先島諸島産ウスキキヌガサタケ類似菌 Phallus sp.
八重山諸島と宮古諸島に分布し、亜熱帯に固有と思われるウスキキヌガサタケ類似菌です。
傘の地肌が白色で、ウスキキヌガサタケよりも短い菌網を形成する点でユニークです。菌網の色については、水素イオン濃度によって黄または橙赤色に変化する可能性があります。
石垣島産。2023年11月15日。
西表島産。
写真撮影: 吉野圭哉氏
黄色型、石垣島産。
写真撮影: 吉野圭哉氏
近縁と思われる類似菌は以下のとおりです。
台湾原記載のコガネキヌガサタケ Phallus cinnabarinus (W.S. Lee) Kreisel。
Phallus cinnabarinusは、アフリカ以外の熱帯~亜熱帯地域を中心に広く分布し、灰白色またはくすんだ褐色のツボを有し、傘の地肌が濃赤色を呈し、托やレース状の菌網も紅色を帯びる。
コガネキヌガサタケの和名は、西表島で清水大典氏が採集した標本に基づき小林義雄博士が命名したもので、マント(菌網)が紅色のキヌガサタケの一品種(ウスベニキヌガサタケ)も報告している。
ベニキヌガサタケ (ウスベニキヌガサタケ) Dictyophora indusiata (Vent.) Fischer f. rosea (Cesati) Y. Kobayasi。
相良直彦博士によって採取されたスリランカ(旧セイロン)産の標本と写真に基づき小林義雄氏(1965a)が命名した品種でツボは下部白色、上部淡~濃肉色、菌網は淡い紅色を呈し、托は白色。傘の地色に関してはpale pink (?)と記されているだけで、正確な特徴は不明。
ウスキキヌガサタケ Phallus luteus (Liou & H. Hwang) T. Kasuya。
球状のつぼみ (ツボ) は淡ピンク色ないし赤紫色、菌網は鮮やかな黄色から橙黄色を呈するが環境条件により色の濃さに変異が見られる。傘の地肌は淡黄色~帯黄オレンジ色。
Phallus callichrous (Møller) Lloyd。
フランス領コンゴ、ニューギニアおよびオーストラリアに分布し、傘の地肌は黄色を呈するが、菌網や托は白色。
ナンカイキヌガサタケ Phallus multicolor (Berk. & Broome) Cooke。
オーストラリア、スマトラ、ジャワ、ボルネオ、スリランカ、マレーシア、パプアニューギニア、ザイールおよびグアム島に分布し、傘の地肌と菌網は黄色、柄は淡黄色。
Phallus multicolor var. laeticolor Reid。
菌網は非常に長く垂れ下がり、明るい橙赤色を呈し、傘の地肌は黄色、柄は白色から淡紅色を帯びる。
以上紹介した分類群は、傘の地肌が有色な点で八重山産サンプルと一致しません。
傘の地肌が白色で、菌網は短く、黄色~橙黄色または橙赤色を呈する性質から判断すると、本種はキヌガサタケとウスキキヌガサタケの中間的分類群と考えられます。
参考文献
1.Kobayasi Y. 1965a. Two colour forms of Dictyophora indusiata. (キヌガサタケの2品種) The Journal of Japanese Botany. 40(6): 178–181(1965)
2.Kobayasi Y. 1965b. On the genus Dictyophora, especially on the East-Asiatic group. (キヌガサタケ属, 特に東亜産について) Trans. Mycol. Soc. Japan. 1(1): 1-10.
3.Kasuya, T. 2008. Phallus luteus comb. nov., a new taxonomic treatment of a tropical phalloid fungus. Mycotaxon. 106:7-13