キクバナイグチ属 (広義) Boletellus (s. l.) Murrill
Mycologia 1: 9 (1909)
基準種:Boletellus ananas (M.A. Curtis) Murrill, Mycologia 1(1): 10 (1909).
Syn.: Heimioporus E. Horak, Sydowia 56(2): 237 (2004).
Singer (1986) による分類概念 (高橋の見解を加えて一部修正した): 傘の表面は鱗片状
または裸, 乾性または粘性; 子実層托は黄色, 時に孔口が赤色を帯びる; 胞子紋は濃オリ-ブ
色~オリ-ブ褐色; 担子胞子は濃色, 平滑で長さ15~20μm以上に達するかまたは表面に縦
長の縞模様, 翼状隆起物, 斑点状小孔, 微疣状あるいは壁に埋まった網状の構造物を表し, 埋
生の網状構造物を形成する種類を除き通常長形 (幅に対する長さが二倍以上); 菌糸は一般
に非アミロイド, 稀にアミロイド, 通常クランプを欠く; 子実層托実質はヤマドリタケ亜型. 地上
生, 稀に材上生.
分布及び既知種: 両半球の亜熱帯を中心に広く分布するが, 欧州は一種のみ; 世界に約50
種報告されている.
本属には進化系統が異なると思われる分類群がいくつか混在しており, 担子胞子の性質
(サイズ, 表面構造)を過大に重視した人為的グループと考えられる. 最近 Horak (2004)は, 本
属において担子胞子の表面に縦長の縞模様を形成しない分類群 (オオキノボリイグチ, ベニイ
グチ, Boletellus betula)を Boletellus 属から分離し, Heimioporus 属に編入している.
節の概念および日本産既知種
キクバナイグチ節 Sect.1. Boletellus : 傘の表面は非粘性, 一般に帯赤ピンク色または紫
赤色を帯び, しばしばオニイグチのような柔らかい中~大型の鱗片を形成し, 縁部は著しく膜状
に突出して被膜を形成し, この被膜は幼時柄の周囲を輪状に囲む; 柄の表面は非粘性; 担子
胞子は大型 (16×9μm以上), 表面に縦長の縞模様または翼状の隆起物を表す; 菌糸はクラ
ンプを欠く. 基準種:Boletellus ananas (M.A. Curtis) Murrill, Mycologia 1(1): 10 (1909).
キクバナイグチBoletellus emodensis (Berk.) Singer, Annls mycol. 40: 19 (1942)
= Boletellus floriformis Imazeki, Nagaoa 2: 42. 1952.
シイ,カシ, コナラ等のブナ科の林内地上または材上(生木および倒木) から発生する. 分
布:マレ─半島,シンガポ─ル,ボルネオ,インド,タイ,ベトナム,日本.
ミヤマベニイグチ Boletellus obscurococcineus var. obscurococcineus (Höhn.)
Singer, [as 'obscure-coccineus'] Farlowia 2: 127 (1945): シイ,カシ,コナラ等の林内地上に発
生. 分布:ボルネオ,ジャワ,ニュ─ギニア,アフリカ(コンゴ), 中国(貴州), 日本.
参考文献: 本郷次雄. 滋賀大学紀要 20: 49-54. 1970.
オオキノボリイグチ節 Sect.2. Mirabiles Singer
= Heimioporus E. Horak, Sydowia 56(2): 237 (2004) ut genus
前節とは, 平滑で長さ20μmに達する大型の担子胞子を持つ点で異なる; 傘の縁部は一
般に多少突出し且つ/又はシスチジアが±厚壁; 明瞭な赤色の色素を欠く; 青変性はないが,
しばしば黄変する; 温帯及び熱帯山岳地域に分布し, しばしば材上生, マツ科及びブナ科と関
係を持つ. 基準種:Boletellus mirabilis (Murrill) Singer, Farlowia 2: 129 (1945).
オオキノボリイグチ Boletellus mirabilis (Murrill) Singer, Farlowia 2: 129 (1945)
= Ceriomyces mirabilis Murrill, Mycologia 4(2): 98 (1912)
= Xerocomus mirabilis (Murrill) Singer, Revue Mycol., Paris 5: 6 (1940)
= Heimioporus mirabilis (Murrill) E. Horak, Sydowia 56(2): 240 (2004)
モミ,ツガの倒木上,またはその付近に発生. 分布:北米,台湾,日本(中部亜高山帯針葉
樹林).
ベニイグチ節 Sect.3. Retispori Singer
= Heimiella Boedijn (1951) non Heimiella Lohmann (1913), Haptophyceae (a
coccolithophoroid)
= Heimioporus E. Horak, Sydowia 56(2): 237 (2004) ut genus
担子胞子は壁に埋まった網目状の構造物に被われ, 短形 (幅に対する長さが二倍以
下). 基準種:Boletus retisporus Pat. & C.F. Baker, J. Straits Brch R. Asiat. Soc. no. 78: 72
(1918).
ベニイグチ Boletellus japonicus (Hongo) L.D. Gomez, Revta Biol. trop. 44(Suppl. 4): 71
(1997) [1996].
= Heimiella japonica Hongo, J. Jpn. Bot. 44: 237 (1969)
= Heimioporus japonicus (Hongo) E. Horak, Sydowia 56(2): 238 (2004).
ブナ科の樹種を中心とする林内地上に発生し, 本州中部~九州地方に分布する.
アヤメイグチ節 Sect.4. Chrysenteroidei Singer: 担子胞子は表面に縦長の縞模様または
翼状の隆起物を表す; 傘の縁部は突出しない; 傘及び柄は粘性を欠く; 菌糸はクランプを持つ
(B. fibuliger Singer) かまたは欠く. 基準種:Boletellus chrysenteroides (Snell) Snell, Mycologia
33: 422. (1941).
アヤメイグチ Boletellus chrysenteroides (Snell) Snell, Mycologia 33: 422. (1941): コナ
ラ,クヌギ,ツブラジイ等のブナ科の樹種を中心とする林内地上または材上に発生. 分布:北
米,日本 (本州, 九州). 参考文献: 本郷次雄. 滋賀大学紀要 25: 56-63. 1975.
ビロードイグチモドキ(青木実:日本きのこ図版 No.347) Boletellus fallax (Singer) Singer,
in Singer, Araujo & Ivory, Beih. Nova Hedwigia 77: 158 (1983)
= B. pictiformis (Murr.) Singer var. fallax Singer, Farlowia 2: 132. 1945
主としてブナ科の樹下に発生.分布:北米,日本 (本州, 四国, 九州).
アシナガイグチ Boletellus elatus Nagas., Trans. Mycol. Soc. Japan 25(4): 361 (1984): 主
にブナ科を中心とする林内地上に発生. 分布:日本 (本州, 九州).
Sect.5. Ixocephali Singer (高橋の見解を加えて一部修正した): 担子胞子の表面の構造物
は Sect.1 及び4 と同様または平滑; 傘及び柄の表面は著しくゼラチン化する; 傘の縁部はし
ばしば幅広く突出して被膜を形成する; 熱帯産. 基準種:Boletellus singaporensis (Pat. & C.F.
Baker) E.-J. Gilbert, Les Bolets 107 (1931).
Boletellus longicollis (Ces.) Pegler & T.W.K. Young, Trans. Br. mycol. Soc. 76(1): 115
(1981): 担子胞子の表面構造以外はキクバナイグチ属の基準種と形態学的共通性が少なく,
発達した膜質の被膜の存在並びに著しい粘液に被われた子実体の性質を重視すれば本種の
近縁種ヒメヌメリイグチ Suillus viscidipes Hongoと共にSuillus 属に近縁である可能性があ
り, 本種の分類学的所属位置を明確にするためには分子系統解析が必要と考えられる. シイ
林内に発生. 分布:マレ─半島,シンガポ-ル,サラワク,北ボルネオ,日本(広島?,九州?,
八重山諸島 (石垣島, 西表島), 沖縄本島?).
本種については残念ながら詳細なデータと確実な標本に基づく記載発表がまだされていな
い.
セイタカイグチ節 Sect.6. Dictyopodes Singer: 傘の表面は乾性または湿時僅かに粘性,
他の性質は前節と同様であるが, 柄の表面に粗大で縦長の網目状隆起を表す; 菌糸はクラン
プを欠く; 温帯産. 基準種:Boletellus russellii (Frost) E.-J. Gilbert, Bolets 107 (1931).
セイタカイグチ Boletellus russellii (Frost) E.-J. Gilbert, Bolets 107 (1931): アカマツ,コ
ナラ等の樹下に発生. 分布:北米,日本 (本州, 四国, 九州).
Sect.7. Allospori Singer
= Heimioporus E. Horak, Sydowia 56(2): 237 (2004) ut genus
担子胞子は Austroboletus 属と同型の構造物 (点状の小孔)を表面に形成する; 菌糸はア
ミロイドまたは非アミロイド; クランプを欠く; 柄の表面に粗大で縦長の網目状隆起を表す. 基準
種:Boletellus betula (Schwein.) E.-J. Gilbert, Bolets: 108 (1931).
クレナイセイタカイグチ Boletellus betula (Schwein.) E.-J. Gilbert, Bolets: 108 (1931) :
トゲミノヒメイグチ節 Sect.8. (unnamed): 柄は Sect.6-7 の様な粗大で縦長の網目状隆起を
欠く; 子実体は小型; 傘の表面は粘性を欠き, 粗大な疣状鱗片に被われる; 孔口は相対的に大
型 (1-2mm). 担子胞子は表面に鈍い刺状~微瘤状の構造物を形成する.
トゲミノヒメイグチ, 別名:ザラミノヒメアワタケ(青木実:日本きのこ図版 No.100)
Boletellus shichianus (Teng & L. Ling) Teng, Fungi of China: 759 (1964): 主としてコナラ林
内またはアカマツ・コナラ林内に発生. 分布:中国(雲南,浙江), 日本(本州).