの種類は非常に多岐にわたり、人によっては「生卵に反応するがゆで卵は大丈夫」といった具合に、同じ食品であっても反応の仕方や症状も個人差がある。
このため、全てのアレルゲンと症状を把握することは不可能であるが、発症件数が多いものや、アナフィラキシー反応など重篤な症状の恐れがある食品などについては、最低限覚えておく必要がある。
② 消費者庁が表示義務等を規定している品目
消費者庁では、症状の重篤さ、発症頻度の高さを踏まえ、以下の食品の表示義務等について規定している。
【必ず表示される8品目(令和6年8月23日改正)】
えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生
※ 特に発症数、重篤度から勘案して表示する必要性の高いもの
【表示が奨励されている 20 品目(令和6年8月23日改正) 】
アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナ
ナ、豚肉、マカダミアナッツ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン
※ 症例数や重篤な症状を呈する者の数が継続して相当数みられるが、特定原材料に比べると少ないもの
※ 上記以外でもナッツ類(ヘーゼルナッツ等)のアレルギー、魚アレルギーなど、色々なケースがあるため、アレルゲンと症状に応じて注意が必要である。特にナッツ類については種類が多いため、人によってイメージするものが異なる点に留意が必要である
※ アレルゲンは、思わぬところに含まれていることがある。また、国籍によっては、そばやえび等の甲殻類を日常的に食べず、アレルギーの有無を自覚していないケースもあるため、細心の注意が必要である。
(見落としがちなアレルゲンの例)
• てんぷらの衣に使われることがある牛乳(乳アレルギー)
• せんべいの衣に含まれていることがある魚粉(魚アレルギー)
• 調味料が含まれていることがある発酵食品や各種エキス(小麦アレルギー、各種肉・魚アレルギー等)
※ 乳アレルギーと類似するものに「乳糖不耐症」がある。これは、乳に含まれる乳糖を上手く分解できないため、
下痢等の症状が生じるものである。アレルギーではないが一定の配慮が求められる
※ 訪日外客の受入れに当たって特に注意すべき「落花生(ピーナッツ)アレルギー」、「小麦アレルギー」について
は、下記で解説する。
<ピーナッツアレルギー>
ピーナッツ(落花生)は、アレルギー症状が重篤であることが知られており、前掲の消費者庁が表示を義務付けている8品目にも含まれている。欧米では、食物アレルギーによるアナフィラキシーで死亡する例の大半はピーナッツアレルギーである。そのほとんどは自身がピーナッツアレルギーであることを知っていたにもかかわらず、混入していたことに気がついていなかったケースだと言われている。
ピーナッツは、ピーナッツバターやお菓子だけではなく、バンバンジーや担々麺、炒め物などの料理にも使用されることがある。訪日外客は旅先の料理に何が含まれているかイメージしにくいため、うっかり口にしてしまうこともあり得る。
また、ピーナッツ類とナッツ類は分類上異なる植物であるが、ピーナッツアレルギー患者の1/3がナッツアレルギーを示すと報告されている。
<小麦アレルギー> 訪日外客のなかには、小麦アレルギーやグルテン不耐症、セリアック病などの人たちが少なからずいる。 例えば、自己免疫疾患であるセリアック病は2016年のEUの患者数は推計で500万人以上である。アメリカは 100人に1人がセリアック病といわれている。 これらの疾患は呼吸器系に出たり、下痢や便秘に出たりするなど、人によって症状が極めて様々であり、唯一の治療 法が無グルテン食(グルテンフリー)を厳守することだと言われている。 この対応の遅れが今、訪日外客が爆発的に増加するなかで問題になっている。旅の醍醐味はその土地の食事であり、 日本に来たら和食を食べたいと思うのが当然である。しかし、外食をするにしてもラーメン、天ぷら、うどん、かつ丼、 という人気の定番メニューは小麦粉のオンパレードであり、麦類すべてを排除するのは容易ではない。 また、味噌、醤油、酢などの基本調味料にもグルテンが含まれており、注意が必要である。 都内でも完全なグルテンフリーの食事を提供できるお店は希少であるが、いざという時の為にも、お店の場所や電 話番号くらいは知っておいた方が良い。
(3) 食物アレルギーへの対応
アレルギーは人の命にかかわる問題でもあるため、しっかりとした対処が求められる。
例えば、観光中に食事の予定がある場合は、訪日外客の食物アレルギーの有無を出来るだけ早くチェックし、
該当した場合は直ちに飲食店へ報告をする必要がある。飲食店によっては、特別食の手配ができない場合が
あるので、事前に確認をしておくとよい。
訪日外客が重度のアレルギーの場合は、調理の段階で意図せずに起こるコンタミネーションにも注意が必要
である。団体旅行では対応しきれないこともあるので、ガイドは細心の注意と余裕をもった準備を日ごろから
心掛けたい。大切なことは、関係機関との十分な打ち合わせや対処方法の確認、訪日外客の理解である。
ベジタリアン対応やムスリム対応など、個別の食習慣をもっている方に対して適切な対応を行うために、観
光庁の「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド」を基に、知識を習得しておくことは非常
に重要である。その他にも、グルテンフリーやアレルギー対応等、食に関する訪日外客のニーズは多様である
ため、個別に対応を検討することが求められる。
(参考:観光庁「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド」
(1) 語学力を活かした的確なサポート等
食べることは人間の大きな喜びであり、飲食提供者の仕事は、食を通して、訪日外客に喜びを与えることだと
いえる。特に、寿司に代表される和食は、低カロリー、ヘルシー等の評価を含め、世界的に高い評価を受けている。
一人ひとりの訪日外客に安心しておいしいものを召し上がっていただき、楽しんでお帰りになってもらうこと
が、日本観光の最大の目的の一つと言える。
通訳ガイドが、飲食店等の、「一人ひとりの訪日外客に安心しておいしいものを召し上がっていただきたい」と
いう気持ちを実現するため、日本の料理、食材、マナー等に関して、語学面での的確なサポート(翻訳、通訳等)を
行うことも、必要な業務である。
(2) 異文化理解に基づくコミュニケーション支援
訪日外客も日本人同様、おいしい食事を求めて飲食施設に訪れる。
しかし、飲食店等のなかには、「外国人お断り」の表示をするなど、あからさまに受入れを拒否する施設がある。
飲食店等が、日本人と訪日外客、さらには同じ訪日外客でも国や宗教によって態度を変えることは、「差別をさ
れている」という印象を持たれかねない。飲食店等は、一人の大切なゲストとしてお迎えして、精一杯のおもてな
しで応える必要がある。
しかし、飲食店等がこうした対応をするのは、「語学ができない」、「外国人の習慣や考え方が分からない」、「経
験不足」、「食習慣によるリスクやトラブルの回避」等の問題がある。
通訳ガイドは、こうした状況のなかで、異文化コミュニケーションを円滑にする「架け橋」の役割を果たしていか
なくてはならない。
(3) 地域の訪日外客受入能力向上への寄与
日本の飲食店や宿泊施設の中には、訪日外客の受入れを積極的に行う施設が少ない。このような施設が多い
と、地域全体の訪日外客受入れ能力が不足する。
しかし通訳ガイドが同行することで、お店側が安心し積極的に受け入れてくれる場合がある。それだけに、単な
る通訳としてだけでなく、それぞれの立場を尊重し、良好な関係を築く橋渡しの役割をする事で、地域における
訪日外客受入施設の増加に寄与できる。
(1) 飲食店と共に「おもてなしの心」を伝える。
飲食店や宿泊施設においては、「おもてなしの心」を示すことが、訪日外客の接遇において最も大切な要素であ
る。たとえ言葉が通じなくても、訪問した訪日外客をあたたかく迎え入れ、誠実に対応することが重要である。
飲食店等の従業員は、英語をはじめとする外国語に対し、苦手意識を持っていることが多い。この場合、通訳
ガイドが率先して訪日外客と従業員等とのコミュニケーションを仲介することで、旅行の満足度の向上はもち
ろん、将来的に飲食店等における訪日外客の受入体制の充実にもつながる。
(2) 訪日外客のニーズを把握し、飲食店に伝える。
訪日外客は日本人とは異なる習慣や価値観を持っており、日本人以上に、相手の立場に立って物事を考える
ということが求められる場面が多くなる。
特に食事に関する点では、特定の食材に対する要望(食べたいもの、食べられないもの)、日本とは異なる食
習慣や食事のマナーなどが存在するため、訪日外客の希望をよく聞き、言動をよく観察して、相手の立場に立
ちながら、接していくことが重要である。
通訳ガイドは、イスラム教徒、ユダヤ教徒などへ飲食店を紹介する場合は、以下の点を可能な限りあらかじめ
把握しておく必要がある。
• お店で扱っている食材と料理の内容
• 訪日外客受入の基本的な対応方法、特に、お店で「対応できること」と「対応できないこと」等
また、特定の食材に対する要望(食べたいもの、食べられないもの)等の情報を、事前に飲食店に伝えておく
ことも、効果的である。
旅行会社等が食事を手配し、事前に飲食店に情報が伝えられている場合においても、来日後に、直接要望を
確認した上で、飲食店に正しい情報を連絡するのが望ましい。
(3) 正確なコミュニケーションを支援する。
① 訪日外客の要望を正しく迅速に把握するためには、相手の国の言葉を話せる通訳ガイドの役割が重要で
ある。
しかし、食や料理に関する用語には、テクニカルタームも多く、常日頃からの学習、準備が必要である。
② 現場では、通訳ガイドは食事に同行せず、訪日外客だけで飲食することも多い。又は、通訳ガイドが同行
しない翌日の日程などで、飲食店の相談や助言を求められることも多い。
このように同行しない場合であっても、可能な限りで情報支援を行う。
③ 飲食店に、「日本語と英語の併記メニュー」及び「食材の表示(外国語又はピクトグラムによる)」の有無を
確認する。
特に、宗教・嗜好・アレルギーなどの理由で食べられないものがある訪日外客は、料理を選ぶこともでき
ない状況に陥ってしまう。旅行の満足度を高めるだけではなく、無用な事故を防ぐためにも、「日本語と英
語を併記したメニュー」の有無をなるべく事前に確認することが必要である。さらに、ピクトグラムによる
食材表示があるとなお良い。
また、特に団体等の場合は、日英併記メニュー等が十分な部数あることも確認する。
(1) 訪日外客の要望に対する柔軟な対応
通訳ガイドは、訪日外客と飲食店の間で、相互のコミュニケーションを図り、できるだけ柔軟に、ホスピタリティ
を持って、対応にあたる必要がある。
特に、特定の食材の交換に関する要望には、訪日外客に損をした気分を感じさせないようにしながら、別の食
材を提供させるなど、飲食店との連携が必要である。
例えば、ベジタリアンだからと言って、肉や魚を入れないメニューであれば何でも良いと言う訳ではないので、
訪日外客は喜ばれそうなメニューで対応するように配慮する(例:ふぐ刺しを召し上がらない訪日外客に、こん
にゃくの刺身を出しても、満足されない場合がある)。
<訪日外客の要望と対応例>
① ご飯をパンに替えてほしいという訪日外客の要望を伝える。
② 豚肉などを食べてはいけない訪日外客には、セット料理の一部を果物に替える。
(2) 訪日外客の食文化・食習慣に配慮した接遇、コミュニケーション
訪日外客の食文化・食習慣には、それぞれの国や地域、宗教や嗜好によって共通する傾向もみられる。そのた
め、おおよその傾向をあらかじめ理解しておくことは、旅行の満足度を大きく高めるためにも、訪日外客との無
用なトラブルを避けるためにも重要である。
また、訪日外客も日本人と同様に、所属するコミュニティ、居住地、個人の性・年齢や世代などによって食文化・
食習慣が異なることがあるため、これらの情報はあくまで一般的な知識として把握し、現場では、訪日外客一人
ひとりの要望に合わせ、対応にあたるとよい。一方で、訪日外客になんでも合わせすぎるのではなく、日本の食
文化・食習慣について丁寧に説明した方がよい場合がある。現場で判断をしながら、きちんと日本の食文化・食
習慣を理解していただき、違いを楽しんでもらうことも大切である。
参考までに配慮すべき事柄を以下に記載する。
<配慮すべき事柄>
① 一般的に、観光で訪れる訪日外客は好奇心を持っていろいろな食事を食べる傾向がみられ、観光以外の目的(ビジネ
ス、国際会議など)で訪れる訪日外客は自分の普段の生活パターンを守る傾向がみられる。同じ人間でも、旅行の目
的に合わせて食習慣を変化させることがある。
② 料理の調理方法(肉や魚の焼き方など)、お店独自に提供するサービスは、日本独特のものであることが多いため、訪
日外客が知らなかったり気づかなかったりすることもある。そのため、飲食店等の方で先にそれらを予期して、事前
に訪日外客に説明することが望ましい。特にヨーロッパや北米の訪日外客は、朝食の卵の焼き方に様々な要望をする
傾向が強い(卵を焼く時間、返しの有無など)。
③ 相席は日本独自のサービスであり、訪日外客の中には嫌がる人が多い。
④ 欧米人は、並んで待って食事をとる習慣がないので、昼食時を避けたり、比較的すいている店を選ぶ等の配慮も必要。
⑤ 全ての訪日外客が箸を使えるわけではないため、要望に応じて、ナイフ、フォーク、スプーンを準備する。
⑥ カウンターで調理人と対面し、食材や調理が見える料理(寿司、鉄板焼き、天ぷらなど)は、人気が高い。なかでも
寿司は、日本を象徴する料理として、世界各国で高い人気を集めており、1 つの文化的イメージとしても扱われる
ようになった。
四季折々の新鮮な魚介を味わえるのも和食の良さではあるが同時に、活き造りのような料理は、目の前で殺生が
行われることを嫌う人もいることを知っておきたい。サザエやアワビなどを焼く炉端焼きも同様である。
⑦ 居酒屋は、日本文化を体験できる場所として、多くの訪日外客に人気がある。メニューの選択肢が豊富でありな
がら、料金は比較的に手ごろな場所が多いのも人気の理由となっている。しかし、喫煙可能なところもあるので、
そこをきちんと説明したうえで薦めると良い。
⑧ 「ヤキニク」(=焼き肉)は「テリヤキ」(=照り焼き)と並んで、世界に通じる日本料理になっている。
⑨ 日本の魚料理で骨がついているものは、事前に説明する方がよい。
⑩ 稀に、外国と日本では同じ名称だが、内容が異なる料理があるので、確認する方がよい場合もある。
※ 名称が共通だが内容が異なる料理例:シーフードサラダ
→「魚介類+野菜」の料理と「魚介類のみ」の料理がある。
⑪ 国籍によっては、食事の後に果物やお茶でなく、スイーツのデザートが無いと食事が貧相に思えることがある。
⑫ 高齢者は軽いランチを好む人もいるので、飲食店選択の幅が広い時には食事のボリュームにも気を配るとよい。
⑬ ヨーロッパや北米の訪日外客には、日本人と比較して、料理のコストパフォーマンスに対する意識が強い人が多く
みられる。また、サービスに対する意識が高いため、料理の金額イコールサービスの内容と捉え、多くの要望を提
示する場合もある。
⑭ 訪日外客の国、地域によって体感温度が異なることがある。そのため、同じ室内に同席する場合は、室内の温度
調整が難しいこともある。
⑮ ヨーロッパや北米の訪日外客は、日本人と比較して、体が大きい場合がある。ゆったりとくつろげる席、テーブル
などにお連れするとよい。
⑯ 畳に座れない訪日外客でも、日本的な雰囲気で食事をして頂く為には掘りごたつのある飲食店が薦められる。
(3) 予約時、来店時の対応
飲食店は、訪日外客の予約受付に際しては、現場で取捨選択をしながら、以下の流れで対応にあたることが
望ましい。
通訳ガイドはこうした流れを踏まえ、訪日外客と飲食店のコミュニケーションを支援、補助すべきである。
<予約受付の流れ>
① 「予約日時」と「利用人数」の確認
② 「国籍」の確認
国籍が分かるとおおよその料理の内容を想像しやすい。
③ 訪日外客の要望の確認
◇食べられない食材の確認
特にアレルギーを有する人については注意が必要。アレルギー表示に外国語表記があるかどうかを確認する。
◇食べたい料理の確認
訪日外客は、自分が食べたいものに関する知識や情報を持って来店することが多い。
④ 訪日外客が食べられる食材(料理)を提案
訪日外客が食べられる食材(料理)をお店側から提案して、訪日外客との応答の中でメニューを組み立てていく。
(例:豚がダメなら鳥を提案など)
※ ③と④のやり取りを繰り返すことで、提供できるメニューを組み立てていく。
お店の対応状況、提供できる料理の内容を正確に説明する。(食材の仕入状況や調理場の状況などによって、訪日外
客の要望に対して完全に応えることができない場合がある。また、飲食店の中にはビュッフェであっても調理済みの料
理を外注しており、どのような食材が使われているか把握出来ない場合がある。)
訪日外客の要望に応えられない場合は、可能であれば、近隣で対応できるお店を紹介する。そのためにも、事前に対
応できるお店をリストアップしておくとよい。
ビジネス客の場合は、飲食施設の利用時間が限られている場合があるため、短時間で食事ができる料理やサービスを
勧めるとよい(特に会席料理など、順番に運ばれている料理を扱う場合)。複数の訪日外客の一部に食事の規制が必要
な方がいる場合には、対象者だけに特別な食事を提供するのか(それ以外の訪日外客には通常の食事を提供)、対象者
を含めた全員に同じ食事を提供するのか、確認をする。
複数の訪日外客の場合、訪日外客の中でゲスト・ホストの関係があることもあるため、確認をする(ゲストに対しては
料金が表示されていないメニューを提供するなどの対応)。
席の序列や配置については、必要に応じて、直接訪日外客に確認する。グループやペアの訪日外客の場合、どのよう
な構成になっているか事前に分かればそれに応じた席割りを依頼する。
⑤ その他の確認
◇飲酒の確認
宗教でアルコールが禁止されているイスラム教徒などは、コース料理でワイングラスがテーブルに置かれているこ
とに嫌悪感を表す人もいる。そのため、事前に飲酒の確認をするかワイングラスはさげておいた方が無難である。
◇喫煙禁煙の確認
喫煙に対して非常に敏感な訪日外客もいるため、分煙が徹底されていない場合には、その旨を訪日外客に伝える
必要がある。
◇リコンファームとキャンセルチャージの確認
訪日外客が予約しているレストランがある場合には、そのお店のキャンセルポリシーやリコンファーム要不要など
の確認を訪日外客にアドバイスする。
⑥ 予約内容の最終確認
訪日外客の了解を得たうえで、提示した条件に基づいた料理を提供することを、再度確認する。
(4) 訪日外客への適切な情報提供
通訳ガイドが同行しない飲食店の場合は最低限、「日本語と英語を併記したメニュー」を用意することが求めら
れる。単純に日本語をローマ字表記にするのではなく、「訪日外客が料理内容を理解できる英語表現に翻訳する
こと」が重要である。
地方都市では、こうした飲食店が少ないのが現状であるが、可能な限り事前調査をしておくと良い。また、通
訳ガイド個人では調査能力に限界があるので、その地域に詳しい通訳ガイドに相談するなど、通訳ガイド同士
のネットワークを良好に保っておくと円滑な仕事が可能になる。
いずれも訪日外客の安心感につながり、同時に、飲食店における無用な事故を未然に防ぐ可能性を高めるも
のである。
以下の記載の有無等も確認しておくと良い。
• 料理の価格を理解しないまま、自国と同じ感覚で料理を注文する訪日外客もいるため、メニューには料金をアラ
ビア数字で明示する必要がある(漢数字の使用は避ける)
• また、無料でお代わりができるもの(ご飯やお味噌汁など)も、メニューに明記しておいた方がよい
その他にも、以下の項目についても、なるべく説明すると良い。
• 日本の飲食施設のシステム
税金の金額(内税、外税の表示が飲食店で異なる)、ノーチップ制、お通しに別料金が発生すること、伝票の
取り扱い(テーブルで支払う、あるいはレジで支払う)など
• 食材(特にビュッフェ形式における対応)
ビュッフェ形式の場合は、各料理の前に食材内容を記したプレートやピクトグラム表示などを置くとよい。
ビュッフェでは食品表示がないことが多く、店員から訪日外客に説明してもらったり、事前にアレルギーを
伝えて安全な料理を用意いただく等の対応が必要な場合がある。
第7章 文化別・国別の特徴を把握するために有用なデータ
本章では、様々な国・地域からの訪日外客の傾向を読み解くために有用なデータを紹介する。各データの概要
及び把握できる情報を理解することで、訪日外客を案内する際、事前の情報収集をスムーズに行うことができる。
以下はリンク先が重要そう(ち)
7-1-1. 調査の概要
インバウンド消費動向調査(旧:訪日外国人消費動向調査)は、観光庁が実施・公表する、訪日外国人の消費動向
に関する調査である。
同調査には、下記の3つの種類がある。
• A1 全国調査(国籍・地域ごとの訪日外客の消費データを収集)
• B1 地域調査(都道府県ごとの訪日外客の消費データを収集)
• B2 クルーズ調査(クルーズ客の消費データを収集)
中でも通訳ガイドにとって特に有用な「A1 全国調査」の概要は、以下のとおりである。
<「インバウンド消費動向調査(全国調査)」の概要>
◇調査の目的
訪日外客の国・地域ごとの詳細な消費データを収集する
◇調査対象者
日本を出国する訪日外客(トランジット、乗員、1年以上の滞在者等を除く)
◇調査標本数
四半期毎に総数6,900サンプルを目標に調査を実施(年間27,600サンプル)
◇主な調査事項
入国空海港、在留資格、国籍・地域、同行者、来訪回数、主な来訪目的、訪問地名、泊数、旅行手配方法、滞在中の費目
別支出、消費税免税手続き実施状況、その他意識調査(旅行の満足度、情報源、滞在中にしたこと等)
◇調査実施場所
新千歳空港、函館空港、仙台空港、東京国際空港(羽田空港)、成田国際空港、小松空港、富士山静岡空港、中部国際空
港、関西国際空港、広島空港、高松空港、福岡空港、鹿児島空港、那覇空港、関門(下関)港、博多港、厳原港の17空海港。
参考: 観光庁「インバウンド消費動向調査(旧:訪日外国人消費動向調査)」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/gaikokujinshohidoko.html
7-1-2. 調査で把握できること
同調査では、国籍・地域ごとの訪日外客の1人当たり旅行支出額や、どういった費目(菓子類、化粧品、医薬品、
衣類等)に消費をおこなっているかという費目別消費額単価など、消費動向を把握するためのデータを詳細に
把握することが可能となっている。また、国籍・地域別の「日本への来訪回数」、「同行者」、「日本滞在中に利用し
た宿泊施設」、「世帯年収と保有資産」といった情報も把握可能である。
7-2-1. 統計の概要
訪日外客統計は、JNTOが公表する、訪日外客数に関する統計である。
同統計の概要は、以下のとおりである。
<訪日外客統計の概要>
◇調査の目的
毎月の訪日外客数の推移を国・地域ごとに収集・分析する
◇調査の元データ
法務省「出入国管理統計」
◇調査標本の算出法
法務省「出入国管理統計」で把握している外国人正規入国者から、日本を主たる居住国とする永住者等の外国人を除き、これに外国人一時上陸客等を加えた入国外国人旅行者数を集計
※ 駐在員やその家族、留学生等の入国者・再入国者は訪日外客に含まれる
※ 乗員は含まれない
参考: JNTO「訪日外客統計」
https://www.jnto.go.jp/statistics/data/visitors-statistics/
7-2-2. 統計で把握できること
同調査では、国籍・地域ごとに、毎月の訪日外客数及びその伸率を把握することが可能である。どの国籍か
らの来訪が伸びているかを確認するなど、インバウンド市場の全体感を把握しておくことができる。
7-3-1. 調査の概要
宿泊旅行統計調査は、観光庁が実施・公表する、旅行者の宿泊動向に関する調査である。日本国内における
宿泊旅行の全国規模の実態などを把握し、観光行政の基礎資料とすることを目的としている。
<「宿泊旅行統計調査」の概要>
◇調査の目的
わが国の宿泊旅行の全国規模の実態等を把握し、観光行政の基礎資料とする。
◇調査の対象
統計法第27条に規定する事業所母集団データベース(総務省)を基に、国土交通省観光庁で補正を加えた名簿から、標
本理論に基づき抽出されたホテル、旅館、簡易宿所、会社・団体の宿泊所など。
調査対象施設については、従業者数に応じて以下のとおり。
• 従業者数10人以上の事業所 : 全数調査
• 従業者数5人~9人の事業所 : 1/3を無作為に抽出してサンプル調査
• 従業者数0人~4人の事業所 : 1/9を無作為に抽出してサンプル調査
なお宿泊施設タイプの定義は以下のとおり
• 旅館: 和式の構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、簡易宿所以外のもの
• ホテル: 洋式の構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、簡易宿所以外のもの
以下の定義により3種類に分類している
[1]リゾートホテル: ホテルのうち行楽地や保養地に建てられた、主に観光客を対象とするもの
[2]ビジネスホテル: ホテルのうち主に出張ビジネスマンを対象とするもの
[3]シティホテル: ホテルのうちリゾートホテル、ビジネスホテル以外の都市部に立地するもの
• 簡易宿所: 宿泊する場所を多数の人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させ
る営業のもの
• 会社・団体の宿泊所: 会社・団体の所属員など特定の人を宿泊させる営業のもの(会員宿泊所、共済組合宿泊所、保養
所、ユースホステルなど)。
◇主な調査事項
• 各月の延べ・実宿泊者数及び外国人延べ・実宿泊者数
• 各月の延べ宿泊者数の居住地別内訳(県内、県外の別)
• 各月の外国人延べ宿泊者数の国籍別内訳 等
参考: 観光庁「宿泊旅行統計調査」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/shukuhakutokei.html
7-3-2. 調査で把握できること
同調査では、都道府県別の外国人延べ宿泊者数のみならず、国籍別でどういった地域に宿泊しているかといっ
た情報や、訪日外客がどういったタイプの宿泊施設に泊まっているかなどの宿泊に関するデータを詳細に把握す
ることが可能となっている。
本調査結果から、訪日外客が日本国内のどの地域で、どのようなタイプの宿泊施設に泊まっているかを確認する
ことで、訪日外客の一連の訪日旅行をイメージしながらガイドプランを検討するといった活用方法が期待される。
本章では、通訳ガイドが旅行者とのコミュニケーションを円滑に進め、より良い体験を提供するための基本的
なスキルやツールの活用方法について解説する。これらの知識とスキルを実践することで、訪日外客との信頼
関係を築き、満足度の高いツアーを実現することが期待される。
8-1-1. 通訳ガイドが情報を伝える際のポイント
訪日外客との円滑なコミュニケーションは、通訳ガイドの基本的なスキルとして最も重要なものの一つである。
訪日外客に対し、日本の文化や歴史を正確かつ魅力的に伝えることが求められる。
通訳ガイドの役割は、訪日外客に対して日本の魅力を正確かつ効果的に伝え、旅行の満足度を高めることで
ある。単なる知識の提供だけでなく、訪日外客が興味を持ち、楽しみながら知的好奇心を満たすことができる
コミュニケーションスキルが求められる。
日本を訪れる訪日外客は、文化的背景や言語レベルが多様であるため、すべての人にとって分かりやすい説
明を行うことが必要である。また、訪日旅行中の体験が特別なものとなるよう、ガイド自身の個人的なエピソ
ードや地元ならではの情報、その時々のイベント情報などを織り交ぜることで、内容を豊かにする工夫も重要
である。
これらを実現するためには、情報を短く簡潔に伝える能力や、訪日外客との共感を生む話し方を身につける
必要がある。訪日外客に必要な情報を整理し、要点を明確に伝えることで、混乱せず快適に情報を受け取るこ
とができる。また、ストーリーテリングや視覚的な資料を活用することで、情報をより効果的に伝えることが可
能である。
8-1-2. 言語コミュニケーションと非言語コミュニケーション
人とのコミュニケーションにおいて、人間は言語だけでなく、五感を使って様々な情報を受け取っている。アメリカ
の心理学者であるメラビアンによれば、人とのコミュニケーションに影響を与える割合は、視覚情報(表情やしぐさ)
が55%、聴覚情報(声の大きさや抑揚)が38%、言語情報(会話の内容)が7%であるという。
通訳ガイドに必要な能力として、言語能力や話す話題の種類(知識や経験等)が取り上げられることが多いものの、
それらよりも非言語的な情報が重視されている可能性がある。よって、通訳ガイドは、言葉によるコミュニケーショ
ンだけでなく、非言語的な伝達手段(非言語コミュニケーション)も駆使して効果的なコミュニケーションを図る必要
がある。
<言語コミュニケーションをとる上でのポイント>
言語コミュニケーションでは、シンプルで丁寧な言葉遣いが求められる。特に、専門用語や文化的な背景が含まれる表現については、訪日外客にとってわかりやすい説明を心がけることが重要である。
また、ガイド自身の体験談や具体例を交えることで、説明に親近感を持たせることができる。
<非言語コミュニケーションをとる上でのポイント>
非言語コミュニケーションでは、視線、身振り手振り、表情などが大きな役割を果たす。また、訪日外客にとって通訳ガイドは清潔感のある存在であるべきである。具体的には、以下の要素が挙げられる。
• アイコンタクト: 話している相手と視線を合わせることで、関心と誠実さを示す
• 表情: 笑顔を絶やさず、親しみやすい雰囲気を作る
• ジェスチャー: 手や体の動きを使って説明を補足し、訪日外客がイメージしやすいようにする
• 服装:極端に華美であったり露出の多い服装は避け、清潔感がありながら、ガイドとして覚えてもらいやすくしたり、迷子防止などにもつながるよう、目立つ色使いを心掛ける
• 姿勢:訪日外客に対してオープンで誠実な姿勢と態度を保つ
これらの要素を意識的に組み合わせることで、訪日外客との信頼関係を築き、より円滑なコミュニケーションを実現することができる。
8-1-3. 視覚的な資料の作成・活用
視覚的な資料は、訪日外客が情報をより直感的に理解できるようにするための重要なツールである。ただし、資料の使用が訪日外客の気分を害さず、説明の流れを妨げないよう、適切に活用することが求められる。
視覚的な資料が特に効果を発揮する場面として、以下の例が挙げられる。
<視覚的な資料が効果を発揮する場面>
① 文化や歴史の紹介
伝統的な行事や日本独自の食品・工芸品などの材料、製法などを明示したり、歴史的な遺跡について説明する際、写真やイラストを使うことで、訪日外客が具体的なイメージを持ちやすくなる。
② ルールやマナーの伝達
公共の場でのマナーや宗教的な慣習など、訪日外客が日本で守るべきルールを説明し、自ら実践して見せることで、訪日外客はリアルな体験を味わうことができる。
③ 道案内やアクセス情報の説明
地図や図解を使い、目的地への行き方を視覚的に示す。
視覚的な資料を作成する際には、わかりやすいデザインを心がけることが重要である。また、資料を使うタイミングに配慮し、場の雰囲気を壊すことのないよう、また、訪日外客の理解を自然に促すものになるよう、工夫することが求められる。
8-1-4. ストーリーテリング
ツアーガイドが取り入れるべき手法として、「ストーリーテリング」がある。エンターテイメントとしての提供もある
が、ツアーガイドには、単なる事実情報の提示に留まらず、訪日外客の体験を思い出深いものにすることが求めら
れ、ストーリーテリングはそのための手法として活用できる。旅行者体験の質の向上やコト消費の促進にはストー
リーが重要だという意見はしばしば聞かれてきた。このストーリーにはいくつかの形態があり、例えば「①エピソー
ド」、「②物語」、「③ストーリー仕立て」といったものがある。
<ストーリーの形態>
① エピソード
エピソードとは、ある出来事に関する短い逸話である。ツアーガイドは、訪日外客が見たり体験したりする自然・文化・歴史資源にまつわるエピソードを語ることで、その資源に現実世界で役割を与えて、親しみを感じてもらえるようにする。例えば、ある商品がどのような経緯で生まれたのかを、商品作成者に起こった出来事を交えて語って伝えることで、聞いた人にとってその商品がリアルで身近なものに感じられるようにするといった手法が考えられる。
② 物語
物語とは、資源や場所にまつわる、語り継がれてきた空想上もしくは歴史的なものであり、神話などの伝説も含まれる。聞く者にとっては状況をイメージしやすいため、資源や場とのつながりが生まれ、意味や重要性を理解してもらいやすい。一般的に物語には「始まり、本体、終わり」というストーリー展開と、そこから得られる「教訓やメッセージ」がある。そして物語には、問題に直面した主人公が解決を試みるパターンのストーリーが多い。
③ ストーリー仕立て
観光地の魅力を伝える際、資源や場所が表す意味が複雑な場合や見えづらい・わかりづらいときには、説明をストーリー仕立てにして披露することがある。ストーリー仕立てには、「始まり、本体、終わり」という論理的な流れがあることが求められる。例えば、武士が階層社会に生きていたことを理解していただくために、当時の武士の1日をなぞりながら武家屋敷の構造を見てもらい、武士の精神構造や行動を示すことなどが挙げられる。いくつかの証拠や事象を、論理的な流れの中で示すことで、本質的な価値を理解してもらう方法と言える。
ストーリーの形態に関わらず、ストーリーを作成もしくは採用する際には、次の点について考慮するとよい。
• 旅行者に似ている、もしくは旅行者に賞賛されそうな、本物らしくて信頼できる登場人物の詳細
• 揺らぎがなく一貫していて、納得できるプロット(=ストーリーの流れ・筋)
• 感情を強調する表現
ストーリーは知識や経験、伝統を共有する方法であり、感情や思考を刺激する。心理学や消費者行動の分野
では、人の意識はストーリーに基づいており、情報を探したり、保管したり、呼び覚ましたりする手段だと考え
られている。ストーリーによって情報を整理することで、聞く者にとっては理解しやすく記憶に残りやすくなり、
説得力や教育効果が増すと言われている。
また、ストーリーによって想像力が刺激され、旅行者を引き込み、その場所やもの、ガイド、他の旅行者との双
方向的なやりとりを生み出しやすい。その結果、旅行者と場所や資源、人との間につながりが生まれ、本物らし
さ(authenticity)を感じやすくなる。本物らしさを感じるストーリーは旅行者の感情を巻き込みやすく、結
果として、旅行者体験をより深めることにつながる。
加えて、ストーリーの主人公にロールモデルとなってもらい、望ましい行動を取らせると、旅行者の安全を
守ったり、旅行者による行動の影響を最小限に抑えたりすることもできる。ストーリーを用いて、観光地や地域
住民に配慮した行動を推奨したり説明したりすることで、持続可能な観光の実現にも役立つと考えられる。
以上のように、ストーリーテリングを活用することで、訪れている場や見せているものについて、その背景に
ある見えづらい価値や意味を伝えることで旅行者体験を深めたり、訪問地での行動変容を促したりする効果
が期待できるため、ストーリーテリングは通訳ガイドにとって非常に重要なスキルと言える。
8-2-1. ICTツール活用の重要性
ICT(情報通信技術)の活用は、通訳ガイドが業務効率を向上させ、訪日外客により良いサービスを提供するた
めの重要な手段である。例えば、オンライン地図や翻訳アプリ、メッセージツールを活用することで、訪日外客と
のコミュニケーションがスムーズになる。また、案内言語が訪日外客の母国語ではない場合でも、母国語での補
足説明を行うことで、訪日外客に安心感を与えることができる。
さらに、ICTツールを利用することで、訪日外客が求める情報を迅速に提供し、旅行体験全体の質を向上させ
ることが可能となる。例えば、適切なICTツールを活用することで、観光地の最新情報や交通機関のスケジュー
ルをリアルタイムで確認できるため、柔軟な対応が可能になる。
8-2-2. ガイド業務の質の向上に資するICTツール
通訳ガイドが活用できる具体的なICTツールとして、以下のようなものが挙げられる。
これらのツールを適切に組み合わせることで、ガイドとしての業務効率を高めるとともに、訪日外客にとって魅力的な体験を提供できる。
• メッセージツール(Messenger、LINE、Instagramのメッセージ機能 等)
訪日外客との連絡手段として使用し、集合場所や集合時刻などの確認に役立てる。
• オンライン地図(Google Map、Yahoo!マップ等)
目的地までのルートを視覚的に示し、効率的な案内を行う。
• 写真共有ツール(Air Drop、Google Drive等)
ツアー中に撮影した写真を訪日外客に共有する。
• 翻訳アプリ(Google翻訳、VoiceTra等)
言語の壁を乗り越えるための補助的な手段として利用する。
• 生成AI(ChatGPT、Perplexity等)
ツアーの準備段階で情報収集やストーリー構築に活用する。訪日外客のニーズに合わせてカスタマイズされたサービスを提供するための手助けとなる。しかし、AIの情報処理能力には様々な限界があり、誤情報を生成することもある可能性を理解し、過大に信頼することは避けなければならない
8-2-3. 訪日外客に喜ばれる写真の撮り方
通訳ガイドが写真撮影を行う際には、訪日外客が記念に残したい場面を推しはかり、シャッターチャンスを捉える
ことが求められる。特に、訪日外客に喜ばれる写真を撮るためには、以下のポイントに注意する。
• プライバシーへの配慮
撮影する前に、訪日外客の意向を確認する。許可なく勝手に訪日外客の写真を撮影するのは失礼にあたるだけ
でなく、プライバシーや肖像権などの複雑な問題に発展する場合があるため注意したい。
• 写真スポットの選定
その場所で最も魅力的な背景や構図が得られる場所を事前に調査しておく。
• 構図の工夫
写真の構図を意識し、主題が際立つように配置する。例えば、三分割法や対角線構図を活用すると効果的であ
る。訪日外客それぞれの好みもあるので、縦・横両方で撮影してあげるのもよい。
• 自然な表情の引き出し
訪日外客がリラックスして自然な笑顔を見せられるように声をかける。
また、写真撮影後には、訪日外客にその場で確認してもらい、必要に応じて再撮影を行うことで満足度を高める
ことができる。写真を通じて、訪日外客に忘れられない思い出を提供することも通訳ガイドの役割の一つである。
本章では、通訳ガイドが訪日外客とのコミュニケーションを円滑に進め、より良い体験を提供するための基本な
スキルやツールの活用方法について解説した。これらの知識とスキルを実践することで、訪日外客との信頼関係
を築き、満足度の高いツアーを実現することが期待される。
<ガイドツアー催行の流れ(一例)>
① ツアーの造成・掲載
旅行会社は訪日外客の興味を引く内容を盛り込んだツアーを企画し、旅行会社のカタログやオンラインプ
ラットフォームに掲載する。ツアー内容には、訪問先のユニークなポイントや季節ごとの特別な魅力を盛り込
むことが重要である。また、オンラインプラットフォームにおいては、予約数を増やすために、口コミの数と質
が大事になる。
② 訪日外客からの申込
旅行会社やOTA(オンライン旅行会社)を通じてツアーの予約を訪日外客から受け付ける。申込受付時に
は訪日外客の特別な要望やアレルギーなどの制限事項を確認する場合もあるが、オンラインプラットフォー
ムにおいては成約確保を優先するために、訪日外客の個人情報に関わる記載の入力などを最小限に抑えて
いる場合もある。
③ ガイドのアサイン
予約を受け付けた後、旅行会社・観光事業者は、適切な通訳ガイドをアサインする。アサイン時にはガイドの
スケジュールや専門性、訪日外客の希望に合わせて可能な限り最適なマッチングを行う。
④ 事前準備
通訳ガイドは、訪日外客のニーズを把握・想像し、訪問先の情報を収集する。必要な資料やガイドツールを
準備する。必要に応じて現地を下見し、導線等を確認しておく。訪問先の営業日・営業時間なども考慮しな
がら、天候や訪日外客の体調に合わせて行程を変更する心構えをしておくことも重要である。下見を行う余
裕がない場合でも、Google MapやGoogle Earthなどのオンライン地図を用い、可能な限り現地の地理
や状況を把握する努力を怠ってはならない。
⑤ ツアー実施
ツアー中は、スケジュール管理や現地での柔軟な対応が求められる。訪日外客が安心して楽しめるよう、臨
機応変なサポートを提供する。
⑥ 終了後のフォローアップ
ツアー中の写真の共有やレビューの依頼、ツアー終了後の交通機関の案内など、顧客満足度を高める活動
を行う。また、訪日外客と関係性を構築し、連絡先を交換することで、リピーターや紹介の獲得に寄与するこ
ともある。
⑦ 報告と記録
旅行会社は、通訳ガイドに対し、催行したツアーの報告を求めることが多い。旅行会社のフォーマットに
合わせて記録を作成する場合もあるが、通訳ガイド個人にとっても、ツアーの記録を作成し、反省点と成
功例を見直すことで、スキル向上に活かすことができる。記録は将来の類似ツアーやリピーターへの対応
時にも貴重な参考資料となる。記録は常に質の高い案内を実現するための必須ツールと言えよう。
9-1-2. 仕事を得る主なルート
通訳ガイドが仕事を得るためには様々な方法がある。まずは、自治体やガイド団体が主催するマッチングイベ
ントへの参加や旅行会社へのアプローチ、オンラインプラットフォームの活用等を考えると良い。
また、桜シーズン、紅葉シーズン等繁忙期は旅行会社によって数多くのツアーが催行されることから、通訳ガ
イドが不足しやすいため、仕事を得やすいタイミングでもある。
なお、特定のテーマ(例:文化、食、自然、アート、建築等)に関する専門性を磨くことで、他のガイドとの差別化
を図り、仕事を得やすくしておくことができる。
仕事を得るための主なルートを以下で紹介する。
<仕事を得る主なルート>
⚫ 旅行会社
国内外の旅行会社は、ガイドにとって主要な仕事の提供元である。大手旅行会社は安定したペースで案
件を提供する傾向がある一方、ブティック型の旅行会社ではオーダーメイド型の対応や高単価の案件の
獲得が期待できる。
FIT特化、団体旅行特化、スルーツアー特化など、旅行会社ごとに得意分野が異なることが多いため、
旅行会社の特徴を把握して自分に合ったパートナーを選ぶことが重要である。
⚫ 訪日外客からの直接依頼
通訳ガイド自身がOTA(オンライン旅行代理店)に登録したり、自分でウェブサイトやSNS等を運営し、
訪日外客から直接予約を受け付けるという方法もある。
OTA上の自分のページや、ウェブサイト・SNSをどのように訪日外客に知ってもらうのかというハード
ルはあるが、オンラインで直接受注することから、ある程度通訳ガイドの人となりやツアーの様子を知っ
た上で寄せられた予約と考えられるので、より訪日外客の好みに合わせたガイドを提供できる可能性が
高い。
⚫ ガイド仲間による紹介やホテルコンシェルジュ
ガイド同士や観光業界関係者との日頃からの良好な関係構築は重要とされ、ガイド仲間のネットワーク
で仕事を得るケースも少なくない。
また、ガイド団体に所属したり、通訳ガイドと旅行会社とのマッチングイベントやコミュニティに参加する
ことで、仕事獲得の機会が広がっていく。
同様に、ガイドツアーの手配を行うホテルのコンシェルジュや、ガイドツアーの造成を行うDMO(観光地
域づくり法人)との関係構築も有効である。
9-1-3. 旅行会社経由での仕事の獲得方法
旅行会社経由での仕事を獲得するためには、「旅行会社と接点を持つこと」に加え、「仕事を依頼したいと思っ
てもらうこと」が必要になる。
そのためのポイントを、以下に記載する。
<旅行会社経由で仕事を獲得するためのポイント>
⚫ プロフィールの充実
旅行会社のガイド紹介サイトなどに魅力的な写真を掲載し、得意分野や実績を具体的に記載する。写真は
親しみやすさを感じさせるものを選び、自己紹介文には、自分の専門性やガイド業に対する想いやホスピタ
リティをアピールする。
⚫ コミュニケーション力
語学力も然ることながら、訪日外客に楽しんでもらいたいというスタンスや柔軟性ある姿勢を強調し、日
頃から積極的に自らをアピールすることが肝要である。
⚫ 得意とする場所、分野の確立とアピール
自分の強みを冷静に自己分析した上で、得意分野や自信を持って案内できる場所を作り上げることは大
きな力になる。旅行会社にその専門性と実力をアピールし、「その場所や分野の仕事を任せられる存在」とし
て認識してもらうことは、安定した仕事獲得につながる道である。
⚫ 季節性への対応
繁忙期(春の桜シーズンや秋の紅葉シーズンなど)は特に需要が高まるため、自らのスケジュールを柔軟に
調整して対応できる体制を整える。
⚫ 日頃からの信頼構築
旅行会社からの依頼や、業務に関する連絡、スケジュール調整などの事務作業においても正確で迅速な対
応を心がける。
⚫ 高い満足度
ツアー中には柔軟な対応や上質なサービス提供を行い、旅行満足度を向上することが、旅行会社からの信
頼を深めることにも繋がる。
9-1-4. 訪日外客からの直接依頼による仕事の獲得方法
直接訪日外客から仕事を獲得する方法も増加している。この場合は、通訳ガイド自らによって、9-1-1におけ
る「①ツアーの造成・掲載」から実施する必要がある。
通訳ガイドが自らツアーを造成し、オンラインで訪日外客に販売して仕事を獲得するためのポイントを、以下に
記載する。
<訪日外客から直接仕事を獲得するためのポイント>
⚫ OTAの活用
OTA(オンライン旅行代理店)は、仕事を獲得するための有効な手段である。OTA上で訪日外客からの評
価を高め、検索結果で上位に表示される努力を行うことが求められる。写真・タイトル・口コミは、OTAサイ
トを閲覧する訪日外客にとって、予約の決め手となる重要な要素である。
⚫ ソーシャルメディアの活用
Instagram、Facebook、LinkedInなどを通じて、自分のサービスやツアーの魅力を発信する。どの
ような人に見てもらいたいか、自分の強みは何かを明確化し、閲覧者の興味を喚起できるように投稿の
方向性を決めて発信を行う。継続して投稿を続け、改善を繰り返していくことが望ましい。
⚫ リピーター・紹介
一度案内した訪日外客が再度日本を訪れる際に再び依頼されることや、その家族・友人が来日する際に
紹介されるケースも多い。訪日外客と連絡先を交換し、可能であれば定期的にコミュニケーションをとる
ことが効果的である。
9-1-5. ガイド仲間による紹介やホテルコンシェルジュからの仕事の獲得方法
ガイドネットワークから仕事が広がっていくケースは多いが、単にガイドの知り合いが多ければ紹介してもら
えるというものでもない。ガイドもコンシェルジュも、繋がりのある大事な旅行会社や訪日外客を安心して繋げ
る人かどうかを常に見ている。
ガイド研修等に参加したときに、積極的に発言して自身のコミュニケーションスタイルを示すことや、日頃から
仲間同士でお互いに有益な情報の提供等をして信頼関係を構築することで、仕事の獲得にも繋がっていく。
9-1-6. ガイドで生計を立てるポイント
通訳ガイドは多くがフリーランスとして活動しているが、安定した収入を得るためには、スケジュール管理や
税務申告、マーケティングなどを自分で行う個人事業主としてのスキルが求められる。収支のバランスを定期
的に確認し、安定的に生計を立てられる状態を目指すことが重要である。
下記に、通訳ガイドとして生計を立てる上でのポイントを紹介する
<通訳ガイドとして生計を立てるためのポイント>
⚫ セルフブランディング
自身の強みやチャームポイント等を把握し、旅行会社、訪日外客の双方に対して、自分の価値を認めて
もらう取り組みを行う。
⚫ 専門性の追求
特定の分野(例:文化、食、自然、アート、建築等)に特化した強みを構築し、差別化を図る。
自分が強みを持つ領域が築けると、後述の価格交渉力にも繋がってくる。
⚫ 価格交渉のスキル向上
仕事の報酬を適切に設定し、旅行会社や訪日外客との報酬額の交渉を直接行うスキルを磨く。
⚫ 収入源の多様化
ガイド業には繁閑差があるため、ガイド業とは別に、講師業、執筆、講演、地域への観光関連のコンサル
ティングなど関連する分野で収入を得る工夫をする。
9-2-1. 高付加価値旅行者の旅のスタイルと地域への波及効果
観光庁やJNTOでは、訪日旅行での高付加価値旅行者の誘致促進を展開している。高付加価値旅行者は、訪
日外客全体に占める割合は小さいが、一旅行当たりの消費額が大きいとされている。しかし、観光庁「地方にお
ける高付加価値なインバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン」によると、世界の高付加価値旅行者が
日本を訪れる割合は、米国1.8%、英国0.4%、ドイツ0.7%、オーストラリア2.4%など、総じて日本の高付加価
値旅行者の獲得シェアは低い状況にある。また、高付加価値旅行者の地域別の訪問率は、東京76.7%、大阪
32.7%など3大都市圏において高い一方で、それ以外のほとんどの地域では訪問率が10%未満となるなど、
地方訪問率は低い状況にある。
今後のインバウンドの回復・再拡大を目指すためには、多様な客層を獲得する努力に加え、今まで取り込めて
いない、高付加価値旅行者への働きかけを強めることが必須といえよう。同時に、消費額増加への取組強化を
図り、地方への誘客を促進を重視していくことが必要である。
高付加価値旅行者の誘致による経済効果は極めて高く、旺盛な旅行消費を通じて、地域の観光産業のみなら
ず、多様な産業にも経済効果が波及するため、地域経済の活性化につながる。また、高付加価値旅行者による旺
盛な知的好奇心を伴う自然、文化体験や本物を志向する行動は、地域の自然、文化、産業等の維持・発展に貢献
する。それに伴い、地域の雇用の確保・所得の増加や域内循環が図られ、持続可能な地域経済の発展、地域活性
化に寄与することから、今後のインバウンド戦略において高付加価値旅行者の誘致は重要な柱となっている。
ここでいう高付加価値旅行者とは、下記の通り定義される。
• 旅行消費額:訪日旅行1回あたりの総消費額100万円/人以上の旅行者(国際航空券代は除く)
• 志向・価値観:“高付加価値旅行者は、単に一旅行当たりの消費額が大きいのみならず、一般的に 知的好奇心
や探究心が強く、旅行による様々な体験を通じて地域の伝統・文化、自然等に触れることで、自身の知識を深
め、インスピレーションを得られることを重視する傾向にある”(観光庁「地方における高付加価値な インバウ
ンド観光地づくりに向けた アクションプラン」より)
高付加価値旅行者の志向について、大まかにClassic Luxury志向(従来型)とModern Luxury志向(新
型)の二つに分けることができる。
Classic Luxury志向(従来型)の旅行者は、富や権力を重要視する価値観を持っており、旅行においては「高
い快適性」「サービスの質の高さ」「ステータスシンボル」などを求める傾向がある。
一方で、若い層を中心に拡大しているModern Luxury志向(新型)の旅行者は、文化や独自性に重きを置く
価値観を持っており、自分が興味・関心を持っているものに関しては消費・購買意欲が非常に高いが、自分が価
値を見出していないものについては一切消費行動をしない傾向にあり、旅行に求めるものも、「本物の体験」「エ
コツーリズム」「サステイナビリティ」と、従来型と大きな違いがみられる。
これら二つの志向の詳細については、参考資料・資料10で紹介する。
9-2-2. 高付加価値旅行者を迎え入れる受入側の関係者
高付加価値旅行者の受け入れには、複数の関係者が連携して高品質なサービスを提供する。日頃からこうし
た関係者とのネットワークを構築しておくと、高付加価値旅行者の予約が入った際に円滑な案内が可能になる。
• 旅行会社
地域資源を組み合わせて旅行者にとって最適な商品・旅程を企画する。海外の旅行会社からの依頼を受
け、 富裕層向けのプライベートツアーを企画する「高付加価値旅行向けDMC(Destination
Management Company)」と呼ばれる会社も存在する。
• 高級ホテルや旅館
宿泊施設との連携により、快適な滞在をサポートする。高級ホテルのコンシェルジュとの連携も重要。
• 交通手段の手配
プライベートカーやチャーター便を求める旅行者も多い。
• 特定分野の専門家
文化や歴史に詳しい専門家と連携することで、深い体験を提供することができる。
• 特別な体験を提供する施設
茶道の家元や伝統工芸の工房など、地域ならではの体験を提供できる施設との連携が鍵となる。
• 優秀な通訳ガイド
高付加価値旅行者は、団体ではなく家族や友人同士などの少人数での旅行を好む。
従って、対応する通訳ガイドには細やかで高い説明能力や、旅行者との親密な関係を築く能力、柔軟性な
どさまざまなスキルが求められる。
高付加価値対応を行う通訳ガイドに求められる能力・要件については、参考資料11で紹介する。
9-2-3. 現地での高付加価値旅行者の受入れ
現地で高付加価値旅行者を受け入れる際に、通訳ガイドには、前述のように高いスキルと、柔軟性・ホスピタ
リティを持った対応が求められる。その際に重要な点を、下記に記載する。
<現地で高付加価値旅行者の受入れを行う際のポイント>
⚫ 事前準備
日頃から研鑽を怠らない。知識だけでなく、ネットワークの構築等も行っておく。またツアーが決まっ
たら、事前に入手できる範囲で、旅行者の嗜好や要望に関する情報を集め、最適なプランを準備する。
この際に、いくつかシミュレーションをしてプランB、プランCを用意しておく。依頼元の旅行会社と迅
速かつ円滑にコミュニケーションできる連絡手段も確認しておく。
⚫ 当日
訪日外客の要望に寄り添いながらツアーを展開する。事前のプランに固執することなく柔軟に対応す
る。旅程の変更が必要な際は、随時、依頼元の旅行会社と緊密に連絡を取りながら解決していく。
⚫ 事後対応
終了後は、必要に応じて旅行会社等への情報共有を行う。後に関係する通訳ガイドや受入先に情報が
共有されることで、訪日外客の日本滞在をより満足度の高いものにすることができる。
参考:用語サイト(観光庁テキストではありません)
• 私的使用のための複製(第30条)
• 付随対象著作物の利用(第30条の2)
• 検討の過程における利用(第30条の3)
• 著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(第30条の4)
• 図書館等における複製・インターネット送信等(第31条第1項)
• 国立国会図書館における蔵書等の電子化、インターネット送信等(第31条第8項)
• 引用・転載(第32条)
• 教科用図書等への掲載(第33条)
• 教科用図書代替教材への掲載等(第33条の2)
• 教科用拡大図書等の作成のための複製等(第33条の3)
• 学校教育番組の放送等(第34条)
• 学校その他の教育機関における複製・公衆送信・公の伝達(第35条)
• 試験問題としての複製等(第36条)
• 視覚障害者等のための複製等(第37条)
• 聴覚障害者等のための複製等(第37条の2)
• 営利を目的としない上演・演奏・上映・口述等(第38条)
• 時事問題に関する論説の転載等(第39条)
• 政治上の演説等の利用(第40条)
• 時事の事件の報道のための利用(第41条)
• 裁判手続等における複製等(第41条の2)
• 立法又は行政の目的のための内部資料としての複製等(第42条)
• 審査等の手続における複製(第42条の2)
• 情報公開法等による開示のための利用(第42条の3)
• 公文書管理法等による保存等のための利用(第42条の4)
• 国立国会図書館法によるインターネット資料及びオンライン資料の収集のための複製(第43条)
• 放送事業者等による一時的固定(第44条)
• 美術または写真の著作物の原作品の所有者による展示(第45条)
• 屋外設置の美術の著作物、建築の著作物の利用(第46条)
• 美術または写真の著作物等の展示に伴う解説・紹介のための利用(第47条)
• 美術の著作物等の譲渡の申出に伴う複製等(第47条の2)
• プログラムの著作物の所有者による複製等(第47条の3)
• 電子計算機における著作物の利用に付随する利用等(第47条の4)
• 電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等(第47条の5)
• 翻訳、翻案等による利用(第47条の6)
資料5 著作物が自由に使える場合
(出典:公益社団法人著作権情報センター https://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime7.html)
平成29年8月21日付観光庁観光地域振興部観光資源課から各都道府県観光担当部長宛ての通達が資料として載せられている。
全国通訳案内士が許可なく外客を自家用車に載せて有償で観光案内をしてしまった例を挙げ、それは道路運送法第4条および第78条に抵触する。すなわち法律違反である。通訳案内士法第31条に、通訳案内士の信用又は品位を害するような行為をしてはならないと規定されており、その法律の規定に抵触するような行為を行わないように指導を徹底するようにと言う内容である。
前回のテキストよりも詳しくなっているので再確認の事→「通訳ガイドテキスト」(初版) 151p~160p
通訳案内士等による観光ガイド事業との一体運送について(解説)(観光庁)
和食は、「和食:日本人の伝統的な食文化」と題 して、ユネスコ無形文化遺産に登録された。
「和食」 の 4 つの特徴の内容は、以下のとおりである。
①多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
日本の国土は南北に長く、海、山、里と表情 豊かな自然が広がっているため、各地で地域に 根差した多様な食材が用いられている。また、 素材の味わいを活かす調理技術・調理道具が発 達している。
②健康的な食生活を支える栄養バランス
一汁三菜を基本とする日本の食事スタイル は理想的な栄養バランスといわれている。ま た、「うま味」を上手に使うことによって動物性 油脂の少ない食生活を実現しており、日本人の 長寿や肥満防止に役立っている。
③自然の美しさや季節の移ろいの表現
食事の場で、自然の美しさや四季の移ろいを 表現することも和食の特徴のひとつである。四 季折々の花や葉などで料理を飾りつけたり、調 度品や器も揃えたしたりして、季節感を楽し む。
④正月などの年中行事との密接な関わり
日本の食文化は、年中行事と密接に関わって 育まれてきた。自然の恵みである「食」を分け 合い、食の時間を共にすることで、家族や地域 の絆を深めてきた。
(農林水産省のホームページより)
・非常口のピクトグラムは日本人が発明したこ とはご存知だろうか。50 年以上経て、多少形 やデザインが変形しても万国共通のユニバ ーサルデザインのピクトグラムである。フー ドピクトグラムも基本は国や人種、言葉が違 っても通じることを第一優先にしたい。
・まずはピクトグラムを使い、情報開示に慣れ ることが食の多様性、外国人対応の初歩とな る。
・情報開示の基本は、選択肢を与えることであ る。誰もが判断できる基準かどうかも重要で ある。
・ピクトグラムを使いこなせれば宿泊施設、飲 食施設、商業施設の強みになる。ピクトグラ ムは宗教(ハラル、「コーシャ」など)やベジ タリアン(ライフスタイル)そして病気(ア レルギー疾患、予備軍など)やこだわり(オ ー ガ ニ ッ ク 、 食 品 衛 生 管 理 シ ス テ ム (HACCP)、ISO など認証志向)にも幅広く 対応が可能である。
(引用:JAPAN MUSLIM GUIDE より)
この一覧は試験用と言うよりは実際に使われるものだと思うのでテキストで確認しておくこと。
《signageは記号・標識の意》映像表示装置とデジタル技術を用いた広告媒体。屋外・店頭・公共施設などに、液晶ディスプレーやプロジェクターを設置して広告や各種案内を表示するもの。従来のポスターや看板と異なり、通信ネットワークを利用することで、表示内容をリアルタイムで更新したり、複数の広告を配信したりすることができる。ダイナミックサイネージ。デジタルポスター。デジタルサイン。デジタル看板。電子看板。電子POPポップ。電子公告端末。
出典 小学館デジタル大辞泉
(3) 旅行サービス手配業務
「旅行サービス手配業務」とは、旅行業を営む者(外国の旅行会社を含む)の依頼を受けて行う、以下のような行為である。
① 運送(鉄道、バス等)又は宿泊(ホテル、旅館等)の手配
② 全国通訳案内士及び地域通訳案内士以外の有償によるガイドの手配
③ 免税店における物品販売の手配
既に旅行業の登録のある旅行業者は、「旅行サービス手配業務」にあたる行為を行う場合でも、重複して旅行サービス手配業の登録を受ける必
要はない。
※②に関して、実際には、旅行サービス手配業者が
全国通訳案内士及び地域通訳案内士を手配する
場合もあるが、全国通訳案内士又は地域通訳案
内士の手配のみを行う場合は、手配を行う者は
旅行サービス手配業の登録を要しない。
旅行サービス手配業に関する規制は、旅行の安
全性を高める観点から導入されたが、全国通訳
案内士又は地域通訳案内士については、通訳案
内士法により信用失墜行為として悪質行為等が禁止されているためである。
通訳案内士法の規制の対象外である無資格ガイドについては、手配(旅行サービス手配業者)側から規制されることとなった。
※バスやホテル、観光施設など、旅行を構成する各種サービスの提供者のことをサプライヤーという。