ヒメヒカリタケ

Marasmiellus venosus Har. Takah., Taneyama & Hadano, in Takahashi, Taneyama, Kobayashi, Oba, Hadano, Hadano, Kurogi & Wada, The fungal flora in southwestern Japan, Agarics and boletes 1: 165 (2016)


ヒラタケ型の小型発光菌で、根元に白色綿毛状菌糸体が存在し、しばしば基質を取り巻くように発達します。ヒダは明瞭な側脈を形成します。

ヒメヒカリとヒメホタルはよく混同されますが、ヒダの性質が全く異なります。ヒメヒカリは側脈を形成するのに対し、ヒメホタルはヒダが退化します。 また両者の中間的性質を持つ類似菌がいくつか知られており、国内に分布するヒラタケ型の小形発光菌は予想以上に種類が多いと推測されます。本種も地域ごとに詳細に調べていけば単一系統ではないかもしれません。


Etymology: The specific epithet comes from the Latin word for “having veins”, referring to the conspicuously veined lamellae.

Basidiomata and mycelia of Marasmiellus venosus (holotype) on a dead log, 21 Jun. 2012, Yufu-shi, Oita Pref. Photo by Takahashi, H.

腐朽材上に発生したヒメヒカリタケの子実体と菌糸体 (正基準標本), 2012年6月21日, 大分県湯布市.

Basidiomata and mycelia of Marasmiellus venosus (holotype) emitting yellowish green light on a dead log, 21 Jun. 2012, Yufu-shi, Oita Pref. Photo by Takahashi, H.

腐朽材上において黄緑色に発光するヒメヒカリタケの子実体と菌糸体 (正基準標本), 2012年6月21日, 大分県湯布市.

主な形態的特徴

ア)子実体はヒラタケ型で無柄または退化した側生の偽柄を持つ.

イ) 傘は半球形~腎臓形, 淡褐色~類白色, 粉状~微毛状.

ウ)根元に白色綿毛状菌糸体が存在し、しばしば基質を取り巻くように発達する.

エ)ヒダは明瞭な側脈を有する.

オ)担子胞子は楕円形~卵状楕円形, 非アミロイド.

カ)縁シスチジアは類円柱形~類こん棒形で, 頂部に不規則に分岐する多数の樹枝状または短指状の突起を具える.

キ)傘の表皮組織は発達したラメアレス構造からなる.

ク)子実体および基質上の菌糸体に発光性がある.


生態および発生時期: 広葉樹林内腐朽材上から群生または散生, 5月~6月.

分布: 九州 (大分).

コメント: 淡褐色~類白色の傘を持つヒラタケ型の子実体, 非アミロイドの全組織, 傘表皮組織の発達したラメアレス構造, そしてクランプの存在は本種がツキヨタケ科Omphalotaceaeに分類されるシロホウライタケ属Marasmiellus Murrill, ムラサキヤマンバ節section Marasmiellus, ムラサキヤマンバ亜節subsection Inodermini Singer (Singer 1973, 1986) に位置することを示唆している.

本種の外観的特徴はスリランカから報告されたMarasmiellus purpureoalbus (Petch) Singer (Petch 1947; Singer 1961; Pegler 1977, 1986)に極めて類似している. しかしながらM. purpureoalbus は傘が淡紫色で平滑であること, ヒダが側脈を欠くこと, 柄の根元に発達した菌糸体を持たないこと, 担子胞子は長楕円形でより長いこと: 長さ10–14 μm (Petch 1947), そして縁シスチジアは平滑もしくは頂部に無分岐の短指状~瘤状突起を具える特徴において明らかな有意差が認められる.

東アフリカから記載されたMarasmiellus goossensiae (Beeli) Pegler (Beeli 1928; Petch 1947; Pegler 1977, 1986) は柄が著しく短く, 小形のヒラタケ型子実体を形成する性質においてヒメヒカリタケと共通するが, 前者は子実体が暗紫褐色であること, ヒダが側脈を欠くこと, 根元に発達した菌糸体を持たないこと, 担子胞子は類紡錘形で幅がより狭い: 2.7–3.7 μm (Pegler 1986) こと, ラメアレス構造が不明瞭であること, そして頂部に分岐の少ない短指状~瘤状突起を具えた縁シスチジアを持つ性質において本種とは異質である.



スリランカMarasmiellus purpureoalbus (Petch 1947)

References 引用文献

Beeli M. 1928. Contribution a l'étude de la flore mycologique du Congo. VI Fungi Goossensiani. Agaricacées rhodosporées. Bull Soc R Bot Belg 61 (1): 78–103.


Pegler DN. 1977. A preliminary agaric flora of East Africa. Kew Bull, Addit Ser 6: 1–615. 


Pegler DN. 1983. Agaric flora of the Lesser Antilles. Kew Bull, Addit Ser 9: 1–668.


Pegler DN. 1986. Agaric flora of Sri Lanka. Kew Bull, Addit Ser 12: 1–519.


Petch T. 1947. A revision of Ceylon Marasmii. Trans Brit Mycol Soc 31 (1): 19–44.


Singer R. 1961. Diagnoses fungorum novorum Agaricalium II. Sydowia 15 (1-6): 45–83.


Singer R. 1973. The genera Marasmiellus, Crepidotus and Simocybe in the Neotropics. Beih Nova Hedwigia 44: 1–517.


Singer R. 1986. The Agaricales in modern taxonomy, 4th edn. Koeltz, Koenigstein.

Yoshie Terashima (supervisor), Haruki Takahashi (editor), Yuichi Taneyama (editor). 2016. The fungal flora in southwestern Japan: Agarics and boletes. 『南西日本菌類誌 軟質高等菌類』Tokai University Press. 349p.