ヒメムラサキフウセンタケ

Cortinarius cf. bibulus Quel. 1881 (Synonym: C. pulchellus J. Lange; ?C. americanus A.H.Sm.).


小形菌(傘径4-18mm)で外観はアセタケの仲間に類似します。欧州産類似菌 C. bibulusとは分布域が隔絶されているため、学名は再検討が必要です。イヌシデの樹下に群生。

Cortinarius cf. bibulus, forming a small, dark violaceous basidioma with a hygrophanous pileus and pale violaceous lamellae, was collected on the ground under Carpinus Tschonoskii in Kawasak, Kanagawa Pref. (central Honshu, Japan).

A. 傘の表皮組織; B.胞子;   

C. 担子器及び偽担子器. スケール: 10μm. 

肉眼的特徴: 傘は径 4-18 mm, 丸山形から平開し, しばしば中丘を具え, 吸水性がある。

表面は絹状~繊維状で, 暗青紫色を帯びる。肉は厚さ 1 mm 以下, 表面と同色, 無味無臭。柄

は 13-25×1.5-2.8 mm, 上下同大または根元がやや肥大し, 中実。表面は絹状~繊維状, 傘と

同色。クモの巣膜は多量に存在し, 繊維状, 淡青紫色~灰白色, しばしば柄の中部に狭い帯状

のツバを形成する。ヒダは幅 2 mm 以下, 上生しやや疎, 初め淡青紫色, のち錆色を帯びる。

顕微鏡的特徴: 胞子は 8-11×5-6μm, 楕円形で小形の疣状突起に被われ, 錆黄褐色。

担子器は 15-32×6.5-9μm, こん棒形, 2-3-4 胞子性。縁シスチジア及び側シスチジアはな

い。傘の表皮は2層に分化し, 最外層は径 4-10μmの糸状菌糸が並列し, 内層は径 17-30μ

mの肥大した菌糸からなり, 褐色の色素が厚さ 1μm以下の細胞壁内に存在する。傘実質の

菌糸は平列し, 細胞は円柱形で径 4-15μm, 無色。柄の表皮は円柱形の菌糸が平列し, 褐色

の色素が厚さ 1μm以下の細胞壁内に存在する。柄シスチジアはない。偽担子器の基部, 被

膜, 及び柄の組織にクランプがある。

供試標本: 神奈川県川崎市生田緑地, イヌシデの樹下の地上に群生, 2000年 10月10日,

高橋春樹採集 (KPM-NC0008690)。

コメント: 外観は小形のアセタケの仲間に類似し, 全体に暗青紫色を帯び, 傘の表面は繊

維状で吸水性があるのが特徴である。日本産の標本は Breitenbach and Kranzlin (2000)及

び Brandrud et al. (1992) らの記述によるヨーロッパ産の類似Cortinarius bibulus 外観的

特徴は一致する。属内ではツバフウセンタケ亜属 (Telamonia) Hydrocybe 節に置かれている。

種小名は湿った状態を意味するラテン語で, 傘に吸水性があることを表している。