ガーネットオチバタケ 

Cruentomycena orientalis Har. Takah. & Taneyama, in Takahashi, Taneyama, Kobayashi, Oba, E. Hadano, A. Hadano, Kurogi & Wada, The fungal flora in southwestern Japan, Agarics and boletes 1: 155 (2016)

 

属名の cruentus は「血に染まった、血の様に赤い」を意味するラテン語。

Basidiomata of Cruentomycena orientalis (holotype) on dead fallen hardwood leaves, 20 Oct. 2011, Ishigaki Island. Photo by Takahashi, H.

常緑広葉樹の落ち葉上に発生するガーネットオチバタケの子実体 (正基準標本). 20111020, 石垣島. 撮影: 高橋春樹.

Basidiomata and mycelia of Cruentomycena cf. orientalis emitting yellowish green light, Jul. 2020, Fukuoka pref. Photo by Ms. Iwama, Ami.

黄緑色に発光するガーネットオチバタケ類似菌の子実体と菌糸体.

20207, 福岡県. 撮影: 岩間杏美氏.

Cruentomycena orientalis Har. Takah. & Taneyama

Mycelium luminescence in dead leaves, 30 May 2014, Ishigaki Island. Photo by Ms. Ami Iwama.

ガーネットオチバタケが発生している落ち葉の菌糸体発光.

2024530, 石垣島. 撮影: 岩間杏美氏.

ガーネットオチバタケ属の形態的特徴


) 子実体は小形のクヌギタケ型~シロホウライタケ型で, ヒダを含めて全体に深紅色~血赤色を帯びる。


) 傘は一般に中央部が臍状に凹み, しばしば強い粘性を表す。


) ヒダは疎, 垂生, 深紅色の縁取りがある。


) 柄は一般に湿時粘性。


) 葉上性の生態


) 傘表皮組織を構成する菌糸は匍匐性, ゼラチン質, 平滑。


) 傘実質は偽アミロイド, 偽柔組織状。


) 胞子はアミロイド, 長楕円形~種子形。


) 側シスチジアはない。


) クランプを有する。

 

ガーネットオチバタケ属 (Cruentomycena R.H. Petersen Kovalenko & O. Morozova) は、オーストラレーシアに分布する Cruentomycena viscidocruenta (Cleland) R.H. Petersen & Kovalenko (Cleland 1919, 1924; Grgurinovic 1997, 2002; Petersen et al. 2008) を基準種として Petersen 博士ら (Petersen et al. 2008) によって設立され、興味深いことにITS並びにLSUの領域を用いた分子系統解析によれば、ヌギタケ属 (Mycena) よりもギンガタケが所属するザラメタケ属 (Resinomycena) およびスズメタケなどの発光菌を含むワサビタケ属分岐群 (panelloid clade) に系統が近いとされています。

 

ガーネットオチバタケ属の分布

ロシアにも近縁種が存在することから、設立当初は隔離分布する稀な分類群と考えられていました。まだ正式な報告はなされていませんが、丁度新属の論文が発表されたのと同じ時期に、東南アジアのタイにもガーネットオチバタケ属の仲間が分布することが判明しています(海外の研究者からの私信)

国内では2011年沖縄県石垣島において本属の仲間が発見され、『南西日本菌類誌 軟質高等菌類』において正式に新種 (Cruentomycena orientalis Har. Takah. & Taneyama) として記載されました。その後鹿児島県奄美大島、九州、静岡県、関東地方、福島県福島市、山形県から相次いでガーネットオチバタケの仲間の分布が確認され、国内の亜熱帯~温帯の広い地域に分布していることが明らかになりました。九州以南のサンプルは子実体に粘性を欠き、関東周辺並びに東北に分布するものはしばしば粘性を持つことが知られており、国内に少なくとも2系統存在する可能性があります。


ガーネットオチバタケ属の粘性に関しては、傘と柄に強い粘性があるタイプ(南半球産、但しアルゼンチン産については不明)と、粘性がほとんど認められないかまたは柄の表面に僅かな粘性を持つタイプ(主に北半球産) の大まかに2系統に分けられます。

湿りけの有無よって粘性の状態は多少変わってきますが、九州産(宮崎、福岡県、大分県、長崎県など)は傘表面が乾燥したタイプが多いようです。

傘中央部が明瞭にへそ状に凹み(時にヒダサカズキ型)、傘と柄の表面に強い粘性(ゼラチン質)を持つと言われているオーストラレーシア産 Cruentomycena viscidocruenta は、東北や関東地方などで見つかっている粘性の強いタイプに似ていますが、縁シスチジアの類型並びに分子解析データを比較してみないとはっきりしたことは分かりません。

また日本産の粘性があるタイプは C. viscidocruenta のような粘液に被われる (glutinous)というより、湿時粘性 (viscid) である可能性も考えられます。

 

ガーネットオチバタケの発光性について

20206月福岡県で岩間杏美さんによって子実体並びに基質(菌糸体)が発光性を持つことが世界で初めて確認されました。まさかこのような濃い色素を持つパイロープガーネットのような美しいキノコが発光するなど誰も予想だにしていなかったので全国に衝撃が走りました。しかしながら、基質(落ち葉)に比べて子実体の発光は極めて微弱で、肉眼で確認するのは困難なレベルとのことで海外でも広く知られた分類群であるにも関わらず、今まで発光性が確認されてこなかったのは子実体の発光性の弱さのため、生態で見逃されていた可能性があります。このような発光性の微弱なきのこは、発光性を見る目的で意図的に時間をかけて観察しない限り、野外で偶然発光菌として見つかることはほぼ皆無と言って良いでしょう。従って、杏美ちゃんの発光菌に対する鋭い直感力がなければ、このような大発見は今後もしばらくはなかったかもしれません。

杏美ちゃんがガーネットオチバタケの子実体において微弱な発光性を発見したことは、単にガーネットオチバタケのみの衝撃にとどまらず、これまで発光しないと考えられてきたクヌギタケ型きのこも、単に肉眼的レベルで発光性が確認できなかっただけで、高感度で長時間露光撮影を行い、パソコンで露出補正をするなどの丁寧な観察実験をすれば、案外予想以上に多くの種類が微弱発光菌である可能性を示唆しています。

その後福岡県に続いて、宮崎県、宮城県仙台市、福島県福島市、静岡県側富士山嶺、山梨県北杜市清里高原、沖縄県石垣島、滋賀県などでガーネットオチバタケ近縁群の発光性が確認されています。また、アルゼンチンの研究者 Agustín(Agustín and Bernardo 2021) によれば、20212月アルゼンチンにおいて初めてガーネットオチバタケ近縁種群が見つかったそうです。多数の標本が採集できたそうですが、発光性は未確認です。

 

末筆ながら貴重なデータと標本をお送りいただいた岩間杏美さんに深くお礼申し上げます。

 

参考文献


Agustín P. Martínez & Bernardo E. Lechner. 2021. Tres nuevos Agaricomycetes para la Argentina: Cruentomycena viscidocruenta, Collybiopsis luxurians y Collybiopsis subpruinosa. Darwiniana 9(2):329-341

https://www.ojs.darwin.edu.ar/index.php/darwiniana/article/view/966/1233

 

https://www.researchgate.net/publication/354773741_Tres_nuevos_Agaricomycetes_para_la_Argentina_Cruentomycena_viscidocruenta_Collybiopsis_luxurians_y_Collybiopsis_subpruinosa

 

アルゼンチン産ガーネットオチバタケ属に関するツイート

https://twitter.com/FungiAPM/status/1402364495931006984?s=20


Cleland JB. 1924. Australian fungi: notes and descriptions. No. 5. Trans Roy Soc S Australia 48: 236–252.

 

Cleland JB, Cheel EC. 1919. Australian fungi: notes and descriptions. No. 2. Trans Roy Soc S Australia 43: 11–22.

 

Grgurinovic CA. 1997. Larger fungi of South Australia. The Botanic Gardens of Adelaide and State Herbarium and the Flora and Fauna of South Australia Handbooks Committee, Adelaide.

 

Grgurinovic CA. 2002. The genus Mycena in South-Eastern Australia. Fung Diver Press, Hong Kong.

 

Petersen RH, Hughes KW, Lickey EB, Kovalenko AE, Morozova OV, Psurtseva NV. 2008. A new genus, Cruentomycena, with Mycena viscidocruenta as type species. Mycotaxon 105: 119–136.

 

Yoshie Terashima (supervisor), Haruki Takahashi (editor), Yuichi Taneyama (editor). 2016. The fungal flora in southwestern Japan: Agarics and boletes. 『南西日本菌類誌 軟質高等菌類』Tokai University Press. 349p.