キアシベニヒダタケ

Pluteus cf. romellii (Britz.) Sacc., Syll. Fung.11: 44. 1895.


ヨーロッパ産 Pluteus romellii と形態的特徴においてほぼ一致しますが、分布域が異なり、地理的種として分化している可能性があります。

           

Pluteus cf romellii was recorded for the first time in Japan. It was collected on dead fallen branchs in lowland forests dominated by Castanopsis cuspidata var. sieboldii and Cornus controversa in Odawara-shi, Kanagawa-Prefecture (central Honshu, Japan).

A. 傘の表皮の末端細胞; B. 胞子;

C. 縁シスチジア; D. 側シスチジア. スケール: 10μm.

肉眼的特徴: 傘は径 30-45 mm,最初丸山形でのちほぼ平開し, 中央部に脈状のしわを放

射状に表し, 暗褐色。肉は厚さ 2.5 mm 以下, 白色, 無味無臭。柄は 50-70×4-9 mm, 上下同

大または根元に向かってやや肥大し, 中空, 表面は平滑またはやや繊維状, 淡黄色またはレ

モン色, 根元は白色の毛に被われる。ヒダは幅 6 mm 以下, 肉色, やや密, 離生。

 顕微鏡的特徴: 担子胞子は 5-7×4.5-5 μm, 亜球形, 無色, 薄壁。担子器は 40-57×11-

15 μm, こん棒形, 2-3-4 胞子性。縁シスチジアは 25-50×8-16μm, 群生し, こん棒形, 無

色, 薄壁。側シスチジアは 50-76 (-94)×15-27 μm, こん棒形~紡錘形または小のう形

(utriform), 無色, 薄壁。傘の表皮は著しく肥大した広こん棒形~頭状球形の末端細胞が子実

層状被を形成する。傘の表皮の末端細胞は 40-67×23-40 μm, 細胞内に褐色の色素が存

在する。傘実質の菌糸は平列し, 細胞は円柱形で, 無色。柄の表皮は無色~淡黄色の円柱形

の菌糸が平列し, 柄シスチジアはない。全ての菌糸はクランプを欠く。

供試標本: 神奈川県小田原市入生田丸山, スダジイ, ミズキを主な構成樹種とする広葉樹

林内の腐木上に散生, 2000年 4月23日, 高橋春樹採集 (KPM-NC0006555)。

コメント: 本種は Vellinga & Schreurs (1985) の定義による Pluteus sect.Celluloderma

subsect. Eucellulodermini Sing.ex Sing. (Singer, 1986 の分類では stirps Lutescens)に属し, 主

な形態的特徴として, 1) 傘表皮が球形~こん棒形の末端細胞のみからなる子実層状被を形

成する, 2) 胞子が亜球形, 3) 縁- 並びに側シスチジアが紡錘形~小のう形 (utriform), 4) 柄

が黄色を帯びるなどの形質を持つ。日本産の標本は, Breitenbach and Kranzlin (1995),

Orton (1986), Vellinga (1990) らの記述によるヨーロッパ産の Pluteus romellii 形態的特徴において

一致する。

同じくヨーロッパ産の Pluteus splendidus Pears.は主に傘の色合いによって前種と異なるが, 両

種を区別しない研究者もいる (例えば Vellinga, 1990)。南米産 Pluteus globiger Sing.& Digilio

(Singer & Digilio, 1952), Pluteus xanthopus Sing.(Singer, 1958), Pluteus flammipes Horak

(Horak, 1964) の三種は P. romellii に最も近縁と思われるが, P. globeger は黄色地に褐色を

帯びた傘と肥大した円柱形の縁シスチジアを形成し,P. xanthopus は厚壁の縁シスチジアを

有し,P. flammipes はヒダと柄が橙赤色を帯びる。標本は神奈川県立生命の星・地球博物館

の標本庫(KPM) に登録, 収蔵されている。