ダイダイウラベニタケ

Entoloma cf. farlowii (Sing.) Hesler 1967. 


鮮橙色を帯びた子実体を形成するアオエノモミウラタケ亜属 (Leptonia) の仲間です。北米産Entoloma farlowiiとは分布域が隔絶されているため、地理的種として分化している可能性があります。

原図: 澤田芙美子氏

A. 傘の表皮組織; B. 胞子; C.縁シスチジア; D. 柄シスチジア. スケール: 10μm.

  肉眼的特徴: 傘は径 5-25 mm, 丸山形から平開し, 中央部はへそ状にくぼむ。表面は平滑

で, 鮮かな橙赤色を帯びるが乾くと褪色し, やや吸水性があり, 粘性を欠き, 半透明の条線を周

縁部に表す。肉は厚さ 0.8 mm 以下, 表面と同色, 無味無臭。柄は 25-50×1-2.5 mm, 上下同

大または下部に向かってやや肥大し, 中空。表面は平滑, 粘性を欠き, 上部から中部にかけて

傘と同色, 下部は淡色で根元はほぼ白色。ヒダは幅3 mm 以下, 直生~やや垂生, 初め淡橙

色, のち肉色を帯びる。

顕微鏡的特徴: 胞子は 9-11.5×6.5-8μm, 5-6 角形。担子器は 25-45×8-12μm, こん

棒形, 4 胞子性。縁シスチジアは 27-60×8-12μm,群生し, こん棒形, 無色, 薄壁。側シスチジ

アはない。傘の表皮は匍匐性の糸状菌糸が並列し, 実質から明瞭に分化していない。菌糸細

胞は径 8-20μm, 無色または淡黄色。柄の表皮は無色~淡黄色の糸状菌糸が平列する。柄

シスチジアは柄の上部に散在し, 35-70×7-10μm,こん棒形~類円柱形。全ての菌糸はクラ

ンプを欠く。

供試標本: 神奈川県小田原市入生田丸山, スダジイとミズキを主な構成樹種とする広葉樹

林内の地上に群生, 2001年 9月 8日, 高橋春樹採集 (KPM-NC0008735)。

コメント: 小形で全体に鮮橙色を帯びた可憐なきのこで, 顕微鏡的にはこん棒形の縁シス

チジアを有し, 側シスチジアを欠き, クランプを持たないのが特徴である。子実体の大きさと色

合い, 並びに胞子の大きさにおいて多少地域的な変化があり, Hesler (1967) の記載による北

米産の標本は, 子実体が日本産のものより大型 (径 21-40) で黄味が強く, 胞子はやや小形

(7-10×5-7μm) である。属内ではアオエノモミウラタケ亜属 (Leptonia) に置かれている。標

本は神奈川県立生命の星・地球博物館の標本庫 (KPM) に登録, 収蔵されている。


Entoloma cf. farlowii, having a small, vivid orange basidioma, found on ground in evergreen

oak forests dominated by Castanopsis cuspidata var. sieboldii in Odawara-shi, Kanagawa-

Prefecture (central Honshu, Japan). Japanese materials differs from North American

Entoloma farlowii in possessing much smaller (pileus 4-18 mm broad), reddish orange (not

yellowish) basidiomata and forming slightly larger basidiospores (9-11.5×6.5-8μm).