クロカミオチバタケ

Crinipellis nigricaulis Har. Takah., Mycoscience 41 (2): 178 (2000) 


傘中央部に存在する明瞭な黒色の乳頭状突起(中丘)が特徴的なニセホウライタケ属のきのこです菌糸束は黒色で、子実体の菌柄よりやや細く、生態では長さ15㎝に達する細長い毛髪状菌糸束がキノコとしばしば同時に発生し、時に枝分かれして先端部に子実体を形成することがあります。和名の「クロカミ」はこの毛髪状菌糸束を指します。

栽培条件下では、まだ菌糸束の発生を確認できていないので、二酸化炭素濃度や光の強さ、基質が含有する栄養成分など、何らかの環境要因に左右されている可能性があります。


韓国から本種の一変種 Crinipellis nigricaulis var. macrospora が報告されています(Antonín et. al 2009)


粕谷さんら(Kasuya et al. 2015)が日本新産種として報告した千葉県産シナモンニセホウライタケ(Crinipellis dipterocarpi f. cinnamomea)は、形態的にクロカミオチバタケに酷似していますが、菌糸束を欠くと言われています。

Kerekes and Desjardin (Kerekes and Desjardin 2009)がタイから新品種として報告したCrinipellis dipterocarpi f. cinnamomeaは、肉眼的特徴並びに顕微鏡的データがクロカミオチバタケとほぼ一致しており、形態学的に同一種である可能性が考えられます。f. cinnamomeaの原記載には、褐色~赤褐色を帯びた短い(5–30mm)毛状の菌糸束が存在しても、菌糸束から子実体が発生することはないとされており、恐らくこの点を重視してクロカミオチバタケとは別種と判断したものと推察されます。ただ、菌糸束は必ずしも生態において子実体と同時発生するとは限らず、生態環境によってはまれにしか菌糸束を形成しないことも考えられるので、今後更に追加標本を調査する必要があります。また、 f. cinnamomeaの特徴として重視されている傘表皮組織に付着する顆粒状色素の存在については、クロカミオチバタケは未確認で、この点も今後再検討する必要があります。

なお、マツ属、シイ属、フタバガキ科の樹木によって構成された原生林(primary forests)内の落ち葉および落枝上に発生すると言われているCrinipellis dipterocarpiの基準品種は、傘に乳頭状突起を欠くと言われています。


文献

Antonín, V.; Ryoo, R.; Shin, H.D. 2009. Marasmioid and gymnopoid fungi of the Republic of Korea. 1. Three interesting species of Crinipellis (Basidiomycota, Marasmiaceae). Mycotaxon. 108:429-440


糟谷 大河, 塙 祥太, 保坂 健太郎 2015. 日本新産のニセホウライタケ属菌,Crinipellis dipterocarpi f. cinnamomea. 日菌報56: 33 -41

https://www.bing.com/ck/a?!&&p=de42899aea609bd3JmltdHM9MTY5MTcxMjAwMCZpZ3VpZD0zMGFkYWFjMi1hNDZiLTY0MTgtMDhiOC1iODFmYTVlMDY1ODUmaW5zaWQ9NTIzMw&ptn=3&hsh=3&fclid=30adaac2-a46b-6418-08b8-b81fa5e06585&psq=%e3%82%b7%e3%83%8a%e3%83%a2%e3%83%b3%e3%83%8b%e3%82%bb%e3%83%9b%e3%82%a6%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%82%bf%e3%82%b1&u=a1aHR0cHM6Ly93d3cuanN0YWdlLmpzdC5nby5qcC9hcnRpY2xlL2pqb20vNTYvMi81Nl9qam9tLkgyNi0xMC9fcGRmLy1jaGFyL2ph&ntb=1


Kerekes JF, Desjardin DE 2009. A monograph of the genera Crinipellis and Moniliophthora from Southeast Asia including a molecular phylogeny of the nrITS region. Fungal Diversity 37: 101-152


Takahashi, H. 2000. Three new species of Crinipellis found in Iriomote Island, southwestern Japan, and central Honshu, Japan. Mycoscience. 41(2):171-182