ユキラッパタケ

Clitocybe trogioides Corner, Beihefte Nova Hedwigia 109: 126. 1994.

  var. odorifera Har.Takah., Mycoscience 41: 15-23, 2000 Figs. 1-3

  = (?) Singerocybe alboinfundibuliformis (S.J. Seok et al.) Zhu L. Yang, J. Qin & Har. Takah.


傘の中央部から柄の根元まで空洞になっていて、楽器のチューバにそっくりな形をした個性的なキノコです。落ち葉の堆積上から発生し、強い粉臭(湿気った小麦粉のような匂い)を発します。神奈川県大和市で最初に見つかり、その後韓国と中国にも類似菌が分布していることが判明しました。


2014年に日本と中国のサンプルに基づき中国の Jiao Qin氏らと共に韓国産の学名Clitocybe alboinfundibulliforme (Seok et al. 2009)を用いて、Singerocybe属との新組あわせを提唱しました。ただ、変種を独立種にする場合、変種として記載された学名を種小名に昇格させるのが慣例ですが、韓国の論文はスリランカ産の近縁種 C. trogioides 並びに日本産C. trogioides var. odoriferaの原記載を引用しておらず、これらの近縁種と詳細な比較検討をせずに新たな種小名で新種記載を行っています。また、日本産ユキラッパタケに特有の強い粉臭が韓国産標本にはないと言われており、韓国産タイプ標本の貸し出しを申請したにも拘らず、返事がなかったため、韓国産サンプルを直接比較検討できないまま、韓国産の学名を採用している点で同定に疑問が残ります。


ユキラッパタケはスリランカ産 Clitocybe trogioides の一変種として記載されましたが、強い粉臭があること、明瞭なヒダが発達すること、また球形細胞が実質に存在する点で明らかな有意差がみとめられるため、独立種として扱うのが妥当と考えられます。

種の定義もそうですが、種と亜種、変種、品種の区別は基準が曖昧で客観性が乏しく、研究者や分類群ごとに定義が異なるのが現状です。混乱を避けるため、将来的に異なる性質を有する種以下の分類群は「分類学的種」として再編するという方針に菌類の分類が変わっていくことを期待します。


  文献

1. Corner, E.J.H. 1994. Agarics in Malesia. I. Tricholomatoid. II Mycenoid. Beihefte zur Nova

Hedwigia. 109:1-271


2. Takahashi, H. 2000. Two new species and one new variety of Agaricales from central

Honshu, Japan. Mycoscience. 41(1):15-23


3. Seok SJ, Kim YS, Park KM, Kim WG, Yoo KH, Park IC. 2009. New species of Agaricales.

Mycobiology 37:295-299, doi:10.4489/MYCO.2009.37.4.295


4. Qin J, Feng B, Yang ZL, Li YC, Ratkowsky D, Gates G, Takahashi H, Rexer KH, Kost GW,

Karunarathna SC. 2014. The taxonomic foundation, species circumscription and continental

endemisms of Singerocybe: Evidence from morphological and molecular data. Mycologia. 106

(5):1015-26. doi: 10.3852/13-338. Epub 2014 Jul 1.